↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
593/617

第256話「杖が、増えた」

八十一歳に、なった。



# 変化


誠の、体は、さらに、衰えていった。



# 光景


朝、起き上がるのに、時間が、かかるように、なった。





店まで、歩くのも、以前より、ゆっくりに、なった。



# ルナ


聖女ルナが、毎週、診に、来るように、なった。



# 診察


「誠さん」



「はい」




ルナは、しばらく、脈を、診ていた。





「無理は、なさらないでください」




誠。



「してませんよ」




ルナ。



「毎日、店に、行ってますよね」




誠。



「はい」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「それが、俺の、無理しない方法です」




ルナは、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、少し、微笑んだ。





「そうですね」



# 田中


田中は、その頃、毎朝、誠の、家まで、迎えに、来るように、なっていた。



# 光景


「やおや」



「はい」




田中。



「いこか」




誠。



「はい」



# 支え


田中が、誠の、腕を、そっと、支えた。



# 誠


誠は、少し、驚いた。




「支えなくても」




田中。



「ええから」



# 田中


田中は、続けた。




「じいさんも」



「はい」




田中。



「さいごのころ」



# 田中


「わしが、ささえて、あるいた」



田中は、続けた。




「みちが、みじかくても」



「はい」




田中。



「ふたりで、あるくと、ながかった」



# 誠


誠は、その言葉に、しばらく、動かなかった。





そして、静かに、聞いた。





「じいさん、最後の頃、どんな様子でしたか」



# 田中


田中は、しばらく、考えた。





そして、言った。





「ゆっくりに、なった」



「はい」




田中。



「はなすのも」



# 田中


「あるくのも」



田中は、続けた。




「けど」



「はい」




田中。



「みせだけは、あけとった」



# 誠


誠は、頷いた。




「そうですね」



# 到着


二人は、店に、着いた。



# 誠


誠は、いつも通り、縁台に、座った。





けれど、その日から。





もう一本、杖が、隣に、置かれるように、なった。



# 田中


「よういしといた」




誠。



「二本目、ですか」




田中。



「かえりも、あるやろ」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「ありがとうございます」



# 続く日々


そういう日々が、続いた。



# ルカ


ルカが、ある日、聞いた。




「師匠」



「うん」




ルカ。



「田中さん、最近、毎朝、迎えに来てますよね」




誠。



「うん」




ルカ。



「いつからですか」



# 誠


誠は、少し、考えた。




「一ヶ月くらい前から」




ルカ。



「なぜですか」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「じいさんと、同じことを、してるみたいです」




ルカ。



「じいさんと」




誠。



「田中さん、じいさんを、最後、支えて歩いたそうです」



# ルカ


ルカは、しばらく、その話を、聞いていた。





そして、静かに、聞いた。





「師匠、それって」



# 誠


誠は、少し、間を、置いた。





そして、静かに、言った。





「同じことを、してくれてるんだと思う」



# 田中


その様子を、田中が、聞いていた。



# 田中


「やおや」



「はい」




田中。



「なにを、こそこそ、はなしとる」




誠。



「田中さんのことです」




田中。



「わしの、なにを」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「じいさんと、同じことを、してくれてるって」



# 田中


田中は、しばらく、黙っていた。





それから、少し、照れた声で、言った。





「……べつに、そんなつもりは」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「ありがとうございます」




田中。



「れいは、いらん」



# 田中


田中は、続けた。




「あんたも」



「はい」




田中。



「わしを、ずっと、まってくれた」



# 田中


「これは、そのれいや」



田中は、続けた。




「れいには、れいでかえす」




誠。



「そういうものですか」




田中。



「そういうもんや」



# 秋


そして、季節が、秋に、なった。



# 誠


誠は、店の、縁台に、座り続けた。



# 変化


けれど、少しずつ、座っている時間が、増えた。





そして、麦茶を、注ぐ役目も、少しずつ、ルカや、田中に、譲るように、なった。



# 誠


誠は、それを、見ながら、少し、寂しそうに、笑った。





「じいちゃんも、こんな気分だったのかな」



# エリナ


エリナが、隣に、来た。




「何が?」




誠。



「体が、動かなくなっていく感じです」



# エリナ


エリナは、しばらく、黙っていた。





それから、誠の、手を、握った。





「私も、そう」



# 誠


誠は、少し、笑った。




「一緒ですね」




エリナ。



「うん」



# エリナ


エリナは、続けた。




「でも」



「はい」




エリナ。



「動けなくなっても」



# エリナ


「ここに、座ってられる」



エリナは、続けた。




「それは、幸せだと思う」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、聞いていた。





そして、頷いた。





「そうですね」



# ある日


そして、ある、晴れた日。



# 誠


誠は、いつも通り、田中に、支えられて、店に、着いた。



# 誠


「田中さん」



「なんや」




誠。



「一つ、頼みが、あります」




田中。



「なんや」



# 頼み


「俺が、動けなくなったら」



誠は、続けた。




「店、開け続けてもらえますか」



# 田中


田中は、しばらく、黙っていた。





それから、静かに、言った。





「あたりまえや」



# 田中


「ルカも、おる」



田中は、続けた。




「エリナさんも、おる」



「はい」




田中。



「あんたが、うごけんくても」



# 田中


「みせは、あく」



田中は、静かに、言った。





「それだけは、たしかや」



# 誠


誠は、しばらく、その言葉を、噛みしめた。





そして、静かに、頷いた。





「ありがとうございます」





その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「じいちゃん、二本目の杖が、増えました。田中さんが、毎朝、支えて、迎えに来てくれます。じいさんが、最後の頃、田中さんに支えられて歩いた、って聞きました。田中さん、あんたが、わしをずっと待ってくれた、その礼だ、って言ってました。礼には礼で返す、って。今日、田中さんに頼みました。俺が動けなくなったら、店を開け続けてほしい、って。あたりまえや、ルカもおる、エリナさんもおる、あんたが動けんくても、店は開く、それだけは確かや、って言ってくれました。じいちゃん、俺、少しずつ、動けなくなってきてます。でも、怖くないです。エリナが言ってくれました。動けなくなっても、ここに座ってられる。それは幸せだと思う、って。じいちゃん、俺も、そう思います」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。



まだこの時の誠は知らない。「店は開く、それだけは確かや」という田中の言葉が、これから先、どれほど大きな意味を持つことになるのかを。



——そしてもう一つ、まだこの時の誠は知らない。


自分が座り続けるその縁台こそが、この星にとって、最も大切な場所の一つであることを。



——今は......まだ、誰も——知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。