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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第266話「歳を、とるのは」

その日、誠は、ふと、気づいた。



# 気づき


皆瀬が、店に、来た。





「ぷる」



# 誠


誠は、その姿を、しばらく、見ていた。





そして、少し、考えた。





(——変わらないな)



# 誠


「皆瀬さん」




皆瀬。



「ぷる?」




誠。



「昔と、変わらないですね」



# セレス


近くにいた、セレスが、通訳した。





「『スライムですから』と」



# 誠


誠は、頷いた。




「そうですよね」



# 藤原


その日の、夕方。





藤原が、天井の穴から、首を、出した。



# 藤原


「やおや、げんきか」




誠。



「なんとか」



# 誠


誠は、しばらく、その、藤原の顔を、見ていた。





そして、動きを、止めた。



# 気づき


(——同じだ)





三十年前、初めて、会った時と。





まったく、同じ、顔だった。



# 誠


誠。



「藤原」



「なんや」




誠。



「お前、歳、取らないよな」



# 藤原


藤原は、しばらく、考えた。





「りゅうやからな」




誠。



「はい」




藤原。



「せんねんくらい、いきるで」



# 誠


誠は、その言葉に、しばらく、動かなかった。





そして、静かに、聞いた。





「じゃあ、俺が、死んだ後も」



# 藤原


藤原は、しばらく、黙っていた。





それから、静かに、言った。





「……いきとる」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、考えていた。





そして、家に、帰った。



# エリナ


エリナが、待っていた。





「おかえりなさい」




誠。



「ただいまです」



# 誠


誠は、しばらく、黙っていた。





そして、静かに、言った。





「エリナ」



「はい」




誠。



「今日、気づいたことが、あります」



# エリナ


エリナは、少し、心配そうな、顔を、した。




「何」



# 誠


誠は、しばらく、考えた。





そして、言った。





「皆瀬さんも、藤原も」



「はい」




誠。



「昔から、ずっと、変わってません」



# エリナ


エリナは、しばらく、黙っていた。





そして、静かに、聞いた。





「歳を、取ってるのは」




誠。



「はい」



# 誠


「俺たちだけみたいです」



誠は、続けた。




「人間だけ」



# エリナ


エリナは、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、少し、笑った。





「当たり前でしょう」



# 誠


誠は、少し、驚いた。




「当たり前ですか」




エリナ。



「スライムと、竜と、人間よ」



「はい」




エリナ。



「寿命が、違って、当然」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、静かに、言った。





「はい。……分かってます」



「でも」




誠。



「なんか、今日、急に」



# 誠


「実感、しました」



誠は、続けた。




「みんな、変わらないのに」



「はい」




誠。



「俺だけ、老けていく」



# エリナ


エリナは、しばらく、黙っていた。





それから、静かに、言った。





「怖い?」



# 誠


誠は、しばらく、考えた。





そして、正直に、答えた。





「少し」



# 誠


「みんな、俺が、死んだ後も」



誠は、続けた。




「そのままの姿で」



「はい」




誠。



「生きていくんだと思うと」



# 誠


「なんか、置いていかれる、気がします」



誠は、静かに、言った。



# エリナ


エリナは、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、誠の、手を、握った。





「私も、同じ」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「エリナも、人間ですもんね」




エリナ。



「一緒に、置いていかれましょう」



# 誠


誠は、その言葉に、少し、笑った。




「はい」



# 田中


翌朝、誠は、田中に、そのことを、話した。



# 誠


「田中さん」



「なんや」




誠。



「皆瀬さんも、藤原も、歳を、取らないんですよね」




田中。



「うん」



# 誠


「田中さんは」



誠は、続けた。




「どうなんですか」



# 田中


田中は、しばらく、考えた。





「わしは」



「はい」




田中。



「にんげんに、もどった」



# 田中


「せやから」



田中は、続けた。




「ふつうに、としを、とる」



「はい」




田中。



「あんたと、おなじや」



# 誠


誠は、その言葉に、少し、安心した。





「同じですか」




田中。



「うん」



# 田中


田中は、しばらく、誠を、見ていた。





そして、静かに、聞いた。





「なんで、そんな、かおを、しとる」



# 誠


誠は、しばらく、黙っていた。





それから、正直に、言った。





「怖くなったんです」



「はい」




誠。



「俺が、死んだ後も」



# 誠


「みんな、変わらずに、生きていくのが」



誠は、続けた。




「なんか、寂しくて」



# 田中


田中は、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、静かに、言った。





「やおや」



「はい」



# 田中


「それ、ぎゃくや」



田中は、続けた。




「あんたが、いなくなっても」



「はい」




田中。



「みんな、へんわらへんのは」



# 田中


「あんたが、のこした、もんが」



田中は、続けた。




「そこに、あるからや」



# 誠


誠は、その言葉に、しばらく、動かなかった。





「どういうことですか」



# 田中


「みんな、へんわらへんかったら」



田中は、続けた。




「あんたが、おしえたことも」



「はい」




田中。



「へんわらへん、いうことや」



# 田中


「なまえを、きくことも」



田中は、続けた。




「まいあさ、あいさつすることも」



「はい」




田中。



「ずっと、つづく」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、噛みしめた。





そして、静かに、言った。





「それは、寂しくない、ってことですか」



# 田中


田中は、頷いた。




「あんたが、いなくなっても」



「はい」




田中。



「あんたの、やりかたが、のこる」



# 田中


「かわらへん、やつらが、それを、まもってくれる」



田中は、続けた。




「そうかんがえたら」



「はい」




田中。



「たのもしい、はなしやろ」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、考えていた。





そして、少し、笑った。





「そうかもしれません」



# 皆瀬


その日、誠は、皆瀬に、聞いてみた。



# 誠


「皆瀬さん」




皆瀬。



「ぷる?」




誠。



「俺が、いなくなっても」



# 誠


「変わらず、いてくれますか」




皆瀬は、しばらく、動かなかった。



# 皆瀬


そして。





「ぷる」



# セレス


セレスが、通訳した。





「『三百年、ここにいます。誠さんの、後も、ここにいます』と」



# 誠


誠は、その言葉に、しばらく、動かなかった。





そして、静かに、頷いた。





「ありがとうございます」



# 藤原


夕方、誠は、藤原にも、同じことを、聞いた。



# 誠


「藤原」



「なんや」




誠。



「俺が、いなくなっても」




藤原。



「みまもったるで」



# 藤原


藤原は、続けた。




「せんねん、いきるんや」



「はい」




藤原。



「みまもるくらい、いくらでも、できる」



# 誠


誠は、その言葉に、少し、涙ぐんだ。





「よろしくお願いします」




藤原。



「まかせとけ」



# 誠


誠は、その日の夜、桶の前で、じいさんに、話した。



# 誠


「じいさん」



「なんや」




誠。



「歳を取らない、仲間が、いることに、気づきました」




老人は、しばらく、その板を、見ていた。





そして、書いた。



# 老人


*「うちの、まちにも、おったで」*





そして、その下に。






*「せかいが、あつくなっても」*



# 老人


*「かわらん、やつらが、おった」*



老人は、続けた。





*「じいさんは、それが、たのもしかった」*



# 誠


誠は、その言葉に、頷いた。





「頼もしい、ですか」




老人。



*「うん」*



# 老人


*「にんげんは、かわる」*



老人は、続けた。





*「かわらんもんが、そばに、おったら」*



# 老人


*「あんしんする」*



老人は、静かに、言った。





*「それでええんや」*





その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「じいちゃん、気づいたことがあります。皆瀬さんも、藤原も、昔から、ずっと変わってません。歳を取ってるのは、俺と、エリナと、人間だけです。最初、少し怖くなりました。俺がいなくなっても、みんな変わらず生きていくのが、寂しくて。田中さんが言いました。逆だ、って。みんな変わらへんかったら、俺が教えたことも、名前を聞くことも、朝の挨拶も、ずっと続く、って。それが頼もしい話やろ、って。皆瀬さんに聞いたら、俺の後も、ここにいます、って言ってくれました。藤原も、見守ったる、千年生きるから、いくらでもできる、って。じいちゃん、じいさんの町にも、同じ仲間がいたそうです。世界が暑くなっても、変わらんやつらがいて、それが頼もしかった、って。人間は変わる、変わらんもんが、そばにおったら、安心する、それでええんや、って。じいちゃん、俺も、そう思うようにします」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。



まだこの時の誠は知らない。「変わらない者たちが見守ってくれる」という安心が、これから先、自分自身の最も大きな支えになることを。



——そしてもう一つ、まだこの時の誠は知らない。


自分が去った後の世界を、少しずつ、想像できるようになったことの意味を。



——今は......まだ、誰も——知らない。

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