第49話「重税」
敗戦から、一ヶ月が過ぎた。
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「田中さん、また、新しいお触れが、出ました」
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エリナが、一枚の掲示を、手に、店に戻ってきた。
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「今度は、何でしょうか」
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誠は、少し、身構えながら、その紙を、受け取った。
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「ガルディア帝国、統治令。属領となった当地における、租税を、以下の通り、改定する——」
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誠は、その数字を見て、思わず、絶句した。
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「これ……以前の、三倍以上、ですか」
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「はい……」
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「田中さん、これじゃあ、村のみんな、とても、生活していけません」
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エリナの声には、切実な不安が、滲んでいた。
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村の広場には、既に、多くの村人たちが、集まり始めていた。
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「こんな税、払えるわけがない!」
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「うちの畑の収穫じゃ、とても、足りやしないよ」
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村長も、深刻な表情で、その場に、立ち尽くしていた。
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「税を、滞納すれば、財産を、没収されるという。それどころか……」
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「それどころか?」
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「働き手を、強制的に、帝国の労役に、連れて行かれる、とも聞く」
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村人たちの間に、重い、絶望的な空気が、広がっていった。
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「王国は……もう、なくなってしまったんですね」
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誰かが、そう、ぽつりと、呟いた。
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その言葉が、誠の胸に、深く、突き刺さった。
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かつて、自国の王が、統治していたこの土地は、今や、その主権すら、失われようとしていた。国王は、名目上、残されているという話だったが、実質的な決定権は、既に、帝国の総督に、握られているという。
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「田中商会は、どうなるんだ」
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ゴラムが、心配そうに、誠に、尋ねてきた。
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「正直、分かりません。でも……」
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誠は、少し、考えを、巡らせた。
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「まず、村のみんなが、生活していけるよう、できることを、考えましょう」
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その日から、誠は、これまで以上に、忙しい日々を、送ることになった。
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「税の負担を、少しでも、軽くする方法を、考えないと」
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誠は、村長や、エリナ、そして、トビアスたちと、頭を、突き合わせた。
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「保存食を、もっと、効率よく作る方法を、皆に教えましょう。それで、少しでも、食料の無駄を、減らせるはずです」
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「薬草の栽培も、換金作物として、活用できないか、考えてみます」
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誠は、これまで培ってきた、あらゆる知識を、総動員し、村人たちの暮らしを、少しでも、支えようと、奔走した。
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しかし、それでも——
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「田中さんのところの、支援があっても……正直、限界が、近い家も、あります」
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エリナが、帳簿を見つめながら、深刻な表情で、そう報告した。
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「帝国の、この重税は……村を、根こそぎ、疲弊させるためのもの、なのかもしれません」
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誠は、その言葉に、静かに、拳を、握りしめた。
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「竜崎、鈴森、皆瀬、グランデルさん」
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誠は、これまでの、同級生たちに、改めて、手紙を、書き送ることにした。
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「この国の民が、重税に、苦しんでいる。何か、力を貸してもらえないだろうか」
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返事は、それぞれから、すぐに、届いた。
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「田中、うちの傭兵団の、報酬の一部を、村への支援に、回そう」
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竜崎からの、力強い、申し出だった。
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「田中くん、我ら虫人族の素材、これまで以上に、安価で、提供しよう。少しでも、村の負担を、減らせるなら」
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鈴森からも、心強い、協力の言葉が届いた。
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「田中、妖精族の縄張りで採れる、貴重な素材、いくらでも、融通したる。困った時は、お互い様や」
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グランデルからも、変わらぬ、友情が、示された。
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これらの支援に、誠は、深く、感謝しながらも、複雑な思いを、抱かずには、いられなかった。
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「僕たちだけの力では、どうにもならないことも、たくさんある」
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誠は、静かに、そう呟いた。
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その夜、誠は、疲れた体で、祖父のノートを、開いた。
「戦争に負けて、この国は、重い税を、課せられることになった。王国としての、実質的な力は、もう、失われてしまったのかもしれない。それでも、村のみんなと、同級生たちの力を借りて、少しでも、生活を、支えていきたい。じいちゃん、こんな時代でも、人は、支え合って、生きていけるはずだよね」
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窓の外、二つの月が、重税に喘ぐ村を、静かに、そして、どこか、寂しげに、照らしていた。
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まだこの時の誠は知らない。この重税による、村々の疲弊が、この後、思いがけない形で——民衆の間に、静かな、しかし、確かな、抵抗の芽を、育て始めることになることを。
そして、その動きの中心に、誠自身が、意図せずして、関わっていくことになることも——今はまだ、知る由もなかった。




