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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
知らんけど

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第75話「一週間の迷子」

数往復の、運搬作戦を、終えた、帰り道のことだった。


⸻


「田中くん、見てみ!」


⸻


飛びながら、藤原が、興奮した様子で、そう、声を、上げた。


⸻


誠が、周囲を、見渡すと——


⸻


背後を、ついてきていた、小さな龍族の一匹が、いつの間にか、自力で、宙に、浮かんでいた。


⸻


「飛べて、るのか……!」


⸻


その、龍は、以前の、十センチほどの、大きさから、既に、一メートルほどにまで、成長していた。


⸻


「ウラン、食べさせてもろたから、少し、大きく、なったんやな」


⸻


藤原が、嬉しそうに、そう、言った。


⸻


「まだまだ、うちの、五十メートルには、程遠いけどな」


⸻


「それでも、これは、大きな、進歩ですね」


⸻


誠は、感慨深げに、その、光景を、見つめた。


⸻


⸻


こうして、一行は、休憩を、挟みながら、北の、龍族の里への、帰路を、進んでいった。


⸻


しかし——


⸻


「あれ……」


⸻


藤原が、ふと、飛行を、止めた。


⸻


「どうしたんですか」


⸻


「里、どこや……?」


⸻


誠は、思わず、周囲を、見渡した。


⸻


一面に、広がる、白い、雪原。しかし、見覚えのある、目印が、どこにも、見当たらなかった。


⸻


「アルフレート様、地図は……」


⸻


「うむ……この、辺りのはずなのだが」


⸻


アルフレートも、困惑した様子で、地図を、確認していた。


⸻


「なあ、あんた」


⸻


藤原が、一緒に、飛んでいた、小さな龍族に、尋ねた。


⸻


「里、どこにあるか、覚えとらんか」


⸻


「わ、忘れた……。ずっと、里の中で、生きてきたから、外から見た、目印とか、よう分からん……」


⸻


「そんな……」


⸻


誠は、思わず、頭を、抱えた。


⸻


⸻


一行は、それから、雪原を、あちこち、飛び回りながら、里を、探し始めた。


⸻


「この辺、来たこと、あるような、ないような……」


⸻


「あっちの、山、見覚え、あるかも……いや、やっぱり、違うか」


⸻


一日、二日と、経つうちに、探索は、次第に、難航していった。


⸻


「田中殿、正直、これは……」


⸻


アルフレートが、少し、疲れた様子で、そう、切り出した。


⸻


「一面、雪と、氷ばかりで、目印に、なるものが、ほとんど、ない」


⸻


「あの、神様に、また、聞いてみるのは……」


⸻


宮田が、提案した。


⸻


「藤原さん、聞いてみられますか」


⸻


藤原は、少し、集中するような、素振りを、見せた後、力なく、首を、振った。


⸻


「あかん。今、繋がってへんみたいや」


⸻


「そういう、時も、あるんですね……」


⸻


誠は、深く、ため息を、ついた。


⸻


⸻


三日目——


⸻


「あそこの、岩、なんか、見た、気がするねんけど」


⸻


小さな龍族が、そう、指差した方向に、向かってみたが——


⸻


「違う……ただの、岩や」


⸻


肩を、落とす、一同。


⸻


⸻


四日目——


⸻


「あっちに、何か、見える!」


⸻


期待を、込めて、向かった先には——


⸻


別の、獣の巣穴が、あるだけだった。


⸻


⸻


五日目——


⸻


「もう、どこを、探したか、分からへんくなってきた……」


⸻


藤原も、すっかり、疲れ果てた、様子だった。


⸻


「同じ、場所、ぐるぐる、回ってる、気が、しませんか」


⸻


竜崎が、そう、指摘した。


⸻


「多分、そうやと、思うわ……」


⸻


⸻


六日目——


⸻


「田中殿……正直に、言おう」


⸻


アルフレートが、深く、疲れた表情で、そう、告げた。


⸻


「私も、完全に、方向感覚を、失っている」


⸻


「僕もです……」


⸻


一同は、揃って、雪原の、真ん中で、途方に、暮れていた。


⸻


「なあ、田中くん」


⸻


藤原が、少し、へこんだ様子で、話しかけてきた。


⸻


「うち、あんなに、ウラン、運んだのに……このまま、里に、辿り着けへんかったら、意味、あらへんくなるな」


⸻


「大丈夫です。必ず、見つかりますから」


⸻


誠は、そう、励ましながらも、内心、少し、不安を、感じていた。


⸻


⸻


七日目——


⸻


「もう、あかん……どこを、探したら、ええんか、分からへん……」


⸻


藤原が、雪原の上に、力なく、座り込んだ。


⸻


「田中くん、うち、みんなを、迷わせてしもて、ほんま、ごめんな」


⸻


誠も、疲れ果てた様子で、隣に、腰を、下ろした。


⸻


「藤原さんの、せいじゃ、ないですよ。この、雪原が、あまりにも、目印がなさすぎるんです」


⸻


⸻


一同が、すっかり、途方に暮れていた、その時だった。


⸻


「おう、皆の衆。まだ、うろうろ、しとったんかいな」


⸻


聞き覚えのある、声が、頭の中に、響いた。


⸻


「あ……! あの、神様!」


⸻


誠が、思わず、声を、上げた。


⸻


「せや。見かねて、また、出張ってきましたわ」


⸻


「里の場所、また、教えてもらえませんか」


⸻


誠が、藁にも、すがる思いで、そう、頼んだ。


⸻


「まあ、ええで。実は……」


⸻


神様の、声に、少し、笑いを、含んだような、響きが、混じった。


⸻


「里、あんたらが、今おる場所から、南に、五十センチほど、行ったとこに、あるんやけどな」


⸻


「南に、五十センチ……?」


⸻


一同は、思わず、顔を、見合わせた。


⸻


「あの、それ、随分、近くないですか」


⸻


「近いなんてもんちゃうで。実はな……」


⸻


神様は、少し、言いにくそうに、続けた。


⸻


「嬢ちゃんが、さっき、座り込んだ、その場所、な」


⸻


藤原は、はっとして、自分の、座っている、下を、見た。


⸻


「……え?」


⸻


「里、実は、そこにあってん。というか……あってん、いうか」


⸻


神様の、声は、少し、気まずそうな、調子に、変わった。


⸻


「嬢ちゃんが、七日前、疲れて、どしん、と、腰を、下ろした、瞬間があったやろ」


⸻


藤原の、顔が、みるみる、青ざめていった。


⸻


「まさか……」


⸻


「せや。あの時、嬢ちゃん、里、まるごと、踏み潰してもうてん」


⸻


「ええええええ!?」


⸻


藤原が、悲鳴のような、声を、上げ、慌てて、飛び上がった。


⸻


その、真下——先ほどまで、藤原が、座り込んでいた、雪原の一角には——


⸻


無残に、押し潰された、集落の、跡が、広がっていた。


⸻


「な、なんてこと……!」


⸻


誠も、青ざめた。


⸻


「長! 皆さん! 大丈夫ですか!」


⸻


⸻


慌てて、駆け寄ると——


⸻


潰れた、家々の、瓦礫の下から、小さな、龍族たちが、次々と、這い出してきた。


⸻


「い、痛たた……」


⸻


「な、なんじゃ、いきなり、空から、山が、降ってきたかと、思うたぞ」


⸻


幸い、小さな、体格ゆえか、瓦礫の隙間から、皆、なんとか、無事に、脱出できたようだった。


⸻


「長! 本当に、申し訳ありません!」


⸻


藤原が、涙目に、なりながら、深く、頭を、下げた。


⸻


「うち、まさか、自分が、里を、踏み潰しとったなんて……!」


⸻


長は、瓦礫を、かき分けながら、大きく、ため息を、ついた。


⸻


「まったく……嬢ちゃんの、体の大きさ、忘れとったわしらも、悪いがのう」


⸻


「家、また、建て直さんと、いかんな」


⸻


⸻


「田中くん……うち、ほんまに、なんてことを……」


⸻


藤原は、すっかり、しょげ返っていた。


⸻


「里の再建、僕たちも、手伝います」


⸻


誠は、すぐに、そう、申し出た。


⸻


「アルフレート様、資材、また、お借りできますか」


⸻


「もちろんだ」


⸻


⸻


こうして、一行は、迷子の、疲れも、そこそこに、今度は、龍族の里の、再建作業に、取り掛かることになった。


⸻


「田中さん、そんなん、あの神様、最初から、言うといてくれたら……」


⸻


誠が、思わず、そう、天に、向かって、呟くと——


⸻


「いやぁ、実は、すぐ、気づいて、たんやけどな」


⸻


神様の、軽い、声が、また、響いた。


⸻


「あんまりにも、皆、必死に、探しとるから、ちょっと、面白て、黙っとってん」


⸻


「ちょっと、じゃないですよ! 一週間ですよ、一週間!」


⸻


「まあまあ、そう、怒らんと。ええ、運動には、なったやろ」


⸻


誠は、深く、頭を、抱えた。


⸻


⸻


その夜、誠は、疲れ果てながらも、祖父のノートに、こう書き加えた。


「一週間かけて探していた、龍族の里は、実は、藤原さんが、七日前に、うっかり座り込んで、踏み潰してしまった、その真下にあった。しかも、あの神様、最初から、気づいていたのに、面白がって、黙っていたらしい。里の皆さんは、幸い、無事だったけど、家は、建て直しになった。じいちゃん、あの神様、本当に、たちが悪い」


⸻


窓の外、二つの月が、瓦礫の残る、里を、静かに、照らしていた。


⸻


まだこの時の誠は知らない。この、一週間の迷子と、思いがけない再会の結末が、龍族たちとの、絆を、さらに、深めていくきっかけになることを。

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