第99話「見えない目、聞こえる耳」
霧霊スライム族との、宴は——妖精族の、時とは、違い、一晩で、静かに、幕を、閉じた。
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「田中くん、来てくれて、本当に、ありがとう」
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翌朝、帰り支度を、する、一行を、皆瀬が、見送りに、来た。
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「末広さんの、落語も、みんな、すごく、喜んでたよ」
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「こちらこそ、ありがとう、皆瀬さん。また、来ますね」
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「うん、待ってる」
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こうして、一行は、村への、帰路に、つくことになった。
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「末広さん、良かったですね。最後は、ちゃんと、反応が、もらえて」
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「せやな。あの、震えてくれる、反応、なんや、可愛らしくて、良かったわ」
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末広は、満足げに、そう、答えた。
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——しかし、一行が、去った後の、集落で。
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誠たちが、決して、知ることのない、事実が、あった。
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霧霊スライム族——彼らには、そもそも、"目"、というものが、存在しなかった。
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集合意識として、生きる、彼らは——視覚を、持たず、代わりに、音、振動、そして、空気の、揺らぎから、周囲の、状況を、把握していた。
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つまり、彼らにとって——"聞く"、という、行為こそが、世界を、認識する、最も、重要な、手段だったのだ。
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そして——末広の、落語。
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一見、ただの、娯楽として、披露された、あの、噺の、数々。
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その、中に——末広が、忍者の、秘術で、忍ばせていた、あの、"暗号"、が、織り込まれていたことを——皆瀬すら、気づいていなかった。
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しかし——音から、あらゆる、情報を、読み取る、霧霊スライム族は。
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末広が、無意識に、あるいは、意図的に、噺の中に、込めた——特定の、リズム、間、抑揚。
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その、"音の、パターン"、そのものを——一族全体で、共有し、記憶していた。
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「……ある、小さな、お姫様がな、雷を、操る、からくりを、こしらえて……」
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「……その、からくり、実は、遠い、遠い、別の、お国から、こっそり、渡ってきた、もんやったそうな……」
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「……そして、その、裏には、暇を、持て余した、神さんが、糸を、引いておったとか、おらんかったとか……」
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末広が、聞き手も、いない、道中で、繰り返し、語っていた——あの、"暗号落語"。
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その、すべてを——霧霊スライム族は、一晩の、宴の間に、集合意識として、完全に、記憶し、共有していた。
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皇帝、一色美奈子。
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レールガンという、兵器。
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それが、別の、世界とも、繋がっていること。
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そして、その、裏に——あの、麻雀好きの、神が、関与している、可能性。
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それらの、重大な、秘密を——今や、霧霊スライム族の、すべての、個体が、知っていた。
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「……興味深い、"音"、だった」
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集落の、奥で——長老格の、スライムが、静かに、そう、"呟いた"。
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「あの、落語家……ただの、芸人では、ない、な」
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「あの、噺の、中に、込められた、"意味"……我らは、確かに、聞き取った」
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霧霊スライム族は——視覚を、持たないがゆえに、音に、込められた、あらゆる、情報を、逃さない。
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末広が、"見える反応が、なくて、心が、折れそうだ"、と、嘆いていた、まさに、その、相手こそが——彼の、"暗号"、を、最も、正確に、受け取っていた、存在だったのだ。
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「この、情報……どう、扱うべきか」
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長老は、しばし、思案した。
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「あの、田中という、人間……そして、皆瀬。我らの、恩人だ」
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「彼らに、不利益に、なるような、使い方は、すまい」
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「だが……この、秘密が、いつか、彼らを、守る、力に、なる時が、来るやもしれぬ」
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「その時まで……我らの、"内側"、に、静かに、留めておこう」
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こうして——霧霊スライム族もまた——末広の、忍者の、里と、そして、グランデルと同様に——あの、重大な、秘密を、密かに、その、集合意識の、奥深くに、刻み込んだ。
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一方——そんな、事実を、露ほども、知らない、誠たちは。
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「末広さん、スライムの皆さん、無反応でも、ちゃんと、聞いてくれてましたね」
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「せやな。目が、なくても……いや、目が、なかったんかどうかは、知らんけど、ちゃんと、聞いてくれとった。落語家として、嬉しいことや」
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末広は——自分の、"暗号落語"、が、忍者の里、だけでなく、霧霊スライム族にまで、届いていたことを——全く、知らなかった。
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「田中殿、次は、どこへ行くんだ」
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竜崎が、そう、尋ねた。
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「一旦、村に、戻りましょう。皆、随分、長い旅で、疲れましたし」
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「そうだな。久しぶりに、ゆっくりしたい」
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「霧霊スライム族との、宴は、一晩で、終わり、村への、帰路に、ついた。皆瀬さんたちに、末広さんの、落語を、聞いてもらえて、良かった。目が、見えるのか、どうかも、分からないけど、音を、通じて、ちゃんと、楽しんでくれたみたいだ。長い旅だったけど、皆と、色んな、種族に、会えて、いい思い出になった。じいちゃん、僕は、本当に、良い仲間たちに、恵まれているよ」
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窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。末広の、"暗号落語"、を通じて——忍者の里、そして、音を、聞き取る、霧霊スライム族にまで——あの、レールガンと、神を巡る、重大な、秘密が、静かに、広がっていることを。
そして、それらの、種族が——いつか、誠を、守るための、思いがけない、"味方"、に、なっていくことも——今はまだ、知る由もなかった。




