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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
知らんけど

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第85話「明日、狩りに行けない」

素材集めの旅を、経て、なんとか、神剣を、修理してから、しばらく後——アルフレートの、頭を、悩ませる、新たな、問題が、浮上していた。


⸻


「田中、また、頼みが、あるのだが」


⸻


⸻


ある夜、アルフレートが、少し、申し訳なさそうな、顔で、店を、訪れた。


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⸻


「今度は、なんですか」


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⸻


誠は、少し、身構えながら、そう、尋ねた。


⸻


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「これを、見てくれ」


⸻


⸻


アルフレートは、そう言うと、修理を、終えたばかりの、神剣を、差し出した。


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⸻


刃には、既に、細かい、傷が、いくつも、走っていた。


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「これ……直したばかり、ですよね」


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「先日の、討伐で、一度、振るっただけで、これだ」


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誠は、思わず、絶句した。


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「一度、振っただけで、そんなに、傷むんですか」


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「この、剣の、威力は、途方もない。山を、一撃で、吹き飛ばすほどの、力を、秘めている」


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⸻


アルフレートは、少し、疲れた様子で、続けた。


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「だが、その、代償として……耐久度の、消耗が、恐ろしく、激しい」


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「また、鍛冶師に、頼むと……」


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「国家予算級の、金と、伝説級の、素材が、必要になる。もう、あんな、旅、そう、何度も、できない」


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「じゃあ、どうするんですか」


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誠が、そう、尋ねると、アルフレートは、少し、期待の、こもった、目で、誠を、見た。


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「田中の、研ぎの、腕なら……もしかして」


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「え……僕が、この、神剣を、研ぐん、ですか」


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誠は、思わず、その、刃を、見つめた。


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「試しに、やってみてくれないか」


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⸻


誠は、恐る恐る、砥石を、取り出し、いつもの、手順で、その、刃に、水を、垂らし、丁寧に、研ぎ始めた。


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⸻


シャッ、シャッ、という、音が、店に、響く。


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しばらくすると——


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「これは……」


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アルフレートが、驚いた、様子で、刃を、確認した。


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細かい、傷が、綺麗に、消え、刃が、再び、鋭さを、取り戻していた。


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「耐久度の、表示も……」


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⸻


アルフレートは、視線を、宙に、向けて、確認した。


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「回復している……! 田中の、研ぎで、耐久度が、回復するのか!」


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「そう、なんですか」


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誠も、少し、驚きながら、そう、答えた。


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「祖父から、教わった、普通の、研ぎ方、なんですけど」


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「普通の、砥石で、耐久度が、回復するとは……」


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アルフレートは、感嘆の、声を、漏らした。


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こうして、誠は、アルフレートの、神剣を、定期的に、研ぐことに、なった。


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しかし、それは——


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「田中殿、また、来てしまった」


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数日後、アルフレートが、再び、傷だらけの、剣を、抱えて、店を、訪れた。


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「また、ですか」


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「昨日、討伐に、行ってな」


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誠は、深く、ため息を、ついた。


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「一回、討伐に、行くたびに、来るように、なりましたね」


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「すまん。だが……」


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そして、それは——毎晩の、日課に、なっていった。


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「田中殿ー」


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夜、店じまいの、後、アルフレートが、当たり前のように、剣を、抱えて、やってくる。


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「また、ですか」


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誠は、もう、驚きも、しなくなっていた。


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「お前が、研いでくれないと、明日、狩りに、行けないんだけど」


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「その、言い方、なんか、腹立ちますね」


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「頼む、田中」


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アルフレートは、そう言うと、当然のように、椅子に、腰掛け、剣を、差し出した。


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「本当に、これ、依存されてますよね、僕」


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⸻


誠は、ぶつぶつと、文句を、言いながらも、いつもの、手つきで、研ぎ始めた。


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シャッ、シャッ。


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「アルフレート様、今日、部屋の、片付けは、しましたか」


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「……まだだ」


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「先に、それを、やってから、来てください」


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「剣が、研げなければ、明日、戦えないのだが」


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「その、理屈、狡いですよ」


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「田中」


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アルフレートが、少し、しみじみと、続けた。


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「私は、この、規格外の、力を、持っている。だが……」


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「はい」


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「その、力を、維持するために、結局、田中に、頼らざるを得ない」


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「本当に、そうですよ」


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「無敵の、勇者、と、言われているが……実際には、毎晩、田中の、研ぎ物なしには、一日も、戦えない」


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「まあ、それが、事実です」


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誠は、研ぎ終えた、剣を、丁寧に、確認しながら、少し、笑った。


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「アルフレート様、これで、明日も、大丈夫ですよ」


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「ありがとう、田中」


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「その代わり」


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誠は、少し、悪戯っぽく、続けた。


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「今度から、研ぎ賃、いただきますね」


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「え……」


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「毎晩、これだけ、時間、取られてるんですから、当然です」


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⸻


アルフレートは、少し、渋い顔を、したが、結局、頷くしか、なかった。


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「わかった……。研ぎ賃、払おう」


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「はい、それで、お願いします」


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その夜、誠は、疲れた様子ながらも、祖父のノートに、こう書き加えた。


「アルフレート様の、神剣、僕の、普通の研ぎ方で、耐久度が、回復することが、分かった。それ以来、毎晩のように、剣を、研ぐことに、なっている。あの、規格外の、勇者様が、僕の、研ぎ物なしには、狩りにも、行けないなんて、なんだか、おかしな話だ。じいちゃん、あの人の、"最強"は、結局、僕の、地道な作業に、支えられているんだな」


⸻


窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。

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