第65話「龍子ちゃんの部屋」
村での、あの、大混乱から、数日後。
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「これ以上、村の中に、藤原さんを、置いておくのは、危険すぎます」
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宮田が、真剣な顔で、そう、提言した。
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「そうだな……」
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村長も、深く、頷いた。屋根に開いた、大穴の修理費は、決して、安くはなかった。
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「うち、ほんまに、迷惑ばっかり、かけてもうて……」
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藤原が、しょんぼりと、俯いていた。
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「藤原さんが、悪いわけじゃないんです」
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誠は、優しく、そう、フォローした。
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「ただ、藤原さんの、力が、これから、どこまで、大きくなるか、分からない以上……安全な、専用の場所が、必要だと、思います」
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「田中殿、それなら、私に、考えがある」
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アルフレートが、そう、切り出した。
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「私の、マジックバッグに、こういう時のために、資材が、色々と、収納されている」
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「え、また、何か、出てくるんですか」
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誠は、少し、身構えた。
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「大掛かりな、建築資材だ。以前、拠点建設用に、集めていたものだが……藤原殿のために、使うのも、良いだろう」
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こうして、村外れの、広大な、未利用の土地に、藤原専用の、建物を、建設する計画が、立ち上がった。
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「どのくらいの、大きさに、なるか、分からないので……」
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誠は、慎重に、考えを、巡らせた。
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「今の、藤原さんの、成長速度を、考えると……相当、大きな建物に、しておく必要が、あると思います」
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「うむ。念には、念を、入れよう」
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こうして、村人たち、竜崎の守り竜団、そして、鈴森が、送ってくれた虫人族の鉱夫たちも、加わり、大規模な、建設作業が、始まった。
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「これは……随分、大きな、建物になりそうですね」
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エリナが、設計図を、見ながら、感心したように、言った。
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高さ、二十メートル以上。頑丈な、石造りの壁。そして、天井には、光線対策として、分厚い、金属板が、張り巡らされることになった。
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「これなら……多少の、ビームや、炎にも、耐えられるはずです」
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宮田が、自信ありげに、そう、説明した。
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「田中くん、うちの、部屋、こんなに、立派で、ええんか」
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藤原が、建設中の、建物を、見上げながら、少し、恐縮した様子で、尋ねた。
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「藤原さんが、安心して、暮らせる場所が、必要ですから」
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「ありがとうな、田中くん」
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建設は、数週間かけて、進められた。
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「田中殿、内装は、どうする」
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アルフレートが、尋ねた。
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「藤原さんの、好きなように、してもらいましょう」
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「藤原さん、何か、要望は、ありますか」
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誠が、尋ねると、藤原は、少し、考えてから、答えた。
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「うちな、京都、恋しいんや。せやから、床の間、みたいなん、作ってほしいわ」
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「床の間、ですか」
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「せや。あと、畳、みたいな、床材も、あったら、嬉しいわ」
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誠は、その、思いがけないリクエストに、少し、驚きながらも、これまでの、この世界での知識を、総動員して、藤原の望む空間を、作り上げていくことにした。
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「畳、って、どうやって、作るんだ……」
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誠は、乾燥させた、藁を使い、試行錯誤しながら、簡易的な、畳のようなものを、作り上げていった。
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「これは……」
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出来上がった、藁製の敷物を見て、藤原は、目を、輝かせた。
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「おお、これ、ええ感じやん! 田中くん、ほんま、器用やな!」
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数ヶ月後——
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巨大な、しかし、どこか、和の趣を、残した、龍の館が、完成した。
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「これは……」
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完成した、その建物を、見上げ、藤原は、感慨深げに、そう、呟いた。
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「うちの、新しい、住処、やな」
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「藤原さん、気に入って、もらえましたか」
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「めっちゃ、気に入ったわ! 田中くん、ほんまに、ありがとう!」
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藤原は、嬉しそうに、翼を、大きく、広げた。
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その、大きさは——もう、以前の、小さな姿とは、比べ物にならないほどに、成長していた。
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「これで、もう、村の中で、うっかり、光線や、炎を、出しても……」
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宮田が、安堵の表情を、浮かべた。
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「村への被害は、最小限に、抑えられるはずだ」
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「藤原さん、これからは、ここが、あなたの家です」
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誠が、そう、告げると、藤原は、静かに、頷いた。
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「せやな。田中くんや、みんなが、ここまで、してくれたんや。うちも、この場所、大事に、せなあかんな」
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「それに」
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藤原は、少し、悪戯っぽく、続けた。
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「これだけ、広かったら……ウラン、いくらでも、貯め込んどけるしな!」
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「藤原さん……」
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誠は、思わず、苦笑いした。
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こうして、藤原——「龍子ちゃん」の愛称で、村人たちにも、親しまれるようになった彼女は、村外れの、この、新しい住処で、これからの、日々を、過ごしていくことになった。
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「藤原さんのための、専用の建物が、完成した。畳や、床の間まで、作ってあげることになるとは、思わなかった。でも、藤原さんが、喜んでくれて、良かった。じいちゃん、この世界で、また一つ、新しい"家"を、作ることに、なったよ」
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窓の外、二つの月が、完成した、龍の館を、優しく、照らしていた。
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まだこの時の誠は知らない。この、龍子ちゃんの新しい住処が、この後、この国の、重要な"施設"として、様々な役割を、果たしていくことになることを。
そして、藤原の成長が、まだ、この先も、続いていくことになることも——今はまだ、知る由もなかった。




