第43話「マジックバッグの中身」
村への帰り道、その道中でのことだった。
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「田中、そろそろ、野営の準備をするか」
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アルフレートが、そう提案した。
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「はい……」
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誠は、疲れた体を引きずりながら、重いリュックを下ろした。
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「よし、まずは、テントだな」
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誠は、リュックから、村で借りてきた、簡素な布製のテントを取り出し、慣れない手つきで、組み立て始めた。
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「うぅ……この杭、なかなか、地面に刺さらない……」
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一方、アルフレートは——
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「よいしょ、と」
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腰のポーチから、何やら、小さな装置を取り出し、ポンと、地面に置いた。
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すると、次の瞬間——
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ブウン
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小さな装置が、みるみるうちに、大きな、立派なテントへと、展開していった。
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「な……なんですか、それ……」
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誠は、思わず、手を止めて、見入ってしまった。
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「ん? ああ、これか。マジックバッグに入っていた、便利な道具だ」
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アルフレートは、事も無げに、そう答えた。
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「便利な道具、って……」
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誠は、自分の、頑丈だが地味な布テントと、アルフレートの、瞬時に展開した立派なテントを、見比べた。
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「さて、火を熾すか」
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誠は、火打ち石を取り出し、慣れた手つきで、焚き火の準備を始めた。祖父から教わった、火の熾し方だった。
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「よし、これで……」
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パチパチと、小さな火が、灯り始める。
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一方、アルフレートは——
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「これも、便利でな」
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小さな箱型の装置を、地面に置いた。
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ピッ、ピッ
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装置から、軽い電子音が響き、次の瞬間、その中に入れた食材が、あっという間に、温かい湯気を、立て始めた。
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「な、なんですか、それ……!」
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誠は、目を丸くした。
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「これも、マジックバッグの中にあった。よく分からんが、"レンジ"とかいう名前が、刻んであった」
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「レ、レンジ……」
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誠は、自分の作った、硬いパンと、簡素なスープを見つめ、思わず、ため息をついた。
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「アルフレート様は、随分、快適そうですね」
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「うむ。正直、私も、これらの道具の使い方は、よく分かっていないのだが……使ってみると、非常に、便利でな」
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夜になると、さらに、驚くべきものが、次々と、姿を現した。
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「これも、なかなか、良いものでな」
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アルフレートが、小さな板状の装置を、地面に立てかけた。
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「ソーラーパネル、とか言ったか。日中、太陽の光を、蓄えておくらしい」
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「それで、この、"ポータブルバッテリー"とかいうものに、力を蓄えて……」
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アルフレートは、また別の装置を取り出し、それを、先ほどのテントの中に、繋ぎ込んだ。
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「アルフレート様、そのテント、中は、どうなってるんですか」
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誠は、恐る恐る、尋ねてみた。
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「見てみるか」
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アルフレートに促され、誠は、テントの中を、覗き込んだ。
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「な……なんですか、これは……」
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そこには——巨大な、ふかふかのベッド、そして、体を預けると、自然と背もたれが倒れる、見たこともない椅子が、鎮座していた。
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「"リクライニングシート"、と呼ぶらしい」
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「これで、野営を……?」
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「うむ。非常に、快適だぞ」
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さらに、テントの隅には——
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「これは……冷蔵庫、ですか」
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小さな箱から、アルフレートが、冷えた瓶を、取り出した。
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「ビール、というものらしい。冷えていて、なかなか、旨い」
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アルフレートは、そう言うと、優雅に、瓶を傾けた。
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誠は、自分の、硬いパンと、ぬるいスープを見つめ、そして、アルフレートの、快適な"野営"の様子を、見比べた。
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「アルフレート様……その、マジックバッグ、僕にも、貸していただくことは……」
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「田中の荷物は、なぜか、マジックバッグに入らなかったのだろう?」
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「そう、でした……」
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誠は、深く、肩を落とした。
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その夜、誠は、硬い地面に、薄い布を敷いただけの、簡素な寝床で、眠りについた。
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一方、隣のテントからは——
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「ふぅ……このリクライニングシート、実に、寝心地が良いな」
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アルフレートの、満足げな声が、漏れ聞こえてきた。
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翌朝、誠は、体のあちこちが痛む中、目を覚ました。
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「うぅ……体中、痛い……」
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一方、アルフレートは——
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「おはよう、田中。よく、眠れたか」
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実に、爽やかな表情で、テントから、出てきた。
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「アルフレート様は、随分、お元気そうですね……」
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「ああ、あのベッド、実に、快適だった」
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こうして、二人の帰路は、片や、原始的な野営、片や、驚くほど快適な"キャンプ"という、極端な対比を見せながら、進んでいった。
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「田中、疲れているようだな」
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「はい……正直、かなり」
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「マジックバッグの中身が、田中にも使えれば良かったのだがな」
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「本当に、そう思います……」
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「せめて、この、冷えたビールでも、一杯、どうだ」
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「あの、僕、あまり、お酒は……」
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「そうだったな。では、この、"炭酸飲料"は、どうだ」
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アルフレートが、また、見たこともない、シュワシュワと泡立つ飲み物を、差し出した。
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「ありがとうございます……」
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誠は、疲れた体に、その冷たい飲み物を、ありがたく、流し込んだ。
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数日間の帰路を経て、ようやく、村が見えてきた頃、誠は、既に、すっかり、憔悴しきっていた。
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「田中さん、お帰りなさい……って、大丈夫ですか!?」
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村に到着した誠を、エリナが、驚いた様子で、迎えた。
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「エリナさん……ただいま……」
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「随分、お疲れのようですが……」
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「色々、あって……」
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一方、アルフレートは——
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「いや、実に、快適な旅だった」
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爽やかな表情で、そう告げた。
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「アルフレート様は、随分、元気そうですね」
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エリナが、不思議そうに、両者の様子を、見比べた。
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「田中のマジックバッグが、なぜか、うまく機能しなくてな。私だけが、快適な旅を、楽しんでしまった」
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「そうだったんですね……」
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その夜、誠は、ようやく、自分の寝床——硬い地面ではない、柔らかい布団——に、倒れ込むように、横たわった。
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「ようやく、休める……」
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祖父のノートに、震える手で、こう書き加えた。
「妖精族の森からの帰り道、アルフレート様のマジックバッグの中には、見たこともない、便利な道具が、たくさん入っていた。僕の荷物は、なぜか、入らなかったから、ずっと、原始的な野営を続けることになった。じいちゃん、世の中には、便利な魔法の道具というものが、あるらしい。僕には、縁がなかったみたいだけど」
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窓の外、二つの月が、疲れ果てた誠を、静かに、見守っていた。
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まだこの時の誠は知らない。このアルフレートの「マジックバッグの中身」——見たこともない、不思議な道具の数々が、一体、どこから来たものなのか、その謎に、いつか、触れる日が来ることを。
そして、誠自身の疲労は、まだ、当分の間、癒えることがなさそうだった。




