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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
知らんけど

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第71話「氷の回廊にて」

竜の谷への旅は、順調に、進んでいた。



「そろそろ、氷の回廊が、見えてくるはずだ」



アルフレートが、地図と、周囲の、景色を、見比べながら、そう、告げた。



藤原の背に乗った、一行の視界には、既に、白銀の、山々が、広がり始めていた。



「めっちゃ、寒いなぁ、ここ」



藤原が、身震いするように、翼を、震わせた。



「藤原さん、寒いんですか?」



「うち、龍やのに、寒がりでな。困ったもんやわ」




一行は、いったん、氷の回廊の、手前で、休憩を、取ることにした。



「田中殿、少し、周辺を、見てくる」



竜崎が、そう言って、辺りを、偵察に、出て行った。




誠は、その間、少し、離れた岩陰で、用を、足すことにした。




「ふぅ……」




その時だった。




「おう、兄ちゃん。ずいぶん、久しぶりやなぁ」




誠は、思わず、天を、仰いだ。



「あ……あなたは……」




「天界サポートセンターの、担当の神ですわ。こんな、辺鄙な、氷の回廊まで、来てくれはったんやなぁ」




「あの、今、大事な、旅の途中なんですけど……」




「まあまあ、そう、言わんと。実は、今日は、ちゃんと、用件が、あるんですわ」




誠は、思わず、身構えた。



「本当ですか。今回は、レベルアップの、話ですか」




「せや。実は、兄ちゃんの、これまでの、功績を、まとめて、精算しましてな」




誠は、少し、期待を、抱いた。



(今度こそ、まともな、レベルアップが……!)




「兄ちゃんの、レベルは……ドドン! 3に、なりましてな」




「レベル、3……!」




誠は、思わず、声を、上げた。



「これまで、ずっと、2だったのが、ようやく……!」




「せやせや。ただな」




神様の、声の調子が、少し、変わった。




「次のレベルまでの、必要経験値、また、跳ね上がりましてな。今回の、蓄積分でも、まだ、半分にも、届いてまへんのや」




「え……」




「まあ、あんさんの、場合、経験値の、貯まり方が、独特でしてな。普通の冒険者と、ちゃう、貯まり方、しとるさかい」




「独特、というと」




「戦闘での、経験値は、ほとんど、貯まってまへん。というか、むしろ、"戦って、逃げ回った"、程度の、経験値ばっかりで」




「それは……仕方ないですよ、僕、戦えないんですから」




「その代わり、人助けとか、薬草の知識とか、そういう方面の、経験値が、めっちゃ、貯まっとりますな。ただ、その手の経験値、レベルには、あんまり、直結、せえへん、仕組みに、なってましてな」




「そんな仕組み、あるんですか……」




誠は、深く、ため息を、ついた。




「まあ、腐らんと、ぼちぼち、頑張っておくんなはれ」




「あの、それだけ、ですか」




「いや、実は、もう一つ、伝えたいこと、あるんですわ」




誠は、少し、身構えた。



「なんでしょうか」




「この先、氷の回廊、抜けたとこな……実は、ちょっとした、"warning"、出ましてな」




「警告……ですか」




「まあ、詳しいことは、言えへんのやけど……龍族の里、ちょっと、複雑な、事情、抱えとるみたいですわ」




誠は、その、言葉に、思わず、緊張した。



「複雑な事情、というのは……」




「せやから、詳しくは、言えへんのですわ。天界にも、"言うてええこと"と、"あかんこと"、ありますよってな」




「そんな……」




「まあ、兄ちゃんなら、大丈夫やろ。これまでも、ちゃんと、乗り越えてきたんやからな」




その言葉には、いつもの、軽い調子とは、少し違う、温かさが、あった。




「ほな、応援しとりますわ。頑張っておくんなはれ」




声は、そう言い残すと、静かに、消えた。





誠は、しばらく、その場に、立ち尽くしていた。



(レベル3……そして、龍族の里の、複雑な事情、か)





「田中殿、遅いが、大丈夫か」




アルフレートが、心配そうに、様子を、見に来た。




「あ、はい……すみません、また、あの神様が」




「またか。今度は、何を?」




「レベルが、3になったそうです」




「ほう、それは、おめでとう」




「でも、次のレベルまでの経験値、また、跳ね上がるらしくて」




アルフレートは、思わず、苦笑した。



「田中の、成長曲線は、相変わらず、独特だな」




「それより」



誠は、少し、真剣な顔で、続けた。



「龍族の里に、何か、複雑な事情が、あるかもしれない、とも、言われました」




アルフレートの、表情も、引き締まった。



「詳しいことは?」



「教えてくれませんでした。天界にも、言える範囲、というのが、あるみたいで」




「そうか……」



アルフレートは、少し、考え込むように、氷の回廊の、先を、見つめた。



「警戒は、しておこう」





一行は、休憩を終えると、再び、藤原の背に乗り、氷の回廊へと、進んでいった。




「なあ、田中くん」



飛びながら、藤原が、ふと、尋ねてきた。



「あの、神様、なんか、言うてたんか」



「藤原さんのところにも、来る、あの神様です」



「ああ、あの、麻雀好きの」



「龍族の里に、複雑な事情が、あるかもしれない、って」




藤原は、少し、緊張した様子で、翼を、震わせた。



「複雑な、事情……。もしかして、うちの、経歴のこと、関係、あるんかな」



「分かりません。でも、何が、あっても、皆で、対応しましょう」




「せやな」




藤原は、少し、決意を、込めるように、大きく、翼を、羽ばたかせた。




氷の回廊は、想像以上に、長く、そして、美しかった。



両側に、そびえ立つ、氷の壁が、陽光を、反射し、幻想的な、輝きを、放っている。




「もうすぐ、抜けそうだな」



アルフレートが、そう、告げた、その時——




回廊の、先に、白い、霧のようなものが、立ち込めているのが、見えた。




「あれは……」




誠は、その、霧の向こうに、微かに、巨大な、何かの、影を、感じ取った。




その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「氷の回廊で、また、あの神様から、連絡があった。レベルが、3になったらしいけど、次のレベルまでの道のりは、まだまだ、遠いみたいだ。それより、龍族の里に、複雑な事情があるかもしれない、という、警告があった。じいちゃん、いよいよ、竜の谷が、近づいてきている。何が、待っているんだろう」



窓の外、二つの月が、氷の回廊を、静かに、照らしていた。



まだこの時の誠は知らない。この、霧の向こうに、待ち受けているものが、藤原の運命を、そして、この世界の、龍という存在の、真実を、大きく、動かすことになることを。

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