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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
戦争

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第45話「戦争準備」

戦雲が近づいてから、半月が過ぎた。



村は、これまでにない、慌ただしさに包まれていた。




「田中さん、また、研ぎ物の依頼が!」



トビアスが、汗だくになりながら、店に駆け込んできた。



「今日だけで、もう、何本目だ……」



誠の店の軒先には、朝から晩まで、剣や槍を持った兵士たちが、列をなしていた。




「田中殿、これも、頼む」



「これも、急ぎで、お願いします」




誠は、トビアスや、他の弟子たちと共に、休む間もなく、研ぎ物の作業に、追われ続けていた。



「シャッ、シャッ……」



祖父から教わった、あの音が、店中に、絶え間なく、響いていた。




「これで、何本目でしょうか」



トビアスが、疲れた様子で、尋ねた。



「もう、数えるのを、やめました」



誠も、腕の疲労を、感じながら、そう答えた。




一方で、薬草の確保も、深刻な課題として、誠の頭を悩ませていた。



「田中さん、薬草の在庫が、思うように、増えません」



エリナが、帳簿を見つめながら、不安げに、報告した。



「栽培地を広げても、成長には、時間がかかりますし……」




「周辺の農家にも、声をかけてみましょう」



誠は、これまでの人脈を頼り、周辺の村々を、忙しく、駆け回ることになった。




「田中さんのところは、いつも、世話になってるからな。少しでも、力になれるなら」



以前、避難民の炊き出しで、協力してくれた農家の主人たちが、快く、薬草の栽培に、手を貸してくれた。



しかし——



「それでも、まだ、足りないな……」



戦争が本格化すれば、必要となる薬草の量は、これまでの比ではないことが、誠にも、次第に、分かってきていた。




「鈴森、皆瀬、力を貸してくれ」



誠は、手紙で、旧友たちに、協力を仰いだ。



「田中、うちの一族の縄張りにある、薬草に似た植物も、提供できると思う。詳しく、調べてみる」



鈴森からの、返事が届いた。




「田中くん、私たちの一族の知識も、活用できるかもしれない。湿地帯特有の、殺菌効果のある植物の情報を、まとめておくね」



皆瀬からも、心強い協力の申し出が届いた。




「黒崎、竜崎、桜庭も、それぞれ、準備を進めているようだ」



誠は、これまでの再会を通じて築いた、多くの繋がりに、改めて、感謝の念を抱いていた。




「田中よ」



ある日、黒崎が、村を訪れた。



「我が魔導の知識、少しは、役に立つかもしれん。防御結界の構築なら、心得がある」



「本当に、助かるよ」




「フッ……闇の力も、時には、光となる、ということだな」



「その、いつもの、言い回し……」



誠は、思わず、苦笑いした。




しかし、それでも、戦争の準備というものが、これまでの誠の経験とは、全く異なる種類の困難であることを、誠は、痛感し始めていた。




「アルフレート様は、どうされているのでしょうか」



エリナが、心配そうに、尋ねた。




その頃、王都では、アルフレートが、各地から集められた、様々な冒険者や、戦士たちと共に、戦略の練り直しに、追われていた。




「アルフレート様、こちらが、各地から集まった、戦力の一覧です」



部下の一人が、分厚い書類を、差し出した。



アルフレートは、それを、真剣な表情で、確認していった。




「思ったより、集まりが、良いな」



「はい。アルフレート様の、これまでの功績を、慕う者たちが、多く、志願しております」




しかし、アルフレートの表情には、これまでにない、深刻な影が、宿っていた。



「小競り合いは、既に、始まっているのだったな」



「はい。国境付近で、既に、数度の、衝突が報告されています。幸い、まだ、死者は出ておりませんが……」



「時間の、問題か」




アルフレートは、静かに、そう呟いた。




数日後、アルフレートが、久しぶりに、村を訪れた。



「田中、準備の方は、どうだ」



「研ぎ物と、薬草の確保に、追われています。でも、皆が、協力してくれて、なんとか、進んでいます」




「そうか」



アルフレートは、少し、安堵したような、表情を見せた。




「田中、正直に言おう」



「はい」



「私も、これほどの規模の、戦争の準備は、初めてだ」




誠は、少し、驚いた。



「アルフレート様でも、経験のないことが、あるんですね」



「当然だ。これまでの魔王軍との戦いとは、また、違う種類の困難がある」




「人間同士の、争いだからこそ、余計に、複雑なのかもしれん」



アルフレートの言葉には、これまでにない、重みが、感じられた。




「アルフレート様も、不安を、感じることが、あるんですね」



「もちろんだ。私とて、万能ではない」




その言葉に、誠は、少し、意外な気持ちを覚えた。これまで、常に、堂々としていたアルフレートの、素の姿を、垣間見た気がした。




「田中、これから、共に、乗り越えていこう」



「はい」




その夜、誠は祖父のノートに、こう書き加えた。


「戦争の準備が、本格化してきた。研ぎ物、薬草の確保、そして、仲間たちとの連携。やることは、山積みだけど、皆が、それぞれの立場で、力を貸してくれている。アルフレート様も、これまでにない、不安を、感じているようだった。じいちゃん、大きな戦いを前に、みんな、それぞれの形で、必死に、準備を進めているんだな」




窓の外、二つの月が、まだ、静かに、しかし、どこか、緊張感を、孕みながら、輝いていた。




まだこの時の誠は知らない。この小競り合いが、この後、本格的な戦争へと、発展していくことになることを。


そして、この準備期間が、誠にとって、そして、彼を取り巻く全ての人々にとって、これまでで最大の試練への、序章に過ぎなかったことも——今はまだ、知る由もなかった。

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