第72話「小さな里」
氷の回廊を、抜けてから、一週間が、過ぎていた。
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「谷らしきもの、まだ、見つからないな……」
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アルフレートが、地図を、睨みながら、深く、ため息を、ついた。
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一行は、氷の回廊の先、広大な、雪原地帯を、隈なく、探索していた。しかし、「竜の谷」と呼べるような、それらしき場所も、そして、巨大な龍の姿も、一向に、見つからなかった。
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「田中殿、本当に、この辺りで、合っているのか」
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竜崎が、少し、疲れた様子で、尋ねた。
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「古文書にも、あの神様の話にも、この方角で、間違いないはずなんですが……」
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「もしかして……」
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宮田が、少し、考え込むように、続けた。
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「そもそも、龍族という存在自体、もう、絶滅しているのかもしれない」
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その言葉に、藤原が、少し、しょんぼりと、翼を、垂れさせた。
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「そう、なんかなぁ……」
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「まだ、諦めるのは、早いです」
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誠は、そう、励ますように、言った。
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しかし、さらに、数日、探索を、続けても——
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「何も、見つからない……」
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一行の、間に、次第に、疲労と、落胆の色が、濃くなっていった。
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「田中殿、そろそろ、潮時、かもしれん」
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アルフレートが、重い、口調で、そう、告げた。
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「村のことも、あるし、これ以上、長く、留守にするのは……」
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誠も、その、言葉に、頷かざるを得なかった。
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「そう、ですね……。一旦、戻りましょうか」
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藤原は、少し、寂しそうな、表情を、浮かべていた。
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「結局、うちの、仲間、見つからへんかったな」
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一行は、諦めて、帰路に、つこうとした、その時だった。
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「あ……」
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藤原が、突然、動きを、止めた。
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「藤原さん、どうしたんですか」
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「なんか……声、聞こえる」
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「声、ですか」
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「うん……あの、神さんの、声や」
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一行は、揃って、藤原を、見つめた。
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「おう、嬢ちゃん。まだ、うろうろ、しとったんかいな」
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藤原は、その、声を、皆にも、聞こえるように、伝え始めた。
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「あの、龍族の里、どこにあるんですか」
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「もう、一週間も、探してるんです」
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藤原が、そう、問いかけると——
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「ああ、悪い悪い。座標、ちゃんと、伝えてへんかったな」
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「北に、二十メートルほど、行ったとこや」
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「……二十メートル?」
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誠は、思わず、聞き返した。
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「二十キロメートルの、間違いじゃなくて、ですか」
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「いや、メートルで、合っとるで。ほんの、目と鼻の先や」
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一行は、顔を、見合わせた。
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「本当に、そんなに、近くに……?」
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半信半疑ながら、一行は、示された方角、北に、二十メートルほど、進んでみることにした。
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「あ……」
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そこには——
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小さな、雪の丘の、麓に、こぢんまりとした、集落が、あった。
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しかし、その、集落を、構成していたのは——
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体長、十センチほどの、小さな、トカゲのような、生き物たちだった。
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「……え?」
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誠は、思わず、その場に、立ち尽くした。
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「これが……龍族の、里……?」
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小さな、トカゲたちは、一行の、来訪に、気づき、慌ただしく、集まってきた。
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「よそ者じゃ! よそ者が来たぞ!」
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甲高い、しかし、確かな、言葉を、話す、その小さな生き物たちに、一行は、揃って、絶句していた。
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「田中殿、これは……」
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アルフレートも、困惑した様子で、そう、呟いた。
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「本当に、龍族……なんでしょうか」
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誠が、恐る恐る、そう、口にした、その時——
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集落の、奥から、一際、貫禄のある、しかし、それでも、二十センチほどの、小さな、トカゲが、姿を、現した。
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「わしが、この里の、長じゃ」
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その、小さな長は、堂々と、そう、名乗った。
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「あの……失礼ですが、皆さんは、龍族、なのでしょうか」
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誠が、慎重に、尋ねた。
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「いかにも。わしらは、誇り高き、龍族じゃ」
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誠は、思わず、藤原の方を、見た。藤原も、この、予想外の展開に、すっかり、言葉を、失っている様子だった。
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「あの……藤原さん、この人たち……」
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「うちより、めっちゃ、ちっちゃいな……」
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藤原が、思わず、そう、呟いた。
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その夜、誠は、この、想定外の出会いに、複雑な思いを、抱きながら、祖父のノートを、開いた。
「ようやく、龍族の里を、見つけた。でも、そこにいたのは、想像していたのとは、全く違う、小さな、トカゲのような、龍族だった。藤原さんとは、あまりにも、大きさが、違いすぎる。じいちゃん、この出会いは、一体、どうなっていくんだろう」
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窓の外、二つの月が、静かに、この小さな里を、照らしていた。
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まだこの時の誠は知らない。この、体長の違いすぎる、龍族との出会いが、藤原にとって、どのような、意味を、持つことになるのかを。




