第90話「真の敵は薬草売り」
——それは、魔王城の、とある、一室での、ことだった。
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「魔王様、斥候からの、報告書が、届きました」
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一人の、魔族が、うやうやしく、一枚の、羊皮紙を、差し出した。
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魔王——玉座に、深く、腰掛けた、その存在は、静かに、その、報告書に、目を、通し始めた。
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『報告。勇者アルフレートの、日常を、監視した、結果を、以下に、記す——』
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『勇者は、確かに、強大な、戦闘能力を、有する。しかし、その、実態は、"ただの、戦闘生物"に、過ぎない』
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『驚くべきことに、この、勇者の、経済、兵站、そして、あらゆる、意思決定は——同居する、一人の、男が、掌握している』
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魔王の、眉が、わずかに、動いた。
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『その男の、名は、田中誠。表向きは、冴えない、薬草売りにして、刃物研ぎ師である』
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『しかし、その、実態は——恐るべき、"真の、軍師"である』
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『観察の、結果、勇者が、前線に、出るか、否かは——この、男が、"家賃が、払えないから、働け"、と、命じるか、否かに、かかっていることが、判明した』
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『つまり、勇者は、この、男の、手のひらの上で、踊る、駒に、過ぎない』
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『結論。我が、軍が、真に、滅ぼすべき、敵は——勇者、ではない。この、冴えない、薬草売りの、男こそが、光の軍勢の、"真の、頭脳"であり、討つべき、標的である』
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魔王は、しばらく、その、報告書を、見つめた後、静かに、命じた。
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「暗殺部隊を、その、男の、店に、送れ」
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「はっ」
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こうして——魔王軍の、精鋭、暗殺部隊が、次々と、誠の、しょっぱい、薬草店に、送り込まれることに、なった。
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その日、誠は、いつものように、店で、薬草を、すり潰していた。
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アルフレートは——店の、片隅で、例によって、"ログアウト"、していた。無表情のまま、微動だにせず、しかし、確かに、そこに、立っている。
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「ふぅ……今日も、地道な、作業だな」
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誠が、そう、呟いた、その、時だった。
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天井裏から、影が、一つ、音もなく、舞い降りた。
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黒装束に、身を、包んだ、魔族の、暗殺者だった。
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「標的、田中誠……覚悟!」
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暗殺者は、そう、囁くと、誠に向かって、短剣を、構え——
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しかし、その、進路上に——ちょうど、"ログアウト中"、の、アルフレートが、仁王立ちしていた。
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暗殺者の、短剣が、アルフレートの、体に、触れた、瞬間——
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バチィイイン!!
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凄まじい、反射の、衝撃と共に、暗殺者は、天井まで、弾き飛ばされ——そのまま、力尽きて、地に、伏した。
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「……ん?」
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誠は、その、物音に、顔を、上げた。
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「なんか、音、しました?」
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しかし、店の中には、既に、伏した、暗殺者の、姿しか、なく——アルフレートは、相変わらず、無表情のまま、仁王立ちしていた。
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「気のせいか……」
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誠は、再び、薬草を、すり潰す、作業に、戻った。
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しかし、その、翌日も——
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「標的、確認……!」
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別の、暗殺者が、忍び込み——
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バチィイイン!!
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アルフレートの、"当たり判定"、に、触れた、瞬間、跳ね返され、全滅。
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その、翌日も——
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バチィイイン!!
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その、翌々日も——
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バチィイイン!!
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「アルフレート様、最近、店の周り、なんか、物騒じゃ、ないですか」
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ある日、誠が、店の、隅に、伏している、黒装束の、集団を、見つけ、そう、尋ねた。
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「そうか?」
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アルフレートは、"ログアウト"、から、目を、覚まし、周囲を、見渡した。
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「ああ、また、何か、寄ってきていたようだな」
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「これ、誰なんですか」
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「さあ。私に、触れた、瞬間、勝手に、倒れているようだ」
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「触れただけで……?」
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「物理反射、とかいう、体質でな。私に、危害を、加えようとすると、その、力が、そのまま、跳ね返る」
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「そんな、チートまで……」
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誠は、深く、ため息を、ついた。
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——一方、魔王城では。
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「魔王様……暗殺部隊、全滅の、報告が……」
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「また、か」
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「これで、何十人目に、なりましょうか……」
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魔王は、深く、頭を、抱えた。
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「あの、薬草売りの、周りには……常に、あの、"無敵の、置物"が、立っているというのか」
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「はっ。しかも、その、勇者は、大抵、"瞑想状態"、で、微動だに、せず……ただ、そこに、立っているだけで、我が、暗殺者を、跳ね返して、おります」
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「なんという、鉄壁の、守り……」
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「やはり、あの、薬草売り……ただ者では、ないな」
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魔王は、そう、呟いた。
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「あれほどの、守りを、常に、身に、纏うとは……恐るべき、軍師よ」
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「田中殿、また、店の裏に、妙な、連中が、倒れているぞ」
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竜崎が、ある日、店を、訪れ、そう、報告した。
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「ああ、また、ですか……」
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誠は、もう、驚きも、しなくなっていた。
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「最近、多いんですよ。アルフレート様に、勝手に、跳ね返されて、倒れてる人が」
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「これ、魔王軍の、暗殺者の、ようだが」
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「暗殺者!?」
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誠は、思わず、声を、上げた。
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「なんで、暗殺者が、僕の、店に……!」
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「田中殿が、狙われているのかも、しれんな」
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「なんで、僕が! ただの、薬草売りですよ!」
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「さあ……。何か、恨みでも、買っているのでは」
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「心当たり、なさすぎます!」
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誠は、深く、頭を、抱えた。
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(まさか、僕が、魔王軍から、"真の敵"、なんて、思われてる、なんて……夢にも、思わないよな……)
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その夜、誠は、疲れ果てた様子で、祖父のノートを、開いた。
「最近、店の周りに、黒装束の、怪しい人たちが、次々と、倒れている。どうやら、魔王軍の、暗殺者、らしい。なぜか、僕の、店ばかり、狙われているみたいだけど、心当たりが、全くない。でも、アルフレート様が、店の隅で、寝ているだけで、勝手に、跳ね返して、全滅させてしまうので、実害は、ないみたいだ。じいちゃん、僕、一体、何に、巻き込まれてるんだろう」
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窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。魔王軍が、自分を、"光の軍勢の、真の軍師"、と、完全に、誤解し、討伐対象の、最優先に、据えていることを。
そして、その、誤解が、この後、さらに、思いがけない、事態へと、発展していくことも——今はまだ、知る由もなかった。




