第47話「敗戦」
その日の空は、朝から、どんよりとした、重い雲に覆われていた。
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「田中さん、また、運ばれてきます!」
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トビアスの声に、誠は、すぐさま、駆け寄った。
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次から次へと、負傷者が、後方支援地点に、運び込まれてくる。
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しかし——
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死者は、運ばれてこなかった。
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それが、何を意味するのか、誠は、次第に、悟り始めていた。
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「戦況は、どうなっているんですか」
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誠は、運ばれてきた兵士の一人に、そっと、尋ねた。
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「駄目だ……戦場に、取り残された仲間を、収容する余裕すら、ない」
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その兵士は、力なく、そう答えた。
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「敵の武器が……これまでの、戦とは、まるで、違う」
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「違う、というと」
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「遠くから、目に見えないほどの、速さで、何かが、飛んでくる。剣も、盾も、まるで、意味をなさない」
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誠は、言葉を失った。
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「田中殿」
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竜崎が、憔悴しきった様子で、後方支援地点に、戻ってきた。
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「竜崎……」
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「駄目だ……近づく前に、味方が、次々と、倒されていく」
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竜崎の声には、これまでにない、絶望の色が、滲んでいた。
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「敵の武器、なんなんだ」
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誠が、尋ねた。
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「レールガン、とかいう、名前らしい。金属の弾を、途方もない速さで、撃ち出す兵器だ」
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「そんなものが……」
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「剣で、対抗できる相手じゃない。アルフレート様の力を持ってしても、あの、射程の外から、飛んでくる攻撃には、対処のしようがない」
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誠は、その言葉に、背筋が凍る思いがした。
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数日後——
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「国王陛下が、敗戦を、お認めになった」
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その報せは、静かに、しかし、確実に、村々にまで、広まっていった。
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「敗戦……」
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エリナが、その言葉を、震える声で、繰り返した。
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「これから、どうなるんですか」
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「隣国の統治下に、置かれることになるらしい」
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村は、これまでにない、重苦しい沈黙に、包まれた。
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「田中殿」
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黒崎が、疲れ果てた様子で、誠のもとを、訪れた。
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「防御結界も、あの武器の前では、ほとんど、意味をなさなかった」
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「そんなに、強力なのか」
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「魔法の理を、超えた、"何か"だ。あれは、もはや、我々の知る、戦の常識とは、別次元の、代物だった」
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その頃、王都では——
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アルフレートが、国王への謁見の場に、呼ばれていた。
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「アルフレート殿」
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国王が、深く、疲れ切った表情で、口を開いた。
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「此度の敗戦、貴殿の責任では、ない」
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「陛下……」
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「勇者とは、この国が、一時的に、雇い入れる、傭兵のようなものだ。正規の軍人とは、立場が、異なる」
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大臣の一人が、そう、補足するように、説明した。
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「今回の敗戦の責任は、我ら、国の指導者にある。貴殿には、その責を、負わせるつもりはない」
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アルフレートは、しばらく、無言のまま、その言葉を、受け止めていた。
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「陛下。私に、責任がないというのは、理解いたします。しかし……」
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アルフレートの声には、これまでにない、苦渋の色が、滲んでいた。
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「多くの兵士たちが、命を落とし、傷つきました。私が、もっと、力になれていれば……」
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「アルフレート殿」
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国王が、静かに、遮った。
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「貴殿は、既に、十分すぎるほどの、力を尽くしてくれた。あの、未知の兵器の前では、誰であっても、なす術は、なかっただろう」
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アルフレートは、深く、頭を下げた。
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「これから、この国は……どうなるのでしょうか」
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「隣国の、統治を、受け入れることになる。屈辱ではあるが、これ以上の犠牲を、出すわけには、いかぬ」
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謁見を終えたアルフレートは、重い足取りで、王都の外れへと、向かった。
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そこには、誠が、負傷兵の対応に、まだ、追われていた。
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「田中」
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「アルフレート様……」
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誠は、疲れ切った様子の、アルフレートを、見つめた。
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「敗戦の、報せは、聞いたか」
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「はい……」
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「田中、すまなかった」
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アルフレートが、静かに、頭を下げた。
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「アルフレート様が、謝ることでは、ありません」
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「いや……」
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「私は、勇者として、この国に、雇われていた。だが、あの、未知の武器の前では、私の剣も、無力だった」
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誠は、かける言葉を、見つけられなかった。
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「田中、これから、この国は、隣国の、統治下に、置かれる」
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「僕たちの村も、ですか」
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「おそらく、な」
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沈黙が、二人の間に、流れた。
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「アルフレート様は、これから、どうされるんですか」
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誠が、静かに、尋ねた。
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「私は、勇者という立場上、正式な、戦争責任は、問われないらしい。しかし……」
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アルフレートは、遠くを、見つめた。
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「私自身の、心の中には、この結果への、責任が、確かに、残る」
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「田中」
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「はい」
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「これから、この国の人々の暮らしは、大きく、変わっていくだろう。だが……」
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アルフレートは、誠の目を、まっすぐ、見つめた。
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「そんな中でも、田中のような者が、必要とされる場面は、きっと、多くあるはずだ」
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「戦うことしかできない私と、違ってな」
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その夜、誠は、重い気持ちのまま、祖父のノートを、開いた。
「戦争に、負けた。敵は、剣も及ばない、恐ろしい武器を、持っていたらしい。この国は、隣国の統治下に、置かれることになる。アルフレート様も、深く、責任を、感じているようだった。じいちゃん、これから、この村は、どうなっていくんだろう」
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窓の外、二つの月は——
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その日に限って、厚い雲に覆われ、見ることができなかった。
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まだこの時の誠は知らない。この敗戦が、この後の人生に、これまで以上に、大きな試練を、もたらすことになることを。
そして、この「レールガン」という、未知の武器を持つ隣国もまた、思いがけない形で——この後の物語における、重要な鍵を、握っていることになることも——今はまだ、知る由もなかった。




