第81話「猫、また覚醒す」
家賃の、催促も、兼ねて、誠が、王都の、アルフレートの、屋敷を、訪れた、ある日のことだった。
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「アルフレート様、今月分の、家賃、いただきに、来ました」
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「うむ、ご苦労」
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アルフレートは、そう、言いながら、討伐報酬の、袋を、差し出した。
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「それより、田中、少し、付き合ってくれないか」
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「なんでしょうか」
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「近くの、市場で、面白い、見世物が、あるらしくてな」
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二人は、連れ立って、王都の、市場へと、向かった。
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「見世物、というと?」
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「"幸運を呼ぶ、白猫"、とかいう、触れ込みでな。撫でると、幸運に、恵まれるという」
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「へえ……」
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市場の、一角に、確かに、小さな、檻に入れられた、白い猫が、いた。周りには、その、猫を、一目、見ようと、人だかりが、できていた。
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「さあさあ、幸運の、白猫だよ! 一回、銅貨、一枚で、撫でられるよ!」
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「へえ、可愛いですね」
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誠は、思わず、その、猫に、近づいた。
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「田中殿、撫でて、みるか」
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「はい、じゃあ、一回……」
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誠は、銅貨を、払い、恐る恐る、その、猫に、手を、伸ばした。
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「よし、よし……」
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猫は、気持ちよさそうに、目を、細めていた。
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——その、瞬間だった。
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猫の、目が、赤く、光った。
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「あ……」
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誠の、脳裏に、これまでの、記憶が、走馬灯のように、駆け巡った。
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「まさか……また……」
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「にゃおおおおん!!」
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猫の、体が、みるみるうちに、膨れ上がり——
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檻を、あっさりと、突き破り——
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牙を、剥き出しにした、禍々しい、姿の、巨大猫に、変貌していった。
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「ぎゃあああああ!」
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「な、なんだ、これは!」
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市場は、たちまち、大パニックに、陥った。
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「な、なんでや……!」
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見世物の、興行主が、腰を、抜かしながら、そう、叫んだ。
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「うちの、幸運の白猫が、なんで、こんな、化け物に……!」
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「アルフレート様……」
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誠は、深く、遠い目を、しながら、そう、呟いた。
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「僕の、体質、また、出ました」
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「そのようだな」
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アルフレートは、あっさりと、剣を、抜いた。
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「片付けて、おこう」
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一閃——
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巨大猫は、瞬く間に、斬り伏せられ——その、姿は、跡形もなく、消え去り——
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代わりに、地面には——
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小さな、魔石が、一つ、転がっていた。
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「これは……」
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興行主が、恐る恐る、それを、拾い上げた。
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「うちの、猫が……魔石に……?」
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「すみません……本当に、すみません……」
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誠は、深く、深く、頭を、下げた。
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「田中殿、また、猫、だったな」
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市場を、後にしながら、アルフレートが、しみじみと、そう、言った。
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「そういえば、前も、猫でしたね」
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「猫と、相性が、悪いのか」
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「猫に、限らず、なんでも、そうなんです」
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誠は、深く、ため息を、ついた。
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「ウサギも、ゴブリンも、そして、この前は、龍族の子の、事故で、猫まで……」
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「規則性が、ある、ような、ないような、だな」
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「アルフレート様」
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誠は、少し、疲れた様子で、続けた。
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「これ、もう、迂闊に、動物を、撫でることも、できませんね」
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「そうかもしれん」
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「賠償金、僕が、払うことに、なるんでしょうか」
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誠が、不安げに、尋ねると、アルフレートは、少し、考えてから、答えた。
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「案ずるな。私が、討伐した、ということで、処理しておく」
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「本当ですか、助かります」
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「その代わり」
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アルフレートは、少し、悪戯っぽく、続けた。
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「今月の、家賃、少し、まけてくれないか」
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「駄目です」
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誠は、きっぱりと、そう、答えた。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「市場で、幸運の白猫を、撫でたら、また、覚醒してしまった。アルフレート様が、片付けてくれたけど、興行主さんには、本当に、申し訳ないことをした。じいちゃん、この体質、本当に、いつ、なくなるんだろう。もう、動物を、撫でるのも、怖くなってきたよ」
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窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。




