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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「闇商人、正直すぎる」

その日、誠の店に、見慣れない、男が、来た。



# 男


黒い、フード。





顔を、隠すような、マント。





いかにも、怪しい、雰囲気。



# 男


「……ふふふ」



# 誠


誠は、少し、身構えた。





「いらっしゃいませ」



# 男


男は、低い声で、言った。




「私は」



「はい」




男。



「**闇商人**だ」



# 誠


誠は、しばらく、考えた。





「闇商人、ですか」




男。



「そうだ。……闇に、生きる者」



# 男


「表には、出せない、品を」



男は、続けた。




「裏で、扱う」



「はい」




男。



「そういう、商売だ」



# 誠


誠は、少し、警戒した。




「違法な、品ですか」



# 男


男は、しばらく、考えた。




「いや」




誠。



「じゃあ」




男。



「合法だ」



# 誠


誠。



「じゃあ、闇じゃ、ないのでは」




男。



「気分の、問題だ。それにいつも日陰で商売している、完璧だ」



# 商品


男は、荷物を、広げた。





そこには、普通の、日用品が、並んでいた。



# 男


「これは、特別な、品だ」




誠。



「どこが、特別ですか」




男。



「隣町の、仕入れ値より、少し、高い」



# 誠


誠。



「それ、特別じゃなくて、割高じゃないですか」




男。



「……そうだな」



# 男


男は、しばらく、考えた。





「正直、言うと」



「はい」




男。



「隣町で、余ったやつだ」



# 誠


誠は、少し、驚いた。




「そんなに、簡単に、言うんですか」




男。



「嘘は、つけない」



# 誠


誠。



「闇商人、なんですよね」




男。



「そうだ」




誠。



「嘘、つかないんですか」




男。



「つけない」



# 男


「性分だ」



男は、続けた。




「口を、滑らせてしまう」



# 誠


誠は、しばらく、その男を、見ていた。





そして、少し、興味を、持った。





「座りますか」



# 座る


男は、縁台に、座った。





そして、麦茶を、受け取った。



# 田中


田中が、隣に、来た。




「やおや」



「はい」




田中。



「そいつ、あやしいで」




男。



「怪しいのは、見た目だけだ」



# 男


男は、続けた。




「中身は、正直すぎる」




田中。



「じぶんで、いうんか」




男。



「嘘は、つけない」



# 事件


その、日の、午後。





首領が、店に、来た。



# 首領


「誠殿」



「首領さん」




首領は、その、闇商人を、見て、動きを、止めた。





「……お前は」



# 闇商人


男。



「久しぶりだな、首領」




首領。



「なぜ、ここに」




男。



「商売だ」



# 首領


首領は、少し、緊張した顔を、した。





「誠殿、この男には、気をつけろ」




誠。



「なぜですか」



# 首領


「こいつは」



首領は、続けた。




「秘密を、暴露する」



# 誠


誠。



「秘密」




首領。



「悪意は、ないんだ」




首領は、続けた。




「ただ、口が、軽い」



# 実演


その、瞬間。





闇商人が、口を、開いた。



# 闇商人


「首領、実は」




首領。



「待て」




闇商人。



「先月、蕎麦を、二回、おかわりした」



# 首領


首領は、しばらく、固まった。





「……なぜ、それを」




闇商人。



「見たからだ」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「大したことじゃ、ないですね」




首領。



「大したことだ! 首領の、威厳が」




闇商人。



「蕎麦、好きなんだろう」




首領。



「好きだが!」



# 続く


闇商人は、続けた。




「あと、駄々丸の、噺を、聞いて」




首領。



「やめろ」




闇商人。



「泣いてた」



# 首領


首領は、しばらく、頭を、抱えた。





「……もう、いい」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「悪意、本当に、ないんですね」




闇商人。



「ない」




首領。



「悪意が、ないから、余計、性質が悪い」



# 別の被害者


そこへ、魔王が、通りかかった。



# 闇商人


「魔王殿」




魔王。



「なんだ」




闇商人。



「実は」




魔王。



「言うな」



# 闇商人


「先週、地下の、ハンナさんに」



闇商人は、続けた。




「肩を、揉んでもらってた」



# 魔王


魔王は、しばらく、動かなかった。





「……なぜ、それを」




闇商人。



「見た」



# 魔王


魔王は、少し、顔を、赤らめた。




「腰が、痛かったのだ」




闇商人。



「気持ちよさそうだった」




魔王。



「……余興だ」



# 誠


誠は、しばらく、その光景を、見ていた。





そして、少し、笑った。





「見たこと、全部、言うんですね」




闇商人。



「見たものは、隠せない」



# 商売


けれど、その、口の軽さは。





商売にも、影響していた。



# 誠


誠。



「そういえば、商品、売れましたか」




闇商人。



「いや」




誠。



「なぜですか」



# 闇商人


「客が、来ても」



闇商人は、続けた。




「値切ろうとすると」



「はい」




闇商人。



「原価を、教えてしまう」



# 誠


誠。



「それ、致命的では」




闇商人。



「客が、原価で、買っていく」




誠。



「儲からないですね」




闇商人。



「儲からない」



# 誠


誠は、しばらく、考えた。





「じゃあ、なんで、商人を」




闇商人。



「それしか、できないからだ」



# 田中


田中が、その話を、聞いていた。




「やおや」



「はい」




田中。



「そいつ、うちで、はたらかせたら、どうや」



# 誠


誠は、少し、驚いた。




「田中さん」




田中。



「なんや」




誠。



「秘密、全部、喋りますよ」




田中。



「うちに、ひみつ、あるか」



# 誠


誠は、しばらく、考えた。





「ないですね」




田中。



「ほな、もんだいない」



# 採用


こうして、闇商人は、店の、目利き補佐として、雇われることに、なった。



# 初日


初日。





客が、来た。



# 客


「田中さん、この、大根、どうですか」




田中。



「ええな」



# 闇商人


闇商人が、続けた。




「ちなみに」



「はい」




闇商人。



「昨日、田中さんが、間違えて、傷んだキャベツを、良品と、言いかけた」



# 田中


田中は、しばらく、固まった。





「……なんで、それを」




闇商人。



「見た」



# 客


客は、少し、笑った。




「田中さんでも、間違えるんですね」




田中。



「たまには、な」



# 誠


誠は、その様子を、見て、少し、笑った。





(——正直すぎるのも、悪くないな)



# 効果


意外にも、その、正直さは。





村の、信頼に、繋がっていった。



# 誠


誠。



「闇商人さん」



「なんだ」




誠。



「呼び名、そのままで、いいですか」



# 闇商人


闇商人は、少し、考えた。




「本名を、言おうか」




誠。



「聞きたいです」



# 闇商人


闇商人は、少し、恥ずかしそうに、言った。




「……ヒカリオ、だ」



# 誠


誠は、その、明るい、名前に、少し、笑った。





「闇商人らしくない、名前ですね」




ヒカリオ。



「母が、つけた」




誠。



「いい、お母さんですね」



# 誠


「ヒカリオさん、覚えました」




ヒカリオ。



「ありがとう」



# ヒカリオ


ヒカリオは、しばらく、その、名前を、聞いて、静かに、していた。





そして、静かに、言った。





「実は」



「はい」




ヒカリオ。



「闇商人って、名乗ってから」



# ヒカリオ


「本名を、呼ばれること」



ヒカリオは、続けた。




「なくなってた」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、静かに、言った。





「これからは、ヒカリオさんって、呼びます」



# ヒカリオ


ヒカリオは、しばらく、動かなかった。





それから、少し、涙ぐんだ。





「……ありがとう」



# 首領


その日、首領が、また、店に、来た。





そして、ヒカリオを、見て、少し、警戒した。



# 首領


「まだ、いるのか」




ヒカリオ。



「働いている」




首領。



「秘密、暴露するなよ」




ヒカリオ。



「見なければ、言わない」



# 首領


首領は、しばらく、その言葉に、考えた。





そして、静かに、言った。





「じゃあ、見るな」




ヒカリオ。



「善処する」



# 誠


誠は、その様子を、見ていた。





そして、少し、笑った。





「悪くない、賑やかさですね」





その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「じいちゃん、闇商人と名乗る人が、店に来ました。見た目は怪しいんですけど、正直すぎて、口を滑らせすぎて、みんなの秘密を暴露してました。首領さんが蕎麦を二回おかわりしたこと、魔王様がハンナさんに肩を揉んでもらってたこと。全部、悪意なく、見たことを言ってしまうそうです。それで、商売にならなくて困ってたので、田中さんが、うちで働けばいい、って。うちには秘密がないから問題ない、って。本名を聞いたら、ヒカリオさんでした。闇商人らしくない、明るい名前でした。闇商人って名乗ってから、本名を呼ばれることがなくなってた、って言うので、これからはヒカリオさんって呼びます、って言いました。少し、泣いてました。じいちゃん、正直すぎるのも、悪くないですね」*

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