第64話「目からビーム」
鉱山から、村に戻って、三日後のことだった。
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「田中くん、なんか、体の奥が、ムズムズするんやけど」
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藤原が、店の軒先で、そう、誠に、訴えてきた。
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「ムズムズ、ですか」
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「なんや、こう……目の奥と、喉の奥が、熱いような……」
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誠は、少し、首を、傾げた。
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「ウランを、食べすぎたせいかも、しれませんね。宮田に、診てもらいましょうか」
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その時だった。
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「あ……くしゃみ、出そう……」
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藤原が、目を、しばたたかせながら、そう、呟いた。
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「はっ……はっ……」
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ちょうど、店の前を、通りかかった、アルフレートが、様子を見に、近づいてきた、その瞬間——
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「はっくしょーい!」
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藤原の、目から——
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ズドオオオオン!!
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一筋の、光線が、放たれた。
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「うわあああ!」
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アルフレートが、咄嗟に、身を、かわす。光線は、彼のすぐ、脇を、通り過ぎ、村の外れの、大岩に、命中した。
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ズガアアアン!
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その大岩が——真っ二つに、砕け散った。
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「な、なんだ、今のは……!」
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アルフレートが、呆然と、粉々になった岩を、見つめた。
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「な、なんか……出た……」
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藤原自身も、驚いた様子で、自分の目を、パチパチと、瞬かせていた。
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「目から……ビームが……」
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誠は、思わず、その光景に、既視感を、覚えた。
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(これは……もしかして……)
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祖父が、昔、テレビで見せてくれた、あの、古い、白黒の、怪獣映画。大きな怪獣が、目から、光線を、放つ、あの、有名なシーンが、脳裏を、よぎった。
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(まさか、本当に、こうなるとは……!)
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「アルフレート様、大丈夫ですか!」
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誠は、慌てて、アルフレートに、駆け寄った。
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「あ、ああ……なんとか、無事だ」
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アルフレートは、額に、汗を、滲ませながら、そう、答えた。
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「田中……あれは、一体……」
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「多分、藤原さんの、成長の、副産物だと思います」
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「田中くん、ごめんな! わざとちゃうねん!」
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藤原が、慌てて、謝罪した。
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「くしゃみが、出た瞬間に、なんか、出てもうて……」
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「大丈夫です。アルフレート様も、無事ですし」
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「無事では、ないぞ! 危うく、消し炭に、なるところだった!」
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アルフレートが、思わず、声を、荒らげた。
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そんな中——
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「あ……なんか、喉も、熱い……」
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藤原が、今度は、喉元を、押さえた。
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「藤原さん、まさか……」
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誠が、嫌な予感を、覚えた、その瞬間——
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「ゴホッ……!」
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ボワァァァ!!
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藤原の口から、勢いよく、炎が、噴き出した。
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「うわああああ!」
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近くにいた、村人たちが、悲鳴を上げて、逃げ惑った。
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炎は、店の軒先の、干していた洗濯物を、あっという間に、燃やし尽くした。
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「た、田中さん! 洗濯物が!」
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エリナが、慌てて、飛び出してきた。
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「すみません、すぐに、消火します!」
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誠は、慌てて、近くの水桶を、抱えて、火に、駆け寄った。
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「ごめん、ごめんなぁ!」
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藤原が、涙目に、なりながら、謝り続けた。
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「わざとちゃうねん! なんか、勝手に、出てもうて!」
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「わ、わかってます、藤原さん! でも、ちょっと、落ち着いて!」
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その後も——
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「はっくしょい!」——ズドン!(井戸の水瓶が、粉砕)
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「ゴホッ!」——ボワッ!(村の掲示板が、丸焦げ)
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「あ、また、出そう……!」——ズガアン!(村長の家の、屋根に、大穴)
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村は、たちまち、大混乱に、陥った。
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「た、田中殿! 何とか、してくれ!」
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村長が、屋根に開いた、大穴を、呆然と、見上げながら、叫んだ。
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「す、すみません! 今、対策を、考えます!」
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「宮田! 手伝ってくれ!」
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誠は、急いで、宮田を、呼びに、走った。
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「田中くん、これは……」
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駆けつけた宮田も、その、混乱の様子に、目を、丸くした。
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「まさか、目からビームと、口から火まで、備わるとは……」
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「これ、なんとか、抑える方法、ないかな」
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「まず、藤原さんに、興奮しないよう、落ち着いてもらう必要があるな」
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「藤原さん、深呼吸、しましょう」
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誠は、慎重に、藤原に、近づいて、声を、かけた。
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「うん……」
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藤原は、涙目のまま、ゆっくりと、深呼吸を、繰り返した。
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「落ち着いて……大丈夫、大丈夫」
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しばらくすると、藤原の様子は、少しずつ、落ち着いていった。
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「はぁ……なんとか、収まったみたい」
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「良かった……」
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誠は、深く、安堵の息を、ついた。
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「田中……」
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アルフレートが、まだ、少し、焦げた、自分の服を、見つめながら、疲れた様子で、呟いた。
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「これは……今後、しっかりと、対策を、考える必要が、ありそうだな」
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「はい……本当に、すみませんでした」
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「田中くん、ごめんな……」
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藤原が、しょんぼりと、翼を、垂れさせた。
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「うち、みんなに、迷惑ばっかり、かけてもうて」
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「大丈夫ですよ」
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誠は、優しく、そう、声をかけた。
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「これから、少しずつ、力の、コントロールの仕方を、練習していきましょう」
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「うん……頑張るわ」
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その夜、誠は、疲れ果てながらも、祖父のノートに、こう書き加えた。
「藤原さんに、目からビームと、口から火を吐く力が、目覚めてしまった。村は、大変な騒ぎになった。アルフレート様も、危うく、消し炭になるところだった。じいちゃん、これから、藤原さんの力を、うまく、コントロールする方法を、考えないといけないな」
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窓の外、二つの月が、あちこち、焦げ跡の残る村を、静かに、照らしていた。
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まだこの時の誠は知らない。この、藤原の、制御できない力が、この後の、村の防衛において、思いがけない、大きな力になっていくことを。
そして、この日から、藤原の「くしゃみ」と「咳」を、村人たちが、こぞって、恐れるようになったことも——今はまだ、知る由もなかった。




