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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第270話「最後の、朝」

その日は、静かに、晴れていた。



# 誠


誠は、目を、覚ました。





体は、もう、ほとんど、動かなかった。





けれど、頭は、はっきりしていた。



# 誠


「エリナ」



「はい」




エリナが、すぐに、隣に、来た。





「どうしたの」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「今日、店に、行きたいです」



# エリナ


エリナは、しばらく、動かなかった。





そして、静かに、言った。





「分かった」



# 準備


田中と、ルカが、すぐに、呼ばれた。



# 田中


田中が、来て、誠を、見た。





そして、しばらく、黙っていた。



# 田中


「やおや」



「はい」




田中。



「ほんまに、いくんか」




誠。



「はい」



# 誠


「最後に、店を、見たいです」



誠は、静かに、言った。



# 田中


田中は、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、静かに、頷いた。





「わかった」



# 移動


田中とルカが、誠を、支えて、店に、向かった。



# 誠


誠は、その道中、ずっと、空を、見ていた。





月が、一つ、そこに、あった。



# 到着


店に、着いた。



# 誠


誠は、縁台に、座らせてもらった。





そして、深く、息を、吸った。



# 誠


「田中さん」



「なんや」




誠。



「いい、匂いです」




田中。



「なんの」




誠。



「野菜と、麦茶の匂い」



# 田中


田中は、しばらく、黙っていた。





それから、静かに、頷いた。





「うん」



# 客


その日、店に、いつも通り、客が、来た。



# 客


「誠さん」




誠は、少し、笑った。





「こんにちは」



# 誠


誠は、その日、最後の力を、振り絞って、聞いた。





「お名前は」



# 客


客は、しばらく、動かなかった。





それから、静かに、答えた。





「マサキです」



# 誠


誠は、頷いた。




「マサキさん。……覚えました」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「これで、いいです」



# 田中


田中が、その様子を、見ていた。





そして、静かに、聞いた。





「やおや」



「はい」




田中。



「もう、じゅうぶんか」



# 誠


誠は、しばらく、考えた。





そして、静かに、頷いた。





「はい」



# 誠


「もう、十分です」



誠は、静かに、続けた。




「見たいものは、全部、見ました」



# エリナ


エリナが、隣に、座った。





そして、誠の、手を、握った。



# エリナ


「誠」



「はい」




エリナ。



「疲れた?」




誠。



「少し」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「でも、いい疲れです」



# 田中


田中が、静かに、聞いた。





「やおや」



「はい」




田中。



「なんか、いいのこすことは、あるか」



# 誠


誠は、しばらく、考えた。





そして、静かに、言った。





「田中さん」



「なんや」




誠。



「店、開け続けてください」



# 誠


「それだけです」



誠は、続けた。




「あとは、みんなに、任せます」



# 田中


田中は、しばらく、動かなかった。





それから、静かに、頷いた。





「まかせとけ」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「ありがとうございます」



# 月


その、夜。





誠は、家に、戻り、布団に、横たわっていた。



# 窓


窓の、外に、月が、見えた。



# 誠


「エリナ」



「はい」




誠。



「月、きれいですね」



# エリナ


エリナは、窓の外を、見た。





「そうね」



# 田中


田中が、隣に、座っていた。





「やおや」



「なんや、……もう、うつっちゃいました」



# 田中


田中は、少し、笑った。




「そやな」



# 誠


誠は、しばらく、その、月を、見ていた。



# 誠


「田中さん」



「なんや」




誠。



「あの月」



# 誠


「一万三千年前は」



誠は、続けた。




「見えなかったんですよね」



# 田中


田中は、しばらく、考えた。





そして、静かに、言った。





「みえんかった」



# 田中


「けど」



田中は、続けた。




「みえんくても」



「はい」




田中。



「そこに、あるって、しんじとった」



# 誠


誠は、その言葉に、静かに、微笑んだ。





「見えなくても、信じてた」




田中。



「うん」



# 誠


誠は、しばらく、その月を、見つめていた。





そして、静かに、言った。





「見えて、よかったですね」



# 田中


田中は、しばらく、動かなかった。





それから、静かに、頷いた。





「うん」



# 田中


「みえて、よかった」





心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





そして、今——それは、確かに、見えていた。



# 誠


誠は、静かに、目を、閉じた。





「エリナ」



「なに」




誠。



「ありがとう、ございました」



# エリナ


エリナは、しばらく、動かなかった。





そして、静かに、微笑んだ。





「こちらこそ」





その夜、誠は、静かに、眠るように、旅立った。





苦しむことは、なかった。





ただ、静かに、いつも通りの、眠りの、続きのように。





——今は......誰もが、知っている。

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