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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「武道家になった巨人と黒い戦士」

きっかけは——噂、だった。





「——武道家たちが——とんでもなく——強くなった——らしい——!!」







「——一人で——ゴーレムを——殴り——壊したらしい——!!」






「——滝を——殴って——流れを——変えたらしい——!!」






「——最後のは——本当か——!!」






「——知らん——!!」







——噂とは——そういうもの、である。







——だが——その——噂を——聞いた者が——二人いた。









## 一人目






——山の——向こうから——足音が——した。







——ずしん。





——ずしん。





——ずしん。







——山が——揺れた。







「——巨人だぁぁ——!!」







——村人が——逃げた。







「——シュワッ——!!」







——逃げるな、と——言いたいらしい。







——だが——さらに——逃げた。







「——デュワッ——!!」







——全力で——逃げた。








——そこへ——ゴウが——現れた。







——巨人を——見上げた。







「…………」






「——弟子入りしたいか」








「——シュワッ——!!」







「——分かった」








——こうして——銀色の——巨人——ヒカルは——武道家の——弟子に——なった。









## 二人目






——森の——中から——現れた。







——全身——黒い——装甲。






——大きな——複眼。






——鋭い——触角。








「——ライダーッ——!!」






——跳んだ。






「——ハッ——!!」






——回った。






「——イヤァッ——!!」






——着地した。






「——トォー——!!」






——また——跳んだ。








——ゴウが——見ていた。






「…………」






「——弟子入りしたいか」








「——ライダー——キィィィック——!!」







「——分かった」








——こうして——複眼の——戦士——カゲも——武道家に——なった。









## 鍛錬






——鍛錬は——厳しかった。







「——百回——!!」







——ヒカルは——地面を——殴った。






——ズドン——!!






——一回。




——二回。




——百回。




——千回。




——一万回。







「——やりすぎだ——!!」






「——デュワッ——!!」








——地面が——陥没していた。








——カゲも——負けなかった。






「——ライダーッ——!!」





——蹴る。




「——ハッ——!!」





——蹴る。




「——ライダー——キィィィック——!!」





——蹴る。







——だが——ここで——武道家たちは——気づいた。







——カゲの——掛け声と——攻撃が——合っていない。






——かなり——合っていない。








「——ライダーッ——!!」






——何も——起きない。






「——ハッ——!!」






——何も——起きない。






「——キィィィック——!!」






——何も——起きない。






——五秒後。






——ドゴォン——!!






——壁が——壊れた。







「——今のは——何だ——!!」






「——ライダーッ——!!」






「——それは——今の——攻撃か——!!」






「——ハッ——!!」






「——違う——!!」






「——キィィィック——!!」






「——それも——違う——!!」






「——ライダー——キィィィック——!!」






「——それだ——!!」







——カゲは——頷いた。







——本人は——何も——問題だと——思っていなかった。









## 数月後






「——もう——一人前だ——!!」







——ゴウが——言った。







「——シュワッ——!!」





「——ライダーッ——!!」







——二人は——実戦で——試したかった。







「——相手を——探せ——!!」









## ヒカル対ガオゴン






——ヒカルの——相手は。







——ガオゴン、だった。







「——ガオ——!?」







——四十メートルの——巨人を——見上げた。








——試合が——始まった。







「——セヤッ——!!」






——ガオゴンは——動かない。






「——デュワッ——!!」






——動かない。






「——ダーッ——!!」






——動かない。






「——ジュワ——!!」






——動かない。






「——シュワッ——!!」







——ズドォォォン——!!







——だが——そこに——ガオゴンは——いなかった。







「——ジュワ——!?」







——ヒカルが——見下ろした。







——ガオゴンは——足元に——いた。







「——ガオ」








「——え?」







——皆瀬が——通訳した。







『——"攻撃する——ところ——分かりやすい"、って』








「——シュワッ——!?」







——ヒカルが——飛び上がった。






「——ガオ」







『——"セヤッ、の——次に——来る"、って』








「——デュワッ——!!」








「——ガオ」







『——"だから——避けられる"、って』








「…………」







——ヒカルは——考えた。







——掛け声と——攻撃を——ずらせば——いい。







「——セヤッ——!!」






——何も——しない。





「——デュワッ——!!」






——何も——しない。





「——ダーッ——!!」






——何も——しない。





「——シュワッ——!!」






——何も——しない。






——そして——突然——拳を——振り下ろした。






——ズドォォォン——!!







——だが——ガオゴンは——いなかった。







「——ジュワ——!?」







「——ガオ」







『——"全部——フェイントにする人は——最後まで——フェイントだと——思われる"、って』








「…………」







——そして——ヒカルは——無言を——試みた。







「……」






「……」






「……」






——一刻。




——二刻。





「——ガオ」







——ガオゴンが——言った。






「——ガオ」







『——"いつ——攻撃するんですか"、"もしかして——掛け声が——ないと——攻撃できない?"、って』








「…………」







——図星、だった。







——ヒカルは——拳を——握った。







「——セヤッ——!!」






「——ガオ——!!」







——避けた。






——ズドォン——!!






——地面が——割れた。







「——シュワッ……」









## カゲ対ウー






——カゲの——相手は——ウー、だった。







「——ライダーッ——!!」







——ウーは——動かない。






「——ハッ——!!」






——動かない。






「——イヤァッ——!!」






——動かない。






「——トォー——!!」






——動かない。






「——ライダー……——キィィィック——!!」







——ウーが——横へ——一歩。







——カゲの——蹴りは——空を——切った。








「——ウ」







——ドゴン——!!







——カゲが——吹っ飛んだ。








「——ライダーッ——!!」






——カゲが——立ち上がった。






「——ウ」






——ドゴン——!!






「——ライダァ——!!」






——また——吹っ飛んだ。








——ウーは——首を——傾げていた。







——この——男。






——掛け声が——多すぎる。






——しかも——攻撃と——全然——合っていない。








——カゲは——最後の——作戦を——試みた。






——掛け声を——囮に——する。







「——ライダーッ——!!」







——ウーが——構えた。






「——ハッ——!!」






——攻撃しない。





「——イヤァッ——!!」






——攻撃しない。





「——トォー——!!」






——攻撃しない。





「——ライダー……——キィィィック——!!」







——ウーが——動いた。






——蹴りを——回避した。







——カゲは——にやりと——した。






——成功——!!






——ウーが——避けた——先に——拳が——






——なかった。







——何も——なかった。







——特に——作戦は——なかった。







——ただ——蹴りを——避けられた——だけ、だった。








「——ウ」







——ドゴン——!!






「——ライダァァァァァ——!!」







——カゲが——落ちた。









## 帰還






——夕方。






——道場。






——ゴウが——待っていた。







——ヒカルが——戻ってきた。







——ぼこぼこ、だった。







「——どうだった——!!」






「——シュワ……」






「——負けたか」






「——デュワ……」






「——かなり?」






「——ダー……」







——カゲも——戻ってきた。






——こちらも——ぼこぼこ、だった。







「——ライダー……」






「——負けたか」






「——ハッ……」






「——かなり?」






「——イヤァ……」







——ゴウは——うなずいた。







「——何が——悪かった——!!」








——武道家たちが——集まった。







「——掛け声と——攻撃の——タイミングだな」






「——ヒカルの——掛け声は——もはや——音楽だ」






「——攻撃と——関係の——ないところで——鳴っておる」








「——シュワッ……」






「——ライダー……」








「——一度——掛け声を——禁止して——みたら——どうだ——!!」








——二人が——固まった。







——震えている。








「——どうした——!!」






——ヒカルが——震えながら——口を——開いた。






「……」






——何も——言えない。






——カゲも——震えた。






「……」






——何も——言えない。







「——まさか——!!」






「——掛け声が——ないと——技が——出せないのか——!!」








「——セヤッ——!!」






「——ライダーッ——!!」






「——やっぱりか——!!」









## 無言鍛錬






——翌日から——無言鍛錬が——始まった。







「……」





——パンチ。





——ドン——!!






「……」





——キック。





——ドン——!!






——順調、だった。






——武道家たちが——感心した。







「——いいぞ——!!」





「——成長した——!!」







——だが——十日目。






——模擬戦が——始まった。






——ヒカルと——カゲが——向かい合う。






——静かに——構えた。






——ドン——!!





——ドン——!!





——ドン——!!






——三十秒、後。







「——セヤッ——!!」






——ヒカルが——我慢できなく——なった。






「——ライダーッ——!!」






——カゲも——我慢できなく——なった。







「——!!」





「——!!」





「——!!」





「——!!」







「…………」







——ゴウが——黙って——見ていた。







——武道家たちも——黙って——見ていた。







「——また——始めてしまった」






「——押忍」









## さらに数月後






——それから——数月。






——二人は——ずっと——強くなった。







——黒帯。





——上級武道家。





——一人前。







——そして——掛け声の——ズレは——さらに——ひどくなった。







——なぜか。






——二人とも——わざとずらす——技術を——覚えてしまったから、である。








「——セヤッ——!!」






——何も——起きない。





「——デュワッ——!!」






——何も——起きない。





「——シュワッ——!!」






——何も——起きない。






——十秒後。






——山が——吹き飛んだ。







「…………」






「——何の——攻撃だった——!!」






「——分からん——!!」








「——ライダーッ——!!」






——何も——起きない。





「——ハッ——!!」






——何も——起きない。





「——ライダー——キィィィック——!!」






——何も——起きない。






——三十秒後。






——遠くの——岩山が——崩れた。







「——何の——攻撃だった——!!」





「——分からん——!!」





「——本人にも——分からんかもしれぬ——!!」





「——押忍——!!」







——そして——遠くから——声が——聞こえた。







「——ガオーー——!!」







——皆瀬が——通訳した。







『——"また——模擬戦——しませんか"、って』








「——セヤッ——!!」





「——ライダーッ——!!」







——ゴウが——二人を——見た。







「——行って——こい——!!」







「——デュワッ——!!」





「——ハッ——!!」







——二人が——走り出した。








——後日。






——冒険者ギルドに——依頼が——出た。








*——【特殊依頼】*





*——ヒカル、カゲの——模擬戦——相手——募集*





*——注意事項*





*——掛け声を——信じないこと*





*——掛け声の——直後も——警戒すること*





*——掛け声の——十秒後も——警戒すること*





*——掛け声の——三十秒後も——警戒すること*





*——本人たちも——攻撃の——タイミングを——把握して——いない——可能性あり*








——そして——赤字で——一言。







*——「Gランク冒険者ガオゴンとの——模擬戦では、両名ともボコボコにされました」*








「——ガオ——!!」







——ガオゴンが——飛び上がった。







『——"いや——ぼくも——かなり——怖かったんだけど……"、って』








——なぜか。






——ヒカルの——「セヤッ」の——十秒後に——地面が——吹き飛び。






——カゲの——「ライダーッ」の——三十秒後に——岩山が——崩れたから、である。







——ガオゴンは——知っていた。







——二人は——弱くない。






——むしろ——ものすごく——強い。







——ただ。







——攻撃の——タイミングが——本人たちにも——分からない。







——それだけ、だった。







——それだけで——模擬戦では——かなり——困った。








——今日も——道場から——声が——響く。







「——セヤッ——!!」





「——ライダーッ——!!」





「——アタタタタタタタタタタ——!!」





「——チェストォォォ——!!」





「——イヤァァァ——!!」





「——押忍——!!」







——山が——揺れた。





——村人が——窓を——閉めた。





——鳥が——逃げた。







——そして——魔王が——遠くで——呟いた。







「——頼むから——こっちには——来ないでくれ——!!」







——その——隣で——イグニスが——頷いた。







「——同感だ——!!」







——ガイウスも——頷いた。






「——第二十三条——危険行為の——禁止だ——!!」







——そして——補助スライムが——揺れた。







「——オイラ——もう——通訳——やめる——!!」






「——研修——まだ——終わって——おらぬ——!!」






「——ですよね——!!」








——こうして。






——世界最強クラスの——武道家たちの——鍛錬は。






——今日も——続いている。







——そして——その——中でも——特に——危険な——二人。






——四十メートルの——銀色巨人——ヒカル。






——複眼の——黒き——戦士——カゲ。







——二人の——掛け声と——攻撃が——一致する——日は。







——まだ——かなり——遠い。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「ヒカルさんとカゲさんが、ゴウさんに弟子入りした。ヒカルさんが来た時は、村人が全員逃げてました。カゲさんは森から出てきて、"ライダーッ"、"ハッ"、"イヤァッ"、"トォー"、とやってたのを、ゴウさんが二秒で「弟子入りしたいのか」、「分かった」、と。……鍛錬は過酷でした。ヒカルさんが拳立てを一万回やって地面を陥没させてました。カゲさんの掛け声と攻撃は、最初から全然合ってなかった。「ライダーッ」、何も起きない、「キィィィック」、五秒後に壁が壊れる、って。でも本人は問題だと思ってなかった。……数月後、「一人前だ」、となって模擬戦の相手を探した。ヒカルさんの相手はガオゴンさん。……「セヤッ、の次に来る」、「だから避けられる」、って。全部フェイントにしたら、「全部フェイントにする人は、最後まで フェイントだと思われる」、って。無言を試みたら、「掛け声がないと攻撃できない?」、と図星を突かれてました。……カゲさんの相手はウーさん。全部の掛け声をかわされて、「ライダー……キィィィック」、だけ来る、と覚えられてた。最後、囮作戦を使おうとしたけど、特に作戦がなかったそうです。……二人ともぼこぼこで戻ってきた。「掛け声と攻撃のタイミングだな」、「掛け声がないと技が出せないのか」、「セヤッ」、「ライダーッ」、「やっぱりか」、って。……無言鍛錬を始めた。十日間は順調でした。でも模擬戦の三十秒後に、「セヤッ」、「ライダーッ」、と始まった。また始めてしまった。……さらに数月後、二人はもっと強くなった。でも掛け声はさらにひどくなった。「セヤッ」の十秒後に山が吹き飛び、「ライダーッ」の三十秒後に岩山が崩れた。ゴウさんが「何の攻撃だった」、「分からん」、「本人にも分からんかもしれぬ」、「押忍」、って。……ガオゴンさんがまた模擬戦を申し込んできた。二人は嬉しそうに走っていった。……ギルドに依頼を出しました。掛け声を信じないこと、直後も十秒後も三十秒後も警戒すること、本人たちも把握していない可能性あり、と。……でも、ガオゴンさんがまた勝ちました。「いや、ぼくも怖かったんだけど」、って。強いんです。ただ、タイミングが本人にも分からないだけで。……魔王さんが、「頼むからこっちには来ないでくれ」、って。ガイウスさんが第二十三条を持ち出してました。補助スライムが「通訳やめる」、「研修まだ終わっておらぬ」、「ですよね」、って。じいちゃん、掛け声が一致する日は、まだ遠そうです」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「攻撃の——タイミングが——本人にも——分からない」、という——その、技術が。




——いつか——最も——必要な——場面で——使われることを。


そして——「ガオゴンが——勝つ」、という——この、結果が。




——なぜ——毎回——同じに——なるのかも。





——今は……まだ、誰も——説明——できない。

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