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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
戦争

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第51話「大将軍」

一色との、あの路地裏での再会から、数日が過ぎた。



「田中さん、聞きましたか」



竜崎が、いつになく、緊張した面持ちで、店を訪れた。



「どうしたんだ」



「ガルディア帝国の、軍事パレードが、王都で、行われたらしい。その、先頭に立っていたのが……」



竜崎は、少し、言いにくそうに、続けた。



「"銀狐将軍"と呼ばれる、若き将軍だったそうだ。あのレールガンの、生みの親であり、今回の戦の、最大の功労者だと」




誠は、嫌な予感が、胸をよぎった。



「その将軍って……」



「詳しい素性は、分からん。ただ、随分と、小柄で、幼い姿をしている、という噂だ」




誠は、言葉を、失った。




(一色さんが……大将軍……?)




「田中、大丈夫か」



竜崎が、誠の様子に、心配そうに、声をかけた。



「ああ……ただ、少し、考えていて」




誠は、あの日、一色が語っていた言葉を、思い返していた。



「今は、こうやって……お忍びで、来てるだけなんだけど」




(お忍び、ということは……普段は、それだけ、目立つ立場に、いるということか)




誠は、あの、小さく、震えていた少女の姿と、"大将軍"という、大仰な肩書きが、うまく、結びつかなかった。



しかし、同時に、こうも、思わずにはいられなかった。




(彼女は、あの技術力で、この国を、負かすほどの、立場にまで、登り詰めた。それは、決して、簡単なことじゃなかったはずだ)




「田中、その"銀狐将軍"、まさか……」



竜崎が、誠の表情から、何かを、察したように、尋ねた。



「多分な。一色さん、だと思う」



「一色って、あの、クラスの隅にいた……」



「ああ」




竜崎は、しばらく、絶句していた。



「まさか、あの、大人しかった、一色が……」




その夜、誠は、重い気持ちを抱えたまま、なかなか、眠りにつくことができなかった。




それから、数日間、誠は、どんよりとした気分を、拭いきれずにいた。




「田中さん、大丈夫ですか。最近、元気が、ないようですが」



エリナが、心配そうに、声をかけてきた。



「ちょっと、色々、考えることが、多くて」




誠は、その気持ちを、うまく、言葉にすることができず、日々、店の奥にある、トイレに、こもりがちになっていた。




そんな、ある日のことだった。




誠が、いつものように、トイレで、一人、物思いに耽っていると——




「おう、兄ちゃん。久しぶりやなぁ」




その、聞き覚えのある、軽妙な、関西弁の声が、頭の中に、響いた。




「あ……あなたは……」




「天界サポートセンターの、担当の神ですわ。覚えてくれてはるみたいで、嬉しいでんな」




誠は、思わず、深い、ため息をついた。



「今日は、何の、ご用件でしょうか」




「いやぁ、実は、特に、用事はおまへんねん」




「またですか……」




「今日は、天界も、暇な日でしてなぁ。兄ちゃんが、最近、なんや、しょんぼりしとる、いう噂を、耳にしたもんで」




誠は、その言葉に、少し、驚いた。



「僕の様子まで、把握してるんですか」



「まあ、それなりに、な」




「せやから、今日は、ちょっと、雑談でもして、気ぃ、紛らわしたろう、思うてな」




「あの、それなら、レベルアップとか、何か、良い知らせでも……」




「いや、そういうのは、今日は、おまへんで」




「ないんですか……」




「せやかて、しょうもない、雑談に、付き合ってもらうだけの日も、あってええやろ」




誠は、力なく、肩を落とした。




「まあ、聞いてぇな。実はな、天界の食堂の話でんねんけどな……」




神様の、いつもの、脈絡のない話が、また、始まった。




「最近、天界の食堂で、新しいメニューが、始まってな。"クラウド・パフェ"言うんやけどな。雲を、そのまま、練り込んだような、ふわふわの、パフェでな……」




誠は、半ば、呆れながらも、その、脈絡のない話に、耳を、傾け続けた。




「それとな、最近、下界で、随分と、複雑な事情が、起きとるみたいやなぁ、思うてな」




その言葉に、誠は、少し、身構えた。



「あの、それは……」




「まあ、詳しいことは、こっちも、言えへんのやけどな」




神様の声は、いつもの、軽い調子ながらも、少しだけ、真剣な、響きを、帯びていた。




「兄ちゃん、辛い時は、辛い、言うてもええんやで」




誠は、その言葉に、思わず、目を、見開いた。




「……ありがとうございます」




「なんも、力になれへんかもしれへんけどな。まあ、こうやって、話、聞くくらいは、できるからな」




しばらくの、沈黙の後、神様の声は、また、いつもの、軽い調子に、戻った。




「ほな、続き、話してもええか。クラウド・パフェの、次はな、"レインボー・ドロップ"言う、飲み物がな……」




誠は、思わず、小さく、笑ってしまった。




「聞きます、聞きますよ」




結局、その日も、三十分近く、脈絡のない、雑談に、付き合わされることになった。



しかし、不思議と、誠の心は、少しだけ、軽くなっていた。




その夜、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「一色さんが、実は、敵国の大将軍だったらしい。あの、小さな体で、どれだけの重圧を、背負ってきたんだろう。気分が沈んでいたら、また、あの、関西弁の神様が、話しかけてきた。今日は、レベルアップの話は、なかったけど、なんだか、少し、救われた気がする。じいちゃん、こんな時でも、誰かが、話を聞いてくれるって、ありがたいことなんだな」




窓の外、二つの月が、静かに、輝いていた。




まだこの時の誠は知らない。一色美奈子という、大将軍が抱える、本当の孤独と、葛藤の、深さを。


そして、この後、彼女との関わりが、この国の、そして、誠自身の運命を、大きく、動かしていくことになることも——今はまだ、知る由もなかった。

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