第52話「祭りの企画」
天界の神様との、あの、脈絡のない雑談を、ふと、思い返していた時だった。
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「そういえば……」
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誠は、あの日の会話の中に、妙に、引っかかる一言が、あったことに、気づいた。
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「最近、下界で、随分と、複雑な事情が、起きとるみたいやなぁ」
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その、何気ない一言の後、神様は、こうも、言っていた。
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「兄ちゃんの探しとる相手な、実は、"将軍"やのうて、もっと、上の立場になっとるかもしれへんでぇ」
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(あの時は、聞き流してしまったけど……)
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誠は、その言葉の意味を、改めて、考え込んだ。
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(将軍より、上の立場……つまり……)
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「まさか、一色さんが、皇帝……?」
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誠は、思わず、その可能性に、息を呑んだ。
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もし、それが、本当だとしたら——あの、小さな体の少女は、この帝国の、頂点に、立っているということになる。
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(でも、今、僕にできることは、限られている)
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誠は、深く、息を吐いた。
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たとえ、一色の立場が、どれほど、大きなものであったとしても、目の前の、日々の暮らしを、支え続けることしか、誠には、できなかった。
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「田中さん、今日も、薬草の手入れ、お願いします」
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エリナの声に、誠は、我に返った。
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「はい、すぐに」
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誠は、いつものように、店の裏の畑で、薬草の世話に、取り掛かった。
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重税、そして、複雑な事情を抱えた再会。それでも、日々の暮らしは、続いていく。
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そんな、ある日のことだった。
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「田中さん、村長が、皆さんを、集めています」
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トビアスが、慌てた様子で、伝えてきた。
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村の広場に、村人たちが、集まっていた。
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「皆、聞いてくれ」
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村長が、静かに、しかし、力強く、切り出した。
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「この、重い税の中で、みんなが、随分と、気を、滅入らせているのは、分かっている」
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村人たちの間に、静かな、頷きが、広がった。
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「だからこそ、提案したいことがある。今度、村で、祭りを、開こうと思う」
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「祭り、ですか」
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誰かが、そう、声を上げた。
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「ああ。金がなくとも、心まで、貧しくなる必要はない。皆で、少しでも、笑って過ごせる、そんな場を、作りたいんだ」
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村人たちの表情に、わずかながら、明るさが、戻り始めた。
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「田中さん」
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村長が、誠に、視線を向けた。
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「お前さんには、この祭りの、企画に、加わってほしい」
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「僕が、ですか」
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「ああ。お前さんは、これまで、村の色んな困難を、乗り越えてきた。その、知恵を、貸してほしいんだ」
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誠は、少し、戸惑いながらも、頷いた。
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「わかりました。できる限りのことは、やってみます」
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こうして、誠は、村の祭りの、企画委員会に、加わることになった。
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「田中さん、何か、良い案は、ありますか」
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エリナが、真剣な顔で、尋ねてきた。
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「祭りって、これまで、村では、どんなことを、してきたんですか」
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誠は、まず、基本的なことから、尋ねてみた。
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「収穫祭では、焚き火を焚いて、皆で、踊ったりしてました」
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「今回は、それに、加えて、何か、皆が、楽しめる催しを、考えたいですね」
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誠は、こうした、企画立案には、あまり、慣れていなかった。研ぎ物や、薬草作りとは、全く、違う種類の、頭の使い方が、求められた。
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「田中殿、こういうのは、どうだ」
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企画会議に、竜崎も、顔を出していた。
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「うちの団の、力自慢大会、なんてのは」
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「力自慢、ですか」
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「ああ。俺の団員たちが、腕相撲とか、丸太運びとか、色々、種目を、考えてくれてる」
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「それは、盛り上がりそうですね」
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「田中よ」
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黒崎も、企画に、加わっていた。
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「我が、闇の魔法で、幻想的な、灯りの演出を、してやろうか」
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「それは、ぜひ、お願いしたい」
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こうして、少しずつ、祭りの企画は、形になっていった。
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「田中さんは、何か、目玉になるような、企画は、考えられますか」
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エリナが、期待を込めて、尋ねてきた。
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「うーん……」
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誠は、腕を組み、考え込んだ。
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「そういえば、あの、屋台の経験が、活かせるかもしれません」
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「屋台、ですか」
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「武闘大会の時、色んな屋台を、手伝いました。あの経験を、この祭りでも、活かせるかもしれません」
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「田中商会が、屋台を、出すということですか」
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「はい。それに、村の他の人たちにも、それぞれ、得意なものを、出店してもらうのは、どうでしょうか」
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「それなら、村のみんなが、参加者にも、なれますね」
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「あと、薬草茶の、無料提供コーナーも、作りましょう。皆さんの、日頃の疲れを、少しでも、癒せたら」
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企画は、次第に、具体的な形を、成していった。
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「あの、田中殿」
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鈴森からも、伝令が、届いた。
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「田中、祭りの話、聞いたぞ。うちの一族からも、珍しい、装飾品や、素材を、出店の品として、提供しよう」
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「田中くん、私たち霧霊スライム族も、水辺で、幻想的な、灯りの演出、手伝えるかも」
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皆瀬からも、心強い、申し出が届いた。
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「グランデルさんからも、連絡が」
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「田中、祭りやるんか! ワシらの一族も、余興、やらせてくれや! 三万の妖精、総出で、祭りに、花を、添えたるで!」
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こうして、誠のこれまでの、様々な繋がりが、この祭りの企画に、それぞれの形で、活かされていくことになった。
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「田中さん、こんなに、色んな種族が、協力してくれるなんて」
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エリナが、感慨深げに、そう言った。
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「みんな、それぞれの立場で、力を貸してくれてる」
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誠は、少し、誇らしい気持ちに、なりながら、そう答えた。
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「あの、重い気持ちも、少しは、紛れそうです」
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「僕も、同じ気持ちです」
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その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「村で、祭りを、開くことになった。重税で、沈んだ気持ちを、少しでも、明るくしようという、村長の提案だった。企画には、正直、苦労してるけど、みんなが、協力してくれる。じいちゃん、こんな時代でも、人は、笑うことを、忘れないでいたいものなんだな」
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窓の外、二つの月が、これから、始まる、祭りの準備を、静かに、見守っているようだった。
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まだこの時の誠は知らない。この祭りが、村の人々に、どれほどの、希望と、活力を、もたらすことになるのかを。
そして、この祭りの噂が、思いがけない形で——ある人物の耳にも、届くことになることも——今はまだ、知る由もなかった。




