第94話「神の忠告(ついで)」
妖精族の里まで、あと、一日、という、最後の、野営地でのことだった。
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「田中さん、どこ、行くんですか」
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「ちょっと、用を、足しに」
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誠は、そう言って、皆から、少し、離れた、茂みへと、向かった。
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「ふぅ……」
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しゃがみ込み、ようやく、一息、ついた、その、瞬間——
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「おう、兄ちゃん。ええとこに、おったな」
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「……あなたは……」
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誠は、思わず、天を、仰いだ。
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「なんで、いつも、この、タイミングなんですか……」
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「天界サポートセンターの、担当の神ですわ。いやぁ、久しぶりやなぁ」
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「今回は、レベルアップの、話ですか」
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誠が、そう、尋ねると——
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「いや、今日は、特に、用件は、ないんやけどな」
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「またですか……」
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「まあ、聞いてぇな。実はな、最近、天界の、麻雀大会でな……」
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こうして、神様の、いつもの、脈絡のない、雑談が、始まった。
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「ワシ、決勝まで、行ったんやけどな。最後の、最後で、人類担当の、神に、振り込んでもうてな……」
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「はぁ……」
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「あの、役、絶対、狙っとったんや。国士無双、いうてな……」
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誠は、しゃがみ込んだまま、その、麻雀の、話を、延々と、聞かされ続けた。
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「あの、僕、そろそろ、皆のところに、戻らないと……」
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「まあまあ、そう、急かさんと。あと、天界食堂の、新メニューの、話もな……」
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「それも、聞くんですか……」
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結局、二十分近く、脈絡のない、話に、付き合わされた、後——
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「ほな、ワシは、そろそろ、行くわ」
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「やっと、解放される……」
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「あ、そうそう。一つだけ、言い忘れとった」
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神様の、声が、少し、真面目な、調子に、変わった。
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「この先の、道な。ゴブリンの、群れが、あんたらを、狙って、待ち伏せしとるで」
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「え……!」
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誠は、思わず、身構えた。
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「それ、大事な、情報じゃ、ないですか! 先に、言ってくださいよ!」
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「いやぁ、雑談の、方が、楽しかったからな。まあ、気ぃつけて、頑張りや」
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そう言い残すと、神様の、声は、消えた。
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「皆さん、大変です!」
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誠は、慌てて、野営地に、戻り、皆に、その、忠告を、伝えた。
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「ゴブリンの、群れが、待ち伏せしてるって……あの、神様が」
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「マジか」
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竜崎が、すぐに、剣を、構えた。
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「なら、警戒しとかんとな」
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末広も、忍者の、顔に、切り替わり、辺りに、気を、配り始めた。
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しかし——その時、既に。
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「ギャオオオオ!」
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茂みの中から、大量の、ゴブリンが、一斉に、姿を、現した。
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「来たか!」
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竜崎が、真っ先に、斬りかかる。
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「田中、お前は、下がってろ!」
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「はい!」
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誠は、慌てて、後ろに、下がろうとしたが——
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重い、リュックを、背負ったままだったせいで、バランスを、崩し——
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「うわっ!」
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一体の、ゴブリンに、思わず、ぶつかってしまった。
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その、瞬間——
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ゴブリンの、目が、赤く、光った。
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「あ……」
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「田中!? まさか!」
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竜崎の、顔が、引きつった。
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覚醒した、ゴブリンの、雄叫びに、呼応するように——周囲の、ゴブリンたちまでもが、次々と、赤い光を、放ち始めた。
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「うわ、群れ、全体が、覚醒してる!」
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「田中殿の、体質、最悪の、タイミングで、発動したな!」
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「す、すみません……!」
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誠は、涙目で、そう、謝った。
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「謝ってる、場合か! 皆、来るぞ!」
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覚醒した、ゴブリンの、群れが、一斉に、襲いかかってきた。
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「フッ……我が、闇の力、見せてやろう! 昏き、影よ!」
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黒崎が、闇の魔法を、放ち、数体の、ゴブリンを、一気に、吹き飛ばした。
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「おお、黒崎、やるじゃん!」
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「フッ……この程度、造作もない!」
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末広も、忍者の、身のこなしで、素早く、ゴブリンの、間を、駆け抜け——
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「隠密奥義……煙玉!」
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煙幕を、張り、ゴブリンたちの、視界を、奪いながら、次々と、無力化していった。
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「末広さん、すごい……!」
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「これでも、元、忍者やからな!」
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竜崎も、守り竜団仕込みの、剣技で、覚醒した、ゴブリンを、次々と、斬り伏せていく。
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「田中、お前は、後ろで、大人しくしてろよ! これ以上、覚醒させられたら、たまらん!」
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「はい……本当に、すみません……」
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桜庭も、冷静に、後方支援に、回り、負傷しかけた、皆に、的確な、指示を、飛ばした。
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「竜崎くん、右から、来てる! 黒崎くんは、左を、お願い!」
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「了解!」
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こうして、誠が、覚醒させてしまった、ゴブリンの、群れを——忍者・末広、魔法使い・黒崎、剣士・竜崎、そして、指揮官・桜庭が、必死に、片付けていった。
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戦闘が、終わった頃には——皆、すっかり、疲れ果てていた。
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「はぁ……はぁ……なんとか、片付いたな」
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竜崎が、額の、汗を、拭った。
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「田中……お前の、体質、ほんまに、勘弁してぇな」
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末広が、少し、疲れた様子で、そう、言った。
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「本当に、すみませんでした……」
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誠は、深く、頭を、下げた。
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「まあ、でも」
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桜庭が、少し、笑って、続けた。
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「皆で、力を、合わせて、乗り切れたじゃない。これも、悪くない、思い出だよ」
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「桜庭さん……」
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「フッ……確かに、我が、闇の力を、存分に、発揮する、良い、機会だった」
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黒崎も、満足げに、頷いた。
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「にしても、あの、神様」
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誠は、少し、恨めしそうに、天を、見上げた。
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「もっと、早く、教えてくれてたら……」
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「雑談の、後に、ついでみたいに、言われたんやろ?」
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末広が、そう、尋ねた。
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「はい……二十分も、麻雀の、話を、聞かされた後に」
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「相変わらず、たちの悪い、神さんやな」
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一同は、思わず、苦笑いした。
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その夜、誠は、疲れ果てながらも、祖父のノートに、こう書き加えた。
「最後の野営地で、また、あの神様が、来た。案の定、二十分も、麻雀や、天界食堂の、雑談を、聞かされた。最後に、ついでみたいに、"ゴブリンの群れが、待ち伏せしてる"、と、教えてくれたけど……結局、僕が、群れを、覚醒させてしまって、皆に、大変な、迷惑を、かけてしまった。忍者の末広さん、魔法使いの黒崎、剣士の竜崎、みんなが、必死に、片付けてくれた。じいちゃん、本当に、仲間には、感謝しかないよ」
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窓の外——ではなく、野営の空に、二つの月が、静かに、輝いていた。




