↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
607/609

第269話「見送りの、練習」

冬が、深まった。



# 誠


誠は、少しずつ、店に、行ける日が、減っていった。



# 変化


週に、三日。





やがて、二日。



# ルナ


ルナが、毎日、家に、来るように、なった。



# 診察


「誠さん」



「はい」




ルナは、しばらく、脈を、診ていた。





そして、静かに、聞いた。





「痛みは、ありますか」



# 誠


誠は、少し、考えた。




「ないです」




ルナ。



「本当に」




誠。



「静かに、疲れていく、感じです」



# ルナ


ルナは、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、少し、安心した、顔を、した。





「それは、よかったです」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「よかった、ですか」




ルナ。



「苦しまずに、過ごせるなら」



「はい」




ルナ。



「それが、一番、いいことです」



# 田中


田中は、毎日、家に、来るように、なった。



# 光景


誠が、動けない、時。





田中が、代わりに、麦茶を、持ってきた。



# 田中


「やおや」



「はい」




田中。



「きょうは、これ、のめるか」




誠。



「はい」



# 誠


誠は、少しずつ、それを、飲んだ。





そして、少し、笑った。



# 誠


「田中さん」



「なんや」




誠。



「うちに、来てくれる回数、増えましたね」




田中。



「うん」



# 田中


田中は、しばらく、間を、置いた。





そして、静かに、言った。





「じいさんが、いっとった」



# 田中


「『さいごのころは、みまいに、いくのが、しごとや』」



田中は、続けた。




「そういう、しごとが、あるんやって」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、噛みしめた。





そして、静かに、頷いた。





「ありがとうございます」



# ルカ


ルカも、頻繁に、来るように、なった。



# 光景


「師匠」



「うん」




ルカ。



「今日の、店の、記録です」



# ルカ


ルカは、毎日、店の、様子を、伝えに、来た。





「今日、七十二人、来ました」



「はい」




ルカ。



「新しく、着いた人が、三人」



# 誠


誠は、その報告を、聞くのが、日課に、なった。





「みんな、元気だった?」




ルカ。



「はい」




誠。



「よかった」



# エリナ


エリナは、いつも、隣に、いた。



# エリナ


「誠」



「はい」




エリナ。



「今日、何が、したい?」



# 誠


誠は、少し、考えた。




「特に、何も」




エリナ。



「そう」




誠。



「エリナと、話してるだけで、いいです」



# エリナ


エリナは、少し、笑った。




「じゃあ、話しましょう」



# 二人


二人は、しばらく、他愛のない、話を、していた。



# 内容


若い頃の、話。





じいちゃんの、話。





村の、昔の、話。



# 誠


誠は、その、時間が、とても、心地よかった。





そして、静かに、思った。





(——これも、幸せな、時間だ)



# 神


その夜、誠は、力を、振り絞って、空に、声を、かけた。



# 誠


「神様」



「……なんや、八百屋」




誠。



「たまには、雑談、しに、来ました」



# 神


神は、しばらく、動かなかった。





それから、静かに、言った。





「……むりせんでも」




誠。



「はい。……でも、少しだけ」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「今日、麦茶、飲みましたか」




神。



「のんだ」




誠。



「美味しかったですか」




神。



「うまかった」



# 神


神は、しばらく、間を、置いた。





そして、静かに、聞いた。





「やおや」



「はい」




神。



「しんどいか」



# 誠


誠は、しばらく、考えた。





そして、正直に、答えた。





「少し」



# 誠


「でも」



誠は、続けた。




「悪い、しんどさじゃ、ないです」



# 神


神は、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、静かに、言った。





「あんたが、いなくなったら」



「はい」




神。



「わし、また、なまえ、わすれるかもしれん」



# 誠


誠は、その言葉に、少し、笑った。





「大丈夫です」




神。



「なんでや」



# 誠


「みんなが、覚えてます」



誠は、続けた。




「田中実さんって」



「はい」




誠。



「呼んでくれます」



# 神


神は、しばらく、黙っていた。





それから、静かに、言った。





「……そうか」



# 神


「なら、だいじょうぶ、やな」



神は、続けた。




「あんたが、おらんくても」



「はい」




神。



「わすれても、また、おもいだせる」



# 誠


誠は、頷いた。




「はい」



# 石田


その、少し、後。





石田からも、念話が、届いた。



# 石田


『八百屋』




誠。



「石田さん」




石田。



『……ルカから、聞いた』



# 誠


誠は、少し、笑った。




「みんな、聞いてますね」




石田。



『当然だ』



# 石田


石田は、しばらく、黙っていた。





それから、静かに、言った。





『……礼を、言いたい』




誠。



「はい」



# 石田


「名を、くれて」



石田は、続けた。




「一万三千年、独りだった、私に」



「はい」




石田。



「初めて、呼びかけてくれた」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、静かに、言った。





「石田さん」



『なんだ』




誠。



「あなたも、幸せですか」



# 石田


石田は、しばらく、答えなかった。





それから、静かに、言った。





『……幸せだ』



# 石田


「毎日、誰かが、話しかけてくる」



石田は、続けた。




「ガチャの前で、名を、名乗ってくれる」



「はい」




石田。



「それが、私の、日常になった」



# 誠


誠は、その言葉に、頷いた。





「よかったです」





その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「じいちゃん、店に行ける日が、減ってきました。田中さんが、毎日、家に来てくれます。じいさんが、最後の頃は、見舞いに行くのが仕事や、って言ってたそうです。ルカも、毎日、店の様子を伝えに来てくれます。エリナと、他愛のない話をする時間が、とても心地いいです。今日、力を振り絞って、神様に、雑談しに行きました。俺がいなくなったら、また名前を忘れるかもしれない、って言われたので、大丈夫です、みんなが覚えてます、って答えました。それで大丈夫やな、忘れても、また思い出せる、って。石田さんからも、連絡がありました。名前をくれて、一万三千年、独りだった自分に、初めて呼びかけてくれた、って、お礼を言われました。幸せか、って聞いたら、幸せだ、毎日、誰かが話しかけてくる、それが日常になった、って。じいちゃん、みんな、幸せそうです。それで、俺も、安心してます」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。



まだこの時の誠は知らない。この「見送りの練習」のような日々が、いつまで続くのかを。



——そしてもう一つ、まだこの時の誠は知らない。


自分がいなくなった後も、この星の全てが、ちゃんと繋がっていることを、もう少しだけ確かめられる時間が残されていることを。



——今は......まだ、誰も——知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。