第256話「杖が、増えた」
八十一歳に、なった。
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# 変化
誠の、体は、さらに、衰えていった。
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# 光景
朝、起き上がるのに、時間が、かかるように、なった。
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店まで、歩くのも、以前より、ゆっくりに、なった。
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# ルナ
聖女ルナが、毎週、診に、来るように、なった。
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# 診察
「誠さん」
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「はい」
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ルナは、しばらく、脈を、診ていた。
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「無理は、なさらないでください」
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誠。
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「してませんよ」
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ルナ。
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「毎日、店に、行ってますよね」
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誠。
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「はい」
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# 誠
誠は、少し、笑った。
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「それが、俺の、無理しない方法です」
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ルナは、しばらく、その言葉を、聞いていた。
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そして、少し、微笑んだ。
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「そうですね」
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# 田中
田中は、その頃、毎朝、誠の、家まで、迎えに、来るように、なっていた。
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# 光景
「やおや」
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「はい」
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田中。
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「いこか」
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誠。
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「はい」
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# 支え
田中が、誠の、腕を、そっと、支えた。
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# 誠
誠は、少し、驚いた。
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「支えなくても」
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田中。
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「ええから」
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# 田中
田中は、続けた。
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「じいさんも」
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「はい」
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田中。
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「さいごのころ」
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# 田中
「わしが、ささえて、あるいた」
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田中は、続けた。
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「みちが、みじかくても」
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「はい」
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田中。
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「ふたりで、あるくと、ながかった」
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# 誠
誠は、その言葉に、しばらく、動かなかった。
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そして、静かに、聞いた。
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「じいさん、最後の頃、どんな様子でしたか」
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# 田中
田中は、しばらく、考えた。
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そして、言った。
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「ゆっくりに、なった」
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「はい」
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田中。
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「はなすのも」
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# 田中
「あるくのも」
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田中は、続けた。
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「けど」
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「はい」
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田中。
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「みせだけは、あけとった」
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# 誠
誠は、頷いた。
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「そうですね」
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# 到着
二人は、店に、着いた。
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# 誠
誠は、いつも通り、縁台に、座った。
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けれど、その日から。
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もう一本、杖が、隣に、置かれるように、なった。
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# 田中
「よういしといた」
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誠。
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「二本目、ですか」
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田中。
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「かえりも、あるやろ」
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# 誠
誠は、少し、笑った。
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「ありがとうございます」
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# 続く日々
そういう日々が、続いた。
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# ルカ
ルカが、ある日、聞いた。
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「師匠」
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「うん」
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ルカ。
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「田中さん、最近、毎朝、迎えに来てますよね」
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誠。
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「うん」
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ルカ。
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「いつからですか」
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# 誠
誠は、少し、考えた。
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「一ヶ月くらい前から」
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ルカ。
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「なぜですか」
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# 誠
誠は、少し、笑った。
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「じいさんと、同じことを、してるみたいです」
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ルカ。
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「じいさんと」
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誠。
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「田中さん、じいさんを、最後、支えて歩いたそうです」
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# ルカ
ルカは、しばらく、その話を、聞いていた。
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そして、静かに、聞いた。
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「師匠、それって」
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# 誠
誠は、少し、間を、置いた。
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そして、静かに、言った。
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「同じことを、してくれてるんだと思う」
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# 田中
その様子を、田中が、聞いていた。
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# 田中
「やおや」
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「はい」
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田中。
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「なにを、こそこそ、はなしとる」
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誠。
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「田中さんのことです」
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田中。
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「わしの、なにを」
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# 誠
誠は、少し、笑った。
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「じいさんと、同じことを、してくれてるって」
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# 田中
田中は、しばらく、黙っていた。
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それから、少し、照れた声で、言った。
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「……べつに、そんなつもりは」
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# 誠
誠は、少し、笑った。
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「ありがとうございます」
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田中。
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「れいは、いらん」
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# 田中
田中は、続けた。
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「あんたも」
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「はい」
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田中。
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「わしを、ずっと、まってくれた」
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# 田中
「これは、そのれいや」
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田中は、続けた。
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「れいには、れいでかえす」
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誠。
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「そういうものですか」
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田中。
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「そういうもんや」
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# 秋
そして、季節が、秋に、なった。
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# 誠
誠は、店の、縁台に、座り続けた。
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# 変化
けれど、少しずつ、座っている時間が、増えた。
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そして、麦茶を、注ぐ役目も、少しずつ、ルカや、田中に、譲るように、なった。
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# 誠
誠は、それを、見ながら、少し、寂しそうに、笑った。
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「じいちゃんも、こんな気分だったのかな」
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# エリナ
エリナが、隣に、来た。
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「何が?」
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誠。
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「体が、動かなくなっていく感じです」
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# エリナ
エリナは、しばらく、黙っていた。
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それから、誠の、手を、握った。
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「私も、そう」
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# 誠
誠は、少し、笑った。
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「一緒ですね」
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エリナ。
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「うん」
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# エリナ
エリナは、続けた。
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「でも」
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「はい」
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エリナ。
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「動けなくなっても」
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# エリナ
「ここに、座ってられる」
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エリナは、続けた。
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「それは、幸せだと思う」
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# 誠
誠は、しばらく、その言葉を、聞いていた。
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そして、頷いた。
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「そうですね」
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# ある日
そして、ある、晴れた日。
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# 誠
誠は、いつも通り、田中に、支えられて、店に、着いた。
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# 誠
「田中さん」
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「なんや」
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誠。
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「一つ、頼みが、あります」
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田中。
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「なんや」
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# 頼み
「俺が、動けなくなったら」
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誠は、続けた。
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「店、開け続けてもらえますか」
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# 田中
田中は、しばらく、黙っていた。
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それから、静かに、言った。
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「あたりまえや」
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# 田中
「ルカも、おる」
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田中は、続けた。
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「エリナさんも、おる」
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「はい」
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田中。
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「あんたが、うごけんくても」
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# 田中
「みせは、あく」
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田中は、静かに、言った。
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「それだけは、たしかや」
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# 誠
誠は、しばらく、その言葉を、噛みしめた。
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そして、静かに、頷いた。
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「ありがとうございます」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「じいちゃん、二本目の杖が、増えました。田中さんが、毎朝、支えて、迎えに来てくれます。じいさんが、最後の頃、田中さんに支えられて歩いた、って聞きました。田中さん、あんたが、わしをずっと待ってくれた、その礼だ、って言ってました。礼には礼で返す、って。今日、田中さんに頼みました。俺が動けなくなったら、店を開け続けてほしい、って。あたりまえや、ルカもおる、エリナさんもおる、あんたが動けんくても、店は開く、それだけは確かや、って言ってくれました。じいちゃん、俺、少しずつ、動けなくなってきてます。でも、怖くないです。エリナが言ってくれました。動けなくなっても、ここに座ってられる。それは幸せだと思う、って。じいちゃん、俺も、そう思います」*
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。「店は開く、それだけは確かや」という田中の言葉が、これから先、どれほど大きな意味を持つことになるのかを。
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——そしてもう一つ、まだこの時の誠は知らない。
自分が座り続けるその縁台こそが、この星にとって、最も大切な場所の一つであることを。
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——今は......まだ、誰も——知らない。




