第78話「片付けろよ、田中ぁ!」
「もう一つ、聞きたいことが、あります」
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誠は、少し、疲れた様子で、そう、切り出した。
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「なんだ」
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「アルフレート様が、魔物を、倒した時、その後、どうなるんですか」
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「ああ、あれか」
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アルフレートは、当然のように、頷いた。
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「魔物を、倒すと、死骸が、消えてな」
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「消える……?」
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「代わりに、魔石や、素材の類が、その場に、落ちている」
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「落ちてる、って……」
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「先日も、ゴブリンを、討伐した際、剣を、振るった、瞬間に——ゴブリンの、姿が、跡形もなく、消え失せてな。地面に、小さな、魔石だけが、残っていた」
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誠は、思わず、絶句した。
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「その、魔石は……?」
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「拾い上げると、また、どこかへ、消える」
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「どこに、行くんですか」
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「分からん。気づけば、無い」
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アルフレートは、あっさりと、そう、答えた。
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「でも……」
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誠は、疑問を、重ねた。
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「アルフレート様の、部屋、この前、見せてもらった時……」
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「ああ、あれか」
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アルフレートは、少し、気まずそうに、目を、逸らした。
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——数日前、誠は、初めて、アルフレートの、王都の、私室を、訪ねた、ことがあった。
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その、部屋の、扉を、開けた、瞬間——
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床、一面に、堆く、積もった——
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「なんですか、これ……!」
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謎の、肉塊。得体の知れない、牙。そして——
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「これ、まさか……」
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「ドラゴンの、糞、だ」
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アルフレートが、悪びれもせずに、そう、告げた。
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「な、なんで、こんなものが、部屋中に……!」
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「魔物を、討伐した際、時折、魔石ではなく、こういった、"謎の素材"が、直接、荷物袋に、入ってしまうことがあってな」
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「それを、片付けずに、放置してたんですか!」
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「うむ。整理整頓は、あまり、得意ではなくてな」
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誠は、思わず、頭を、抱えた。
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「これ、絶対、片付けないと、駄目です!」
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「田中が、やってくれるのか」
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「アルフレート様が、やってください!」
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「私には、"整理"というものが、どうにも……」
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「片付けろよ、田中ぁ、じゃないんですよ!」
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誠は、思わず、声を、荒らげた。
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結局、誠は、その日、丸一日かけて、アルフレートの部屋に、散乱していた——
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「ゴブリンの骨」「ドラゴンの糞」「謎の肉」「牙」「鱗」
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を、一つ一つ、分別し、使えるものは、商会の資材として、使えないものは、然るべき場所に、処分することになった。
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「なんで、こんなことに、なるんですか……」
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誠は、汗だくになりながら、ぶつぶつと、そう、こぼした。
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「田中は、こういう作業も、手際が、良いな」
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「お褒めの言葉、いりません」
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「そういえば」
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誠は、ふと、思い出したように、続けた。
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「僕も、以前、魔物を、倒したことが、ありましたよね」
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「ああ、あの、ウサギの、覚醒事件、か」
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「あの時も、そうですし……他にも、何度か、応戦せざるを、得なかったことが」
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誠は、少し、遠い目を、しながら、続けた。
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「僕が、魔物を、倒しても……死骸は、そのまま、残るんです」
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「そのまま?」
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「はい。魔石なんて、出ません。ただの、死骸が、そこに、ある、だけです」
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アルフレートは、少し、興味深げに、尋ねた。
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「それは、どうしているのだ」
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「処理に、困りますよ」
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誠は、深く、ため息を、ついた。
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「しかも、死骸の、肉の匂いに、釣られて、他の魔物が、寄ってくることも、あって……」
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「それは、危険だな」
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「本当に、危険でした。あの時なんて……」
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誠は、以前、村はずれで、討伐した、覚醒ウサギの、死骸を、放置していたら、その、匂いに、釣られて、別の魔物が、寄ってきてしまい、二次被害に、遭いかけた、苦い記憶を、思い出していた。
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「結局、死骸は、埋めるか、燃やすかしか、処理の方法が、ないんです」
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「田中の方が、よほど、苦労している、ということか」
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「そうなんですよ! アルフレート様は、勝手に、消えて、素材まで、出てくるのに……僕の場合、後片付けまで、含めて、全部、自分でやらないと、いけないんです」
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アルフレートは、しばらく、考え込むように、腕を、組んだ。
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「田中、これは、非常に、不公平な、話だな」
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「今更、気づいたんですか」
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「うむ……。だが、それでも」
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アルフレートは、少し、真剣な、顔で、続けた。
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「私の、この、"消える死骸"や、"無限の素材"は、確かに、便利ではあるが……その、整理や、活用の、判断は、結局、田中の、知識と、経験に、頼らざるを得ない」
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「まあ……それは、そうですけど」
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「規格外の、力があっても、それを、うまく、使いこなす、知恵がなければ、宝の持ち腐れ、ということだな」
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「なんか、また、都合よく、纏めましたね」
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誠は、思わず、苦笑いした。
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「とにかく」
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誠は、改めて、釘を刺すように、言った。
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「これから、部屋の整理は、ちゃんと、自分で、するように、してくださいね」
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「善処しよう」
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「善処、じゃなくて、約束してください」
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「……努力する」
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その夜、誠は、疲れ果てながらも、祖父のノートに、こう書き加えた。
「アルフレート様の、部屋を、片付けた。ドラゴンの糞やら、謎の肉やら、床一面に、散らかっていて、本当に、大変だった。それに比べて、僕が、魔物を、倒した時は、ただの、死骸が、残るだけで、しかも、他の魔物を、呼び寄せる、危険まである。同じ"魔物を倒す"でも、こんなに、扱いが、違うものなんだな。じいちゃん、世の中、本当に、不公平だと、思うよ」
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窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。




