第70話「物理法則」
藤原が、ようやく、目を覚ましたのは、それから、三日三晩が、過ぎてからのことだった。
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「んん……よう寝たわ」
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藤原は、大きく、伸びをしながら、ゆっくりと、体を、起こした。
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「藤原さん、ようやく、起きましたね」
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誠は、安堵の表情で、そう、声をかけた。
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「あれ、うち、どんくらい、寝とったんや」
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「三日、ですよ」
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「み、三日!? そんなに!?」
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その間、誠と、アルフレートは、開けた場所に、テントを、張り、キャンプのような、生活を、送っていた。
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「アルフレート様、また、そのリクライニングシート、出してるんですね」
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「快適さは、大事だ」
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「なあ、藤原さん」
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誠は、ふと、以前から、気になっていたことを、尋ねてみることにした。
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「なんや?」
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「よく、アニメとか、漫画に、あるじゃないですか。龍とか、恐竜が、ちっちゃく、なったり、するの」
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「ああ、あるな。人の姿に、なったりとか」
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「藤原さんも、小さくなったり、できないんですか?」
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藤原は、しばらく、考え込むように、首を、傾げた。
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「無理無理。絶対、無理」
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「え……」
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「それ、物理的に、不可能やから」
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「そう、なんですか?」
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誠は、少し、意外に、思った。
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「せやかて、考えてみぃな」
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藤原は、少し、呆れたように、説明を、始めた。
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「うちの、この体、五十メートル分の、質量が、あるんやで。それを、いきなり、人間サイズに、圧縮するって、質量、どこに、消えるんや」
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「あ……」
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「エネルギー保存の法則、高校物理Ⅲ、取ったやろ? 無理やから」
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「確かに……理科の授業で、習いましたけど」
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誠は、思わず、納得してしまった。
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「まさか、こんな形で、物理法則の、話が、出てくるとは……」
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「そうなの?」
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アルフレートが、興味深げに、会話に、割り込んできた。
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「アルフレート様の、"四次元ポケット"は、どうなってるんですか」
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誠が、ふと、思いついたように、そう、尋ねた。
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「私の、マジックバッグのことか」
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「はい。あれって、明らかに、質量保存の法則、無視してますよね」
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アルフレートは、少し、考えてから、答えた。
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「知らんけど」
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「え」
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誠は、思わず、素っ頓狂な声を、上げた。
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「知らんけど、って……」
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「昔から、こういうものだ、として、使ってきたからな。仕組みなど、考えたことも、なかった」
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「藤原さん、これ、どう思う」
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誠が、藤原に、同意を、求めるように、尋ねた。
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「そんなん、うちに、聞かれても、困るわ」
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藤原は、呆れたように、答えた。
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「あの、収納魔法の方は、多分、この世界特有の、"魔法"いう、便利な、力技で、成り立っとるんちゃうか」
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「力技、ですか」
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「せや。魔法って、大体、物理法則、無視して、成り立っとるもんやからな」
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「でも、藤原さんの、体の大きさは、魔法じゃ、どうにも、ならないんですか」
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誠が、そう、尋ねると、藤原は、少し、考え込んだ。
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「うーん……多分、うちの、この体、"生物"として、成り立っとるからやと、思うで」
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「生物、というと」
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「うちの、細胞一つ一つが、ちゃんと、質量、持っとるからな。それを、魔法で、無理やり、圧縮したら……」
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藤原は、少し、想像したように、身震いした。
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「多分、うち、死ぬで」
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「そ、それは、駄目ですね……」
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「一方、あの、マジックバッグの、中身は、"物"やからな」
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藤原は、続けて、説明した。
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「物を、収納する、っちゅう、単純な、魔法の理屈やったら、質量とか、あんまり、気にせんでも、成り立つんかもしれん」
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「藤原さん、なんか、詳しいですね」
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誠は、感心したように、そう、言った。
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「うち、これでも、理系やったからな。前世では」
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藤原は、少し、得意げに、答えた。
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「じゃあ、藤原さんが、小さくなる方法は、ないんですね」
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「今のところ、思いつかへんな」
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藤原は、少し、残念そうに、続けた。
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「でも、考えてみたら……うち、この、でかい体、そんなに、嫌いちゃうかもしれん」
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「そうなんですか?」
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「せや。なんや、こう……強い、力を、持っとるって、安心感、あるからな」
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「藤原さん」
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誠は、静かに、微笑んだ。
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「その、大きな体のまま、竜の谷に、行きましょう」
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「せやな。うちは、うちのまま、行くわ」
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「田中殿、宮田殿にも、この、物理談義、聞かせてやりたかったな」
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アルフレートが、少し、笑いながら、そう、言った。
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「後で、話しておきます」
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「藤原さんに、小さくなれないか、聞いてみた。物理的に不可能、という、明快な答えが、返ってきた。アルフレート様の、マジックバッグの仕組みは、『知らんけど』という、身も蓋もない、答えだった。じいちゃん、この世界にも、ちゃんと、物理法則が、生きている部分と、魔法で、なんとかなってしまう部分が、あるみたいだ」
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窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。
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翌朝、藤原は、すっかり、元気を、取り戻し、再び、北へ向けて、飛び立つ、準備を、始めるのだった。




