第86話「コンテンツ不足」
魔王軍の、動きが、再び、活発化してきた、という、報せが、届いた、ある日のことだった。
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「アルフレート様、魔王軍の、討伐、そろそろ、本腰を、入れる、時期では?」
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誠が、そう、切り出すと、アルフレートは、意外にも、気の抜けた、様子で、答えた。
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「いや、まだ、行かない」
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「え……」
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誠は、思わず、聞き返した。
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「なんで、ですか。魔王軍、また、動き出してるって、話じゃ……」
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「田中、考えてみろ」
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アルフレートは、少し、真剣な、顔で、続けた。
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「もし、私が、魔王を、討伐したら、どうなる」
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「それは……世界に、平和が、戻るんじゃ、ないですか」
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「その、通りだ。だが、それは、つまり」
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アルフレートは、少し、遠い目を、しながら、続けた。
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「私という、"勇者"の、役割が、終わる、ということでも、ある」
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「アルフレート様、まさか……」
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「魔王を、倒したら、この、世界は……いわば、"クリア"、ということに、なる」
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「クリア……」
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「そうなれば、私は、元の、役目を、終え……もしかしたら、何らかの形で、この、世界から、姿を、消すことに、なるかも、しれん」
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誠は、少し、その、言葉に、複雑な、思いを、抱いた。
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「それは……ちゃんとした、心配なんですね」
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「いや」
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アルフレートは、あっさりと、そう、続けた。
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「正直、それより、単純に……やることが、なくなって、暇になるのが、嫌だ」
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「え……」
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「魔王を、倒したら、次の、目標が、なくなる。今まで、積み上げてきた、レベルも、装備も、宝の、持ち腐れに、なる」
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「そんな、理由で……」
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「アップデート、というものが、来るまでは、迂闊に、魔王城には、行かない、ことにした」
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「アップデート、って、何、待ってるんですか」
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「新しい、地方、新しい、魔物、新しい、装備。そういうものが、追加されるまで、な」
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「そんなもの、来るわけ、ないでしょう!」
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誠は、思わず、声を、荒らげた。
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「アルフレート様、魔王軍は、今も、村々を、脅かしてるんです。あなたが、動かないと……」
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「他の、討伐隊にも、頑張ってもらう」
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「そんな、無責任な……!」
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こうして、アルフレートは、完全に、"ニート化"、してしまった。
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「アルフレート様、また、屋敷で、ゴロゴロ、してるんですか」
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数日後、誠が、様子を、見に、行くと——
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アルフレートは、あの、リクライニングシートに、深く、腰掛け、なんとも、気だるい、様子で、天井を、見上げていた。
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「討伐、行かないなら、その、暇な、時間で、部屋の、片付けでも、してください」
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「今は、その、気分では、ない」
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「その、"気分"、いつも、都合よく、ないですよね」
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誠は、深く、ため息を、ついた後——ふと、あることに、気づいた。
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「アルフレート様」
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「なんだ」
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「討伐に、行かないと……あなたの、あの、神剣、使わなくなりますよね」
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「まあ、そうなるな」
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「ということは……」
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誠は、少し、悪戯っぽい、笑みを、浮かべた。
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「僕の、研ぎ物の、仕事も、なくなる、ってことですよね」
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「……」
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アルフレートは、少し、はっとした、様子を、見せた。
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「それは、困る」
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「困るでしょう!」
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「田中の、あの、研ぎの、技術が、なければ、いざという時、剣の、状態が……」
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「そうです。だから、動いてください」
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「しかし、魔王討伐は……」
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「魔王討伐しろ、とは、言ってません」
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誠は、そう、続けた。
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「近所の、雑魚モンスター、討伐でも、いいんです。とにかく、体を、動かして、剣を、使ってください」
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「雑魚、討伐か……」
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「はい。小遣い稼ぎ、程度で、いいですから」
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こうして、誠は、アルフレートを、半ば、無理やり、近隣の、村々の、小さな、魔物討伐に、駆り出すことにした。
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「田中殿、正直、この、雑魚討伐、私の、力を、持て余す」
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村はずれで、小さな、ゴブリンを、一体、あっさりと、片付けた、アルフレートが、少し、不満げに、そう、言った。
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「文句を、言わない。これで、剣も、使いますし、村人からも、感謝されます」
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「まあ、それは、そうだが……」
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「それに、研ぎ賃も、稼げますし」
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「田中の、目的は、結局、それか」
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「もちろんです」
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「田中殿ー! 助かったよ!」
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村人たちが、駆けつけ、口々に、お礼を、言った。
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「アルフレート様のおかげです」
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誠が、そう、フォローすると、アルフレートは、少し、まんざらでもない、様子を、見せた。
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「まあ……こういう、小さな、感謝も、悪くは、ないな」
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「アルフレート様、これで、剣、また、傷んだでしょう」
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誠が、そう、確認すると、アルフレートは、素直に、頷いた。
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「今夜も、頼む」
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「はい、研ぎ賃、いただきますね」
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「わかっている」
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こうして、誠は、なんとか、アルフレートを、"アップデート待ちの、ニート状態"、から、日々の、小さな討伐へと、引っ張り出すことに、成功した。
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「田中」
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その夜、剣を、研ぐ、誠の、隣で、アルフレートが、ふと、呟いた。
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「魔王討伐、いつかは、やらねば、ならんのだろうな」
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「はい、いつかは」
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「その時が、来るまで……この、小さな、討伐の、日々も、悪くないと、思うようになった」
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「それは、良かったです」
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「アルフレート様が、魔王討伐を、"コンテンツ不足"を、理由に、ボイコットしようとした。あきれた話だけど、僕の、研ぎ物の、仕事が、なくなる、という、話をしたら、あっさり、態度を、変えた。結局、近所の、小さな討伐に、駆り出すことになった。じいちゃん、あの人を、動かすのに、こんな、単純な、理屈が、効くとは、思わなかったよ」
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窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。




