第41話「妖精王、グランデル」
グランデルと名乗った、身の丈三メートルはあろうかという妖精の長は、玉座から身を乗り出すようにして、誠の顔を、まじまじと見つめていた。
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「……え、田中、健太?」
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誠は、記憶の糸を、必死に手繰り寄せていた。
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(田中健太……同じ苗字の……確か、隣のクラスに、いたような、いなかったような……)
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「あの、すみません。同じ苗字、というのは、覚えてるんですが……」
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「せやろ、せやろ! 同じ苗字やから、覚えとるやろ!」
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グランデルが、嬉しそうに、身を乗り出した。
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「あの、でも、顔の方は、正直、あまり……」
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「……。」
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グランデルの動きが、ぴたりと、止まった。
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「……おい」
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「す、すみません、隣のクラスだったので、あまり、接点が……」
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「隣のクラス……」
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グランデルが、玉座に、がっくりと、崩れ落ちた。
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「そうか……ワシ、田中"誠"やのうて、隣のクラスの田中"健太"やったんか……」
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隣で、様子を見守っていたアルフレートが、思わず、小さく吹き出した。
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「アルフレート様、笑わないでください……」
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「いや、しかしなぁ」
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グランデルが、気を取り直すように、また、身を乗り出した。
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「同じ学校やったことには、変わりないやろ! なあ、なんか、覚えとらんか、ワシのこと!」
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誠は、必死に、記憶を辿った。
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「あの……もしかして、体育祭で、リレー、途中で転んだ方、ですか」
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「せや! それやそれ! 三歩で転んだ、あの田中や!」
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「あと、修学旅行で、財布、なくしませんでしたか」
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「おお、それも覚えとるんかい! みんなで、探し回ってくれたやつやろ!」
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グランデルの顔が、パアッと、明るくなった。
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「なんや、ちゃんと、覚えとるやんけ! さっきの『全然覚えてない』は、なんやったんや!」
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「顔と名前が、すぐには一致しなかっただけで……その、エピソードは、ちゃんと、覚えてます」
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「ほな、よかったわ……。ワシ、本気で、傷つくとこやったで」
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グランデルは、大きな体を、ほっと、緩めるように、玉座に、深く腰掛けた。
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「にしても、まさか、こんな姿になっとるとは、思わんかったやろ」
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グランデルが、自分の巨躯を、誇らしげに、見せつけた。
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「妖精族の王、グランデル。三万の妖精を、束ねる立場や」
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「妖精族って、皆さん、こんなに、大きいんですか」
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「いや、普通の妖精は、もっと小せぇで。ワシは、王やから、特別、でかいんや」
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「田中……いや、健太くんは、どうやって、この森に?」
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アルフレートが、興味深げに、尋ねた。
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「ああ、転移してすぐ、この森に迷い込んでな。最初は、そこらの、小っこい妖精と、変わらん大きさやったんやけど……」
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グランデルは、少し、懐かしそうに、続けた。
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「妖精族には、力を示すことで、序列が決まる仕組みがあってな。ワシ、なんでか知らんけど、無茶苦茶、腕っぷしが強くてな。あっという間に、頭角、現しよってん」
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「体育祭で、三歩で転んでた人が……?」
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「その節は、忘れてくれ」
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「田中は、どないしてん、この森まで?」
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グランデルが、話を、誠の方に、振ってきた。
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「実は、同級生を探して、旅をしてるんです」
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誠は、これまでの経緯——黒崎、竜崎、桜庭、鈴森、皆瀬——を、順を追って、説明した。
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「なんや、随分、集めとるやんけ」
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グランデルは、感心したように、頷いた。
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「あの黒崎の坊主、闇魔法の天才、なっとんのか。相変わらず、中二病、拗らせとんな」
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「まさに、その通りです」
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「にしても、田中……あの、目立たへんかった田中が、こんなに、色々やっとるとはな」
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グランデルが、しみじみと、そう言った。
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「目立たなかった、って、皆さん、そう言いますね」
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「せやかて、事実やろ。ワシも、正直、教室で、あんまり、田中の存在、意識したことなかったし」
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「それは……お互い様、かもしれません」
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「まあ、ええわ。今日は、久しぶりの再会や。歓迎するで」
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グランデルが、玉座から、立ち上がった。
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「宴の準備、させたるわ。妖精族自慢の、酒と、料理で、もてなしたる」
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「ありがとうございます」
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その夜、妖精族の集落では、思いがけない、盛大な宴が催されることになった。
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「田中、飲めや飲めや!」
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グランデルが、豪快に、酒を勧めてくる。
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「あの、僕、あまり、お酒には強くなくて……」
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「なんや、そこは、変わらんのやな」
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グランデルは、そう言って、豪快に、笑った。
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「そういや、田中」
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宴もたけなわの頃、グランデルが、少し、真剣な顔になった。
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「さっき、言うとった、放課後の、昔話な」
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「はい」
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「三十年分、あるからな。覚悟しとけ、言うたやろ」
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「言ってましたね……」
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「せやから、今から、話したる。まずは、あの、体育祭の話からや」
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グランデルの独演会は、その夜、夜通し、延々と続いた。
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「あんな、体育祭のリレーな、あれ、実は……」
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誠は、酔いも回りながら、旧友——正確には、顔もあまり覚えていなかった、隣のクラスの同級生——の、長い長い昔話に、根気強く、付き合い続けた。
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「アルフレート様、すみません、こんな話に、付き合わせてしまって」
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誠が、小声で、そう詫びると、アルフレートは、静かに、笑った。
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「いや、構わん。田中の交友関係は、いつも、興味深いものばかりだ」
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夜が更け、グランデルの話が、ようやく、一段落した頃、誠は、既に、疲労困憊していた。
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「田中、明日は、ワシの領地、案内したるからな」
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「ありがとうございます……」
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「あと、な」
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グランデルが、少し、照れくさそうに、続けた。
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「今日、来てくれて、ほんまに、嬉しかったで。三万の妖精、束ねとっても……昔の知り合いに、会えることなんて、そうそう、あらへんからな」
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「僕も、会えて、嬉しかったです」
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その夜、誠は、宿泊部屋で、祖父のノートに、こう書き加えた。
「妖精族の王は、隣のクラスの、田中健太だった。最初、顔を覚えてなくて、少し気まずくなったけど、無事、仲直りできた。三十年分の昔話に、付き合わされて、正直、疲れたけど、悪くない夜だった。じいちゃん、この世界には、本当に、色んな形の再会があるんだな」
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窓の外、二つの月が、静かに、妖精族の集落を、照らしていた。
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まだこの時の誠は知らない。この妖精王グランデルとの縁が、この後の戦争において、思いがけない、大きな力になっていくことを。
そして、「隣のクラスの田中」という、もう一つの縁が、今後のシリーズにおいて、ちょっとした、ややこしい伏線として、機能していくことになることも——今はまだ、知る由もなかった。




