第269話「見送りの、練習」
冬が、深まった。
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# 誠
誠は、少しずつ、店に、行ける日が、減っていった。
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# 変化
週に、三日。
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やがて、二日。
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# ルナ
ルナが、毎日、家に、来るように、なった。
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# 診察
「誠さん」
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「はい」
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ルナは、しばらく、脈を、診ていた。
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そして、静かに、聞いた。
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「痛みは、ありますか」
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# 誠
誠は、少し、考えた。
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「ないです」
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ルナ。
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「本当に」
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誠。
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「静かに、疲れていく、感じです」
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# ルナ
ルナは、しばらく、その言葉を、聞いていた。
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そして、少し、安心した、顔を、した。
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「それは、よかったです」
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# 誠
誠は、少し、笑った。
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「よかった、ですか」
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ルナ。
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「苦しまずに、過ごせるなら」
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「はい」
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ルナ。
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「それが、一番、いいことです」
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# 田中
田中は、毎日、家に、来るように、なった。
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# 光景
誠が、動けない、時。
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田中が、代わりに、麦茶を、持ってきた。
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# 田中
「やおや」
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「はい」
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田中。
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「きょうは、これ、のめるか」
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誠。
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「はい」
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# 誠
誠は、少しずつ、それを、飲んだ。
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そして、少し、笑った。
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# 誠
「田中さん」
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「なんや」
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誠。
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「うちに、来てくれる回数、増えましたね」
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田中。
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「うん」
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# 田中
田中は、しばらく、間を、置いた。
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そして、静かに、言った。
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「じいさんが、いっとった」
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# 田中
「『さいごのころは、みまいに、いくのが、しごとや』」
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田中は、続けた。
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「そういう、しごとが、あるんやって」
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# 誠
誠は、しばらく、その言葉を、噛みしめた。
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そして、静かに、頷いた。
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「ありがとうございます」
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# ルカ
ルカも、頻繁に、来るように、なった。
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# 光景
「師匠」
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「うん」
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ルカ。
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「今日の、店の、記録です」
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# ルカ
ルカは、毎日、店の、様子を、伝えに、来た。
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「今日、七十二人、来ました」
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「はい」
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ルカ。
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「新しく、着いた人が、三人」
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# 誠
誠は、その報告を、聞くのが、日課に、なった。
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「みんな、元気だった?」
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ルカ。
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「はい」
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誠。
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「よかった」
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# エリナ
エリナは、いつも、隣に、いた。
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# エリナ
「誠」
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「はい」
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エリナ。
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「今日、何が、したい?」
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# 誠
誠は、少し、考えた。
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「特に、何も」
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エリナ。
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「そう」
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誠。
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「エリナと、話してるだけで、いいです」
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# エリナ
エリナは、少し、笑った。
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「じゃあ、話しましょう」
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# 二人
二人は、しばらく、他愛のない、話を、していた。
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# 内容
若い頃の、話。
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じいちゃんの、話。
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村の、昔の、話。
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# 誠
誠は、その、時間が、とても、心地よかった。
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そして、静かに、思った。
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(——これも、幸せな、時間だ)
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# 神
その夜、誠は、力を、振り絞って、空に、声を、かけた。
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# 誠
「神様」
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「……なんや、八百屋」
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誠。
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「たまには、雑談、しに、来ました」
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# 神
神は、しばらく、動かなかった。
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それから、静かに、言った。
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「……むりせんでも」
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誠。
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「はい。……でも、少しだけ」
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# 誠
誠は、少し、笑った。
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「今日、麦茶、飲みましたか」
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神。
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「のんだ」
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誠。
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「美味しかったですか」
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神。
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「うまかった」
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# 神
神は、しばらく、間を、置いた。
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そして、静かに、聞いた。
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「やおや」
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「はい」
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神。
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「しんどいか」
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# 誠
誠は、しばらく、考えた。
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そして、正直に、答えた。
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「少し」
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# 誠
「でも」
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誠は、続けた。
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「悪い、しんどさじゃ、ないです」
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# 神
神は、しばらく、その言葉を、聞いていた。
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そして、静かに、言った。
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「あんたが、いなくなったら」
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「はい」
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神。
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「わし、また、なまえ、わすれるかもしれん」
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# 誠
誠は、その言葉に、少し、笑った。
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「大丈夫です」
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神。
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「なんでや」
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# 誠
「みんなが、覚えてます」
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誠は、続けた。
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「田中実さんって」
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「はい」
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誠。
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「呼んでくれます」
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# 神
神は、しばらく、黙っていた。
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それから、静かに、言った。
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「……そうか」
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# 神
「なら、だいじょうぶ、やな」
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神は、続けた。
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「あんたが、おらんくても」
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「はい」
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神。
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「わすれても、また、おもいだせる」
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# 誠
誠は、頷いた。
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「はい」
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# 石田
その、少し、後。
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石田からも、念話が、届いた。
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# 石田
『八百屋』
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誠。
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「石田さん」
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石田。
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『……ルカから、聞いた』
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# 誠
誠は、少し、笑った。
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「みんな、聞いてますね」
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石田。
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『当然だ』
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# 石田
石田は、しばらく、黙っていた。
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それから、静かに、言った。
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『……礼を、言いたい』
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誠。
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「はい」
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# 石田
「名を、くれて」
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石田は、続けた。
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「一万三千年、独りだった、私に」
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「はい」
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石田。
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「初めて、呼びかけてくれた」
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# 誠
誠は、しばらく、その言葉を、聞いていた。
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そして、静かに、言った。
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「石田さん」
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『なんだ』
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誠。
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「あなたも、幸せですか」
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# 石田
石田は、しばらく、答えなかった。
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それから、静かに、言った。
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『……幸せだ』
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# 石田
「毎日、誰かが、話しかけてくる」
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石田は、続けた。
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「ガチャの前で、名を、名乗ってくれる」
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「はい」
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石田。
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「それが、私の、日常になった」
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# 誠
誠は、その言葉に、頷いた。
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「よかったです」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「じいちゃん、店に行ける日が、減ってきました。田中さんが、毎日、家に来てくれます。じいさんが、最後の頃は、見舞いに行くのが仕事や、って言ってたそうです。ルカも、毎日、店の様子を伝えに来てくれます。エリナと、他愛のない話をする時間が、とても心地いいです。今日、力を振り絞って、神様に、雑談しに行きました。俺がいなくなったら、また名前を忘れるかもしれない、って言われたので、大丈夫です、みんなが覚えてます、って答えました。それで大丈夫やな、忘れても、また思い出せる、って。石田さんからも、連絡がありました。名前をくれて、一万三千年、独りだった自分に、初めて呼びかけてくれた、って、お礼を言われました。幸せか、って聞いたら、幸せだ、毎日、誰かが話しかけてくる、それが日常になった、って。じいちゃん、みんな、幸せそうです。それで、俺も、安心してます」*
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。この「見送りの練習」のような日々が、いつまで続くのかを。
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——そしてもう一つ、まだこの時の誠は知らない。
自分がいなくなった後も、この星の全てが、ちゃんと繋がっていることを、もう少しだけ確かめられる時間が残されていることを。
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——今は......まだ、誰も——知らない。




