第79話「介護されるおばちゃんの野菜」
村での、噂は、いつしか、妙な、方向に、広まっていた。
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「ねえ、聞いた? あの、聖勇者様の、話」
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「ああ、田中さんの、店に、しょっちゅう、通ってる、あれね」
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村の井戸端で、女性たちが、そう、囁き合っていた。
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「なんで、あの、聖勇者様が、あんな、冴えない、薬草売りの、言いなりに、なってるのかしらねぇ」
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「まさか、田中さん……実は、裏の、大ボス、とか」
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「それは、ないでしょ」
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「でも、あの、勇者様が、あんなに、素直に、従うのよ? 只者じゃ、ないわよ」
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その、噂は、次第に、尾ひれを、つけながら、村中に、広まっていった。
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「田中殿、最近、随分と、奇妙な、噂を、耳にするのだが」
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竜崎が、少し、複雑な、表情で、そう、切り出した。
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「なんの、噂だ」
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「田中殿が、実は、裏で、アルフレート様を、操っている、"黒幕"だと……」
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「な……!」
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誠は、思わず、絶句した。
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「なんで、そんな、話に、なるんだ」
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「アルフレート様が、いつも、田中殿の、言うことを、素直に、聞いているのが、傍から見ると、そう、映るらしい」
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「あれは、部屋の、片付けと、生活能力の、問題であって……」
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誠は、深く、頭を、抱えた。
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一方で——
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「田中さん、これ、持ってって」
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ある日、村の、おばちゃんの一人が、店に、立ち寄り、大きな、籠いっぱいの、野菜を、押し付けてきた。
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「え、こんなに、いただけません」
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「いいから、いいから」
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おばちゃんは、誠の、手を、優しく、握った。
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「あんた、あの、勇者様の、面倒、いつも、見てあげてるんでしょう」
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「面倒、というか……」
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「あの人、強いのは、強いんだろうけど……人間として、色々、終わってるって、話じゃない」
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「そこまでは、言いませんが……」
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「田中さん、いつも、介護、お疲れ様ねぇ」
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「か、介護……」
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誠は、思わず、遠い目に、なった。
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「これ、たくさん、食べて、元気、出しなさいよ」
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「ありがとう、ございます……」
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誠は、複雑な、気持ちのまま、野菜を、受け取るしか、なかった。
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その後も、村の、あちこちで——
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「田中さん、これ、うちで、採れた、卵よ」
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「勇者様の、お世話、大変でしょう。これ、栄養、つけてね」
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「本当に、田中さんは、偉いわねぇ。あんな、手のかかる、勇者様の、面倒、見てあげて」
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誠は、そのたびに、「介護」「面倒を見る」という、扱いで、次々と、食料を、恵んで、もらうことになった。
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「アルフレート様……」
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誠は、店に戻ってきた、アルフレートに、深く、ため息を、ついた。
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「あなたのせいで、村中から、僕が、あなたを、介護してる、って、思われてます」
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「それは、心外だな。私は、そこまで、手が、かかっているつもりは……」
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「片付けが、できないのは、事実ですよね」
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「それは……その通りだ」
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そんな、ある日の、こと。
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北の、里から、一匹の、龍族の、若者が、遊びに、村を、訪れていた。
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「田中くん、龍の里から、来たで!」
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以前、誠たちと、共に、ウランの、運搬を、手伝った、あの、小さな龍族の、一人だった。以前より、少し、体が、大きくなっていた。
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「久しぶりですね。元気そうで、良かった」
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誠が、そう、声を、かけると、その、龍族は、嬉しそうに、店の周りを、飛び回った。
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その、時だった。
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「わっ、猫が、いる!」
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その、龍族は、村の、路地裏に、いた、一匹の、野良猫を、見つけ、興味津々に、近づいていった。
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「威嚇しては、駄目ですよ」
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誠が、慌てて、そう、声を、かけたが——
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「シャー!」
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野良猫が、驚き、その、小さな龍に、爪を、立てて、威嚇した。
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「うわっ!」
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その、龍族が、驚いて、思わず、猫に向かって、軽く、体当たりを、してしまった、瞬間——
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猫の、目が、赤く、光った。
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「あ……また、これか……」
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誠は、思わず、遠い、目を、した。
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猫の、体が、みるみるうちに、膨れ上がり——
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牙を、剥き出しにした、禍々しい、姿の、巨大猫に、変貌していった。
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「にゃあああああ!!」
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「うわわわわ!」
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若い、龍族が、慌てて、逃げ惑い始めた。
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「た、田中くん! なんか、猫が、めっちゃ、でかく、なった!」
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「僕の、体質が、伝染したのかもしれません……!」
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誠は、思わず、そう、叫んだ。
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「にゃおおおん!」
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巨大猫が、若い、龍族に、飛びかかろうと、した、瞬間——
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「大丈夫かー!」
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竜崎が、たまたま、通りかかり、素早く、剣を、抜いて、その、巨大猫を、一撃で、斬り伏せた。
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「ふぅ……危なかった」
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竜崎が、額の、汗を、拭いながら、そう、呟いた。
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「た、竜崎さん、ありがとう!」
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若い、龍族が、震えながら、お礼を、言った。
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「田中殿、この現象……」
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竜崎が、少し、疲れた様子で、誠に、尋ねた。
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「田中殿だけじゃ、なくて、他の者にまで、伝染するように、なったのか」
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「僕にも、よく、分かりません……」
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誠は、深く、ため息を、ついた。
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「もしかしたら、僕の、この、"体質"、僕の、周りに、いる人にも、時々、影響を、与えるのかもしれません」
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「それは……厄介な、話だな」
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若い、龍族が、少し、興奮した、様子で、言った。
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「田中くんの、体質、里でも、噂に、なっとったで! 『あの、田中いう、人間、関わると、なんでも、強くなる、不思議な、力を、持っとる』って」
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「不思議な力、って……単なる、不運ですよ」
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誠は、力なく、そう、答えた。
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その夜、誠は、疲れた様子で、祖父のノートを、開いた。
「村では、僕が、アルフレート様を、操る、黒幕だという、変な噂が、広まっている。おばちゃんたちには、勇者様を、介護してる、可哀想な人、として、同情され、野菜を、たくさん、もらった。それに、あの、覚醒体質、僕以外の、人にまで、伝染するように、なったみたいだ。龍の里でも、噂に、なっているらしい。じいちゃん、この体質、一体、どこまで、広がっていくんだろう」
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窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。




