第66話「制御不能の成長」
龍の館が、完成してから、半月ほどが過ぎた。
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「アルフレート様……あの、これ、少し、まずいのでは」
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宮田が、青ざめた顔で、計測記録を、見つめていた。
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「どうした」
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「先週、藤原さんの、体長は、五十センチほどでした。しかし、今……」
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宮田は、震える指で、龍の館の中を、指し示した。
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そこには——
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体長、三メートルにまで、成長した、藤原の姿が、あった。
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「な……なんだと……!」
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アルフレートも、思わず、絶句した。
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「アルフレート様、まさか……」
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誠が、恐る恐る、尋ねた。
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「先日、藤原さんに、ウランを、どのくらい、与えたんですか」
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アルフレートは、少し、気まずそうに、目を、逸らした。
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「その……藤原殿が、あまりにも、喜んで食べるものだから、つい……」
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「つい?」
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「かなりの量を、まとめて、渡してしまった」
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「アルフレート様……!」
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誠は、思わず、頭を、抱えた。
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「宮田、これ、そんなに、危険なことなんですか」
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「危険というか……」
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宮田は、慎重に、言葉を、選びながら、続けた。
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「僕の、これまでの、観察から、計算すると……藤原さんの体は、五グラムのウランで、十年分の、成長エネルギーを、蓄えられる、計算になる」
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「じゅ、十年分……!」
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「アルフレート様が、渡した量は……おそらく、数百グラム単位だったのでは」
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アルフレートは、深く、うなだれた。
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「そんなに……渡していたとは……」
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「つまり……」
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誠が、恐る恐る、続けた。
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「藤原さんの体には、今、何百年分もの、成長エネルギーが、蓄積されている、ということですか」
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「その、可能性が、高い」
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宮田は、深刻な顔で、頷いた。
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「田中くん! アルフレートはん!」
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館の中から、藤原の声が、響いた。
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三人が、慌てて、駆けつけると——
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「なんか……最近、体が、勝手に、大きく、なっていくんやけど」
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藤原自身も、困惑した様子で、自分の体を、見下ろしていた。
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「ウラン、もう、食べてへんのに……なんでや」
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「藤原さん、今、体の内側で、何か、感じることは、ありますか」
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宮田が、慎重に、尋ねた。
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「なんか……こう、体の奥が、熱いっちゅうか……ムズムズ、するっちゅうか」
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藤原は、少し、困ったように、答えた。
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「まるで、体の中に、めっちゃ、活きのいい、エネルギーが、渦巻いとる、感じや」
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「これは……」
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宮田は、深く、息を、吐いた。
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「予想通りだ。過剰に、摂取した、成長エネルギーが、体内で、暴走気味に、消化されている」
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「消化しきるまで、成長を、止められない、ということですか」
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「その、可能性が、高い」
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「どこまで、大きく、なるんでしょうか」
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誠が、不安げに、尋ねた。
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宮田は、少し、計算をするように、宙を、見上げた。
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「今の、成長速度から、推測すると……このまま、いけば……」
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「いけば?」
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「三十メートル、くらいまでは、いくかもしれない」
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「三十メートル……!?」
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誠と、アルフレートが、同時に、声を、上げた。
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「そんなに、大きくなったら……この、龍の館、収まらないんじゃ……」
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誠が、恐る恐る、館の、高さを、見上げた。
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二十メートルの、高さを、想定して、作った、この建物。
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三十メートルの龍が、入るには——明らかに、足りなかった。
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「宮田、その予測、本当に、正しいのか」
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アルフレートが、少し、期待を、込めて、尋ねた。
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「まあ、あくまで、予測です。もしかしたら……」
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宮田は、少し、言葉を、濁した。
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「もしかしたら、何だ」
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「三十メートルで、収まらない、可能性も……正直、あります」
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「田中くん、アルフレートはん」
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藤原が、少し、不安げな声で、二人を、呼んだ。
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「うち、これから、どうなってしまうんやろ」
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「藤原さん……」
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誠は、その、不安を、少しでも、和らげようと、言葉を、選んだ。
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「大丈夫です。どんな大きさに、なっても、僕たちが、対応します」
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「そうか……ありがとうな、田中くん」
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「アルフレート様」
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誠は、少し、厳しい目で、アルフレートを、見た。
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「今回のことは、ちゃんと、反省してくださいね」
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「うむ……全く、その通りだ」
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アルフレートは、珍しく、深く、しゅんとした様子で、頷いた。
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「まさか、これほどの、事態になるとは、思わなかった」
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「とにかく、今は、館の、拡張工事を、急ぎましょう」
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誠は、気持ちを、切り替えるように、そう、提案した。
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「宮田、成長が、止まる兆候が、見えたら、すぐに、教えてくれ」
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「わかった」
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その夜、誠は、疲れ果てながらも、祖父のノートに、こう書き加えた。
「アルフレート様が、藤原さんに、ウランを、与えすぎてしまったことが、判明した。宮田の予測では、三十メートルくらいまで、成長するかもしれないという。この龍の館、また、拡張工事が、必要になりそうだ。じいちゃん、次から次へと、予想外のことが、起こるものだな」
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窓の外、二つの月が、静かに、しかし、少し、緊張感を、孕みながら、輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。藤原の成長が、本当に、どこまで、続くのかを。
そして、この、想定外の事態が、この後、村に、そして、この国全体に、どのような、影響を、もたらすことになるのかも——今はまだ、知る由もなかった。




