第69話「勇者のチート」
竜の谷への旅立ちの日、誠は、アルフレートの提案に、思わず、目を、丸くした。
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「藤原殿の背に乗るための、小さな家を、作ろうと思う」
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「え……」
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「五十メートルもの、巨躯があるのだ。背中に、小屋の一つくらい、乗せても、問題ないだろう」
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「うち、別に、ええけど……」
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藤原は、少し、複雑そうな顔で、そう、呟いた。
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「なんか、うち、移動手段、扱いに、なってへんか?」
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「藤原殿、そういうわけでは……」
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アルフレートは、既に、マジックバッグから、建築資材を、取り出し始めていた。
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数時間後——藤原の、広い背中の上に、こぢんまりとした、木造の小屋が、完成した。
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「これは……随分、快適そうだな」
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小屋の中には、いつもの、リクライニングシートまで、設置されていた。
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「アルフレート様、それ、絶対に、必要ないですよね」
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誠は、思わず、そう、突っ込んだ。
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「快適さは、大事だ」
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こうして、藤原の背中に、誠、アルフレート、宮田、そして、竜崎が、乗り込み、一行は、北へと、飛び立った。
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「うち、飛んでるの、まだ、慣れへんから、疲れるわ……」
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数時間、飛び続けたところで、藤原が、そう、訴えてきた。
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「一旦、休憩を、取ろう」
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アルフレートの、指示で、一行は、途中の、小さな村に、立ち寄ることにした。
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「そろそろ、着陸するで……」
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藤原が、ゆっくりと、高度を、下げ、村の入り口付近に、着地した。
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「ふぅ……疲れたわ」
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藤原は、そのまま、村の入り口で、大きな体を、横たえ、うとうとと、休み始めた。
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そして——
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「り、龍だああああ!!」
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村の入り口で、寝そべる、五十メートルの巨龍を、発見した村人の、悲鳴が、響き渡った。
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「化け物が、来たぞおおお!!」
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「討伐隊を、集めろ!」
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村は、たちまち、大パニックに、陥った。
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「まずい……!」
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誠が、慌てて、小屋から、飛び出した。
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「違うんです、この龍は、危険じゃ……!」
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しかし、誠の声は、混乱する村人たちには、届かなかった。
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「田中殿、これは、まずいな」
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アルフレートも、事態の深刻さを、悟った。
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「藤原殿を、村から、離さねば」
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「藤原さん! すみません、起きてください!」
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誠が、必死に、呼びかけたが、疲れ切った藤原は、深く、眠り込んでしまっていた。
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「これは……担ぐしか、ないな」
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アルフレートが、そう、呟くと——
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なんと、五十メートルもある、藤原の巨体を、軽々と、持ち上げてしまった。
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「な……!?」
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誠は、思わず、目を、疑った。
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「アルフレート様、それ……!」
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「少し、失礼するぞ、藤原殿」
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アルフレートは、眠ったままの藤原を、あっさりと、担ぎ上げると、そのまま、村の外へと、大股で、歩いていった。
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「た、助かった……」
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村人たちも、その、常識外れの光景に、もはや、悲鳴すら、上げられず、ただ、呆然と、それを、見送るしかなかった。
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村から、十分に、離れたところで、アルフレートは、静かに、藤原を、地面に、下ろした。
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「アルフレート様……」
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誠は、その、光景を、見て、これまでの、様々な疑問が、一気に、頭の中で、繋がった。
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「アルフレート様、聞いてもいいですか」
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「なんだ」
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「あなたの、レベル、今、いくつなんですか」
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アルフレートは、少し、考えるように、宙を、見上げた。
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「今、俺のレベルは……三千八百七十四点七、だったかな」
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「さ、三千八百七十四……!?」
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誠は、思わず、絶句した。
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(僕なんか、まだ、レベル2、なのに……!)
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「点七、っていう、小数点は、なんですか」
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「ああ、これか」
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アルフレートは、事も無げに、続けた。
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「お前、どういう、チートなんですか」
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誠は、思わず、そう、口にしていた。
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「チート、というほどでは、ないぞ」
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アルフレートは、少し、得意げに、続けた。
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「これは、結構、便利でな。レベルを、十進数で言えば、こうなんだが……十六進数で言えば、また、違う値になる」
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「じゅ、十六進数……!?」
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「二進数で言えば、さらに、別の、表記になる」
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「なんで、そんな、表記方法まで……!」
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「それに、レベルアップの、タイミングも、いくらでも、調整できるし……」
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「タイミングを、調整……!?」
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「レベルアップの、回数自体も、チートで、増やすことが、できるんだぞ」
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誠は、しばらく、言葉を、失っていた。
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「なんてやつだ……」
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誠は、深く、ため息を、ついた。
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「この世界の、主人公補正、ひどすぎませんか」
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「主人公? 私は、勇者だが」
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「いや、実質、主人公じゃないですか、それ」
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「田中殿、お前も、努力を、重ねれば、いずれは……」
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「僕、レベル2ですよ。まだ」
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「それは……なかなか、厳しいな」
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アルフレートは、少し、気まずそうに、目を、逸らした。
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「んん……」
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その時、藤原が、ゆっくりと、目を、覚ました。
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「あれ……ここ、どこや」
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「藤原さん、村の外まで、運んでもらったんです」
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「運んで、って……誰が」
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「アルフレート様が」
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「アルフレートはんが、うちを、担いだんか!?」
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藤原は、驚愕の表情を、浮かべた。
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「五十メートルも、あるのに……!?」
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「レベル、三千八百七十四点七、だそうです」
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「なんやそれ! 意味わからへんわ!」
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竜崎と、宮田も、後から、追いついてきた。
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「田中、村は、大丈夫だったか」
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「なんとか、収まったみたいだ」
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「それより、聞いたか、アルフレート様の、レベル」
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「聞いた……聞いたよ」
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竜崎も、少し、遠い目を、していた。
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「さて、休憩も、済んだことだし、また、飛ぶとしようか」
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アルフレートが、何事もなかったかのように、そう、提案した。
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「藤原さん、大丈夫ですか」
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「うん……もう少し、休んだら、飛べると、思うわ」
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その夜、誠は、疲れた様子で、祖父のノートに、こう書き加えた。
「藤原さんが、村の入り口で、寝てしまって、大騒ぎになった。アルフレート様が、五十メートルの藤原さんを、軽々と、担いで、事なきを得た。それより、驚いたのは、アルフレート様の、レベルが、三千八百七十四点七だったこと。しかも、色んな表記方法や、レベルアップの調整まで、できるらしい。じいちゃん、あの人、本当に、規格外だよ」
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窓の外、二つの月が、静かに、旅の一行を、見守っていた。
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まだこの時の誠は知らない。このアルフレートの、常識外れの力の、本当の秘密を。
そして、竜の谷への旅が、まだ、多くの、驚きに満ちた、出来事を、彼らに、もたらすことになることも——今はまだ、知る由もなかった。




