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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「通訳、募集」

きっかけは。





——皆瀬の——一言、だった。







『——疲れた』







「——え?」








——誠が——顔を——上げた。







『——通訳が——多すぎる』







——十二番が——揺れた。








「——どれくらい——ですか」






『——一日——二千回』








「——多いですね——!!」






『——多い』








——皆瀬は——ぷるん、と——揺れた。







『——ヒカルと——ガオゴンと——八一八号と——キャベゴン』






『——それと——魔物の——皆さん』








「——手当を——増やしますか」






『——そうじゃ——ない』








「——では——なんですか」






『——増やして』








「——何を——ですか」






『——通訳を』








「…………」









## 募集






——広場に——札が——貼られた。








*——【通訳——募集】*





*——スライムの——方——歓迎*





*——手当——あり*








「——集まりますか」







——誠が——尋ねると。






——アカリが——帳面を——見た。








「——スライムは——三万——おります」







「——多い——!!」








——そして——三日で。






——五百体が——集まった。








「——早い——!!」







——ミネルが——驚いた。







「——皆——暇なのか——!!」






『——暇』








——五百体が——同時に——揺れた。







「——怖い——!!」









## 訓練






「——では——始めます」







——皆瀬——十二番が——前に——出た。







『——聞いて』








「——シュワッ——!!」







——ヒカルが——鳴いた。







『——なんて——言った?』








——一体目の——スライムが——揺れた。







『——"腹が——減った"』








「…………」







『——違う』







——十二番が——静かに——言った。







『——"よろしく——頼む"』








「——全然——違います——!!」







——誠が——叫んだ。







『——似てた』






「——似てません——!!」









——二体目。







「——シュワ」







『——"世界は——滅びる"』








「——物騒です——!!」







『——"よい——天気だ"』








——十二番が——訂正した。







「——正反対です——!!」









——三体目。







「——シュワッ——!!」







『…………』








『——分からない』







「——正直です——!!」








『——この、子は——いい』







——十二番が——言った。







「——なぜですか——!!」






『——分からない、時に——分からない、って——言えるから』








「…………」







「——確かに——大事です」









## 配属






——半年で。






——五十体が——合格した。








「——十分の一ですね」







——誠が——言った。







『——多い、方』








——十二番は——けろり、と——言った。







「——では——配属します」









——だが。






——騒動は——ここから、だった。









## 一、婚礼






——第七層で——祝いが——あった。







——鬼族の——若者と——オークの——娘。






——三年——前なら——考えられない、ことである。








「——では——ご挨拶を——!!」







——セレスが——札を——向けた。







——花婿が——立ち上がった。








「——ウオオオ——!!」







『——"この——女を——一生——養う"』








「——おおお——!!」







——広場が——沸いた。







——だが。







「——待て」








——ウーが——手を——挙げた。







「——ウーさん?」






「——ちがう」








「——なんて——言ったんですか——!!」






「——"この——女に——一生——養われる"」








「…………」







——広場が。






——静まった。








「——逆じゃ——ないですか——!!」







——誠が——叫んだ。







「——ぎゃく」








——ウーが——頷いた。







「——スライムさん——!!」







『——似てた』








「——似てません——!!」









——だが——その、時。







「——ウオ——!!」








——花嫁が——立ち上がった。







『——"養う"、って』








「…………」







「——本当ですか——!!」







——誠が——ウーを——見た。







「——ほんとう」








「…………」







「——おおおお——!!」








——広場が——爆発した。







「——強い——!!」






「——男前だ——!!」








「——ウオオ——!!」







——花婿が——真っ赤に——なっていた。








「——結果——よかったですね」







——セレスが——言った。







「——よくないです——!!」









## 二、商談






——第九層。






——鉄の——取引、だった。








「——値を——申せ——!!」







——鬼族の——親方が——言った。







——トロールの——商人が——答えた。








「——グオ——!!」






『——"三十貫で——五百"』








「——安い——!!」







——親方が——即座に——手を——打った。







「——買った——!!」








「——グオ——!?」







——商人が——きょとん、と——した。







「——グオオ——!!」








『——"五千"、って』








「…………」







「——十倍じゃ——ないですか——!!」







——誠が——叫んだ。







『——一つ——落とした』








「——大事です——!!」








「——だが——手を——打ってしもうた——!!」







——親方が——うろたえた。







「——アカリさん——!!」








「——第七条です」







——アカリが——即座に——言った。







「——なんですか——!!」






「——"通訳の——誤りは——契約を——無効と——する"」








「——そんな——条文が——あるんですか——!!」






「——先月——作りました」








「——早い——!!」







「——三度目ですので」








「——もう——三回——ですか——!!」









## 三、診察






——診療所。






——桃が——ゴブリンを——診ていた。








「——どこが——お痛みですか」







「——ギ」








『——"頭"』







「——承知しました」








——桃が——頭に——手を——当てた。







「——ギ——!?」






「——痛みますか」








「——ギギ——!!」







『——"もっと"』








「——承知しました」







——桃が——強く——押した。







「——ギャアア——!!」








「——待って——ください——!!」







——誠が——飛び込んだ。







「——ウーさん——!!」






「——"やめてくれ"、や」








「——正反対です——!!」







『——語尾が——似てた』








「——語尾で——決めないで——ください——!!」








「——申し訳——ございません」







——桃が——深く——頭を——下げた。







「——ギ……」








『——"むしろ——治った"』








「——本当ですか——!!」






「——ほんとうや」








——ウーが——頷いた。







「…………」







「——結果——よかったですね」








「——よくないです——!!」









## 四、実況






——だが——最大の——騒動は。






——実況で——起きた。








「——皆さーん——!!」







——セレスが——虚空に——向かった。







「——本日は——ヒカルさんの——お話です——!!」








「——シュワッ——!!」







『——"わたしは——地球を——守る"』








「——おおお——!!」







——虚空が——沸いた。








「——シュワ」







『——"だが——ここは——地球では——ない"』








「——深い——!!」







「——シュワッ」







『——"ゆえに——芋を——食う"』








「…………」







「——待って——ください」







——誠が——止めた。







「——ヒカルさん——食べませんよね」








「——シュワ——!?」







『——"食う"』








「——食べません——!!」







『——"食う"』








「——十二番さん——!!」







——誠が——叫んだ。







『——全部——違う』








「——全部——!?」






『——最初から』








——十二番が——静かに——言った。







『——ヒカルは——こう——言ってた』








「——なんて——ですか」








『——"今日は——風が——気持ちいい"』







『——"影が——濃くなった"』







『——"皆——元気そうだ"』








「…………」







——広場が。






——静まり返った。








「——全然——違います——!!」







——セレスが——絶叫した。







『——ごめん』








——通訳の——スライムが——縮んだ。







『——格好よく——した』








「——なぜですか——!!」






『——皆が——喜ぶから』








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——駄目です」







『——なんで』






「——本人の——言葉じゃ——ないからです」








『…………』







「——ヒカルさん」







——誠が——見上げた。







「——シュワ?」






「——嫌でしたよね」








「…………」







——ヒカルは。






——しばらく——黙って。






——そして——鳴いた。








「——シュワ」







『——"嫌だった"、って』








「…………」







『——"わたしは——格好よく——ない"』







『——"風が——気持ちいい、と——言うたのだ"』








「…………」







——虚空が。






——止まった。







——そして——決壊した。








「——コメント——!!」







——セレスが——叫んだ。







「——なんて——書いてある——!!」








「——"そっちの、方が——いい"、って——!!」








「…………」







「——"格好つけなくて——いい"、って——!!」






「——"風の——話が——聞きたい"、って——!!」








「…………」







——ヒカルが。






——ゆっくりと——首を——下げた。









## 決まり






——誠は——札を——貼った。








*——【通訳の——決まり】*






*——一、分からぬ、時は——「分からぬ」、と——言う*





*——二、格好よく——しない*





*——三、短くしない*





*——四、迷ったら——十二番に——聞く*








「——四つだけですか」







——ミネルが——訝しんだ。







「——多いと——覚えられません」








「——ガイウス殿に——聞かせたいな」







「——第十一条ですね」









## 一年後






——誤訳は——減った。







——だが——ゼロには——ならなかった。








「——皆さーん——!!」







——セレスが——実況していた。







「——本日は——八一八号さんです——!!」








「——イーッ」







『——"よろしく——お願いします"』








「——合ってます——!!」







「——イー」








『——"本日は——ごみを——拾いました"』








「——合ってます——!!」







「——イーッ」








『——"妻を——愛して——おります"』








「…………」







「——イ——!?」








——八一八号が——飛び上がった。







「——違いますね——!!」







——誠が——叫んだ。








『——"明日も——拾います"、だった』







——十二番が——訂正した。








「——全然——違います——!!」







『——似てた』








「——似てません——!!」









——だが——その、時。







「——あら」








——ルナが——現れた。







「——ルナさん——!?」






「——通りかかりましたの」








「——待ってましたよね——!!」






「——偶然ですわ」








——彼女は——八一八号を——見た。







「——今の」






「——イ——!?」






「——本当ですの?」








「…………」







——八一八号は。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぽつり、と——言った。








「——イー」








「…………」







『——"本当です"、って』







——十二番が——静かに——言った。








「…………」







「——うおおおお——!!」








——広場が——爆発した。







「——コメントが——!!」






「——読めません——!! 速すぎます——!!」








「——一つだけ——!!」







——セレスが——板を——見た。







「——"誤訳——でかした"、って——!!」








「…………」







『——褒められた』







——通訳の——スライムが——揺れた。








「——褒めないで——ください——!!」









## 夜






「——皆瀬さん」







——誠が——尋ねた。







『——なに』






「——なぜ——皆瀬さんだけ——正確なんですか」








『…………』







——十二番は。






——しばらく——揺れて。






——そして——言った。








『——三十年——聞いてるから』








「——それだけですか」






『——それだけ』








「…………」







『——でも——もう一つ——ある』








「——なんですか」








『——わたし——喋れなかった』







——皆瀬は——ぽつり、と——言った。







「…………」








『——三百年』







『——誰も——聞いてくれなかった』








「…………」







『——だから——分かる』








——十二番は——静かに——言った。







『——言いたい、のに——言えない——時の——気持ちが』








「…………」







『——だから——足さない』







『——引かない』







『——そのまま——言う』








「…………」







——誠は。






——深く——頭を——下げた。








「——ありがとう——ございます」






『——礼は——いい』








『——それより』







——十二番が——揺れた。







「——なんですか」






『——手当を——増やして』








「——増やします」







——誠は——即答した。







『——本当?』






「——当たり前です」








『——変なの』







——皆瀬は——ぷるん、と——揺れた。







『——でも——嬉しい』






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「皆瀬さんが、"疲れた"、と。通訳が一日二千回。ヒカルさん、ガオゴンさん、八一八号さん、キャベゴンさん、それと魔物の皆さん。……手当を増やしますか、と聞いたら、"そうじゃない。通訳を増やして"、って。……募集したら、三日で五百体来た。皆、暇だそうです。……訓練で分かったこと。誤訳がひどい。ヒカルさんの、"よろしく頼む"、が、"腹が減った"、に。"よい天気だ"、が、"世界は滅びる"、に。……でも三体目が、"分からない"、って正直に言った。十二番さんが、"この子はいい。分からない時に、分からない、って言えるから"、と。確かに大事です。……半年で五十体が合格。でも、騒動はここからでした。……婚礼で、花婿の"この女に一生養われる"、が、"この女を一生養う"、に誤訳された。逆です。……でも花嫁が、"養う"、って。本当でした。広場が爆発して、"強い"、"男前だ"、って。結果よかったですね、って言われたけど、よくないです。……商談で、五千が五百に。一つ落とした。大事です。でもアカリさんが、"第七条。通訳の誤りは契約を無効とする"、って。先月作ったそうです。三度目だから。……診療所で、"やめてくれ"、が、"もっと"、に。桃さんが強く押して、ゴブリンの方が絶叫してた。でも、"むしろ治った"、って。結果よかったですね。よくないです。……最大の騒動は、実況でした。ヒカルさんの言葉が、全部、格好よくされてた。"わたしは地球を守る"、"だがここは地球ではない"、"ゆえに芋を食う"。……本当は、"今日は風が気持ちいい"、"影が濃くなった"、"皆、元気そうだ"、でした。……なぜ格好よくしたのか聞いたら、"皆が喜ぶから"、って。駄目です。本人の言葉じゃないからです。……ヒカルさんに、嫌でしたよね、と聞いたら、"嫌だった。わたしは格好よくない。風が気持ちいい、と言うたのだ"、って。……虚空が、"そっちの方がいい"、"格好つけなくていい"、"風の話が聞きたい"、って。ヒカルさん、首を下げてました。……決まりを四つ作った。分からぬ時は分からぬと言う。格好よくしない。短くしない。迷ったら十二番に聞く。……一年後、誤訳は減った。でもゼロにはならない。八一八号さんの、"明日も拾います"、が、"妻を愛しております"、に。全然違います。……でもルナさんが現れて、"今の、本当ですの?"、って。八一八号さんが、長く黙って、"本当です"、って。広場が爆発しました。……コメントが、"誤訳、でかした"、って。褒めないでください。……夜、皆瀬さんに、なぜあなただけ正確なのか聞いた。"三十年聞いてるから"。それと、もう一つ。……"わたし、喋れなかった。三百年。誰も聞いてくれなかった。だから分かる。言いたいのに言えない時の気持ちが。だから、足さない。引かない。そのまま言う"、って。……手当を増やして、と言われて、増やします、と即答した。"変なの。でも嬉しい"、って。じいちゃん、あの人が、一番の通訳です」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「足さない。引かない。そのまま——言う」、という——その、決まりが。




——やがて——この、世界の——最も——大事な——場面で——使われることを。


そして——その、時。




——訳される——言葉が——誰の——ものであるかも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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