閑話「武道家になった巨人と黒い戦士」
きっかけは——噂、だった。
⸻
⸻
⸻
「——武道家たちが——とんでもなく——強くなった——らしい——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一人で——ゴーレムを——殴り——壊したらしい——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——滝を——殴って——流れを——変えたらしい——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——最後のは——本当か——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——知らん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——噂とは——そういうもの、である。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——その——噂を——聞いた者が——二人いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 一人目
⸻
⸻
⸻
⸻
——山の——向こうから——足音が——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ずしん。
⸻
⸻
⸻
——ずしん。
⸻
⸻
⸻
——ずしん。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——山が——揺れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——巨人だぁぁ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——村人が——逃げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——逃げるな、と——言いたいらしい。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——さらに——逃げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——デュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——全力で——逃げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そこへ——ゴウが——現れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——巨人を——見上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——弟子入りしたいか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——分かった」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——こうして——銀色の——巨人——ヒカルは——武道家の——弟子に——なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 二人目
⸻
⸻
⸻
⸻
——森の——中から——現れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——全身——黒い——装甲。
⸻
⸻
⸻
⸻
——大きな——複眼。
⸻
⸻
⸻
⸻
——鋭い——触角。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——跳んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ハッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——回った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——イヤァッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——着地した。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——トォー——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——また——跳んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゴウが——見ていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——弟子入りしたいか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダー——キィィィック——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——分かった」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——こうして——複眼の——戦士——カゲも——武道家に——なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 鍛錬
⸻
⸻
⸻
⸻
——鍛錬は——厳しかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——百回——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ヒカルは——地面を——殴った。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ズドン——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
——一回。
⸻
⸻
——二回。
⸻
⸻
——百回。
⸻
⸻
——千回。
⸻
⸻
——一万回。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——やりすぎだ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——デュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——地面が——陥没していた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲも——負けなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
——蹴る。
⸻
⸻
「——ハッ——!!」
⸻
⸻
⸻
——蹴る。
⸻
⸻
「——ライダー——キィィィック——!!」
⸻
⸻
⸻
——蹴る。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——ここで——武道家たちは——気づいた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲの——掛け声と——攻撃が——合っていない。
⸻
⸻
⸻
⸻
——かなり——合っていない。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——起きない。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ハッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——起きない。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——キィィィック——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——起きない。
⸻
⸻
⸻
⸻
——五秒後。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ドゴォン——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
——壁が——壊れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今のは——何だ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それは——今の——攻撃か——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ハッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——違う——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——キィィィック——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それも——違う——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダー——キィィィック——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それだ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは——頷いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——本人は——何も——問題だと——思っていなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 数月後
⸻
⸻
⸻
⸻
「——もう——一人前だ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゴウが——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
「——ライダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——二人は——実戦で——試したかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——相手を——探せ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## ヒカル対ガオゴン
⸻
⸻
⸻
⸻
——ヒカルの——相手は。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ガオゴン、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ガオ——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——四十メートルの——巨人を——見上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——試合が——始まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——セヤッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——ガオゴンは——動かない。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——デュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——動かない。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——動かない。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ジュワ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——動かない。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ズドォォォン——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——そこに——ガオゴンは——いなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ジュワ——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ヒカルが——見下ろした。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ガオゴンは——足元に——いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ガオ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——皆瀬が——通訳した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"攻撃する——ところ——分かりやすい"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワッ——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ヒカルが——飛び上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ガオ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"セヤッ、の——次に——来る"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——デュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ガオ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"だから——避けられる"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ヒカルは——考えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——掛け声と——攻撃を——ずらせば——いい。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——セヤッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——しない。
⸻
⸻
⸻
「——デュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——しない。
⸻
⸻
⸻
「——ダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——しない。
⸻
⸻
⸻
「——シュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——しない。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——突然——拳を——振り下ろした。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ズドォォォン——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——ガオゴンは——いなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ジュワ——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ガオ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"全部——フェイントにする人は——最後まで——フェイントだと——思われる"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——ヒカルは——無言を——試みた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「……」
⸻
⸻
⸻
⸻
「……」
⸻
⸻
⸻
⸻
「……」
⸻
⸻
⸻
⸻
——一刻。
⸻
⸻
——二刻。
⸻
⸻
⸻
「——ガオ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ガオゴンが——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ガオ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"いつ——攻撃するんですか"、"もしかして——掛け声が——ないと——攻撃できない?"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——図星、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ヒカルは——拳を——握った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——セヤッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ガオ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——避けた。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ズドォン——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
——地面が——割れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワッ……」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## カゲ対ウー
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲの——相手は——ウー、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ウーは——動かない。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ハッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——動かない。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——イヤァッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——動かない。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——トォー——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——動かない。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダー……——キィィィック——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ウーが——横へ——一歩。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲの——蹴りは——空を——切った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ウ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ドゴン——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲが——吹っ飛んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲが——立ち上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ウ」
⸻
⸻
⸻
⸻
——ドゴン——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダァ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——また——吹っ飛んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ウーは——首を——傾げていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——この——男。
⸻
⸻
⸻
⸻
——掛け声が——多すぎる。
⸻
⸻
⸻
⸻
——しかも——攻撃と——全然——合っていない。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは——最後の——作戦を——試みた。
⸻
⸻
⸻
⸻
——掛け声を——囮に——する。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ウーが——構えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ハッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——攻撃しない。
⸻
⸻
⸻
「——イヤァッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——攻撃しない。
⸻
⸻
⸻
「——トォー——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——攻撃しない。
⸻
⸻
⸻
「——ライダー……——キィィィック——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ウーが——動いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
——蹴りを——回避した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは——にやりと——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
——成功——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
——ウーが——避けた——先に——拳が——
⸻
⸻
⸻
⸻
——なかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——なかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——特に——作戦は——なかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ただ——蹴りを——避けられた——だけ、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ウ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ドゴン——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダァァァァァ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲが——落ちた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 帰還
⸻
⸻
⸻
⸻
——夕方。
⸻
⸻
⸻
⸻
——道場。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゴウが——待っていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ヒカルが——戻ってきた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ぼこぼこ、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——どうだった——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワ……」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——負けたか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——デュワ……」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——かなり?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ダー……」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲも——戻ってきた。
⸻
⸻
⸻
⸻
——こちらも——ぼこぼこ、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダー……」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——負けたか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ハッ……」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——かなり?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——イヤァ……」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゴウは——うなずいた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——何が——悪かった——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——武道家たちが——集まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——掛け声と——攻撃の——タイミングだな」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ヒカルの——掛け声は——もはや——音楽だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——攻撃と——関係の——ないところで——鳴っておる」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワッ……」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダー……」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一度——掛け声を——禁止して——みたら——どうだ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——二人が——固まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——震えている。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——どうした——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——ヒカルが——震えながら——口を——開いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「……」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——言えない。
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲも——震えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「……」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——言えない。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——まさか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——掛け声が——ないと——技が——出せないのか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——セヤッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——やっぱりか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 無言鍛錬
⸻
⸻
⸻
⸻
——翌日から——無言鍛錬が——始まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「……」
⸻
⸻
⸻
——パンチ。
⸻
⸻
⸻
——ドン——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
「……」
⸻
⸻
⸻
——キック。
⸻
⸻
⸻
——ドン——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
——順調、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
——武道家たちが——感心した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いいぞ——!!」
⸻
⸻
⸻
「——成長した——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——十日目。
⸻
⸻
⸻
⸻
——模擬戦が——始まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ヒカルと——カゲが——向かい合う。
⸻
⸻
⸻
⸻
——静かに——構えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ドン——!!
⸻
⸻
⸻
——ドン——!!
⸻
⸻
⸻
——ドン——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
——三十秒、後。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——セヤッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——ヒカルが——我慢できなく——なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲも——我慢できなく——なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——!!」
⸻
⸻
⸻
「——!!」
⸻
⸻
⸻
「——!!」
⸻
⸻
⸻
「——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゴウが——黙って——見ていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——武道家たちも——黙って——見ていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——また——始めてしまった」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——押忍」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## さらに数月後
⸻
⸻
⸻
⸻
——それから——数月。
⸻
⸻
⸻
⸻
——二人は——ずっと——強くなった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——黒帯。
⸻
⸻
⸻
——上級武道家。
⸻
⸻
⸻
——一人前。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——掛け声の——ズレは——さらに——ひどくなった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——なぜか。
⸻
⸻
⸻
⸻
——二人とも——わざとずらす——技術を——覚えてしまったから、である。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——セヤッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——起きない。
⸻
⸻
⸻
「——デュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——起きない。
⸻
⸻
⸻
「——シュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——起きない。
⸻
⸻
⸻
⸻
——十秒後。
⸻
⸻
⸻
⸻
——山が——吹き飛んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——何の——攻撃だった——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——分からん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ライダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——起きない。
⸻
⸻
⸻
「——ハッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——起きない。
⸻
⸻
⸻
「——ライダー——キィィィック——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——起きない。
⸻
⸻
⸻
⸻
——三十秒後。
⸻
⸻
⸻
⸻
——遠くの——岩山が——崩れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——何の——攻撃だった——!!」
⸻
⸻
⸻
「——分からん——!!」
⸻
⸻
⸻
「——本人にも——分からんかもしれぬ——!!」
⸻
⸻
⸻
「——押忍——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——遠くから——声が——聞こえた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ガオーー——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——皆瀬が——通訳した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"また——模擬戦——しませんか"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——セヤッ——!!」
⸻
⸻
⸻
「——ライダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゴウが——二人を——見た。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——行って——こい——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——デュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
「——ハッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——二人が——走り出した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——後日。
⸻
⸻
⸻
⸻
——冒険者ギルドに——依頼が——出た。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
*——【特殊依頼】*
⸻
⸻
⸻
*——ヒカル、カゲの——模擬戦——相手——募集*
⸻
⸻
⸻
*——注意事項*
⸻
⸻
⸻
*——掛け声を——信じないこと*
⸻
⸻
⸻
*——掛け声の——直後も——警戒すること*
⸻
⸻
⸻
*——掛け声の——十秒後も——警戒すること*
⸻
⸻
⸻
*——掛け声の——三十秒後も——警戒すること*
⸻
⸻
⸻
*——本人たちも——攻撃の——タイミングを——把握して——いない——可能性あり*
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——赤字で——一言。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
*——「Gランク冒険者ガオゴンとの——模擬戦では、両名ともボコボコにされました」*
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ガオ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ガオゴンが——飛び上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"いや——ぼくも——かなり——怖かったんだけど……"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——なぜか。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ヒカルの——「セヤッ」の——十秒後に——地面が——吹き飛び。
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲの——「ライダーッ」の——三十秒後に——岩山が——崩れたから、である。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ガオゴンは——知っていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——二人は——弱くない。
⸻
⸻
⸻
⸻
——むしろ——ものすごく——強い。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ただ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——攻撃の——タイミングが——本人たちにも——分からない。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——それだけ、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——それだけで——模擬戦では——かなり——困った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——今日も——道場から——声が——響く。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——セヤッ——!!」
⸻
⸻
⸻
「——ライダーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
「——アタタタタタタタタタタ——!!」
⸻
⸻
⸻
「——チェストォォォ——!!」
⸻
⸻
⸻
「——イヤァァァ——!!」
⸻
⸻
⸻
「——押忍——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——山が——揺れた。
⸻
⸻
⸻
——村人が——窓を——閉めた。
⸻
⸻
⸻
——鳥が——逃げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——魔王が——遠くで——呟いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——頼むから——こっちには——来ないでくれ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——その——隣で——イグニスが——頷いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——同感だ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ガイウスも——頷いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——第二十三条——危険行為の——禁止だ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——補助スライムが——揺れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——オイラ——もう——通訳——やめる——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——研修——まだ——終わって——おらぬ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ですよね——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——こうして。
⸻
⸻
⸻
⸻
——世界最強クラスの——武道家たちの——鍛錬は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——今日も——続いている。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——その——中でも——特に——危険な——二人。
⸻
⸻
⸻
⸻
——四十メートルの——銀色巨人——ヒカル。
⸻
⸻
⸻
⸻
——複眼の——黒き——戦士——カゲ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——二人の——掛け声と——攻撃が——一致する——日は。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——まだ——かなり——遠い。
⸻
⸻
⸻
⸻
その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「ヒカルさんとカゲさんが、ゴウさんに弟子入りした。ヒカルさんが来た時は、村人が全員逃げてました。カゲさんは森から出てきて、"ライダーッ"、"ハッ"、"イヤァッ"、"トォー"、とやってたのを、ゴウさんが二秒で「弟子入りしたいのか」、「分かった」、と。……鍛錬は過酷でした。ヒカルさんが拳立てを一万回やって地面を陥没させてました。カゲさんの掛け声と攻撃は、最初から全然合ってなかった。「ライダーッ」、何も起きない、「キィィィック」、五秒後に壁が壊れる、って。でも本人は問題だと思ってなかった。……数月後、「一人前だ」、となって模擬戦の相手を探した。ヒカルさんの相手はガオゴンさん。……「セヤッ、の次に来る」、「だから避けられる」、って。全部フェイントにしたら、「全部フェイントにする人は、最後まで フェイントだと思われる」、って。無言を試みたら、「掛け声がないと攻撃できない?」、と図星を突かれてました。……カゲさんの相手はウーさん。全部の掛け声をかわされて、「ライダー……キィィィック」、だけ来る、と覚えられてた。最後、囮作戦を使おうとしたけど、特に作戦がなかったそうです。……二人ともぼこぼこで戻ってきた。「掛け声と攻撃のタイミングだな」、「掛け声がないと技が出せないのか」、「セヤッ」、「ライダーッ」、「やっぱりか」、って。……無言鍛錬を始めた。十日間は順調でした。でも模擬戦の三十秒後に、「セヤッ」、「ライダーッ」、と始まった。また始めてしまった。……さらに数月後、二人はもっと強くなった。でも掛け声はさらにひどくなった。「セヤッ」の十秒後に山が吹き飛び、「ライダーッ」の三十秒後に岩山が崩れた。ゴウさんが「何の攻撃だった」、「分からん」、「本人にも分からんかもしれぬ」、「押忍」、って。……ガオゴンさんがまた模擬戦を申し込んできた。二人は嬉しそうに走っていった。……ギルドに依頼を出しました。掛け声を信じないこと、直後も十秒後も三十秒後も警戒すること、本人たちも把握していない可能性あり、と。……でも、ガオゴンさんがまた勝ちました。「いや、ぼくも怖かったんだけど」、って。強いんです。ただ、タイミングが本人にも分からないだけで。……魔王さんが、「頼むからこっちには来ないでくれ」、って。ガイウスさんが第二十三条を持ち出してました。補助スライムが「通訳やめる」、「研修まだ終わっておらぬ」、「ですよね」、って。じいちゃん、掛け声が一致する日は、まだ遠そうです」*
⸻
心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
⸻
⸻
——たとえ——空に——見えなくても。
⸻
⸻
⸻
まだこの時の誠は知らない。「攻撃の——タイミングが——本人にも——分からない」、という——その、技術が。
⸻
⸻
——いつか——最も——必要な——場面で——使われることを。
そして——「ガオゴンが——勝つ」、という——この、結果が。
⸻
⸻
——なぜ——毎回——同じに——なるのかも。
⸻
⸻
⸻
——今は……まだ、誰も——説明——できない。




