第60話「孵った龍」
探索から戻って、数日後のことだった。
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「田中、大変だ! すぐに、来てくれ!」
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アルフレートからの、緊急の使いが、村に、駆け込んできた。
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「どうしたんですか」
「あの、化石が……孵った!」
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「え……?」
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誠は、思わず、聞き返した。
「化石が、孵った、って……」
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「とにかく、来てくれ! 大変なことに、なっている!」
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誠は、急いで、アルフレートの、王都の屋敷へと、向かった。
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「アルフレート様……!」
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屋敷の一室に、駆け込んだ誠の目に、飛び込んできたのは——
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小さな、しかし、確かに、龍の姿をした、生き物だった。
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「これは……」
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誠は、言葉を、失った。
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「田中、聞いてくれ。あの、化石だと思っていたものが……卵だったのだ」
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アルフレートも、まだ、混乱している様子だった。
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「昨夜、突然、殻に、ヒビが入って……そして、これが、生まれた」
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小さな龍は、キョロキョロと、辺りを、見回していた。
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「あの、これ、本物の、龍……ですか」
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誠が、恐る恐る、尋ねた、その時だった。
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「なんや、うち、めっちゃ、腹減っとるんやけど」
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小さな龍が、口を開いた。
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それは、明らかに、京都弁の、女性の声だった。
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「……え?」
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誠と、アルフレートは、揃って、固まった。
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「あんたら、なに、固まっとんの。うち、腹、減っとるんやけど」
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「し、喋った……!」
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アルフレートが、思わず、後ずさりした。
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「あの……あなたは……」
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誠が、恐る恐る、話しかけると、龍は、じっと、誠の顔を、見つめてきた。
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「……あんた……もしかして……田中?」
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誠は、驚いて、目を、見開いた。
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「な、なんで、僕の名前を……」
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「やっぱりか! うち、あんたのこと、覚えとるで!」
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龍が、嬉しそうに、翼を、パタパタと、動かした。
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「あの……失礼ですが、どちらの、クラスだったか……」
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誠は、恐る恐る、尋ねた。目の前の、小さな龍に、記憶にある、誰かの面影を、見出すことが、できずにいた。
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「隣のクラスや。まあ、直接、話したことは、あんまり、なかったけどな」
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誠は、必死に、記憶を、辿った。
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「あの……もしかして……」
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「わからへんの? うち、ほら、修学旅行で、清水寺の、案内、めっちゃ、張り切ってやった……」
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「あ……!」
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誠の脳裏に、ようやく、記憶が、蘇った。
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「もしかして……観光ガイド、やりたがってた、京都出身の……」
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「せや! うち、藤原京香! やっと、思い出してくれたか!」
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「藤原、さん……」
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誠は、目の前の、小さな龍を、まじまじと、見つめた。
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「まさか、龍に、なってるとは……」
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「うちも、びっくりやわ。気づいたら、卵の中に、おってな。ずっと、殻の中で、この世界のこと、色々、聞いとってん」
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「聞いていた……?」
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「せや。卵の中でも、意識は、あったからな。ずっと、外の音、聞こえてたんや」
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アルフレートが、恐る恐る、口を、挟んだ。
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「田中、これは……お前の、知り合いなのか」
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「はい……同級生、だと思います」
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「同級生……龍の、姿をした……」
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アルフレートは、まだ、状況を、うまく、飲み込めていない様子だった。
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「にしても、あんた」
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藤原は、アルフレートを、じろりと、見た。
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「うちのこと、化石や思って、勝手に、持ち帰ったんやろ。人の卵、勝手に、持ってったら、あかんやろ」
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「い、いや、それは、すまなかった……」
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アルフレートが、珍しく、しどろもどろに、なっていた。
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「まあ、ええわ。おかげで、こうして、田中くんにも、会えたしな」
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藤原は、そう言うと、小さな翼を、パタパタと、動かした。
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「それより、腹減った、言うたやろ。なんか、食べもん、ないんか」
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「あ、はい……何が、いいですか」
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「うち、こう見えても、味には、うるさいんやで。せやから……」
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藤原は、少し、考えてから、続けた。
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「ちゃんと、出汁の効いた、もん、頼むわ」
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誠は、思わず、苦笑いした。
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「龍になっても、変わらないんですね」
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「当たり前や。うちは、うちやからな」
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こうして、誠は、急遽、村から、出汁の効いた、料理の材料を、取り寄せることになった。
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「田中殿」
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その夜、落ち着いた頃、アルフレートが、真剣な顔で、誠に、話しかけてきた。
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「あの龍……いや、藤原殿は、これから、どうなるのだろうか」
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「正直、僕にも、分かりません。でも……」
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誠は、少し、考えてから、続けた。
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「他の同級生たちと、同じように、この世界で、それぞれの、生き方を、見つけていくんだと思います」
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「龍として、か」
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「はい。きっと、藤原さんなら、龍としての人生も、うまく、乗りこなしていくと思います」
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「なあ、田中くん」
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藤原が、食事を終えた後、ふと、誠に、声をかけた。
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「うち、これから、どうしたら、ええんやろ」
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その声には、初めて、少しだけ、不安の色が、滲んでいた。
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「まだ、体も、小さいし……この世界で、龍として、生きていくの、正直、怖いわ」
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誠は、静かに、答えた。
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「大丈夫。これまで、色んな同級生に、会ってきたけど、みんな、それぞれの姿で、ちゃんと、自分の場所を、見つけてる」
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「藤原さんも、きっと、大丈夫だと思う」
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藤原は、しばらく、誠を、見つめた後、少しだけ、安心したように、微笑んだ——龍の顔でも、それは、確かに、伝わってきた。
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「田中くんが、そう言うんやったら……信じてみるわ」
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「アルフレート様が持ち帰った"化石"は、実は、龍の卵だった。しかも、生まれたのは、同級生の、藤原さんだった。京都弁で、しっかりしていた、あの子が、まさか、龍になっているとは。じいちゃん、この世界での再会は、本当に、想像もつかない形で、やってくるものなんだな」
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窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。この、龍となった同級生、藤原京香が、この後、村の、そして、この世界の運命に、どれほど大きな役割を、果たすことになるのかを。
そして、彼女が、これから、成長していく過程で——誰も、予想しなかった、大きな力を、身につけていくことになることも——今はまだ、知る由もなかった。




