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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第265話「神様の、雑談、八百屋のレベルの秘密」

その日の、夜。



# 誠


誠は、いつも通り、店を、閉めた後。





空に、向かって、話しかけた。



# 誠


「田中実さん」




しばらく、間が、あった。





「……なんや、八百屋」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「たまには、雑談、しませんか」



# 神


神は、少し、驚いた声を、出した。




「ざつだん」




誠。



「はい」




神。



「なんの、ようもなく、か」



# 誠


誠は、頷いた。




「用がなくても、話すことが、あるかなって」




神は、しばらく、考えていた。





「……そういうの、ひさしぶりや」



# 神


「いつも、なにか、たいへんなことが、あってから」



神は、続けた。




「はなしかけられる」



「はい」




神。



「なにも、ないときは、なかった」



# 誠


誠は、その言葉に、少し、申し訳なく、思った。





「すみません」




神。



「あやまらんでええ」




神は、続けた。




「うれしいわ」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「じゃあ、何を、話しましょうか」




神。



「なんでも、ええで」



# 誠


誠は、しばらく、考えた。





「神様、最近、どうですか」




神。



「どう、いうと」




誠。



「楽しいこと、ありますか」



# 神


神は、しばらく、考えた。





そして、言った。





「せんじつ、ほしを、みとった」



# 誠


誠は、少し、驚いた。




「星を?」




神。



「うん」



# 神


「つきが、ひとつに、なってから」



神は、続けた。




「そらが、きれいに、みえるように、なった」



「はい」




神。



「まえは、みてへんかった」



# 誠


誠は、しばらく、その話を、聞いていた。





「なんで、見てなかったんですか」




神。



「よゆうが、なかった」



# 神


「なまえ、おもいだすので、いっぱいいっぱいで」



神は、続けた。




「そらを、みる、よゆうが、なかった」



「はい」




神。



「いまは、ちがう」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「それは、いいことですね」




神。



「うん」



# 誠


誠は、しばらく、間を、置いた。





そして、聞いた。





「神様、他に、好きなものって、ありますか」



# 神


神は、しばらく、考えた。




「むぎちゃ」




誠。



「知ってます」




神。



「ほかにも」



# 神


「せんじつ」



神は、続けた。




「そばを、たべた」



「はい」




神。



「あれ、うまいな」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「魔王様も、蕎麦、好きだそうです」




神。



「まおうも、たべたんか」




誠。



「はい。……七百八十二年生きて、初めて、うまいと思った、って言ってました」



# 神


神は、しばらく、その話を、聞いていた。





それから、少し、笑った。





「わしも、いっしょや」




誠。



「同じですか」




神。



「いちまんさんぜんねん、いきて」



「はい」




神。



「はじめて、たべたもんが、そば、や」



# 誠


誠は、その言葉の、重みに、少し、動きを、止めた。





「食べたことなかったんですか」




神。



「うん」



# 神


「かたちが、なかったからな」



神は、続けた。




「たべる、いう、かんかくが、わからんかった」



「はい」




神。



「はじめて、たべたとき」



# 神


「なみだが、でた」



神は、続けた。




「なんでか、わからんかったけど」



「はい」




神。



「でた」



# 誠


誠は、しばらく、その話を、聞いていた。





そして、静かに、言った。





「よかったです」




神。



「うん」



# 誠


誠は、少し、間を、置いた。





そして、また、聞いた。





「神様、他には」



# 神


神は、しばらく、考えた。




「こどもの、こえ、すきや」




誠。



「子どもの声」




神。



「うん」



# 神


「まえは」



神は、続けた。




「なんも、きこえてへんかった」



「はい」




神。



「いまは」



# 神


「まいにち、こどもが、あそんどる、こえが、きこえる」



神は、続けた。




「それが、すきや」



# 誠


誠は、その言葉に、頷いた。




「分かります」




神。



「あんたも、すきか」




誠。



「はい」



# 告白


そして、神は、しばらく、黙っていた。





それから、少し、間を、置いて、言った。





「やおや」



「はい」




神。



「じつはな」



# 誠


誠は、その、口調の、変化に、少し、身構えた。





「はい」




神。



「まえに、いうたこと」



# 神


「うそが、ひとつ、あった」



神は、続けた。



# 誠


誠は、動きを、止めた。





「嘘、ですか」




神。



「うん」



# 誠


誠は、しばらく、考えた。





「何のことですか」



# 神


神は、少し、間を、置いた。





「まえに」



「はい」




神。



「あんたの、れべるが、いちから、にに、あがった、いうたやろ」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、思い出そうと、した。





「俺の、レベルが」




神。



「うん」



# 神


「うれしそうに、あんたに、つげたやろ」



神は、続けた。




「『やおや、あんた、レベル2に、なったで』いうて」



「はい」




神。



「あれ」



# 神


「うそや」



神は、静かに、言った。



# 誠


誠は、しばらく、動かなかった。





そして、しばらく、考えた。





「でも、俺、レベルとか、そもそも」



# 誠


誠は、そこで、思い出した。





そして、少し、驚いた声で、言った。





「俺、ステータス表示も、レベルも、ないんですよね」



# 神


神は、しばらく、黙っていた。





それから、静かに、言った。





「そうや」



# 神


「やおやの、けいとうには」



神は、続けた。




「もともと、れべるいう、しくみが、ない」



「はい」




神。



「たなかも、じいさんも」



「はい」




神。



「あんたも」



# 神


「せやから」



神は、続けた。




「あがりようが、なかった」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、噛みしめた。





「じゃあ、なんで」



「はい」




誠。



「上がった、って、言ったんですか」



# 神


神は、しばらく、黙っていた。





それから、少し、恥ずかしそうに、言った。





「……よろこばせたかった」



# 神


「まわりが、みんな」



神は、続けた。




「れべるが、あがった、あがった、いうて」



「はい」




神。



「よろこんどった」



# 神


「あんただけ、なんも、なかった」



神は、続けた。




「せやから」



「はい」




神。



「うそでも、あがったことに、したった」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、少し、笑った。





「あの時、俺、すごい喜んでたじゃないですか」




神。



「うん」




誠。



「よかった、って」



# 神


神は、しばらく、黙っていた。





それから、少し、申し訳なさそうに、言った。





「せやから、よけいに」



「はい」




神。



「いいだせんかった」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「神様、優しいですね」



# 神


神は、しばらく、黙っていた。





それから、少し、拗ねたように、言った。





「うそは、うそや」




誠。



「でも、俺のために、ついてくれた、嘘です」



# 誠


誠は、少し、間を、置いてから、続けた。





「でも、なんで、今、言うんですか」




神。



「なんとなく」



# 神


「きょう、なんも、ようがない、はなしを、しとって」



神は、続けた。




「そしたら」



「はい」




神。



「いままで、いえんかったことも」



# 神


「いえる、きが、した」



神は、静かに、言った。



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、噛みしめた。





そして、静かに、頷いた。





「そうですか」



# 誠


「神様」



「なんや」




誠。



「レベル、なくても」



# 誠


「俺、いいんです」



誠は、静かに、言った。



# 神


神は、しばらく、黙っていた。





それから、掠れた声で、言った。





「……ほんまか」




誠。



「はい」



# 誠


「レベルが、なくても」



誠は、続けた。




「毎朝、店を、開けられます」



「はい」




誠。



「それで、十分です」



# 神


神は、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、静かに、言った。





「……そうか」



# 神


「でも」



神は、続けた。




「もう、うそは、つかん」



「はい」




神。



「れべる、あがってなくても」



# 神


「あんたが、あんたで、おってくれる」



神は、静かに、言った。





「それだけで、じゅうぶんや、って」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「気づいたんですね」




神。



「うん」



# 誠


誠は、しばらく、間を、置いた。





そして、静かに、聞いた。





「神様、逆に、聞いてもいいですか」




神。



「なんや」



# 質問


「俺のこと、どう思いますか」



# 神


神は、しばらく、答えなかった。





そして、少し、笑った。





「……なんや、きゅうに」




誠。



「たまには、聞きたくて」



# 神


神は、しばらく、考えた。





そして、静かに、言った。





「あんたは」



「はい」




神。



「わしに、はじめて、なまえで、よんでくれた」



# 神


「それまでは」



神は、続けた。




「かみさま、としか、よばれてへんかった」



「はい」




神。



「なまえで、よばれるんは」



# 神


「じぶんが、ひとりの、なにか、として」



神は、続けた。




「あつかわれとる、いうことや」



「はい」




神。



「それを、おしえてくれた」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、噛みしめた。





そして、静かに、言った。





「ありがとうございます」



# 神


神は、少し、笑った。




「れいを、いうのは、こっちや」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「田中さんにも、同じことを、言われました」




神。



「そうか」




誠。



「みんな、同じことを、言うんですね」



# 神


神は、しばらく、考えた。





そして、言った。





「あんたが、おなじことを、しとるからやろ」



# 誠


誠は、その言葉に、しばらく、動かなかった。





そして、静かに、頷いた。





「そうかもしれません」



# 夜


しばらく、二人とも、黙っていた。



# 誠


誠は、空を、見上げた。





月が、一つ、そこに、あった。



# 誠


「神様」



「なんや」




誠。



「今日、話せて、よかったです」



# 神


神は、しばらく、答えなかった。





それから、静かに、言った。





「わしも」



# 神


「また、よぶんに、はなしに、きてくれ」



神は、続けた。




「たいへんなときやなくても」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「はい」




誠。



「約束します」





その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「じいちゃん、今日は、神様と、雑談をしました。用もなく、話しかけたのは、初めてでした。それから、神様が、昔ついた嘘を、告白してくれました。前に、俺のレベルが、1から2に上がった、って嬉しそうに教えてくれたことがあったんですけど、あれ、嘘だったそうです。そもそも、俺には、ステータスも、レベルも、田中の系統には、もともと、その仕組み自体がないそうです。田中さんも、じいさんも、俺も。上がりようがなかった、って。それでも、みんなが、レベルが上がった、って喜んでるのに、俺だけ何もないのが、気の毒で、嘘でも上がったことにしてくれたそうです。俺、あの時、すごい喜んでたので、余計に言い出せなかった、って。じいちゃん、神様、優しいですね。俺、言いました。レベルなくても、いいです、毎朝、店を開けられれば、それで十分です、って。神様、もう嘘はつかん、あんたが、あんたでおってくれる、それだけで十分だって気づいた、って言ってくれました。じいちゃん、また、用もなく、話しに行きます。約束しました」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。



まだこの時の誠は知らない。「レベルがない」という事実が、田中の系統の本質そのものであったことを。



——そしてもう一つ、まだこの時の誠は知らない。


見栄を張らなくてもいい関係こそが、本当の意味での、信頼だったことを。



——今は......まだ、誰も——知らない。

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