第149話「座っている、人たち」
石を——読み終えて——戻った——後。
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——誠は——ずっと——考えていた。
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「——ミネルさん」
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「——なんだ」
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「——ルナさんが——蘇生できない——方は」
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——誠は——静かに——言った。
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「——どうなってるんでしょう」
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「…………」
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——ミネルは。
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——ペンを——置いた。
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「——妙な、ことを——聞くな」
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「——四万——六千です」
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——誠は——ぽつり、と——言った。
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「——石の——道に——彫った——数です」
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「——皆さん——戻せませんでした」
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「…………」
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——ミネルは。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——言った。
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「——おそらく——身体が——壊れて——おるのだ」
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「——壊れる?」
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「——目に——見えぬ——細かい——ところが、な」
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——彼は——静かに——言った。
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「——一度——壊れると——戻らぬ」
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「——転移者は——なぜ——戻るんですか」
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「——分からぬ」
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——ミネルは——首を——振った。
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「——おそらく——壊れぬのだ」
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「——最初から、な」
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「…………」
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## 思いつき
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「——ミネルさん」
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——誠が——顔を——上げた。
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「——なんだ」
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「——古い——遺体は——どうですか」
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「…………」
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——工房が。
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——静まった。
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「——何を——言うて——おる——!!」
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「——地下の——空洞です」
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——誠は——静かに——言った。
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「——三十年——冷たい——ところに——ありました」
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「——壊れてない——かも——しれません」
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「——やめよ——!!」
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——ミネルが——叫んだ。
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「——踏み込んでは——ならぬ——ところだ——!!」
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「——分かってます」
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——誠は——頷いた。
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「——では——なぜ——!!」
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「——名前が——分からない——方が——百八十八人——います」
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「…………」
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「——石が——空いたままです」
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——誠は——ぽつり、と——言った。
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「——十七年——空けてます」
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「…………」
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——ミネルは。
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——長い、こと——黙った。
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——そして——ため息を——ついた。
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「——条件が——ある」
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「——なんですか」
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「——嫌がる——者が——一人でも——おれば——やめよ」
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「——約束します」
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「——それと——もう一つ」
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——ミネルは——渋い——顔を——した。
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「——闇の——術が——要るぞ」
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「——できる——方は」
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「——一人しか——おらぬ」
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## 山田
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——研究の——工房。
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——柔らかい——闇が——張られた——部屋。
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「——山田さん」
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——誠が——覗いた。
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「——ふっ」
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——闇の——魔術師が——振り返った。
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——ちなみに——隣に——ヤミが——座っている。
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「——我に——何用だ」
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「——伺いたいことが——あります」
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「——申せ」
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「——死者を——蘇らせられますか」
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「…………」
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——山田の——動きが。
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——止まった。
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「——なぜ——それを——聞く」
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「——闇の——術だと——伺いました」
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「…………」
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「——できるのだ」
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——山田は——静かに——言った。
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「——本当ですか——!!」
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「——理屈の——上では、な」
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「——では——お願いできませんか」
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「…………」
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——山田は。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——ぼそり、と——言った。
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「——一度も——やった、ことが——ない」
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「——三十年——ですか」
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「——四十年だ」
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「——なぜですか」
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「…………」
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——山田は。
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——うつむいた。
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——そして——蚊の——鳴くような——声で——言った。
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「——怖い」
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「…………」
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「——え?」
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「——死体が——怖い」
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「…………」
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——工房が。
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——静まった。
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「——闇の——魔術師——ですよね——!?」
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——誠が——絶叫した。
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「——さようだ——!!」
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「——本業ですよね——!?」
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「——本業だ——!!」
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「——なぜ——怖いんですか——!!」
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「——動くではないか——!!」
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「——動かすのは——あなたです——!!」
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「——だから——怖いのだ——!!」
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「…………」
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——だが——ヤミが——静かに——言った。
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「——分かる」
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「——ヤミさんも——ですか——!!」
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「——闇を——操る——者はな」
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——彼は——低く——言った。
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「——闇が——一番——怖い」
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「…………」
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「——それは——分かります」
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## 事情
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「——山田さん」
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——誠が——静かに——尋ねた。
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「——なんだ」
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「——四十年——一度も——ないんですね」
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「——ない」
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「——では——なぜ——覚えたんですか」
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「…………」
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——山田は。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——言った。
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「——向こうの——世界でな」
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「——はい」
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「——祖母が——死んだ」
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「…………」
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「——十五の、時だ」
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——彼は——静かに——言った。
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「——それから——調べ始めた」
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「…………」
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「——蘇らせる——方法を、な」
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——山田は——ぼそり、と——言った。
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「——本を——読み漁った」
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「——術も——覚えた」
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「…………」
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「——だが——できなんだ」
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「——なぜですか」
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「——向こうには——魔力が——ないからだ」
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——彼は——けろり、と——言った。
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「…………」
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「——では——こちらでは」
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「——できる」
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——山田は——静かに——言った。
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「——四十年——前から——できるように——なって——おった」
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「——では——なぜ——!!」
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「…………」
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「——祖母が——おらぬ」
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「…………」
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——工房が。
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——静まり返った。
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「——向こうに——置いてきた」
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——山田は——ぽつり、と——言った。
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「——ゆえに——使い道が——ない」
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「…………」
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——誠は。
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——しばらく——黙って。
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——そして——言った。
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「——山田さん」
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「——なんだ」
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「——ここに——おられます」
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「…………」
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「——誰かの——お祖母様が」
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——誠は——静かに——言った。
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「——四万——六千——おられます」
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「…………」
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——山田は。
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——顔を——覆った。
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——そして——長い、こと——動かなかった。
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「——卑怯だぞ、八百屋」
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「——すみません」
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「——だが——一つ——言うておく」
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——彼は——顔を——上げた。
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「——なんですか」
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「——私は——怖い」
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「——存じてます」
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「——泣くかも——しれぬ」
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「——構いません」
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「——逃げるかも——しれぬ」
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「——追いかけます」
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「…………」
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「——では——やる」
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## 協力
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「——だが——一つ——手が——要る」
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——魔王が——言った。
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「——なんですか」
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「——我が——軍の——死霊たちだ」
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——彼は——静かに——言った。
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「——幽鬼や——怨霊、ですね」
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「——うむ」
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「——あの、方々は——元は——人ですか」
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「——さようだ」
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——魔王は——頷いた。
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「——ゆえに——死体を——怖がらぬ」
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「——助かります——!!」
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——山田が——即座に——言った。
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「——早いです——!!」
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## 実験
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——三月。
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——実験は——難航した。
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「——動かぬ——!!」
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——山田が——うめいた。
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「——なぜですか」
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「——魂が——おらぬ」
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——彼は——首を——振った。
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「——器だけでは——動かぬのだ」
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「——では——魂は——どこに——!!」
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「——分からぬ——!!」
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——だが——その、時。
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「——おる」
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——幽鬼の——一体が——言った。
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「——どこにですか——!!」
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「——ここに」
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——彼は——空洞を——指した。
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「——見えるんですか——!!」
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「——同じだからだ」
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——幽鬼は——静かに——言った。
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「——我らも——死んで——おる」
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「——では——呼べますか——!!」
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「…………」
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——幽鬼は。
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——しばらく——黙って。
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——そして——言った。
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「——呼ぶのでは——ない」
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「——では——なんですか」
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「——聞くのだ」
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「…………」
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「——"戻るか"、と」
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——彼は——静かに——言った。
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「——嫌がる——者は——戻らぬ」
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「…………」
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「——山田さん」
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——誠が——言った。
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「——なんだ」
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「——聞いて——ください」
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「…………」
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「——それは——術ではないぞ」
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——山田が——訝しんだ。
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「——ただの——問いかけだ」
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「——それで——いいです」
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——誠は——けろり、と——言った。
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「——僕、三十年——それしか——やってません」
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「…………」
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## 最初の一人
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——半年、後。
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——山田が——一体の——前に——座った。
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——手が——震えている。
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「…………」
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「——山田さん」
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「——待て」
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——彼は——深く——息を——吸った。
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——そして——言った。
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「——戻りますか」
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「…………」
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——空洞が。
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——静まり返った。
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——そして。
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「…………」
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——それが。
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——動いた。
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「——うわあああ——!!」
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——山田が——飛び退いた。
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「——逃げないで——ください——!!」
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「——無理だ——!!」
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——だが。
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——起き上がった——それは。
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——妙、だった。
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「…………」
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——歩かない。
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——襲わない。
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——唸らない。
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——ただ。
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——座っていた。
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「——座って——おるぞ——!!」
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——ミネルが——訝しんだ。
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「——動かぬのか——!!」
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「——動きたくないのだろう」
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——幽鬼が——けろり、と——言った。
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「——あの」
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——誠が——しゃがんだ。
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「——大丈夫ですか」
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「…………」
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——それは。
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——ゆっくりと——顔を——上げた。
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——そして——言った。
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「——腰が——痛い」
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「…………」
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「——喋った——!!」
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——山田が——絶叫した。
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「——喋るのが——普通です——!!」
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「——普通では——ない——!!」
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——だが——彼は。
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——震えながら——近づいた。
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——そして——尋ねた。
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「——ど——どこが——痛い」
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「——腰さ」
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「——さ——さすろうか」
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「——頼むよ」
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「…………」
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——山田は。
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——震える——手で——背中を——さすった。
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——そして——泣いていた。
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「——山田さん?」
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「——うるさい」
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「——泣いてますね」
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「——言うな」
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「…………」
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「——四十年——ぶりだ」
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——彼は——ぼそり、と——言った。
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「——祖母の——腰を——さすったのが——最後だ」
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「…………」
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## 話
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「——お名前を——伺っても——いいですか」
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——誠が——尋ねた。
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「——ハンナ」
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「——ハンナさん」
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——誠は——帳面に——書いた。
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「——ありがとう——ございます」
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「——それだけかい」
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——彼女が——訝しんだ。
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「——他に——何か——ありますか」
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「——山ほど——ある」
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——ハンナは——けろり、と——言った。
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「——聞きたいかい」
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「——聞きたいです——!!」
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「——長いよ」
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「——構いません」
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——そして——彼女は——語り始めた。
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「——うちは——第十四層に——住んで——おった」
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「…………」
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「——待って——ください」
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——誠が——止めた。
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「——十四——ですか」
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「——さようだよ」
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「——十一までしか——ありません——!!」
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「——十六まで——あったよ」
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「…………」
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——空洞が。
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——静まり返った。
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「——ミネルさん——!!」
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「——知らぬ——!!」
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「——アカリさん——!!」
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「——記録に——ございません——!!」
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「——ハンナさん」
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——誠は——静かに——尋ねた。
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「——第十二層から——下は——どうなりましたか」
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「…………」
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——ハンナは。
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——ぽつり、と——言った。
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「——埋めたのさ」
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「——誰が——ですか」
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「——うちらだよ」
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「…………」
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「——なぜですか——!!」
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「…………」
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——彼女は。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——言った。
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「——魔物が——来たからさ」
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「…………」
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「——上に——上がれば——助かった」
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——ハンナは——静かに——言った。
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「——だが——魔物も——一緒に——上がる」
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「——上には——子どもが——おった」
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「…………」
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「——だから——埋めた」
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「…………」
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「——外から——ですか」
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——誠が——かすれた——声で——尋ねた。
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「——中から、さ」
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——ハンナは——けろり、と——言った。
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「——うちらが——中に——おった」
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「…………」
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——誠は。
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——動けなかった。
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「——ウーさん——!!」
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——彼が——叫んだ。
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「——ウ」
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——オーガが——後ろに——いた。
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「——外から——石が——積んで——ありましたか」
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「——あった」
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「——誰が——積んだか——分かりますか」
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「——しらん」
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——ウーは——首を——振った。
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——そして——ハンナを——見た。
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「…………」
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「…………」
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——二人が。
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——見つめ合った。
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——三十年——前に。
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——同じ——扉の——両側に——いた——二人が。
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「——あんたかい」
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——ハンナが——ぽつり、と——言った。
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「——ウ」
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「——外に——おったのは」
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「——おった」
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「…………」
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——ウーは。
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——深く——頭を——下げた。
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「——すまん」
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「…………」
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——ハンナは。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——言った。
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「——腹が——減ってたんだろう」
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「——ウ」
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「——なら——仕方ないさ」
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「…………」
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「——うちも——腹が——減ってた」
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——ハンナは——ぼそり、と——言った。
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「——同じさ」
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「…………」
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——ウーは。
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——動かなかった。
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——ただ——太い——肩が——震えていた。
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## 座る人たち
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——一年、後。
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——空洞には——四十七人が——座っていた。
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「——妙な——光景だ」
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——ミネルが——うめいた。
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「——なぜ——歩かぬのだ」
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「——歳だからさ」
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——ハンナが——けろり、と——言った。
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「——死んで——おるのだぞ——!!」
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「——死んでも——腰は——痛い」
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「…………」
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「——それに、ね」
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——彼女は——静かに——言った。
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「——歩いても——行く、ところが——ない」
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「——だから——座って——喋る」
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「…………」
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——そして——空洞には——毎日——人が——来た。
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「——ハンナさーん——!!」
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——子どもが——駆けてきた。
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「——昔の——話——聞かせて——!!」
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「——長いよ」
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「——いいよ——!!」
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——ちなみに——山田は。
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——毎日——通っていた。
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「——山田さん」
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——誠が——覗いた。
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「——なんだ」
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「——何を——されてるんですか」
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「——肩を——揉んで——おる」
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——彼は——けろり、と——言った。
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「——闇の——術は」
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「——使わぬ」
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「——なぜですか」
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「——要らぬからだ」
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——山田は——静かに——言った。
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「——皆——肩が——凝って——おる」
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「…………」
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「——それと——な」
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——彼は——ぼそり、と——言った。
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「——もう——怖くない」
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「——本当ですか——!!」
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「——名を——知ったからだ」
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「…………」
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「——名が——ある——者は——怖くない」
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——山田は——静かに——言った。
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「——ただの——人だ」
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「…………」
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## 百八十八
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——三年、後。
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——ルカが——工房に——駆けてきた。
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「——師匠——!!」
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「——どうした」
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「——出ました——!!」
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「——何がだ」
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「——百八十八人の——名前です——!!」
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「…………」
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——工房が。
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——静まった。
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「——全部——か——!!」
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「——全部です——!!」
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——ルカは——帳面を——掲げた。
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「——ハンナさんたちが——覚えてました——!!」
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「…………」
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「——最後の——百八十八人は」
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——ルカは——静かに——言った。
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「——彫る——人が——いなかったんじゃ——ありませんでした」
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「——では——なんだ」
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「——彫る——道具が——なかったんです」
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「…………」
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「——最後は——手で——掻いてました」
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——ルカは——ぽつり、と——言った。
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「——爪が——なくなるまで」
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「…………」
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「——ルカ」
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「——はい」
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「——彫ろう」
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## 石の道
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——彫ったのは——ハンナたち、だった。
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「——座ったままで——できますか」
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——誠が——尋ねると。
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——ハンナは——けろり、と——言った。
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「——座ってる、方が——上手いよ」
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「——なぜですか」
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「——手が——震えん」
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「…………」
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——誠は。
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——動きを——止めた。
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「——ハンナさん」
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「——なんだい」
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「——今——なんて?」
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「——死んで——おるからね」
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——彼女は——静かに——言った。
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「——疲れんのさ」
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「——いくらでも——彫れる」
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「——一つも——歪まんよ」
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「…………」
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——誠は。
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——長い、こと——それを——見つめていた。
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「——師匠?」
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「——ルカ」
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「——はい」
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「——月の——道の——裏側の——石を——覚えてるか」
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「——覚えてます」
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「——一つも——歪んでなかった」
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「…………」
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「——手が——震えてなかったんだ」
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——誠は——ぽつり、と——言った。
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「——師匠」
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——ルカの——顔色が——変わった。
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「——まさか」
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「——分からん」
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——誠は——首を——振った。
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「——でも——考えられる——ことが——一つ——増えた」
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「——なんですか」
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「…………」
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——誠は。
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——空を——見上げた。
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「——疲れない——人か」
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「——ゆっくり——彫る——人か」
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「…………」
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「——それとも」
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——彼は——静かに——言った。
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「——死んでる——人か」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「ずっと考えてました。ルナさんが蘇生できない方は、どうなってるんだろう、と。……ミネルさんが、"身体が壊れておるのだ。目に見えぬ細かいところが。一度壊れると戻らぬ"、って。……それで、古い遺体はどうですか、と聞いた。地下の空洞は三十年、冷たかった。……踏み込んではならぬところだ、と怒られたけど、名前の分からない方が百八十八人います。石が空いたままです、と言った。……闇の術が要る、と。できる方は一人しかいない。山田さんです。……死者を蘇らせられますか、と聞いたら、"できるのだ。理屈の上では"、と。でも、"一度もやったことがない。四十年"、って。……理由が、"怖い"、でした。死体が怖い。闇の魔術師なのに。"動くではないか"、"動かすのはあなたです"、"だから怖いのだ"。ヤミさんが、"闇を操る者は、闇が一番怖い"、と。それは分かります。……なぜ覚えたのか聞いたら、十五の時にお祖母様が亡くなったから、だそうです。それから調べ始めて、本を読み漁って、術も覚えた。でも向こうには魔力がなくてできなかった。……こちらでは四十年前からできるようになっていた。でも、"祖母がおらぬ。向こうに置いてきた。ゆえに使い道がない"、って。……ここにおられます、誰かのお祖母様が、四万六千、と言った。"卑怯だぞ、八百屋"、って。すみません。……"私は怖い。泣くかもしれぬ。逃げるかもしれぬ"、と言うので、構いません、追いかけます、と答えた。"では、やる"、って。……幽鬼の皆さんが手伝ってくれた。魂は、"呼ぶのではない。聞くのだ。戻るか、と。嫌がる者は戻らぬ"、と。それは術ではない、ただの問いかけだ、と言われたけど、僕、三十年それしかやってません。……半年後、山田さんが震える手で、"戻りますか"、と聞いた。……そして、動いた。あの人、飛び退いて絶叫してました。……でも、起き上がったのは、座ったままだった。歩かない、襲わない、唸らない。"腰が痛い"、って喋った。……山田さん、震えながら近づいて、"ど、どこが痛い"、"腰さ"、"さ、さすろうか"、"頼むよ"、って。……そして、泣いてました。"四十年ぶりだ。祖母の腰をさすったのが最後だ"、って。……ハンナさん、といいます。第十四層に住んでた。十六まであったそうです。第十二層から下は、自分たちで、中から埋めた。魔物が来て、上に上がれば助かるけど、魔物も一緒に上がる。上には子どもがいた。……ウーさんが、外にいた。同じ扉の両側に。ウーさんが謝ったら、"腹が減ってたんだろう。なら仕方ないさ。うちも腹が減ってた。同じさ"、って。……一年で四十七人が座るようになった。子どもが毎日、昔の話を聞きに来る。山田さんも毎日通ってる。何をしてるのか聞いたら、"肩を揉んでおる。闇の術は使わぬ。要らぬからだ。皆、肩が凝っておる"、って。……"もう怖くない。名を知ったからだ。名がある者は怖くない。ただの人だ"、って。……三年で、百八十八人の名前が全部出た。最後の百八十八人は、彫る道具がなかった。最後は手で掻いてた。爪がなくなるまで。……彫ったのは、ハンナさんたち。座ったままで大丈夫か聞いたら、"座ってる方が上手いよ。手が震えん。死んでおるからね。疲れんのさ。いくらでも彫れる。一つも歪まんよ"、って。……月の道の裏側の石を、思い出しました。三千万、一つも歪んでなかった。……考えられることが、一つ増えました。疲れない人か。ゆっくり彫る人か。それとも、死んでる人か。じいちゃん。どれでしょう」*
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。第十二層から——下に——あった——五つの——層が。
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——なぜ——記録から——消えて——いたのかを。
そして——三千万の——名を——彫った——手が。
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——本当に——震えて——いなかったのかも。
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——今は……まだ、彫った——本人しか——知らない。




