第83話「フレンド:生存」
神剣の、素材集めの、旅の、道中でのことだった。
⸻
「田中、少し、休もう」
⸻
野営の、焚き火を、囲みながら、アルフレートが、そう、告げた。
⸻
⸻
「アルフレート様、今日も、お疲れ様でした」
⸻
⸻
誠は、そう、労いながら、鍋を、火に、かけた。
⸻
⸻
⸻
しばらく、静かな、時間が、流れた後——
⸻
⸻
「田中」
⸻
⸻
アルフレートが、ふと、静かな、声で、切り出した。
⸻
⸻
「私は、時々、思うことが、ある」
⸻
⸻
「なんでしょうか」
⸻
⸻
「私は、この、国の、誰からも、"勇者様"と、呼ばれる」
⸻
⸻
誠は、黙って、その、続きを、待った。
⸻
⸻
「敬われ、頼られ、時に、恐れられる。だが……」
⸻
⸻
アルフレートは、少し、遠くを、見つめた。
⸻
⸻
「誰も、私を、"アルフレート"、という、一人の、人間として、見てくれる者は、いない」
⸻
⸻
⸻
「アルフレート様……」
⸻
⸻
「王も、貴族も、兵士たちも……皆、私を、通して、"勇者"という、象徴を、見ている。まるで、神を、拝むように、な」
⸻
⸻
アルフレートは、静かに、続けた。
⸻
⸻
「それは、時に、途方もなく、孤独なものだ」
⸻
⸻
⸻
誠は、静かに、その、言葉を、受け止めた。
⸻
⸻
「田中」
⸻
⸻
「はい」
⸻
⸻
「一つ、見せたいものが、ある」
⸻
⸻
アルフレートは、そう、言うと、視線を、少し、宙に、向けた——いつもの、ステータス画面を、確認する、仕草だった。
⸻
⸻
「私の、ステータス画面には、"フレンド"、という、項目が、ある」
⸻
⸻
「フレンド……ですか」
⸻
⸻
「ああ。生まれてから、ずっと、そこには、何も、表示されて、いなかった」
⸻
⸻
⸻
誠は、少し、驚いた、様子で、耳を、傾けた。
⸻
⸻
「だが、今は……そこに、一つだけ、名前が、あってな」
⸻
⸻
アルフレートは、少し、照れくさそうに、続けた。
⸻
⸻
「"田中誠:生存"、と」
⸻
⸻
⸻
誠は、思わず、言葉を、失った。
⸻
⸻
「僕の、名前が……」
⸻
⸻
「初めて、剣を、研いでもらった、あの日から、ずっと、そこに、表示されている」
⸻
⸻
アルフレートは、静かに、続けた。
⸻
⸻
「誰も、私を、対等な、一人の人間として、見てくれない。だが……田中だけは、違った」
⸻
⸻
⸻
「アルフレート様……」
⸻
⸻
「田中は、私を、"勇者様"としてではなく……"アルフレート"として、扱ってくれる。時に、家賃の、催促をし、部屋の、整理を、押し付け、生活能力の、なさを、呆れる」
⸻
⸻
アルフレートは、少し、笑った。
⸻
⸻
「そういう、当たり前の、扱いを、してくれる者が、この世界に、一人でも、いる。それが……この、"フレンド:生存"、という、一文が、私に、教えてくれることだ」
⸻
⸻
⸻
誠は、静かに、その、言葉を、噛み締めた。
⸻
⸻
「アルフレート様」
⸻
⸻
「なんだ」
⸻
⸻
「僕は、これからも、あなたを、"アルフレート"として、扱いますよ」
⸻
⸻
「田中……」
⸻
⸻
「家賃の、催促も、部屋の、片付けの、小言も、これからも、ちゃんと、しますから」
⸻
⸻
⸻
アルフレートは、思わず、声を、立てて、笑った。
⸻
⸻
「それは……なんとも、心強い、約束だな」
⸻
⸻
「約束、というより、当たり前の、ことです」
⸻
⸻
⸻
「田中」
⸻
⸻
アルフレートは、少し、真剣な、顔に、戻って、続けた。
⸻
⸻
「もし、この先、どれほど、私が、強くなろうと……どれほど、この、世界が、私を、神格化しようと」
⸻
⸻
「はい」
⸻
⸻
「その、"フレンド:生存"、という、一文だけは……どうか、消えないで、いてほしい」
⸻
⸻
⸻
誠は、静かに、頷いた。
⸻
⸻
「消えませんよ。だって、僕たちは……ただの、友達、じゃないですか」
⸻
⸻
⸻
その、言葉に、アルフレートは、しばらく、無言のまま、焚き火の、炎を、見つめていた。
⸻
⸻
やがて、静かに、そう、呟いた。
⸻
⸻
「ただの、友達、か」
⸻
⸻
「はい」
⸻
⸻
「その、"ただの"、という、言葉が……こんなにも、私を、救うとはな」
⸻
⸻
⸻
⸻
その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「アルフレート様の、ステータス画面に、僕の名前が、"フレンド、生存"として、表示されているらしい。誰からも、"勇者様"として、崇められる、あの人にとって、それが、どれだけ、大事な、繋がりなのか、少し、分かった気がする。じいちゃん、強さとか、地位とか、そういうものを、全部、取り払った先にある、"ただの、友達"っていう関係が、一番、大切なものなのかもしれないな」
⸻
窓の外、二つの月が、静かに、二人を、照らしていた。
⸻
まだこの時の誠は知らない。この、小さな、しかし、確かな、繋がりが、この後、アルフレートにとって、何度も、彼を、支え続ける、大切な、支柱になっていくことを。




