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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
落ちてた落語家

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第97話「誰もいない場所での落語」

三日三晩の、宴が、明けた、翌日——



「では、次は、皆瀬さんの、霧霊スライム族のところへ、向かいましょう」




誠の、提案で、一行は、次の、目的地へと、旅立つことになった。




「田中くん、今度は、皆瀬さんに、会えるんやな」




末広が、そう、確認した。



「はい。末広さんの、落語、皆瀬さんも、喜ぶと思いますよ」





しかし——末広の、心中は、穏やかでは、なかった。




(あの、情報……皇帝と、神と、レールガンの、件……)




(一刻も、早く、忍者の、里に、伝えなあかん)




かつての、同朋——今も、各地で、活動を、続ける、忍者たちに、この、重大な、情報を、届ける、必要が、あった。




(せやけど、この、旅を、抜ける、わけには、いかへん。田中を、置いていく、わけには……)




末広は、しばらく、思案した後——一つの、方法を、思いついた。




(そや……"あれ"を、使お)





忍者の、里には、古くから——落語や、講談といった、"語り"の、中に、暗号を、忍ばせて、情報を、伝達する、秘術が、あった。




特定の、言い回し、間の、取り方、扇子の、動き——それらを、組み合わせることで、一見、ただの、落語に、しか、聞こえない、噺の、中に、機密情報を、織り込むことが、できるのだ。




そして、忍者は——風に、乗せて、遠くまで、届く、特殊な、発声法を、用いることで、その、"暗号落語"、を、遠方の、同朋にまで、届けることが、できた。





こうして——旅の、道中、末広の、奇妙な、行動が、始まった。




「えー、毎度、ばかばかしい、お噺を、一席……」




「え、末広さん、急に、どうしたんですか」




誠が、驚いて、尋ねた。何もない、道の、真ん中で、末広が、突然、落語を、始めたのだ。




「いやぁ、なんや、無性に、噺が、したくなってな」




「はぁ……」





末広は、そう言うと、聞き手も、いない、道端で、朗々と、落語を、語り始めた。




その、噺の、中には——さりげなく、特定の、言い回しが、織り込まれていた。




「……ある、小さな、お姫様がな、雷を、操る、からくりを、こしらえて、お城の、主に、なりましたとさ。せやけど、その、からくり、実は、遠い、遠い、別の、お国から、こっそり、渡ってきた、もんやったそうな……」




(これで、"皇帝"、"レールガン"、"別世界"、の、暗号は、織り込めた)





「末広さん、その、噺、なんだか、変わってますね」




竜崎が、少し、不思議そうに、そう、言った。



「創作、落語や。旅の、道中、思いついた、もんでな」




「へえ、面白いね」




桜庭も、感心したように、聞いていた。





しかし——その後も、末広の、"突然の落語"、は、頻繁に、続いた。




野営の、夜——




「えー、一席……」




「末広さん、また、ですか」




道を、歩いている、最中——




「毎度、ばかばかしい……」




「歩きながら、落語……」




そして、ついには——誰も、いない、場所でも。




一行が、少し、休憩している、間、末広は、一人、離れた、丘の上に、立ち——




「えー……」




聞き手が、一人も、いないにも、関わらず、朗々と、落語を、語り始めた。





「田中殿、末広殿、大丈夫か? 誰も、いないところで、落語なんて」




竜崎が、少し、心配そうに、そう、尋ねた。




「うーん……創作の、稽古、なんですかね」




誠も、少し、首を、傾げた。




「フッ……芸の道を、極める者は、時に、常人には、理解しがたい、行動を、取るものだ」




黒崎が、したり顔で、そう、解説した。




「まあ、そういうもの、なのかもしれないね」




桜庭も、納得したように、頷いた。





——しかし、実際には。




末広の、"暗号落語"、は、風に、乗って——遠く、各地に、潜む、忍者の、同朋たちの、耳に、確実に、届いていた。




(頼むで……この、噺、ちゃんと、里まで、届いてくれ)




末広は、聞き手の、いない、丘の上で、必死に、その、思いを、込めて、語り続けた。





そして——数日後。




遠く、離れた、忍者の、里では——




「頭領、風に、乗って、末広殿の、噺が、届きました」




一人の、忍者が、里の、頭領に、そう、報告した。




「なに、末広からか。あやつ、忍を、抜けて、落語家に、なったと、聞いていたが」




「はい。ですが、その、噺の中に……重大な、暗号が、織り込まれておりました」




「暗号だと」




頭領の、表情が、引き締まった。




「内容は」




「ガルディア帝国の、皇帝、そして、あの、レールガンという、兵器……それらが、"別の、世界"、と、繋がっており……さらに、"神"、が、関与している、と」





頭領は、しばらく、沈黙した後、静かに、呟いた。




「末広の、奴……忍を、抜けても、その、腕は、健在か」




「いかが, いたしましょう」




「この、情報、慎重に、扱わねばならん。すぐに、各地の、同朋に、伝達せよ」




「はっ」





こうして——末広の、"突然の落語"、を、通じて、あの、重大な、情報は、静かに、忍者の、ネットワークへと、広がり始めていた。





一方、誠たちは——末広の、奇行を、単なる、"芸熱心"、としか、思っていなかった。




「末広さん、また、誰もいないところで、落語してますよ」




「本当に、芸に、熱心な人だな」





その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「末広さんが、旅の道中、頻繁に、落語を、始めるようになった。時には、誰もいない場所でも、一人で、朗々と、語っている。芸の稽古、なんだろうか。少し、変わった行動だけど、末広さんなりの、こだわりが、あるのかもしれない。じいちゃん、芸を、極める人っていうのは、色々、独特なところが、あるものなんだな」



窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。



まだこの時の誠は知らない。末広の、"誰もいない場所での落語"、が——実は、忍者の、秘術による、情報伝達だったことを。


そして、あの、レールガンと、神を巡る、重大な、秘密が——今、静かに、この世界の、裏側で、広がり始めていることも——今はまだ、知る由もなかった。

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