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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
大魔法士への道

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第42話「三日三晩の宴、そして帰路」

グランデル——妖精王となった、隣のクラスの田中健太——の宣言通り、宴は、その夜だけでは、終わらなかった。


⸻


「田中ぁ! 今日も、飲むでぇ!」


⸻


翌朝、誠が目を覚ますと、既に、集落の広場では、二日目の宴の準備が、着々と進められていた。


⸻


「グランデルさん、まだ、続くんですか……」


⸻


「当たり前やろ! 三十年分の再会や、三日三晩、飲み明かすくらいで、ちょうどええわ!」


⸻


⸻


誠は、初日の酒が、まだ、体に残っているのを感じながら、力なく、そう答えた。


⸻


「僕、あまり、お酒、強くないので……」


⸻


「なに言うとんねん! 今日は、もっと、飲むで!」


⸻


⸻


こうして、二日目の宴が、始まった。


⸻


⸻


「田中、ほれ、これも、飲んでみい!」


⸻


グランデルが、次々と、妖精族秘伝の酒を、勧めてくる。


⸻


「あの、もう、僕、結構、限界が……」


⸻


「まあまあ、ええから、ええから!」


⸻


⸻


一方、アルフレートは——


⸻


「アルフレート様! こちらへ!」


⸻


「勇者様、ぜひ、こちらの席に!」


⸻


妖精族の女性たちに、囲まれるように、招かれていた。


⸻


「これは……」


⸻


アルフレートは、少し、困惑した様子を見せながらも、その丁重な歓待を、断りきれずにいた。


⸻


⸻


「アルフレート様、こちら、我らが一族秘蔵の、蜜酒でございます」


⸻


「勇者様のような、立派な方に、ぜひ、お酌をさせてください」


⸻


⸻


誠は、酔いの合間に、その様子を、ちらりと見やった。


⸻


(アルフレート様、なんか、すごいことになってるな……)


⸻


⸻


二日目の夜も、宴は、延々と、続いた。


⸻


「田中! お前、あの時の、体育祭の話、覚えとるか!」


⸻


「グランデルさん、その話、昨日、二時間くらい、聞きました……」


⸻


「そうやったか! ほな、もう一回、話したるわ!」


⸻


「い、いえ、もう、大丈夫です……」


⸻


⸻


誠は、既に、酒と、グランデルの終わらない昔話に、すっかり、消耗しきっていた。


⸻


⸻


三日目の朝。


⸻


「田中……」


⸻


エリナ——ではなく、宿泊部屋の使用人が、誠の様子を、心配そうに、覗き込んでいた。


⸻


「田中様、大丈夫でしょうか」


⸻


「うぅ……頭が、割れそうです……」


⸻


誠は、完全に、二日酔いに、やられていた。


⸻


⸻


「グランデル様が、今日も、宴を、お楽しみにされているようですが」


⸻


「今日は……ちょっと、休ませてください……」


⸻


誠は、そう言うと、力なく、布団に、倒れ込んだ。


⸻


⸻


その日一日、誠は、ほとんど、寝床から、動くことができなかった。


⸻


「田中の坊主、どないしてん?」


⸻


グランデルが、様子を見に来て、そう尋ねた。


⸻


「二日酔いで、ずっと、寝込んでます」


⸻


使用人が、そう報告すると、グランデルは、豪快に、笑った。


⸻


「そらそうやろ、あれだけ、飲ませたら」


⸻


「あの、グランデル様……」


⸻


「まあ、無理させて、悪かったな。今日は、ゆっくり、休ませたるわ」


⸻


そう言い残し、グランデルは、その日も、集落の広場で、盛大な三日目の宴を、一人(妖精族の民たちと共に)、繰り広げていた。


⸻


⸻


一方、アルフレートは——


⸻


「勇者様、こちらの舞も、ぜひ、ご覧ください」


⸻


「アルフレート様、明日は、私たちが、森を、ご案内いたしますわ」


⸻


三日目も、妖精族の女性たちに、囲まれ続けていた。


⸻


⸻


夕方、ようやく、誠は、頭痛から、解放され始めた。


⸻


「うぅ……ようやく、少し、楽になった」


⸻


誠は、ふらつきながら、寝床から、起き上がった。


⸻


⸻


「田中殿、目が覚めたか」


⸻


アルフレートが、部屋を、覗きに来た。


⸻


「アルフレート様……随分、賑やかそうでしたね」


⸻


「うむ……正直、少々、疲れた」


⸻


アルフレートも、珍しく、疲労を滲ませた表情をしていた。


⸻


「お互い、大変でしたね」


⸻


「ああ、本当にな」


⸻


⸻


その夜、誠は、ようやく、体調が戻ったのを機に、グランデルのもとを、訪ねた。


⸻


「グランデルさん、色々、お世話になりました」


⸻


「おお、田中、元気になったか」


⸻


「はい、なんとか」


⸻


⸻


「田中、そろそろ、帰るんか」


⸻


「はい。村の方も、心配してますし、そろそろ、戻ろうと思います」


⸻


「そうか……」


⸻


グランデルは、少し、寂しそうな顔を、見せた。


⸻


⸻


「田中、また、会いに来いよ。今度は、もっと、ゆっくり、飲もうや」


⸻


「あの、次は、もう少し、お手柔らかに、お願いします……」


⸻


誠は、思わず、苦笑いした。


⸻


「わかっとる、わかっとる。まあ、次も、三日三晩は、覚悟しとけ」


⸻


「覚悟したくないんですが……」


⸻


⸻


翌朝、誠とアルフレートは、妖精族の集落を、後にすることになった。


⸻


「田中、これ、餞別や」


⸻


グランデルが、大きな袋——妖精族秘伝の、様々な薬草や、素材が詰まったもの——を、誠に手渡した。


⸻


「ありがとうございます、グランデルさん」


⸻


「なんかあったら、いつでも、頼ってこいよ。三万の妖精、田中のためなら、いつでも、動かしたる」


⸻


「そんな、大げさな……」


⸻


「大げさやない。同級生の、よしみやからな」


⸻


⸻


「アルフレート様も、また、いつでも、いらしてくださいませ」


⸻


妖精族の女性たちが、名残惜しそうに、アルフレートを、見送った。


⸻


「うむ……世話になった」


⸻


アルフレートは、いくぶん、複雑な表情で、そう応じた。


⸻


⸻


森を抜け、村への帰路につく道すがら、誠は、ふと、アルフレートの様子を、伺った。


⸻


「アルフレート様、随分、お疲れのようですね」


⸻


「田中……正直に言うと、あの三日間は、剣を振るう方が、まだ、楽だったかもしれん」


⸻


「お察しします」


⸻


⸻


「にしても」


⸻


アルフレートが、少し、笑いながら、続けた。


⸻


「田中の、あの体質……酒に関しても、随分と、弱いのだな」


⸻


「弱いというか……本当に、まともに、飲めないだけです」


⸻


「その割に、グランデル殿は、随分と、田中に、酒を勧めていたな」


⸻


「本当に、勘弁してほしかったです……」


⸻


⸻


重いリュックを背負い直しながら、誠は、来た道を、再び、歩き始めた。


⸻


⸻


その夜、野営の焚き火の傍らで、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「妖精族の王、グランデルの村で、三日三晩の宴が開かれた。僕は、二日酔いで、ほとんど寝込んでいたけど、グランデルさんの歓迎の気持ちは、よく伝わった。アルフレート様は、また別の意味で、大変そうだった。じいちゃん、旧友との再会って、こんなにも、体力を使うものなんだな」


⸻


窓の外、二つの月が、旅の疲れを労うように、静かに、輝いていた。


⸻


まだこの時の誠は知らない。この妖精族との縁が、この後の戦争において、思いがけない、大きな援軍となって、誠たちを、助けることになることを。


そして、村に戻った誠を、また新たな、日常と、そして、次なる試練が、待ち受けていることも——今はまだ、知る由もなかった。

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