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英雄は世界を救う。モブは人の暮らしを救う。  作者: 伝説の男前
知らんけど

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第88話「精神支配の術者」

王城での、ある、謁見の場での、ことだった。



「アルフレート殿。此度の、討伐、真に、大儀であった」




国王が、そう、労いの、言葉を、かけた。




アルフレートは——視線を、少し、宙に、向けたまま、無言で、突っ立っていた。




「アルフレート殿?」




大臣の一人が、怪訝そうに、声を、かけた。





誠は、少し離れた、末席から、その、様子を、見て、慌てて、小声で、告げた。




「アルフレート様、そこは、"はい"、ですよ」





その、瞬間——




「はい」




アルフレートが、まるで、糸で、引かれたかのように、即座に、そう、答えた。





謁見の間に、一瞬、異様な、沈黙が、走った。




「……今、何が?」




大臣たちが、揃って、誠の方を、見た。






——謁見の後、控えの間にて。




「大臣殿、今、御覧に、なりましたか」




年老いた、宰相が、深刻な、表情で、他の、大臣たちに、囁いた。




「勇者様が……あの、末席の、田中とかいう、商人の、一言で、即座に、返答を、なさった」




「まさか……」




「あれは……"精神支配"の、類の、術かもしれん」





「し、しかし……あの、田中という、男は、ただの、薬草売りでは……」




「表向きは、な」




宰相は、険しい、表情で、続けた。




「だが、あの、絶対的な、力を、持つ、勇者様が、あそこまで、従順に、従うとは……ただ事では、ない」




「では、田中は……」




「おそらく……勇者様の、"手綱"を、握る、真の、実力者。裏の、黒幕、と、見るべきだろう」





こうして、王城の、上層部の、間で、誠についての、恐るべき、噂が、静かに、囁かれるように、なっていった。





一方、その頃——




「田中殿、また、来てしまった」




夜、王都の、屋敷で、アルフレートが、いつものように、傷ついた、神剣を、抱えて、誠のもとを、訪れていた。




「アルフレート様、また、傷、ひどいですね」




誠は、そう、言いながら、砥石を、取り出し、いつもの、手順で、研ぎ始めた。





シャッ、シャッ、と、水音混じりの、規則的な、音が、屋敷の、庭に、響く。





その様子を——たまたま、屋敷の、警備で、巡回していた、若い、騎士が、物陰から、覗き見ていた。





「な、なんだ、あれは……」




若い、騎士は、思わず、息を、呑んだ。




月明かりの下、無言で、刃を、研ぎ続ける、誠の、姿。そして、その、傍らで、静かに、それを、見守る、勇者アルフレート。





(あれは……まさか……)




騎士は、震える手で、剣の、柄を、握りしめた。




(神の、兵器に、呪力を、付与する……邪悪な、暗黒儀式、なのでは……!)





その、夜の、光景は、翌日、騎士団の、詰所で、まことしやかに、語られることになった。





「聞いたか。田中という、商人が、夜な夜な、勇者様の、剣に、何やら、怪しい、儀式を、施しているらしい」




「なんだと」




「月明かりの下、無言で、刃に、水を、垂らし、規則的な、音を、立てながら、何かを、唱えているような……」




「それは……呪術、では、ないのか」




「勇者様の、剣が、あそこまで、強力なのは、あの、田中という、男の、力によるもの、なのかも、しれん」





こうして、騎士団の、間でも、誠への、畏怖と、警戒が、静かに、広まっていった。





「田中殿、最近、少し、様子が、変ではないか」




竜崎が、ある日、誠に、そう、尋ねた。




「様子、というと?」




「王都で、聞いたのだが……田中殿が、実は、勇者様を、裏で、操る、"黒幕"だ、という、噂が」




「な……! それ、まだ、続いてるのか」




誠は、思わず、頭を、抱えた。





「それに、田中殿が、夜な夜な、勇者様の、剣に、"暗黒儀式"を、施している、という話も」




「ただの、研ぎ物だ!」




誠は、思わず、大きな、声を、上げた。





「僕は、ただ、いつも、通り、剣を、研いでるだけなんだよ」




「まあ、田中殿の、事情は、わかっているが……傍から見ると、随分、異様な、光景に、見えるのかもしれんな」






「アルフレート様、この、噂、なんとか、なりませんか」




誠は、思い切って、アルフレートに、相談することにした。




「私が、田中に、精神を、支配されている、という、噂か」




「そうです! 誤解を、解いてください」





「しかし」




アルフレートは、少し、考え込むように、言った。




「実際、私は、田中の、"そこは、はい、だろ"、という、一言で、動いてしまうのだから……あながち、間違いでは、ないのでは」




「そういう、問題じゃ、ないです!」




「では、どう、説明すれば」





「単純に、"はい/いいえ"、しか、答えられない、呪いに、かかっていて、判断に、迷った時、僕が、助言してるだけです、って、言ってください」




「それも、それで、田中に、頼っている、印象を、与えないか」




「うぐっ……」




誠は、返す、言葉が、なかった。





「それに、剣の、研ぎの、件も」




「あれも、ただの、研ぎ物です!」




「見た目が、随分、儀式めいている、という、指摘は、否定できんな」




「それも、そうですけど……」





「まあ」




アルフレートは、少し、悪戯っぽく、続けた。




「"世界最強の、勇者を、意のままに、操る、恐るべき、存在"、というのも……なかなか、悪くない、二つ名では、ないか」




「悪いですよ! 商売に、支障が、出るかもしれないんですから!」





「田中殿ー! いらっしゃいますかー!」




その時、店の、外から、そう、声が、聞こえてきた。





誠が、恐る恐る、外に、出ると——




そこには——数人の、商人らしき、人々が、深く、頭を、下げて、待っていた。





「田中様……! ぜひ、我らの、商会にも、その、恐るべき、御力の、片鱗を、お貸しください!」




「え……」




「勇者様すら、意のままに、操る、その、御力……この、王都で、商売する上で、これ以上、心強い、後ろ盾は、ございません!」





誠は、思わず、頭を、抱えた。




(なんか……変な、方向に、話が、広まってる……!)





その夜、誠は、深く、疲れた様子で、祖父のノートを、開いた。


「王城で、"アルフレート様を、精神支配する、黒幕"、という、変な噂が、広まってしまった。夜な夜な、剣を研ぐ姿も、"暗黒儀式"、と、誤解されているらしい。今日なんて、商人たちが、その、"力"を、貸してほしいと、訪ねてくる、始末だ。じいちゃん、この、誤解、一体、どうやって、解けばいいんだろう」



窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。

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