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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
落ちてた落語家

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第98話「通じない相手」

数日の、旅を、経て——一行は、ようやく、皆瀬の、霧霊スライム族の、集落に、たどり着いた。



「田中くん、久しぶり! それに、皆さんも!」



皆瀬——スライムの姿の彼女が、嬉しそうに、揺れながら、一行を、出迎えた。



「皆瀬さん、お久しぶりです。今日は、末広さんの、落語を、皆さんに、聞いてもらおうと思って」




「落語! 楽しみ! 私、この前、聞いた時、本当に、面白かったから!」





「よっしゃ、腕が、鳴るで!」




末広は、意気揚々と、扇子を、構えた。




集落の、広場に、無数の、スライムたちが、集まってくる。




「えー、毎度、ばかばかしい、お噺を、一席……」




末広は、いつものように、噺を、始めた。





道中、何十回も、聞かされてきた、その、噺を——




「ぷっ……くくく」




「あー、これ、何回、聞いても、面白いな」




誠たち、一行は、既に、内容を、暗記するほど、聞いていたにも、関わらず、末広の、絶妙な、間と、語り口に、思わず、笑ってしまった。




「末広さんの、落語、本当に、飽きないですね」




「フッ……何度、聞いても、味わい深い」





しかし——




集まった、スライムたちは——




……無反応だった。




ぷるん、とも、震えず、ただ、静かに、その場に、留まっている。




「……あれ?」




末広は、少し、戸惑いながらも、噺を、続けた。





「……お後が、よろしいようで」




末広が、噺を、終えても——




スライムたちは、依然として、無反応。ぷるぷると、震えることも、あの、独特の、音の波動を、発することも、なかった。




「な……なんで、や……」




末広の、顔が、みるみる、青ざめていった。




「この前は、あんなに、ウケたのに……」





「皆瀬さん、これ、どういうことですか」




誠が、慌てて、皆瀬に、尋ねた。




「あ……ごめんなさい」




皆瀬が、少し、申し訳なさそうに、揺れた。




「実はね……この前、末広さんが、来た時は、私が、噺の内容を、一匹一匹に、"翻訳"して、伝えてたの」




「翻訳?」




「うちの、一族は、集合意識だから……人間の、"言葉の、面白さ"、みたいな、ニュアンスが、直接には、伝わりにくいの」





「じゃあ、この前、大ウケしてたのは……」




「私が、間に入って、伝えてたから、なの。今日は、皆に、直接、聞いてもらおうと思って、黙ってたんだけど……」




皆瀬は、少し、困ったように、続けた。



「言葉の、細かい、面白さが、伝わらなくて……無反応に、なっちゃった、みたい」





「そ、そんな……」




末広は、その場に、崩れ落ちた。




「ワシの、落語が……通じひん……」





「末広さん、大丈夫ですか」




「田中……ワシ、もう、あかんかもしれん」




末広は、すっかり、意気消沈していた。




「人間には、ウケへん、思うて、種族を、変えたのに……今度は、言葉、そのものが、通じひん、相手や……」





しかし——その時。




「あ、待って、末広さん」




皆瀬が、少し、慌てた様子で、声を、上げた。




「今、集合意識の、"内側"、を、確認したら……」




「な、なんや」




「みんな、実は……"内側"、では、爆笑してるの!」




「え……?」





「うちの、一族は、外見には、感情が、表れにくいんだけど……集合意識の、内側では、末広さんの、噺の、"リズム"や、"間"、そのものを、感じ取って……すごく、面白がってるの!」




皆瀬は、興奮した様子で、続けた。




「言葉の、意味は、分からなくても……あの、独特の、"波"、が、なんだか、心地よくて、たまらないって、みんな、内側で、大騒ぎしてる!」





「ほ、ほんまか!?」




末広の、顔に、みるみる、生気が、戻った。




「外見は、無反応やけど……中身は、爆笑、しとる、いうことか!」




「そうなの! むしろ、この前の、"翻訳"、より、今日の、"生"、の、方が、ずっと、響いてるみたい!」





「そ、そうか……そうやったんか……」




末広は、少し、複雑な、表情を、浮かべた。




「ウケてるのに、反応が、全く、見えへん、いうんは……逆に、落語家として……」




末広は、しばらく、黙り込んだ後——




「アイデンティティが……揺らぐわ……」




そう、力なく、呟いた。





「末広さん、でも、面白がってもらえてるんですから、いいじゃないですか」




誠が、そう、フォローした。




「せやけど、田中……。落語家いうんは、客の、笑い声、拍手、そういう、"反応"、が、あってこそ、なんや」




末広は、少し、寂しそうに、続けた。



「目の前で、こんなに、無反応やと……語ってる方は、まるで、壁に、向かって、噺しとるみたいで……心が、折れそうになるわ」





「そっか……」




誠は、少し、考えてから、皆瀬に、尋ねた。



「皆瀬さん、スライムの皆さんの、"内側の反応"、を、末広さんにも、分かるように、伝える方法って、ないですか」




「うーん……そうだ!」




皆瀬が、何かを、思いついたように、揺れた。




「みんなに、"面白かったら、少しだけ、震えてみて"、って、伝えてみる!」





皆瀬が、集合意識に、そう、呼びかけると——




しばらくして——スライムたちが、一斉に、ぷるぷると、控えめに、震え始めた。




「お……おおお!」




末広の、目が、輝いた。




「震えて、くれとる! ちゃんと、反応、してくれとる!」





「これなら、末広さんにも、伝わるでしょ?」




「皆瀬はん……! ありがとう! これで、心置きなく、噺が、できるわ!」




末広は、感激しながら、再び、扇子を、構えた。




「よっしゃ、もう一席! 今度は、とっておきや!」





こうして——末広は、無数の、スライムたちが、控えめに、ぷるぷると、震える中——存分に、落語を、披露することになった。





その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「皆瀬さんの、霧霊スライム族に、末広さんの、落語を、披露した。でも、スライムの皆さんは、外見上、全く、無反応で、末広さんは、一度、心が、折れかけた。実は、"内側"、では、爆笑してたらしい。反応が、見えない相手に、語るのは、落語家にとって、辛いものらしい。最終的に、皆瀬さんが、"震えて、反応を、伝える"、方法を、考えてくれて、なんとか、解決した。じいちゃん、"伝わる"、って、本当に、難しいものなんだな」



窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。

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