第259話「見ているだけの、仕事」
誠は、その日から、店の縁台に、座り続ける日々が、増えた。
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# 変化
体は、もう、動かせる範囲が、決まってきていた。
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けれど、目は、まだ、はっきりと、見えていた。
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# 誠
誠は、それを、少し、幸いに、思っていた。
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(——見ていられる)
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# 見る、という仕事
誠は、ある日、田中に、言った。
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「田中さん」
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「なんや」
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誠。
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「見てるだけの仕事って、あるんですかね」
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# 田中
田中は、しばらく、考えた。
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「ある」
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誠。
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「何ですか」
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# 田中
「みまもる、いう、しごとや」
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田中は、続けた。
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「じいさんが、いっとった」
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# 田中
「なんもせんでも」
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田中は、続けた。
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「みてる、いうだけで」
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「はい」
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田中。
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「まもられとる、きになるやつが、おる」
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# 誠
誠は、しばらく、その言葉を、考えた。
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「俺、そんな、役に、立てますか」
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# 田中
田中は、少し、笑った。
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「もう、たっとる」
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誠。
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「どこで」
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田中。
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「ここに、すわっとるだけで」
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# 田中
「みんな、あんじんする」
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田中は、続けた。
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「あんたが、おるから」
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# 誠
誠は、しばらく、その言葉を、噛みしめた。
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そして、静かに、頷いた。
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「そうですか」
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# 客
その日も、客が、来た。
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# 光景
「誠さん、いつも、いてくれて、ありがとうございます」
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誠。
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「座ってるだけです」
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客。
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「それが、いいんです」
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# 客
客は、続けた。
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「誠さんが、いると」
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「はい」
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客。
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「この店が、大丈夫だって、分かるので」
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# 誠
誠は、その言葉に、少し、笑った。
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「ルカが、頑張ってますよ」
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客。
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「知ってます」
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客は、続けた。
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「でも、誠さんが、見てるってことが」
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# 客
「安心の、理由に、なってます」
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誠は、しばらく、その言葉を、聞いていた。
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そして、静かに、思った。
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(——それが、見守るってことか)
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# ルカ
ルカが、その様子を、見ていた。
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# ルカ
「師匠」
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「うん」
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ルカ。
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「あの人、たまに、店で、俺のこと、見て、失敗しても、何も言わないんですけど」
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誠。
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「うん」
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ルカ。
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「なんか、それが、逆に」
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# ルカ
「安心するんです」
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ルカは、続けた。
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「何かあったら、言ってくれる、って分かってるから」
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# 誠
誠は、少し、笑った。
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「言うことも、あるだろ」
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ルカ。
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「最近、ほとんど、ないです」
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誠。
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「うん」
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# 誠
「お前が、上手くなったからだ」
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誠は、続けた。
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「言うことが、なくなった」
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# ルカ
ルカは、その言葉に、しばらく、動かなかった。
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そして、少し、涙ぐんだ。
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「そうですか」
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# 誠
誠は、頷いた。
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「うん」
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# 石田の記憶集
その頃、石田の記憶を、聞き取る、作業は、順調に、進んでいた。
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# 進捗
一色が、報告した。
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「五百万人分、書き終えました」
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誠。
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「早いですね」
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一色。
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「石田さんの、記憶は」
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一色は、続けた。
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「一つ一つが、鮮明です」
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# 一色
「監視カメラ越しに、見てきた、記憶なので」
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一色は、続けた。
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「細かい、動きまで、覚えています」
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# 誠
誠は、頷いた。
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「見てた、ということですもんね」
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一色。
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「はい」
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# 誠
「石田さんも」
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誠は、続けた。
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「見てるだけの、仕事だったんですね」
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# 一色
一色は、しばらく、その言葉を、聞いていた。
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そして、頷いた。
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「そうかもしれません」
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# 石田
その夜、誠は、石田に、話しかけた。
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「石田さん」
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『なんだ』
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誠。
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「あなたの記憶、鮮明だそうです」
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石田。
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『そうか』
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# 誠
誠は、続けた。
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「一万三千年、ずっと、見てたからですよね」
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石田。
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『……見ることしか、できなかった』
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# 石田
「動けなかった」
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石田は、続けた。
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「話しかけることも、できなかった」
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「はい」
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石田。
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「だから、見た」
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# 誠
誠は、しばらく、その言葉を、聞いていた。
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そして、静かに、言った。
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「それ、俺と、同じですね」
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# 石田
石田は、少し、驚いた声を、出した。
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『……同じ?』
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誠。
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「はい」
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# 誠
「もう、体が、動かなくなってきてます」
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誠は、続けた。
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「だから、見てます」
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「はい」
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誠。
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「それも、悪くないって、思うように、なりました」
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# 石田
石田は、しばらく、黙っていた。
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それから、静かに、言った。
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『……見ることは、悪いことでは、ない』
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# 石田
「見た、ということが」
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石田は、続けた。
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「後で、誰かの、役に立つ」
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「はい」
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石田。
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「それは、確かなことだ」
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# 誠
誠は、その言葉に、頷いた。
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「そうですね」
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# 誠
誠は、少し、間を、置いた。
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そして、静かに、聞いた。
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「石田さん」
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『なんだ』
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誠。
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「あなた、一万三千年、寂しくなかったですか」
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# 石田
石田は、しばらく、答えなかった。
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長い、沈黙が、あった。
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# 石田
それから。
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『……寂しかった』
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# 誠
誠は、静かに、聞いていた。
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「今は」
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石田。
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『今は』
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# 石田
「毎日、誰かが、話しかけてくる」
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石田は、続けた。
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「盆踊りの、太鼓も、聞いた」
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「はい」
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石田。
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「もう、寂しくない」
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# 誠
誠は、その言葉に、少し、笑った。
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「よかったです」
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石田。
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『うむ』
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# 誠
誠は、少し、間を、置いてから、言った。
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「石田さん」
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『なんだ』
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誠。
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「俺が、いなくなっても」
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# 誠
「話しかけに、行ってくれる人、いますから」
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誠は、続けた。
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「大丈夫です」
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# 石田
石田は、しばらく、黙っていた。
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それから、掠れた声で、言った。
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『……いなくなる、話は、するな』
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# 誠
誠は、少し、笑った。
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「すみません」
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石田。
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『……まだ、早い』
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# 誠
誠は、その言葉に、動きを、止めた。
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「その言葉」
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石田。
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『どうした』
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誠。
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「田中さんも、じいさんも、神様も、みんな、言ってました」
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# 石田
石田は、しばらく、黙っていた。
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それから、静かに、言った。
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『……そうか』
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# 石田
「では、私も」
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石田は、続けた。
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「その、仲間、なのだな」
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# 誠
誠は、少し、笑った。
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「そうですね」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「じいちゃん、田中さんが言ってました。見守るという仕事がある、って。何もしなくても、見てるというだけで、守られてる気になる人がいる、って。今日、お客さんが言ってくれました。誠さんがいると、この店が大丈夫だって分かる、って。ルカも言ってました。俺が何も言わなくても、安心する、って。石田さんとも話しました。一万三千年、動けなかったから、見ることしかできなかった、って。俺も、同じです、って言いました。体が動かなくなってきたから、見てます、って。石田さんが、寂しかった、けど、今はもう寂しくない、って言ってくれました。それから、俺がいなくなっても話しかけに行ってくれる人がいるから大丈夫です、って言ったら、いなくなる話はするな、って怒られました。まだ早い、って。じいちゃん、みんな、同じ言葉を使うんですね。石田さんも、その仲間になりました」*
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。「見ているだけの仕事」が、この星で、これから先も、ずっと大切にされ続けることを。
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——そしてもう一つ、まだこの時の誠は知らない。
自分が見てきたものの全てが、いずれ、誰かの支えになる日が来ることを。
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——今は......まだ、誰も——知らない。




