第84話「実家の味」
素材集めの旅も、一段落し、村での、日常が、戻ってきていた、ある日のことだった。
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「アルフレート様、そのポーション、また、僕のものを、飲んでるんですか」
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誠が、店の、作業台で、薬草を、すり潰しながら、そう、尋ねた。
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「うむ、うまい」
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アルフレートは、誠が、作った、地味な、色をした、薬湯を、美味しそうに、飲み干していた。
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「でも、アルフレート様、確か……」
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誠は、少し、不思議そうに、続けた。
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「ステータス画面から、最高級の、ポーションが、作れるって、前に、言ってましたよね」
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「ああ、"調合"の、スキルがあってな」
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アルフレートは、そう言うと、視線を、宙に、向けた。
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次の、瞬間——
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彼の、手元に——輝く、液体の、詰まった、瓶が、"ポン"、と、音を立てて、いくつも、出現した。
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「な……!」
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誠は、思わず、目を、見開いた。
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「これで、最高級の、ポーションが、百個」
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「な、なんですか、それ……!」
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「ボタン一つで、こうなる」
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アルフレートは、事も無げに、そう、言った。
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誠は、その、瓶を、手に取り、じっと、見つめた。
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透き通るような、輝きを、放つ、その、液体は、誠が、何時間も、かけて、作る、地味な、色の、薬湯とは、まるで、比べ物にならなかった。
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「効果も、段違いなんですよね」
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「うむ。即座に、全回復、状態異常も、完全に、治癒する」
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「なのに……」
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誠は、思わず、尋ねた。
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「なんで、僕の、作った、あの、しょっぱい、薬湯の方を、飲んでるんですか」
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アルフレートは、少し、考えるような、表情を、見せた。
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「あの、最高級の、ポーションはな……」
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「はい」
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「なんというか……味が、無い」
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「味が、無い?」
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「ボタン一つで、出てくるだけの、ものだからな。誰かが、手間暇、かけて、作った、という、実感が、まるで、ない」
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「それに」
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アルフレートは、続けた。
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「田中の、あの、薬湯には……なんというか、"実家の味"、がする」
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「実家の、味……」
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誠は、思わず、繰り返した。
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「効果は、正直、微々たるものだ。竜と、戦った後の、傷も、あれ一杯じゃ、大して、治らん」
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「そうでしょうね……」
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誠は、自分の、作る、薬湯の、効能を、思い返しながら、苦笑いした。
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「だが」
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アルフレートは、少し、遠い目を、しながら、続けた。
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「あの、飲んだ後の、じんわりとした、温かさというか……ほっとするような、感覚は、あの、最高級ポーションには、ない」
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誠は、その、言葉に、少し、胸が、熱くなった。
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「アルフレート様、あの、薬湯、そんなに、時間を、かけて、作ってるわけじゃ、ないんですよ」
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「そうなのか」
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「はい。まず、薬草を、丁寧に、洗って、乾燥させて、それを、すり潰して……」
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誠は、そう、言いながら、実際の、作業を、見せることにした。
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すり鉢を、取り出し、乾燥させた、薬草を、入れ——
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ゴリ、ゴリ、と、地道に、すり潰していく。
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「これに、どのくらい、時間が、かかるんだ」
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「これだけで、小一時間、かかります」
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「小一時間……!」
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「その後、煮出して、濾して、また、煮詰めて……」
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誠は、額に、汗を、滲ませながら、その、作業を、丁寧に、続けた。
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「一つの、薬湯を、作るのに、大体、半日、かかります」
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「半日……。私は、一瞬で、百個、出せるのに」
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「ですよね」
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誠は、少し、乾いた、笑いを、浮かべた。
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「でも」
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アルフレートは、静かに、続けた。
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「その、田中の、額の汗こそが……あの、薬湯の、"味"、なのかもしれんな」
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「そんな、大層な、ものじゃ、ないですよ」
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誠は、照れくさそうに、そう、答えた。
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「祖父から、教わった、ただの、地道な、方法です」
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「その、"ただの、地道な、方法"、こそが、大事なのだと、私は、思う」
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「あの、最高級ポーション」
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誠が、ふと、尋ねた。
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「他の人には、あげないんですか。すごい、効果、なんですよね」
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「ああ、討伐隊の、負傷者には、配っている」
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「それは、良いことですね」
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「だが、私自身が、普段、飲むのは……田中の、あの、薬湯だ」
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誠は、思わず、微笑んだ。
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「じゃあ、これからも、作り続けますね」
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「頼む」
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その、様子を、見ていた、エリナが、思わず、口を、挟んだ。
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「田中さん、なんか、良い話、してますけど……アルフレート様、単に、ボタン一つの、作業が、面倒臭いだけ、なんじゃ、ないですか」
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「エリナさん、それは、言わない、約束で」
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「実際、そうなのでは」
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エリナが、少し、意地悪く、続けると——
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アルフレートは、少し、気まずそうに、目を、逸らした。
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「その……両方、事実、なのかもしれん」
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「やっぱり!」
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誠と、エリナは、揃って、笑ってしまった。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「アルフレート様が、ボタン一つで、最高級のポーションを、百個も、作れることが、分かった。それなのに、あの人は、僕が、地道に、時間をかけて、作った、しょっぱい薬湯の方を、好んで、飲んでいる。"実家の味がする"、なんて、言われて、なんだか、嬉しくなってしまった。じいちゃん、地道なことにも、ちゃんと、意味があるのかもしれないな」
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窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。




