第76話「勇者の瞬間移動」
里の再建と、ウランの分配が、一段落した頃だった。
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「よし、これで、皆、随分、大きくなったな」
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長が、里を、見渡しながら、感慨深げに、そう、言った。
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藤原が、口から、吐き出した、ウランを、均等に、分け与えられた、龍族たちは、それぞれ、一メートルを、超える、大きさにまで、成長していた。
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「これなら、もう、うっかり、踏み潰される、心配も、ないやろ」
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藤原が、少し、安堵したように、そう、呟いた。
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「藤原殿の、おかげじゃ。この里は、ようやく、また、前に、進めそうじゃ」
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長が、深く、頭を、下げた。
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「藤原さん、どうしますか」
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誠が、そっと、尋ねた。
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「これから、僕たちと、一緒に、村に、戻りますか。それとも……」
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藤原は、しばらく、考え込んだ後、静かに、答えた。
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「うち、ここに、残るわ」
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「本当に、いいんですか」
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「せや。同じ、龍族の、皆と、一緒に、これから、色々、教え合っていきたいし……ここも、うちの、居場所に、なる、気がするんや」
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誠は、静かに、頷いた。
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「分かりました。でも、いつでも、村にも、遊びに来てくださいね」
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「もちろんや。ウランの、運搬も、まだ、続けなあかんしな」
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すべての、話が、まとまり、一行は、ようやく、帰路に、つくことになった。
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「では、私は、先に、失礼する」
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アルフレートが、そう、告げると、懐から、見慣れない、複雑な、文様の描かれた、札のようなものを、取り出した。
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「アルフレート様、それは……?」
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「転移法陣、というものだ。王都と、繋がっている」
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「て、転移……!?」
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誠が、驚いて、声を、上げた、その、瞬間——
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アルフレートの、姿が、淡い光に、包まれ——
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次の瞬間には、跡形もなく、消えていた。
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「……え?」
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誠は、しばらく、その場に、立ち尽くしていた。
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「い、いなくなった……!」
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竜崎も、呆然と、その場を、見つめていた。
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「あの人、そんな、便利な、道具まで、持ってたんですか……!」
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宮田も、思わず、そう、漏らした。
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誠は、深く、深く、ため息を、ついた。
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「僕たち、これから、どうやって、帰るんだ……」
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竜崎も、宮田も、揃って、遠い目を、していた。
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「まさか、あの人だけ、瞬間移動で、帰るとはな……」
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「勇者特権、酷すぎませんか」
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誠は、思わず、そう、呟いた。
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「というか……主人公特権、酷すぎる、というか」
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「田中殿、何を、言ってるんだ」
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竜崎が、不思議そうに、尋ねた。
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「いえ……主人公じゃ、ないですけどね。アルフレート様は」
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誠は、力なく、そう、答えた。
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「とりあえず、歩いて、帰りましょうか」
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宮田が、そう、提案し、一行は、とぼとぼと、氷の回廊に、向かって、歩き始めた。
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「田中くん」
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その様子を、見ていた、藤原が、声を、かけてきた。
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「歩いて、帰るん?」
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「はい……アルフレート様みたいな、便利な、道具は、持ってないので」
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誠は、少し、しょんぼりと、答えた。
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「送っていったろか」
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藤原が、そう、申し出た。
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「え、いいんですか」
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「ええに、決まっとるやろ。ここまで、色々、手伝ってもろたし、恩返しや」
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「ありがとう、藤原さん!」
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誠は、思わず、顔を、輝かせた。
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「竜崎、宮田も、乗ってってええで」
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「助かる!」
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竜崎が、真っ先に、そう、答えた。
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こうして、誠たちは、藤原の、背中に、乗り込むことになった。
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「せやけど、うちも、里から、離れすぎるのは、あかんから……」
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藤原が、少し、申し訳なさそうに、続けた。
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「村の、近くまで、送ったら、また、ここに、戻ってくるで」
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「もちろんです。本当に、ありがとう」
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藤原は、大きく、翼を、羽ばたかせ、里の、皆に、見送られながら、空へと、舞い上がった。
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「田中くん、達者でな!」
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「また、来てや!」
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小さな龍族たちの、声が、下から、聞こえてくる。
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誠は、その、声に、大きく、手を、振り返した。
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「アルフレート様、絶対、村に、着いたら、文句、言ってやる」
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誠が、飛びながら、そう、呟くと、藤原が、思わず、笑った。
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「せやな。うちからも、一言、言うたるわ」
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その夜——正確には、道中の、野営の夜——誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「龍族の里の、皆が、無事、大きくなった。藤原さんは、里に、残ることを、決めたらしい。それは、良かったんだけど、アルフレート様が、転移の法陣で、僕たちだけ置いて、さっさと、帰ってしまった。あの人、あんな便利な道具まで、持ってたのか。結局、藤原さんに、送ってもらうことになった。じいちゃん、勇者っていうのは、本当に、ずるいものなんだな」
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窓の外、二つの月が、帰路を、急ぐ、一行を、静かに、照らしていた。
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まだこの時の誠は知らない。村に戻った後、アルフレートに、この件について、じっくりと、文句を言う機会が、待っていることを。




