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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第260話「遊びに来る人たち」

その日の、昼過ぎ。



# 来客


店の前に、見慣れた、姿が、現れた。



# 八一八号


「イーッ」




誠は、少し、笑った。




「八一八号さん、いらっしゃい」




八一八号。



「イ」



# 通訳


たまたま、店にいた、皆瀬が、通訳した。





「『非番なので、遊びに来ました』と」



# 誠


誠。



「お仕事、大丈夫なんですか」




八一八号。



「イーッ」




皆瀬。



「ぷる」




セレス(近くにいた)。



「『首領に、許可をもらってます』と」



# 誠


誠は、頷いた。




「そうですか」



# 縁台


八一八号は、縁台に、座った。





誠の、隣に。



# 誠


誠は、麦茶を、注いだ。




「どうぞ」




八一八号。



「イ」



# 沈黙


二人は、しばらく、黙って、座っていた。



# 誠


誠は、少し、笑った。




「話さなくても、いいんですか」




八一八号。



「イーッ」



# 田中


田中が、隣で、言った。




「やおや」



「はい」




田中。



「なんて、いうとるんや」




誠。



「たぶん、これでいい、って意味です」




田中。



「わかるんか」




誠。



「なんとなく」



# カゲ


そこへ、もう一人、来た。



# カゲ


「誠さん!」




誠。



「カゲさん、いらっしゃい」




カゲは、ベルトを、締め直しながら、座った。





「今日、任務、ないんです」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「珍しいですね」




カゲ。



「はい。……第五十二作の、間の、休みです」




誠。



「そんなに、続いてるんですか」




カゲ。



「はい」



# カゲ


カゲは、麦茶を、飲みながら、言った。




「誠さん」



「はい」




カゲ。



「僕、最近、思うんです」



# カゲ


「MISSION COMPLETEって、なんなんだろう、って」



カゲは、続けた。




「敵が味方になって、また、次の敵が来て」



「はい」




カゲ。



「終わりが、ないんです」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、考えた。





そして、静かに、言った。





「終わらないのは、いいことだと、思います」



# 誠


「続いてるってことは」



誠は、続けた。




「あなたが、必要とされてる、ってことです」



# カゲ


カゲは、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、少し、笑った。





「そうですね」



# 八一八号


八一八号が、頷いた。




「イーッ」




皆瀬。



「ぷる」




セレス。



「『同感です』と」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「二人とも、いい仲間ですね」



# カゲ


カゲは、しばらく、考えた。




「僕、この前、思ったんです」




誠。



「何をですか」



# カゲ


「悪の組織と、仲良くなるなんて」



カゲは、続けた。




「変身する前は、想像もできませんでした」



「はい」




カゲ。



「でも、今は」



# カゲ


「一緒に、麦茶、飲んでます」



カゲは、少し、笑った。




「不思議です」



# 誠


誠は、その言葉に、頷いた。




「うちの店、そういう場所ですから」




カゲ。



「はい」



# 誠


「敵も味方も、関係なく」



誠は、続けた。




「みんな、来ます」



# ヴィクター


そこへ、ヴィクターも、来た。





「誠殿」



「ヴィクターさん、いらっしゃい」




ヴィクター。



「夜勤明けだ」




誠。



「お疲れ様です」



# ヴィクター


ヴィクターは、少し、疲れた顔で、座った。





「最近、ギルドの、夜が、忙しい」




誠。



「そうですか」




ヴィクター。



「うむ。……回収の、依頼が、増えている」



# ヴィクター


「だが」



ヴィクターは、続けた。




「以前より、感謝される」



「はい」




ヴィクター。



「名前を、覚えるようになってから」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「いいことですね」




ヴィクター。



「うむ」



# 集まり


そういうわけで、その日の、店先は。





賑やかに、なっていた。



# 光景


八一八号。カゲ。ヴィクター。皆瀬。セレス。





そして、誠と、田中。



# 田中


田中は、その様子を、しばらく、見ていた。





そして、静かに、言った。





「やおや」



「はい」




田中。



「にぎやかやな」



# 誠


誠は、頷いた。




「はい」



# 誠


「これも、店が続いてる、証拠だと思います」



誠は、続けた。




「みんな、遊びに、来てくれるので」



# 田中


田中は、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、少し、笑った。





「じいさんの、みせにも」



「はい」




田中。



「いろんなひとが、きとった」



# 田中


「なにもかわん」



田中は、続けた。




「ただ、はなしに、くるだけの、やつも」



「はい」




田中。



「たくさん、おった」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「同じですね」




田中。



「うん」



# 八一八号


八一八号が、麦茶を、飲み干して、言った。




「イーッ」




誠。



「もう一杯、どうですか」




八一八号。



「イ」




誠。



「はい」



# 誠


誠は、少し、動かせる、手で、湯呑みを、傾けた。





そして、麦茶を、注いだ。



# ルカ


ルカが、それに、気づいて、手伝いに、来た。




「師匠、俺が」




誠。



「これくらいは」




ルカ。



「はい」



# 誠


誠は、その、一杯を、注ぎきった。





そして、少し、満足そうに、笑った。



# 誠


「まだ、これくらいは、できます」




田中。



「うん」




田中は、少し、笑った。




「それで、じゅうぶんや」



# カゲ


カゲが、その様子を、見て、言った。




「誠さん、無理しないでください」




誠。



「一杯だけです」




カゲ。



「はい」



# 午後


その日の、午後は、そうやって、過ぎていった。



# 帰り際


夕方、皆が、帰っていく時。



# 挨拶


八一八号が、頭を、下げた。




「イーッ」




誠。



「また、来てください」




八一八号。



「イ」



# カゲ


カゲも、頭を、下げた。




「また、遊びに来ます」




誠。



「はい」



# ヴィクター


ヴィクターも、頭を、下げた。




「今日は、休まった」




誠。



「よかったです」



# 誠


誠は、その、三人の、背中を、見送った。





そして、静かに、思った。





(——遊びに来る場所が、あるって、いいことだ)





その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「じいちゃん、今日は、店が賑やかでした。八一八号さんが、非番だから遊びに来ました、って。カゲさんも、任務の合間だから、って。ヴィクターさんも、夜勤明けで。みんな、縁台に座って、麦茶を飲んで、特に何をするでもなく、過ごしてました。カゲさんが、MISSION COMPLETEに終わりがないことについて話してくれました。終わらないのは、必要とされてるってことです、って言いました。田中さんが、じいさんの店にも、話しに来るだけの人が、たくさんいた、って教えてくれました。同じですね、って言いました。俺、まだ、一杯だけなら、麦茶を注げます。少しずつ手が動かなくなってますけど、それだけは、続けたいです。じいちゃん、みんなが遊びに来る店になったこと、嬉しいです。じいちゃんの店も、そうだったんですかね」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。



まだこの時の誠は知らない。「遊びに来る場所」であり続けることが、この星の平和にとって、どれほど大きな意味を持つのかを。



——そしてもう一つ、まだこの時の誠は知らない。


自分が麦茶を注げる日が、あと、どれだけ残っているのかを。



——今は......まだ、誰も——知らない。

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