第261話「戻るもの、戻らないもの」
その日、店の前で。
⸻
# 光景
**ドン。**
⸻
⸻
⸻
光と、音楽が、鳴った。
⸻
# 誠
誠は、その音に、少し、驚いた。
⸻
⸻
⸻
「また、ですか」
⸻
# ヒカル
見ると、ヒカルが、変身のポーズのまま、銅像に、なっていた。
⸻
# 看板
その上に。
⸻
⸻
⸻
**MISSION COMPLETE**
⸻
# ルカ
ルカが、来て、少し、笑った。
⸻
⸻
「第五十三作目、ですね」
⸻
⸻
誠。
⸻
「もう、そんなに」
⸻
⸻
ルカ。
⸻
「はい」
⸻
# 田中
田中が、その銅像を、しばらく、見ていた。
⸻
⸻
⸻
「やおや」
⸻
「はい」
⸻
⸻
田中。
⸻
「これ、いつも、こうなるんか」
⸻
⸻
誠。
⸻
「はい」
⸻
# 誠
「勝つと、銅像になって」
⸻
誠は、続けた。
⸻
⸻
「三時間後、次作放映決定、って出て、戻ってきます」
⸻
# 田中
田中は、しばらく、考えた。
⸻
⸻
⸻
「もどってくるんか」
⸻
⸻
誠。
⸻
「はい」
⸻
⸻
田中。
⸻
「かならず」
⸻
⸻
誠。
⸻
「今のところ、はい」
⸻
# 待つ
三時間、皆が、待った。
⸻
# 変化
そして、看板が、切り替わった。
⸻
# 看板
⸻
⸻
⸻
**次作、放映決定**
⸻
# ヒカル
銅像が、溶けて、ヒカルが、戻ってきた。
⸻
⸻
⸻
「……あれ」
⸻
⸻
誠。
⸻
「おかえりなさい」
⸻
⸻
ヒカル。
⸻
「戻れました?」
⸻
⸻
誠。
⸻
「はい」
⸻
# 誠
誠は、少し、笑った。
⸻
⸻
「毎回、聞きますね」
⸻
⸻
ヒカル。
⸻
「毎回、少し、怖いので」
⸻
# ヒカル
「戻ってこれるか、分からないので」
⸻
ヒカルは、続けた。
⸻
⸻
「銅像の間、意識、ないんです」
⸻
# 誠
誠は、その言葉に、しばらく、考えた。
⸻
⸻
⸻
「そうですか」
⸻
⸻
ヒカル。
⸻
「はい」
⸻
# 誠
「でも、いつも、戻ってきますね」
⸻
誠は、続けた。
⸻
⸻
「五十三回、全部」
⸻
# ヒカル
ヒカルは、頷いた。
⸻
⸻
「はい」
⸻
⸻
そして、少し、笑った。
⸻
⸻
⸻
「戻ってこれない、って考えたことも、あります」
⸻
# 誠
誠。
⸻
「不安ですよね」
⸻
⸻
ヒカル。
⸻
「はい」
⸻
# ヒカル
「でも」
⸻
ヒカルは、続けた。
⸻
⸻
「毎回、あなたが、待っててくれるので」
⸻
「はい」
⸻
⸻
ヒカル。
⸻
「それが、支えです」
⸻
# 誠
誠は、その言葉に、頷いた。
⸻
⸻
「これからも、待ちます」
⸻
# 別の日
数日後。
⸻
# カゲ
カゲも、同じように、銅像に、なった。
⸻
⸻
⸻
**MISSION COMPLETE**
⸻
# 三時間
そして、三時間後、戻ってきた。
⸻
# カゲ
「僕も、無事、戻りました」
⸻
⸻
誠。
⸻
「おかえりなさい」
⸻
# 誠
誠は、少し、考えた。
⸻
⸻
「カゲさん」
⸻
「はい」
⸻
⸻
誠。
⸻
「一度も、戻らなかったことは」
⸻
# カゲ
カゲは、少し、考えた。
⸻
⸻
「ないです」
⸻
⸻
誠。
⸻
「そうですか」
⸻
⸻
カゲ。
⸻
「今のところは」
⸻
# 田中
田中が、それを、聞いていた。
⸻
⸻
「やおや」
⸻
「はい」
⸻
⸻
田中。
⸻
「もし」
⸻
# 田中
「もどらんかったら」
⸻
田中は、続けた。
⸻
⸻
「どうするんや」
⸻
# 誠
誠は、その言葉に、しばらく、考えた。
⸻
⸻
⸻
そして、静かに、言った。
⸻
⸻
⸻
「分かりません」
⸻
# 誠
「でも」
⸻
誠は、続けた。
⸻
⸻
「たぶん、待つと思います」
⸻
「はい」
⸻
⸻
誠。
⸻
「田中さんを、待ったみたいに」
⸻
# 田中
田中は、しばらく、その言葉を、聞いていた。
⸻
⸻
⸻
そして、頷いた。
⸻
⸻
⸻
「そやな」
⸻
# 一色
その頃、一色が、来て、少し、深刻な、顔を、していた。
⸻
# 一色
「誠さん」
⸻
「はい」
⸻
⸻
一色。
⸻
「一つ、報告が」
⸻
⸻
誠。
⸻
「何ですか」
⸻
# 一色
「先週」
⸻
一色は、続けた。
⸻
⸻
「アメリカンヒーロー——ジョンさんが」
⸻
「はい」
⸻
⸻
一色。
⸻
「銅像に、なりました」
⸻
# 誠
誠は、動きを、止めた。
⸻
⸻
「初めて、聞きました」
⸻
⸻
一色。
⸻
「はい。……そして」
⸻
⸻
一色は、少し、間を、置いた。
⸻
⸻
「三日、経っても」
⸻
# 一色
「戻ってきていません」
⸻
# 誠
誠は、しばらく、動けなかった。
⸻
⸻
⸻
「三日」
⸻
⸻
一色。
⸻
「はい」
⸻
# 田中
田中も、動きを、止めた。
⸻
⸻
⸻
「もどらん、ことも、あるんか」
⸻
⸻
一色。
⸻
「初めてです」
⸻
# 誠
誠は、しばらく、考えていた。
⸻
⸻
⸻
そして、聞いた。
⸻
⸻
⸻
「看板は、まだ、MISSION COMPLETEのままですか」
⸻
⸻
一色。
⸻
「はい」
⸻
# 待つ
その日から、誠は、時々、ジョンの、銅像の様子を、聞くように、なった。
⸻
# 報告
「今日も、まだですか」
⸻
⸻
セレス。
⸻
「はい。……まだです」
⸻
# 一週間
一週間が、経った。
⸻
# 変化
そして、その日。
⸻
# 報告
セレスが、走ってきた。
⸻
⸻
「誠さん!」
⸻
⸻
誠。
⸻
「戻りましたか」
⸻
⸻
セレス。
⸻
「いえ」
⸻
# セレス
「看板が、変わりました」
⸻
セレスは、続けた。
⸻
⸻
「『次作放映決定』では、なくて」
⸻
# 看板
そこには、こう、書かれていた。
⸻
# 看板
⸻
⸻
⸻
**シリーズ、終了**
⸻
# 誠
誠は、しばらく、その言葉に、動かなかった。
⸻
⸻
⸻
「終了」
⸻
⸻
セレス。
⸻
「はい」
⸻
# 誠
誠は、静かに、聞いた。
⸻
⸻
「ジョンさんは」
⸻
⸻
セレス。
⸻
「銅像のままです」
⸻
# 誠
誠は、しばらく、動けなかった。
⸻
⸻
⸻
そして、田中を、見た。
⸻
# 田中
田中は、しばらく、黙っていた。
⸻
⸻
⸻
それから、静かに、言った。
⸻
⸻
⸻
「……もどらん、やつも、おるんやな」
⸻
# 誠
誠は、頷いた。
⸻
⸻
「はい」
⸻
# 弔い
村中で、その報せが、伝わった。
⸻
# 反応
村人は、しばらく、静かに、なった。
⸻
⸻
⸻
そして、ジョンの、銅像が、置かれていた場所に、集まった。
⸻
# 誠
誠も、そこへ、行った。
⸻
# 銅像
ジョンの、銅像は、いつも通り、力強い、ポーズを、していた。
⸻
⸻
⸻
けれど、もう、動かなかった。
⸻
# 誠
誠は、しばらく、それを、見ていた。
⸻
⸻
⸻
そして、静かに、言った。
⸻
⸻
⸻
「ジョンさん」
⸻
# 誠
「あなたの、盾のこと、覚えてます」
⸻
誠は、続けた。
⸻
⸻
「ガチャに、間違って、入った時」
⸻
「はい」
⸻
⸻
誠。
⸻
「取り戻すのに、三時間かけて」
⸻
# 誠
「六十四万ゴールド、使いましたよね」
⸻
誠は、続けた。
⸻
⸻
「でも、配信で、それ以上、稼いで」
⸻
「はい」
⸻
⸻
誠。
⸻
「それから、カゲさんの、紐ライダーの時」
⸻
# 誠
「黙って、コインを、渡してくれました」
⸻
誠は、静かに、言った。
⸻
⸻
⸻
「撮るな、って言って」
⸻
# 誠
誠は、しばらく、間を、置いた。
⸻
⸻
⸻
そして、続けた。
⸻
⸻
⸻
「あなたの、本当の名前、覚えてます」
⸻
# 誠
「ジョンさん」
⸻
⸻
⸻
村人が、しばらく、その姿を、見ていた。
⸻
# 首領
首領も、来ていた。
⸻
⸻
「誠殿」
⸻
「はい」
⸻
⸻
首領。
⸻
「あの男、悪い者では、なかった」
⸻
⸻
誠。
⸻
「はい」
⸻
# 名簿
ルカが、名簿を、確認した。
⸻
# 確認
「ジョンさん、書いてありますか」
⸻
⸻
ルカ。
⸻
「はい。……書いてあります」
⸻
⸻
誠。
⸻
「そうですか」
⸻
# 誠
誠は、少し、安心した。
⸻
⸻
⸻
「名前は、ちゃんと、残ってます」
⸻
# 田中
田中が、隣に、来た。
⸻
⸻
「やおや」
⸻
「はい」
⸻
⸻
田中。
⸻
「もどらんくても」
⸻
# 田中
「なまえは、のこる」
⸻
田中は、続けた。
⸻
⸻
「それだけは、たしかや」
⸻
# 誠
誠は、その言葉に、頷いた。
⸻
⸻
⸻
「はい」
⸻
# 誠
誠は、しばらく、その銅像を、見上げていた。
⸻
⸻
⸻
そして、静かに、言った。
⸻
⸻
⸻
「ありがとうございました」
⸻
# 継続
その後も、ヒカルと、カゲの、MISSION COMPLETEは、続いた。
⸻
# 誠
誠は、その、たびに、同じことを、思った。
⸻
⸻
⸻
(——戻ってきますように)
⸻
# 光景
そして、たいてい、三時間後、彼らは、戻ってきた。
⸻
⸻
⸻
「おかえりなさい」
⸻
⸻
「戻りました」
⸻
# 誠
誠は、その、当たり前の、繰り返しに、少しずつ、深く、感謝するように、なった。
⸻
⸻
⸻
その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「じいちゃん、ヒカルさんとカゲさんは、今日も、銅像になって、戻ってきました。五十回以上、続いてます。でも、ジョンさんは、戻ってきませんでした。一週間、銅像のままで、シリーズ終了、って看板が出ました。それきりです。村中で、その姿を、見に行きました。俺、ジョンさんに、覚えてることを、話しました。盾を取り戻した話とか、カゲさんに、こっそりコインを渡してくれた話とか。名簿には、ちゃんと、名前が残ってました。田中さんが言いました。戻らんくても、名前は残る、それだけは確かや、って。じいちゃん、戻ってくるものと、戻ってこないものが、あるんですね。どちらも、当たり前じゃなかったんです。ヒカルさんとカゲさんが、いつも戻ってきてくれること、これから、もっと、ありがたく思おうと思います」*
⸻
心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
⸻
⸻
——たとえ——空に——見えなくても。
⸻
まだこの時の誠は知らない。「戻らないもの」があることを知った今、自分自身が戻らない側になる日について、どう向き合うことになるのかを。
⸻
——そしてもう一つ、まだこの時の誠は知らない。
ジョンの物語が、本当に終わったのかどうかを。
⸻
——今は......まだ、誰も——知らない。




