第44話「新たな戦雲」
村に戻って、数日が過ぎた頃だった。
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「アルフレート様!」
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村の入り口に、一人の伝令が、息を切らして、駆け込んできた。
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誠の店で、久しぶりに、ゆっくりとお茶を飲んでいたアルフレートが、その声に、すぐさま、立ち上がった。
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「何事だ」
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「王都より、火急のご報告です。西の隣国、ガルディア帝国が、国境付近に、軍を集結させているとの、確かな情報が入りました」
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「ヴァルデンが……」
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アルフレートの表情が、一瞬にして、引き締まった。
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「田中、聞いての通りだ」
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アルフレートが、誠に向き直った。
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「戦争、ですか」
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「まだ、確定ではない。現在、外交の場で、交渉が続いているところだ。だが……」
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「交渉が、決裂すれば」
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「ああ。その時は、避けられまい」
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「王都では、既に、防衛体制の見直しが、始まっている」
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伝令が、さらに、続けて報告した。
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「アルフレート様には、至急、王都への帰還を、要請いたします」
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「わかった、すぐに発つ」
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アルフレートは、素早く、旅装を整え始めた。
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「田中」
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「はい」
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「今回は、これまでの小競り合いとは、規模が違うかもしれん」
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アルフレートの表情には、これまでにない、深刻さが滲んでいた。
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「もし、本当に、戦争になれば……この村も、無関係では、いられないだろう」
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「僕たちに、できることは、ありますか」
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「田中には、頼みたいことが、ある」
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アルフレートは、少し、考えを整理するように、間を置いた。
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「戦争になれば、必ず、負傷者が出る。そして、これまでの経験からして……疫病や、物資の不足も、避けられまい」
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「はい」
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「田中の、薬草の知識と、商会の力。それが、この先、多くの人々の命を、支えることになるだろう」
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「わかりました。できる限りの、準備をしておきます」
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アルフレートは、深く、頷いた。
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「では、私は、一旦、王都へ戻る。詳しい状況が分かり次第、また、連絡する」
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「お気をつけて」
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アルフレートを見送った後、誠は、すぐに、村長のもとへと、向かった。
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「村長、大変なことに、なりそうです」
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誠から、事の次第を聞いた村長は、深く、息を吐いた。
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「またか……。前回の戦の傷も、まだ、癒えきってはいないというのに」
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「田中さん、これから、どうすれば」
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エリナも、不安げな表情を、浮かべていた。
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「まず、備蓄を増やしましょう」
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誠は、これまでの経験を活かし、冷静に、方針を立て始めた。
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「薬草の栽培量を、増やす必要があります。保存食も、可能な限り、蓄えておきましょう」
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「トビアス、竜崎の団にも、連絡を取ってもらえますか。物資の輸送や、いざという時の護衛について、相談したいことがあります」
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「わかりました、すぐに」
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誠は、これまでの、竜の襲撃、疫病、そして数々の困難を乗り越えてきた経験を、頭の中で、丁寧に整理していった。
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数日後、竜崎が、守り竜団を率いて、村を訪れた。
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「田中、聞いたぞ。ヴァルデンとの、緊張の話」
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「ああ。もし、戦争になれば、また、避難民の受け入れや、物資の供給が、必要になると思う」
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「うちの団も、全面的に、協力する。今度は、前回のような、悲しい思いは、させない」
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竜崎の目には、以前の喪失を乗り越えた、確かな決意が、宿っていた。
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「田中商会、そして、守り竜団。皆で、力を合わせましょう」
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誠は、そう言って、深く頷いた。
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その夜、鈴森や、皆瀬にも、状況を伝える手紙を、書き送ることにした。
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「戦争の気配が、近づいている。もし、力になれることがあれば、協力してほしい」
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返事は、すぐに届いた。
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「田中、我ら虫人族も、いつでも、力になる。特に、防具に使える、丈夫な素材の提供なら、任せてくれ」
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鈴森からの、心強い返答だった。
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「田中くん、私たち霧霊スライム族も、傷の治癒に役立つ知識で、協力できると思う」
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皆瀬からも、同様の申し出が、届いた。
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こうして、誠の周りには、これまでの再会と、絆を通じて築いてきた、様々な種族の協力体制が、静かに、しかし、確実に、整い始めていた。
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「田中さん」
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エリナが、少し、心配そうな顔で、誠に、話しかけてきた。
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「また、大変なことに、なりそうですね」
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「ああ……でも」
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誠は、これまでの経験を、思い返しながら、答えた。
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「一人じゃない。今回は、頼れる仲間が、たくさんいる」
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「はい」
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エリナも、静かに、頷いた。
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その夜、誠は祖父のノートに、こう書き加えた。
「隣国との、戦争の気配が、近づいている。前回よりも、規模が大きくなるかもしれない。でも、今の僕には、竜崎、鈴森、皆瀬、グランデルさん、そして、アルフレート様という、頼れる仲間がいる。じいちゃん、一人でできることには、限りがあるけど、みんなで力を合わせれば、きっと、乗り越えられると思う」
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窓の外、二つの月が、これから訪れるであろう、困難な日々を、静かに、見守っているようだった。
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まだこの時の誠は知らない。この新たな戦雲が、これまでで最大級の、試練の始まりであることを。
そして、この危機を乗り越える中で、誠自身と、彼を取り巻く、多くの仲間たちの絆が、さらに深く、そして強く、結ばれていくことになることも——今はまだ、知る由もなかった。




