表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
大魔法士への道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/447

第40話「ボンバとの押し問答」

出発して、三日目のことだった。



「田中、その荷物、随分と、大きいな」



アルフレートが、誠の背負う、巨大なリュックサックを見て、そう言った。



「はい……なぜか、僕の荷物、マジックバッグに、入らなかったんです」



「マジックバッグ、使わなかったのか?」



「いえ、使おうとしたんですけど……」




出発前、村長が、餞別にと、貸してくれた「マジックバッグ」——見た目以上の容量を収納できる、いわゆる、四次元ポケットのような魔法の道具だった。



しかし、誠が、荷物を入れようとした瞬間——



「あれ……入らない……」



どういうわけか、誠の持ち物は、そのバッグに、一切、収まらなかった。祖父のノートも、乾燥薬草も、保存食も、まるで、見えない壁に阻まれるかのように、弾かれてしまうのだ。



「不良品、なんですかね」



村長に確認したところ、「今まで、そんなことは、一度もなかった」と、困惑された。




結局、誠は、通常の大きなリュックサックに、必要な荷物を、すべて詰め込むしかなかった。



一方、アルフレートは——



「私の荷物は、これだけだ」



腰に下げた、小さなポーチ一つ。剣も、着替えも、野営道具も、すべて、そのポーチの中に、難なく収まっていた。



「アルフレート様は、身軽ですね……」



誠は、重いリュックを背負いながら、羨望の眼差しを向けた。



「田中の荷物、なぜ、入らないのだろうな」



「魔力の相性、とか、あるんですかね……」



「もしかしたら、田中の膨大な魔力が、逆に、収納魔法と、干渉しているのかもしれん」



「またですか……」



誠は、深く、ため息をついた。魔法学院での一連の出来事を、思い出さずにはいられなかった。




道中、二人は、幾度となく、魔物と遭遇した。



「田中、そこの木の陰に、隠れていてくれ」



アルフレートが、そう指示を出す度に、誠は、素直に従った——つもりだった。



しかし、荷物の重さのせいで、思うように動けず、何度も、魔物の注意を、うっかり引いてしまうことになった。



「うわっ!」



誠が、重いリュックのバランスを崩し、転んだ拍子に、近くにいた狼型の魔物が、こちらに気づいてしまう。



「な、なんだ……!」



案の定、その狼は、誠と目が合った瞬間——赤く目を光らせ、みるみるうちに、体を膨れ上がらせていった。



「また、これか……!」



「田中、下がっていろ!」



アルフレートが、素早く前に出て、覚醒した狼を、瞬く間に斬り伏せた。



「た、助かりました……」



「田中の、この体質……本当に、油断ならんな」



「すみません……」



こうした一幕が、道中、何度も繰り返された。




「田中、大丈夫か。随分と、疲れているようだが」



「荷物が、重くて……」



「よければ、少し持とうか」



「いえ、大丈夫です。これくらいは……」



誠は、意地を張りながらも、重いリュックを背負い直し、なんとか、歩みを進めた。




五日目、ようやく、二人は、森の奥深く、これまでとは明らかに異なる、神秘的な雰囲気を纏う一角に、辿り着いた。



「ここが……妖精族の森、ですか」



木々の間から、淡い光が差し込み、辺り一面、幻想的な空気に包まれていた。



「ああ。ここから先は、より一層、慎重に進む必要がある」




森の入り口には、一体の、見慣れない小さな生物が、待ち構えていた。



丸い体、大きな目、そして、どこか、間の抜けたような、しかし、威圧感のある佇まい。



「止まれ。ここから先は、我らが一族の領域である」



その生物——名を「ボンバ」というらしい——が、そう告げた。



「私は、勇者アルフレート。以前、一度、この森を訪れたことがある」



「アルフレート……名前だけでは、通行の許可は、出せぬ」




「困りましたね」


誠が、小声で呟いた。



「以前来た時とは、違う守衛のようだ」




「我は、いかなる者にも、容易に道を譲らぬ。まずは、問答に、応じよ」



ボンバが、そう、宣言した。



「問答、ですか」



「然り。我が問いに、正しく答えられなければ、通すことは、まかりならぬ」




「では、参る」



ボンバが、目を細め、問いを発した。



「木の中で、最も、静かなるものは、何か」



「……木の中で、最も静かなもの、ですか」



誠は、少し、考え込んだ。



「あの、もしかして……年輪、でしょうか。中に刻まれた時間は、音を立てませんから」



ボンバの目が、微かに、動いた。



「……悪くない、答えだ。だが、まだ、完全ではない」



「え……」




「次の問いだ。水は、なぜ、方円の器に従うのか」



「これは……」



誠は、祖父の言葉を、思い出しながら、慎重に答えた。



「水は、争わないからだと、思います。器の形に、逆らわず、寄り添うことで、どんな場所にも、収まることができる」



「ふむ……」



ボンバは、少し、唸るような声を漏らした。




「そちらの答えは、及第点、といったところか。しかし、まだ、通行の許可を出すには、至らぬ」



「まだ、駄目なんですか……」



誠は、思わず、肩を落とした。




「アルフレート様、これ、どのくらい、続くんでしょうか」



「以前来た時も、随分と、長く問答をした記憶がある」



「そう、ですか……」




その後も、ボンバとの問答は、延々と続いた。



「風は、なぜ、目に見えぬのに、存在すると分かるのか」



「炎は、なぜ、上へと、向かうのか」



「言葉とは、何のために、あるのか」




誠は、一つ一つ、丁寧に、時に、祖父の教えを思い出しながら、答えていった。



一時間近くが経過した頃、ボンバの態度に、ようやく、変化が見え始めた。




「……ふむ。そなたの答えには、机上の知識ではなく、生きる中で得た、確かな実感が、宿っておるようだ」



「え……」



「よかろう。今宵は、そなたらを、村への滞在を、許可しよう」




「ほ、本当ですか……!」



誠は、思わず、安堵の声を上げた。



「ただし、これは、あくまで、一時の滞在の許可に過ぎぬ。我らが村長との対面は、また、別の話だ」



「わかりました」




ボンバに案内され、二人は、森のさらに奥へと、進んでいった。



やがて、木々の合間に、光り輝く、幻想的な集落が、姿を現した。



「これは……」



誠は、その美しさに、思わず、息を呑んだ。




集落の奥から、一人の、優雅な装いをした人物——妖精族の長らしき者が、姿を見せた。



「よくぞ、参られた。ボンバの問答を、突破するとは、久方ぶりのことです」



「お邪魔します。私は、勇者アルフレート。こちらは……」



「田中誠と、申します」




長は、しばらく、二人を、興味深げに見つめた後、静かに、告げた。



「今宵は、我らの村にて、ゆるりと、お休みください。詳しいお話は、明日、改めて、伺いましょう」




こうして、誠とアルフレートは、妖精族の集落での、一夜を過ごすことになった。




「田中、今日は、随分と、疲れただろう」



宿泊のために用意された、小さな家屋の中で、アルフレートが、労うように、そう言った。



「はい……荷物の重さと、ボンバさんの問答で、正直、へとへとです」



「よく、頑張ったな」




その夜、誠は、重いリュックから、祖父のノートを取り出し、こう書き加えた。


「妖精族の森に、ようやく辿り着いた。マジックバッグに荷物が入らなかったせいで、重いリュックを、ずっと背負う羽目になった。それに、道中、何度も、モンスターを覚醒させてしまった。ボンバという門番との問答も、大変だったけど、なんとか、一晩、泊めてもらえることになった。じいちゃん、明日は、どんな出会いが、待っているんだろう」



窓の外には、これまでとは違う、幻想的な光を放つ、二つの月が、静かに浮かんでいた。



まだこの時の誠は知らない。この妖精族の集落に、本当に、かつての同級生が、暮らしているのかどうか。


そして、明日の対面が、これまでの再会とは、また違った、思いがけない形で、展開していくことになることも——今はまだ、知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ