表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
442/448

第149話「座っている、人たち」

石を——読み終えて——戻った——後。





——誠は——ずっと——考えていた。







「——ミネルさん」






「——なんだ」






「——ルナさんが——蘇生できない——方は」








——誠は——静かに——言った。







「——どうなってるんでしょう」








「…………」







——ミネルは。






——ペンを——置いた。







「——妙な、ことを——聞くな」






「——四万——六千です」








——誠は——ぽつり、と——言った。







「——石の——道に——彫った——数です」






「——皆さん——戻せませんでした」








「…………」







——ミネルは。






——長い、こと——黙って。






——そして——言った。








「——おそらく——身体が——壊れて——おるのだ」







「——壊れる?」






「——目に——見えぬ——細かい——ところが、な」








——彼は——静かに——言った。







「——一度——壊れると——戻らぬ」








「——転移者は——なぜ——戻るんですか」






「——分からぬ」








——ミネルは——首を——振った。







「——おそらく——壊れぬのだ」






「——最初から、な」








「…………」









## 思いつき






「——ミネルさん」







——誠が——顔を——上げた。







「——なんだ」






「——古い——遺体は——どうですか」








「…………」







——工房が。






——静まった。








「——何を——言うて——おる——!!」






「——地下の——空洞です」








——誠は——静かに——言った。







「——三十年——冷たい——ところに——ありました」






「——壊れてない——かも——しれません」








「——やめよ——!!」







——ミネルが——叫んだ。







「——踏み込んでは——ならぬ——ところだ——!!」








「——分かってます」







——誠は——頷いた。







「——では——なぜ——!!」






「——名前が——分からない——方が——百八十八人——います」








「…………」







「——石が——空いたままです」







——誠は——ぽつり、と——言った。







「——十七年——空けてます」








「…………」







——ミネルは。






——長い、こと——黙った。







——そして——ため息を——ついた。








「——条件が——ある」






「——なんですか」






「——嫌がる——者が——一人でも——おれば——やめよ」








「——約束します」







「——それと——もう一つ」








——ミネルは——渋い——顔を——した。







「——闇の——術が——要るぞ」






「——できる——方は」








「——一人しか——おらぬ」









## 山田






——研究の——工房。






——柔らかい——闇が——張られた——部屋。








「——山田さん」







——誠が——覗いた。







「——ふっ」








——闇の——魔術師が——振り返った。







——ちなみに——隣に——ヤミが——座っている。








「——我に——何用だ」






「——伺いたいことが——あります」








「——申せ」






「——死者を——蘇らせられますか」








「…………」







——山田の——動きが。






——止まった。








「——なぜ——それを——聞く」






「——闇の——術だと——伺いました」








「…………」







「——できるのだ」







——山田は——静かに——言った。







「——本当ですか——!!」






「——理屈の——上では、な」








「——では——お願いできませんか」








「…………」







——山田は。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——一度も——やった、ことが——ない」








「——三十年——ですか」






「——四十年だ」








「——なぜですか」








「…………」







——山田は。






——うつむいた。







——そして——蚊の——鳴くような——声で——言った。








「——怖い」








「…………」







「——え?」






「——死体が——怖い」








「…………」







——工房が。






——静まった。








「——闇の——魔術師——ですよね——!?」







——誠が——絶叫した。







「——さようだ——!!」








「——本業ですよね——!?」






「——本業だ——!!」








「——なぜ——怖いんですか——!!」






「——動くではないか——!!」








「——動かすのは——あなたです——!!」






「——だから——怖いのだ——!!」








「…………」







——だが——ヤミが——静かに——言った。







「——分かる」






「——ヤミさんも——ですか——!!」








「——闇を——操る——者はな」







——彼は——低く——言った。







「——闇が——一番——怖い」








「…………」







「——それは——分かります」









## 事情






「——山田さん」







——誠が——静かに——尋ねた。







「——なんだ」






「——四十年——一度も——ないんですね」








「——ない」






「——では——なぜ——覚えたんですか」








「…………」







——山田は。






——長い、こと——黙って。






——そして——言った。








「——向こうの——世界でな」







「——はい」






「——祖母が——死んだ」








「…………」







「——十五の、時だ」







——彼は——静かに——言った。







「——それから——調べ始めた」








「…………」







「——蘇らせる——方法を、な」








——山田は——ぼそり、と——言った。







「——本を——読み漁った」






「——術も——覚えた」








「…………」







「——だが——できなんだ」








「——なぜですか」






「——向こうには——魔力が——ないからだ」








——彼は——けろり、と——言った。







「…………」







「——では——こちらでは」








「——できる」







——山田は——静かに——言った。







「——四十年——前から——できるように——なって——おった」








「——では——なぜ——!!」








「…………」







「——祖母が——おらぬ」








「…………」







——工房が。






——静まり返った。








「——向こうに——置いてきた」







——山田は——ぽつり、と——言った。







「——ゆえに——使い道が——ない」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——山田さん」






「——なんだ」






「——ここに——おられます」








「…………」







「——誰かの——お祖母様が」







——誠は——静かに——言った。







「——四万——六千——おられます」








「…………」







——山田は。






——顔を——覆った。







——そして——長い、こと——動かなかった。








「——卑怯だぞ、八百屋」






「——すみません」








「——だが——一つ——言うておく」







——彼は——顔を——上げた。







「——なんですか」






「——私は——怖い」








「——存じてます」






「——泣くかも——しれぬ」








「——構いません」






「——逃げるかも——しれぬ」








「——追いかけます」








「…………」







「——では——やる」









## 協力






「——だが——一つ——手が——要る」







——魔王が——言った。







「——なんですか」






「——我が——軍の——死霊たちだ」








——彼は——静かに——言った。







「——幽鬼や——怨霊、ですね」






「——うむ」








「——あの、方々は——元は——人ですか」






「——さようだ」








——魔王は——頷いた。







「——ゆえに——死体を——怖がらぬ」








「——助かります——!!」







——山田が——即座に——言った。







「——早いです——!!」









## 実験






——三月。






——実験は——難航した。








「——動かぬ——!!」







——山田が——うめいた。







「——なぜですか」






「——魂が——おらぬ」








——彼は——首を——振った。







「——器だけでは——動かぬのだ」






「——では——魂は——どこに——!!」








「——分からぬ——!!」








——だが——その、時。







「——おる」








——幽鬼の——一体が——言った。







「——どこにですか——!!」






「——ここに」








——彼は——空洞を——指した。







「——見えるんですか——!!」






「——同じだからだ」








——幽鬼は——静かに——言った。







「——我らも——死んで——おる」








「——では——呼べますか——!!」








「…………」







——幽鬼は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——呼ぶのでは——ない」







「——では——なんですか」






「——聞くのだ」








「…………」







「——"戻るか"、と」








——彼は——静かに——言った。







「——嫌がる——者は——戻らぬ」








「…………」







「——山田さん」







——誠が——言った。







「——なんだ」






「——聞いて——ください」








「…………」







「——それは——術ではないぞ」








——山田が——訝しんだ。







「——ただの——問いかけだ」






「——それで——いいです」








——誠は——けろり、と——言った。







「——僕、三十年——それしか——やってません」








「…………」









## 最初の一人






——半年、後。






——山田が——一体の——前に——座った。







——手が——震えている。








「…………」







「——山田さん」






「——待て」








——彼は——深く——息を——吸った。







——そして——言った。








「——戻りますか」








「…………」







——空洞が。






——静まり返った。







——そして。







「…………」








——それが。






——動いた。








「——うわあああ——!!」







——山田が——飛び退いた。







「——逃げないで——ください——!!」






「——無理だ——!!」









——だが。






——起き上がった——それは。






——妙、だった。








「…………」







——歩かない。






——襲わない。






——唸らない。







——ただ。







——座っていた。








「——座って——おるぞ——!!」







——ミネルが——訝しんだ。







「——動かぬのか——!!」






「——動きたくないのだろう」








——幽鬼が——けろり、と——言った。








「——あの」







——誠が——しゃがんだ。







「——大丈夫ですか」








「…………」







——それは。






——ゆっくりと——顔を——上げた。







——そして——言った。








「——腰が——痛い」








「…………」







「——喋った——!!」







——山田が——絶叫した。







「——喋るのが——普通です——!!」






「——普通では——ない——!!」








——だが——彼は。






——震えながら——近づいた。







——そして——尋ねた。








「——ど——どこが——痛い」







「——腰さ」








「——さ——さすろうか」







「——頼むよ」








「…………」







——山田は。






——震える——手で——背中を——さすった。







——そして——泣いていた。








「——山田さん?」






「——うるさい」








「——泣いてますね」






「——言うな」








「…………」







「——四十年——ぶりだ」








——彼は——ぼそり、と——言った。







「——祖母の——腰を——さすったのが——最後だ」








「…………」









## 話






「——お名前を——伺っても——いいですか」







——誠が——尋ねた。







「——ハンナ」








「——ハンナさん」







——誠は——帳面に——書いた。







「——ありがとう——ございます」








「——それだけかい」







——彼女が——訝しんだ。







「——他に——何か——ありますか」






「——山ほど——ある」








——ハンナは——けろり、と——言った。







「——聞きたいかい」






「——聞きたいです——!!」








「——長いよ」






「——構いません」









——そして——彼女は——語り始めた。







「——うちは——第十四層に——住んで——おった」








「…………」







「——待って——ください」







——誠が——止めた。







「——十四——ですか」






「——さようだよ」








「——十一までしか——ありません——!!」






「——十六まで——あったよ」








「…………」







——空洞が。






——静まり返った。








「——ミネルさん——!!」






「——知らぬ——!!」






「——アカリさん——!!」








「——記録に——ございません——!!」








「——ハンナさん」







——誠は——静かに——尋ねた。







「——第十二層から——下は——どうなりましたか」








「…………」







——ハンナは。






——ぽつり、と——言った。








「——埋めたのさ」








「——誰が——ですか」






「——うちらだよ」








「…………」







「——なぜですか——!!」








「…………」







——彼女は。






——長い、こと——黙って。






——そして——言った。








「——魔物が——来たからさ」








「…………」







「——上に——上がれば——助かった」







——ハンナは——静かに——言った。







「——だが——魔物も——一緒に——上がる」






「——上には——子どもが——おった」








「…………」







「——だから——埋めた」








「…………」







「——外から——ですか」







——誠が——かすれた——声で——尋ねた。







「——中から、さ」








——ハンナは——けろり、と——言った。







「——うちらが——中に——おった」








「…………」







——誠は。






——動けなかった。








「——ウーさん——!!」







——彼が——叫んだ。







「——ウ」








——オーガが——後ろに——いた。







「——外から——石が——積んで——ありましたか」






「——あった」








「——誰が——積んだか——分かりますか」






「——しらん」








——ウーは——首を——振った。







——そして——ハンナを——見た。








「…………」







「…………」








——二人が。






——見つめ合った。







——三十年——前に。






——同じ——扉の——両側に——いた——二人が。








「——あんたかい」







——ハンナが——ぽつり、と——言った。







「——ウ」






「——外に——おったのは」








「——おった」







「…………」








——ウーは。






——深く——頭を——下げた。







「——すまん」








「…………」







——ハンナは。






——長い、こと——黙って。






——そして——言った。








「——腹が——減ってたんだろう」








「——ウ」






「——なら——仕方ないさ」








「…………」







「——うちも——腹が——減ってた」







——ハンナは——ぼそり、と——言った。







「——同じさ」








「…………」







——ウーは。






——動かなかった。







——ただ——太い——肩が——震えていた。









## 座る人たち






——一年、後。






——空洞には——四十七人が——座っていた。







「——妙な——光景だ」








——ミネルが——うめいた。







「——なぜ——歩かぬのだ」






「——歳だからさ」








——ハンナが——けろり、と——言った。







「——死んで——おるのだぞ——!!」






「——死んでも——腰は——痛い」








「…………」







「——それに、ね」







——彼女は——静かに——言った。







「——歩いても——行く、ところが——ない」






「——だから——座って——喋る」








「…………」









——そして——空洞には——毎日——人が——来た。








「——ハンナさーん——!!」







——子どもが——駆けてきた。







「——昔の——話——聞かせて——!!」






「——長いよ」






「——いいよ——!!」









——ちなみに——山田は。






——毎日——通っていた。








「——山田さん」







——誠が——覗いた。







「——なんだ」






「——何を——されてるんですか」








「——肩を——揉んで——おる」







——彼は——けろり、と——言った。







「——闇の——術は」






「——使わぬ」








「——なぜですか」






「——要らぬからだ」








——山田は——静かに——言った。







「——皆——肩が——凝って——おる」








「…………」







「——それと——な」







——彼は——ぼそり、と——言った。







「——もう——怖くない」








「——本当ですか——!!」






「——名を——知ったからだ」








「…………」







「——名が——ある——者は——怖くない」







——山田は——静かに——言った。







「——ただの——人だ」








「…………」









## 百八十八






——三年、後。






——ルカが——工房に——駆けてきた。








「——師匠——!!」






「——どうした」






「——出ました——!!」








「——何がだ」






「——百八十八人の——名前です——!!」








「…………」







——工房が。






——静まった。








「——全部——か——!!」






「——全部です——!!」








——ルカは——帳面を——掲げた。







「——ハンナさんたちが——覚えてました——!!」








「…………」







「——最後の——百八十八人は」







——ルカは——静かに——言った。







「——彫る——人が——いなかったんじゃ——ありませんでした」








「——では——なんだ」






「——彫る——道具が——なかったんです」








「…………」







「——最後は——手で——掻いてました」







——ルカは——ぽつり、と——言った。







「——爪が——なくなるまで」








「…………」







「——ルカ」






「——はい」






「——彫ろう」









## 石の道






——彫ったのは——ハンナたち、だった。







「——座ったままで——できますか」








——誠が——尋ねると。






——ハンナは——けろり、と——言った。








「——座ってる、方が——上手いよ」







「——なぜですか」






「——手が——震えん」








「…………」







——誠は。






——動きを——止めた。







「——ハンナさん」






「——なんだい」






「——今——なんて?」








「——死んで——おるからね」







——彼女は——静かに——言った。







「——疲れんのさ」






「——いくらでも——彫れる」






「——一つも——歪まんよ」








「…………」







——誠は。






——長い、こと——それを——見つめていた。








「——師匠?」






「——ルカ」






「——はい」






「——月の——道の——裏側の——石を——覚えてるか」








「——覚えてます」






「——一つも——歪んでなかった」








「…………」







「——手が——震えてなかったんだ」







——誠は——ぽつり、と——言った。








「——師匠」







——ルカの——顔色が——変わった。







「——まさか」






「——分からん」








——誠は——首を——振った。







「——でも——考えられる——ことが——一つ——増えた」








「——なんですか」








「…………」







——誠は。






——空を——見上げた。







「——疲れない——人か」






「——ゆっくり——彫る——人か」








「…………」







「——それとも」







——彼は——静かに——言った。







「——死んでる——人か」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「ずっと考えてました。ルナさんが蘇生できない方は、どうなってるんだろう、と。……ミネルさんが、"身体が壊れておるのだ。目に見えぬ細かいところが。一度壊れると戻らぬ"、って。……それで、古い遺体はどうですか、と聞いた。地下の空洞は三十年、冷たかった。……踏み込んではならぬところだ、と怒られたけど、名前の分からない方が百八十八人います。石が空いたままです、と言った。……闇の術が要る、と。できる方は一人しかいない。山田さんです。……死者を蘇らせられますか、と聞いたら、"できるのだ。理屈の上では"、と。でも、"一度もやったことがない。四十年"、って。……理由が、"怖い"、でした。死体が怖い。闇の魔術師なのに。"動くではないか"、"動かすのはあなたです"、"だから怖いのだ"。ヤミさんが、"闇を操る者は、闇が一番怖い"、と。それは分かります。……なぜ覚えたのか聞いたら、十五の時にお祖母様が亡くなったから、だそうです。それから調べ始めて、本を読み漁って、術も覚えた。でも向こうには魔力がなくてできなかった。……こちらでは四十年前からできるようになっていた。でも、"祖母がおらぬ。向こうに置いてきた。ゆえに使い道がない"、って。……ここにおられます、誰かのお祖母様が、四万六千、と言った。"卑怯だぞ、八百屋"、って。すみません。……"私は怖い。泣くかもしれぬ。逃げるかもしれぬ"、と言うので、構いません、追いかけます、と答えた。"では、やる"、って。……幽鬼の皆さんが手伝ってくれた。魂は、"呼ぶのではない。聞くのだ。戻るか、と。嫌がる者は戻らぬ"、と。それは術ではない、ただの問いかけだ、と言われたけど、僕、三十年それしかやってません。……半年後、山田さんが震える手で、"戻りますか"、と聞いた。……そして、動いた。あの人、飛び退いて絶叫してました。……でも、起き上がったのは、座ったままだった。歩かない、襲わない、唸らない。"腰が痛い"、って喋った。……山田さん、震えながら近づいて、"ど、どこが痛い"、"腰さ"、"さ、さすろうか"、"頼むよ"、って。……そして、泣いてました。"四十年ぶりだ。祖母の腰をさすったのが最後だ"、って。……ハンナさん、といいます。第十四層に住んでた。十六まであったそうです。第十二層から下は、自分たちで、中から埋めた。魔物が来て、上に上がれば助かるけど、魔物も一緒に上がる。上には子どもがいた。……ウーさんが、外にいた。同じ扉の両側に。ウーさんが謝ったら、"腹が減ってたんだろう。なら仕方ないさ。うちも腹が減ってた。同じさ"、って。……一年で四十七人が座るようになった。子どもが毎日、昔の話を聞きに来る。山田さんも毎日通ってる。何をしてるのか聞いたら、"肩を揉んでおる。闇の術は使わぬ。要らぬからだ。皆、肩が凝っておる"、って。……"もう怖くない。名を知ったからだ。名がある者は怖くない。ただの人だ"、って。……三年で、百八十八人の名前が全部出た。最後の百八十八人は、彫る道具がなかった。最後は手で掻いてた。爪がなくなるまで。……彫ったのは、ハンナさんたち。座ったままで大丈夫か聞いたら、"座ってる方が上手いよ。手が震えん。死んでおるからね。疲れんのさ。いくらでも彫れる。一つも歪まんよ"、って。……月の道の裏側の石を、思い出しました。三千万、一つも歪んでなかった。……考えられることが、一つ増えました。疲れない人か。ゆっくり彫る人か。それとも、死んでる人か。じいちゃん。どれでしょう」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。第十二層から——下に——あった——五つの——層が。




——なぜ——記録から——消えて——いたのかを。


そして——三千万の——名を——彫った——手が。




——本当に——震えて——いなかったのかも。





——今は……まだ、彫った——本人しか——知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ