↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
戦争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/599

第54話「歌う会、開幕」

祭り当日、空は、抜けるように、晴れ渡っていた。



「よし、これで、準備は、万端だ」



誠は、朝から、村の広場に、設営された、大きな舞台を、見上げていた。



「田中さん、この舞台、随分、大きいですね」



エリナが、感心したように、その規模を、見渡した。



「うん……。誰が来ても、大丈夫なように、って思って」




実のところ、誠の頭には、ある「懸念」があった。



(グランデルさん、身の丈、三メートルもあるからな……)




普通の舞台では、明らかに、耐えられない。誠は、村の大工たちと、何日もかけて、頑丈で、大きな舞台を、組み上げていた。




「これなら、どんな体格の方が、乗っても、大丈夫でしょう」



村の大工が、自信ありげに、頷いた。





夕方になり、祭りは、いよいよ、佳境を迎えた。




「それでは、皆さん! お待ちかねの、"歌う会"を、始めます!」



村長の、開会の声とともに、広場に、村人たちの、大きな拍手が、湧き起こった。




「一番手は……」




その時だった。




「おう、田中! 待たせたな!」




地響きのような、声とともに、舞台の袖から、巨躯を、揺らしながら、グランデルが、姿を現した。




「うわ……本当に、来てくれたのか」




誠は、思わず、感動した。




「手紙、読んだで! 田中の、祭りやからな! 一番乗りで、来たったわ!」




三メートルの巨体が、舞台に上がると、頑丈に作られたはずの床が、それでも、ミシミシと、軋んだ。




(大工さんに、感謝しないと……!)




「ほな、いくで!」




グランデルが、大きく、息を吸い込んだ。




次の瞬間——




地を揺るがすような、大音量の、シャウトが、広場に、轟き渡った。




「オオオオオ〜! ワレラ、ミナ、ソウデアル〜!」




聞いたことのない、しかし、明らかに、力強い、雄叫びのような、歌が、始まった。




「な、なんだ、この、歌……!」




村人たちが、耳を塞ぎながらも、その、圧倒的な迫力に、目を丸くしていた。




「これ、歌、なんですか……?」



エリナが、耳を塞ぎながら、誠に、尋ねた。



「多分、そう、なんだと思う……」




グランデルの、地響きのような熱唱は、五分近く、続いた。




「フゥ〜! どうや、田中! ワシの、魂の歌!」




歌い終えたグランデルが、満足げに、舞台を、降りてきた。




「あの、耳が、まだ、キーンとしてる……」



村人の一人が、ふらつきながら、そう漏らした。




「二番手、どうぞ!」




続いて、舞台に上がったのは——




ぷるん、ぷるんと、震える、半透明の、小さな塊だった。




「あれ……皆瀬さん、来てくれたんだ」




誠は、思わず、嬉しくなった。




「では……歌います」




皆瀬——霧霊スライムの姿の彼女が、そう、震えながら、告げた。




不思議な、音の波動が、空気を、震わせ始めた。それは、言葉というよりも、微かな、振動と、共鳴のような、何かだった。




「これ……歌、なのか……?」




村人たちは、その、独特な"歌"に、皆、揃って、首を傾げた。




しかし、不思議と、その音は、聞いているうちに、どこか、心を、落ち着かせるような、響きを、持っていた。




「なんか……よく分からないけど、悪くない、かも」




エリナが、そう、呟いた。




数分後、皆瀬の"歌"は、静かに、終わった。




「拍手を、していいのか、分からないけど……」



村長が、戸惑いながらも、拍手を、送った。




「三番手、どうぞ!」




村長の、その声に、誠は、思わず、身を、固くした。




(まさか……)




舞台に、フードを深く被った、小柄な人影が、静かに、上がってきた。




(一色さん……!)




誠は、心の中で、その名を、呼んだ。




フードの下から、静かに、澄んだ、歌声が、流れ始めた。




それは、これまでの、二人の"歌"とは、全く、異なるものだった。




透き通るような、そして、どこか、切なさを、帯びた、美しい旋律。




村人たちが、次第に、静まり返り、その、歌声に、耳を、傾け始めた。




誠は、その歌を、聴きながら、胸が、締め付けられる思いがした。




(この歌、一色さんの、今の、気持ちが、込められている、気がする)




重い立場、複雑な葛藤。それでも、この一瞬だけは、誰でもない、一人の少女として、歌を、歌っている——




歌が、終わると、広場は、しばらく、静寂に、包まれた。




そして——




割れんばかりの、拍手が、湧き起こった。




「すごい……! なんて、綺麗な、歌なんだ……!」




「今日一番の、歌声だ!」




村人たちが、口々に、感嘆の声を、上げた。




フードの下から、一瞬、少しだけ、口元が、緩んだのが、誠には、見えた気がした。





それから、次々と、村人たちの、歌が、続いていった。




「よっしゃ、俺の番だな!」




竜崎が、豪快に、舞台に、上がる。




「フッ……我が、魂の詩を、聴かせてやろう」




黒崎も、いつもの調子で、舞台に、上がった。




「田中商会の、若い衆も、負けてられないぞ!」




トビアスたちも、次々と、舞台に、上がっていく。




祭りは、夜が更けるまで、賑やかに、続いた。





「それでは、皆さん! 本日の"歌う会"は、これにて、終了です!」




村長の、閉会の声とともに、大きな拍手が、湧き起こった。




「優勝者は、皆さんの、投票によって、決めさせていただきます。発表は、明日、この場で!」




村人たちの間に、期待に満ちた、ざわめきが、広がった。





祭りの片付けをしながら、誠は、フードを被ったままの、一色に、そっと、声をかけた。




「来てくれて、ありがとう」




「田中くんの、招待状、断れなかった」




一色は、静かに、そう、答えた。




「今日だけは……ただの、一色美奈子でいられた気がする」




その言葉に、誠は、少し、胸が、熱くなった。




「また、機会があれば、来てほしい」




「うん……。また、こっそり、来るね」




一色は、そう言うと、夜の闇に、静かに、紛れていった。





その夜、誠は、疲れた、しかし、満たされた気持ちで、祖父のノートを、開いた。


「祭りの、歌う会が、無事、終わった。グランデルさんの、地響きのような歌、皆瀬の、不思議な音の"歌"、そして、一色さんの、美しい歌声。それぞれ、全く違う"歌"だったけど、みんな、それぞれの、今の気持ちを、乗せていたんだと思う。優勝は、明日の発表だけど、僕にとっては、みんなが、来てくれたことだけで、もう、十分だった。じいちゃん、今日は、いい一日だったよ」




窓の外、二つの月が、賑やかだった祭りの後の、静かな村を、優しく、照らしていた。




まだこの時の誠は知らない。明日の、優勝発表が、この祭りに、思いがけない、もう一つの、感動的な結末を、もたらすことになることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。