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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第268話「駄々丸の、告白」

その日、駄々丸が、店に、来た。



# 駄々丸


「八百屋さん」




誠。



「駄々丸さん」



# 駄々丸


駄々丸は、しばらく、誠を、見ていた。





そして、静かに、言った。





「聞いたよ」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「早いですね」




駄々丸。



「村中、その、話だ」



# 駄々丸


駄々丸は、縁台に、座った。





そして、麦茶を、受け取った。



# 駄々丸


しばらく、二人とも、黙っていた。



# 駄々丸


それから、駄々丸が、口を、開いた。





「八百屋さん」



「はい」




駄々丸。



「一つ、話が、ある」



# 誠


誠は、少し、驚いた。




「珍しいですね」




駄々丸は、少し、笑った。




「珍しいことを、話す」



# 駄々丸


「あんた、覚えてるかい」



駄々丸は、続けた。




「昔、あっしが、言った」



「はい」




駄々丸。



「『いつか、選ぶことになる』」



# 誠


誠は、その言葉に、動きを、止めた。





「行くか、行かないか」




駄々丸。



「そうだ」



# 駄々丸


「あんたは」



駄々丸は、続けた。




「もう、選んだな」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、考えた。





「行かない、って選びました」




駄々丸。



「そうだ」



# 誠


「駄々丸さん」



誠は、続けた。




「一つ、聞いていいですか」




駄々丸。



「なんだい」



# 質問


誠は、少し、間を、置いた。





「あなたが、"見える"力」



「はい」




誠。



「本当は、どこから、来たんですか」



# 駄々丸


駄々丸は、しばらく、黙っていた。





そして、静かに、扇子を、開いた。





「今日は、話そうか」



# 誠


誠は、しばらく、待った。



# 駄々丸


「あっしはね」



駄々丸は、続けた。




「昔、忍者だった」



「はい」




駄々丸。



「そんで、前作の頃から」



# 駄々丸


「よく、見えたんだ」



駄々丸は、続けた。




「人が、何者か。何を、隠してるか」



「はい」




駄々丸。



「それが、忍術だと、思ってた」



# 誠


誠は、静かに、聞いていた。





「違ったんですか」




駄々丸。



「違った」



# 駄々丸


「石田さんに、聞いたことが、あるんだ」



駄々丸は、続けた。




「あっしの、力について」



「はい」




駄々丸。



「そしたら」



# 石田の言葉


「『お前も、向こう側から、来た者だ』」



駄々丸は、静かに、言った。





「そう、言われた」



# 誠


誠は、その言葉に、動きを、止めた。





「向こう側」




駄々丸。



「一万三千年前の、あちら側だ」



# 駄々丸


「あっしも」



駄々丸は、続けた。




「田中さんや、じいさんと、同じ、系譜だった」



「はい」




駄々丸。



「ただ」



# 駄々丸


「記憶が、なかった」



駄々丸は、続けた。




「あまりにも、昔に、着いたから」



「はい」




駄々丸。



「何もかも、忘れて」



# 駄々丸


「ただ、"見える"力だけが」



駄々丸は、続けた。




「残った」



# 誠


誠は、しばらく、その話を、聞いていた。





そして、静かに、聞いた。





「じゃあ、あなたも」




駄々丸。



「うん」




誠。



「三千万人の、一人」



# 駄々丸


駄々丸は、頷いた。




「そうだ」



# 駄々丸


「ずっと、前から、着いてたんだと」



駄々丸は、続けた。




「田中さんが、名前を彫るより、前に」



「はい」




駄々丸。



「だから、あっしは」



# 駄々丸


「一番、最初に、着いた、一人、かもしれん」



駄々丸は、静かに、言った。



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、噛みしめた。





そして、静かに、聞いた。





「名前、思い出しましたか」



# 駄々丸


駄々丸は、しばらく、考えた。





そして、静かに、言った。





「駄々丸で、いい」



# 誠


誠は、少し、驚いた。




「本名じゃ、なくても」




駄々丸。



「もう、これが、あっしの、名だ」



# 駄々丸


「三笑亭、駄々丸」



駄々丸は、続けた。




「これで、生きてきた」



「はい」




駄々丸。



「これで、いい」



# 誠


誠は、その言葉に、頷いた。





「そうですね」



# 誠


「駄々丸さん」



誠は、続けた。




「なんで、今、話してくれたんですか」



# 駄々丸


駄々丸は、しばらく、黙っていた。





それから、静かに、言った。





「あんたが」



「はい」




駄々丸。



「峠を、迎えてるって、聞いたからだ」



# 駄々丸


「言わなきゃ、いけねえと、思った」



駄々丸は、続けた。




「あっしが、一番、最初に、着いた、一人だってこと」



「はい」




駄々丸。



「あんたにも、伝わってて、ほしかった」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、考えた。





「なぜですか」



# 駄々丸


駄々丸は、少し、間を、置いた。





「あんたが」



「はい」




駄々丸。



「見えなくても、信じてきたこと」



# 駄々丸


「田中さんも、じいさんも、あっしも」



駄々丸は、続けた。




「全員、あんたの、そういうところに」



「はい」




駄々丸。



「救われたんだ」



# 誠


誠は、その言葉に、しばらく、動かなかった。





そして、静かに、言った。





「駄々丸さん」



「なんだい」




誠。



「一つ、聞いていいですか」



# 質問


「あなたも」



誠は、続けた。




「幸せですか」



# 駄々丸


駄々丸は、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、少し、笑った。





「一万三千年以上、生きてきて」



「はい」




駄々丸。



「今が、一番、幸せだ」



# 誠


誠は、その言葉に、少し、笑った。





「よかったです」



# 駄々丸


駄々丸は、扇子を、閉じた。





そして、立ち上がった。



# 駄々丸


「八百屋さん」



「はい」




駄々丸は、少し、笑った。




「これで、一つ、話し終えたぜ」



# 誠


誠は、頷いた。




「ありがとうございます」




駄々丸。



「礼は、いらねえ」



# 駄々丸


「あっしはね」



駄々丸は、続けた。




「知ってても、言わねえのが、粋だと、思ってた」



「はい」




駄々丸。



「でも、今日だけは」



# 駄々丸


「言うのが、粋だと、思った」



駄々丸は、静かに、言った。





その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「じいちゃん、駄々丸さんが、話してくれました。あの人も、一万三千年前の、あちら側から来た、三千万人の一人だったそうです。田中さんが名前を彫るより、ずっと前に着いてたので、記憶がなくなって、見える力だけが残ったって。本名は、もう思い出さなくていい、駄々丸で、これまで生きてきた、これでいい、って。峠を迎えてると聞いたから、伝えなきゃいけないと思った、って。田中さんも、じいさんも、駄々丸さんも、俺が、見えなくても信じてきたことに、救われたそうです。今が一番幸せだって、笑ってました。知ってても言わねえのが粋だと思ってた、でも今日だけは、言うのが粋だと思った、って。じいちゃん、俺、その言葉に、すごく救われました」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。



まだこの時の誠は知らない。駄々丸が、これまで沈黙を守ってきたことの本当の理由を。



——そしてもう一つ、まだこの時の誠は知らない。


「言うのが粋だ」と決めたこの日が、これから先の日々にとって、どれほど大きな意味を持つのかを。



——今は......まだ、誰も——知らない。

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