第95話「三日三晩、再び」
ゴブリンの、群れとの、戦いを、乗り越え——一行は、ようやく、妖精族の、里に、たどり着いた。
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「おう、田中! よう来たな!」
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グランデルが、三メートルの、巨躯を、揺らしながら、豪快に、出迎えた。
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「グランデルさん、お久しぶりです」
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「今回は、随分、大所帯やな! 末広はんも、また、来てくれたんか!」
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「グランデルはん、今日は、とっておきの、演目、用意してきましたで!」
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末広が、扇子を、掲げて、そう、答えた。
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「よっしゃ! ほな、盛大に、歓迎せなあかんな!」
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グランデルが、そう、宣言した、瞬間——誠の、脳裏に、嫌な、予感が、走った。
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(まさか、また……)
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「宴や! 三日三晩、飲み明かすで!」
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「やっぱり……!」
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誠は、思わず、頭を、抱えた。
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こうして——妖精族の、里での、盛大な、宴が、始まった。
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「田中! ほれ、飲め飲め!」
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「あの、僕、お酒、弱いので……」
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「なに言うとんねん! 久しぶりの、再会や!」
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一日目の、宴は——例によって、グランデルの、豪快な、酒攻めから、始まった。
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「竜崎はん、あんたは、いける口やろ!」
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「おう、負けねぇぞ!」
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竜崎は、グランデルと、豪快に、飲み比べを、始めた。
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「フッ……我は、闇の酒精を、嗜むとしよう」
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黒崎も、格好つけて、杯を、傾けたが——
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「うっ……つ、強い……」
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すぐに、顔を、赤くした。
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「黒崎くん、無理しないの」
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桜庭が、呆れたように、そう、言った。
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そして——二日目からは、恒例の、"歌う会"、が、始まった。
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「よっしゃ、まずは、ワシからや!」
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グランデルの、地響きのような、熱唱が、里に、轟き渡る。
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「オオオオオ〜! ミナ、ソウデアル〜!」
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「あの、歌、久しぶりに、聞きました……」
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誠は、耳を、押さえながら、そう、呟いた。
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「よっしゃ、俺も、歌うぞ!」
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竜崎も、酔った勢いで、豪快に、歌い始めた。
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「フッ……我が、魂の、詩を、聴かせてやろう」
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黒崎も、いつもの調子で、続いた。
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「田中くんも、歌いなよ」
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桜庭が、そう、促した。
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「僕、あまり、歌は、得意じゃ……」
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「まあまあ、いいから」
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こうして、誠も、皆に、乗せられて、久しぶりに、歌を、披露することになった。
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そして——宴の、合間には、末広の、落語も、披露された。
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「えー、毎度、ばかばかしい、お噺を、一席……」
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扇子を、構え、末広が、噺を、始めると——妖精族たちは、水を、打ったように、静まり返り、その、語り口に、聞き入った。
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「……お後が、よろしいようで」
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末広が、噺を、終えると——
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「わははは! 面白いやんけ、末広はん!」
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「もう、一席! もう、一席!」
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妖精族たちから、盛大な、拍手と、アンコールが、湧き起こった。
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「おおきに! ほな、もう、一席!」
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末広は、感激しながら、次々と、噺を、披露していった。
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こうして——宴、歌、そして、落語が、入り混じった、賑やかな、催しは、三日三晩、続いた。
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「田中……ワシ、もう、限界や……」
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三日目の、夜、誠は、すっかり、疲れ果てていた。
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「大丈夫ですか、末広さん」
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「喉、枯れるまで、落語、やらせてもろたわ……。でも、こんなに、ウケたん、生まれて、初めてや」
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末広は、疲れながらも、満足げな、表情を、浮かべていた。
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「田中殿、俺も、もう、飲めん……」
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竜崎も、さすがに、へばっていた。
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「グランデルさん、底なしすぎるだろ……」
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「フッ……我も、闇の、酒精に、飲まれた……」
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黒崎は、既に、隅で、伸びていた。
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「みんな、お疲れ様」
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桜庭だけは、比較的、元気そうだった。
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「いやぁ、ええ宴やったなぁ!」
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グランデルだけは、三日三晩、飲み続けても、まだ、ケロリとしていた。
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「グランデルさん、本当に、元気ですね……」
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「当たり前や! また、いつでも、来いや!」
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「次は、もう少し、お手柔らかに……」
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誠は、力なく、そう、答えた。
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「田中」
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グランデルが、少し、真面目な、顔に、なって、続けた。
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「末広はんの、落語、ほんまに、良かったで。うちの、里の、皆、久しぶりに、あんなに、笑うたわ」
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「それは、良かったです」
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「あんたが、連れてきてくれる、人らは、皆、面白い、奴ばっかりやな」
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グランデルは、そう言って、豪快に、笑った。
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帰りの、準備を、しながら——末広が、しみじみと、誠に、言った。
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「田中、ほんまに、ありがとうな。ワシ、この世界に、来て、初めて……"落語家で、良かった"、思えたわ」
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「末広さんの、落語が、面白いからですよ」
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「これからも、色んな、種族の、ところ、回って、落語、続けていくわ」
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その夜、誠は、疲れ果てながらも、祖父のノートに、こう書き加えた。
「妖精族の里で、また、三日三晩の、宴になった。グランデルさんの、歌、皆の、カラオケ、そして、末広さんの、落語。賑やかで、楽しい、三日間だった。末広さんの、落語が、妖精族に、大ウケして、本人も、すごく、嬉しそうだった。じいちゃん、こうして、皆で、笑い合える時間は、本当に、かけがえのないものだな。でも、グランデルさんの、酒攻めは、次からは、勘弁してほしい」
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窓の外、二つの月が、静かに、賑やかだった里を、照らしていた。
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まだこの時の誠は知らない。この、平和で、賑やかな、日々の、裏側で——魔王軍が、そして、帝国が、それぞれの、思惑を、抱えて、静かに、動き始めていることを。




