閑話「今度は、平面が来た」
その日。
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——空が——裂けた。
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「——また、か」
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——ミネルが——空を——見上げた。
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「——今月——二組目です」
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——エリナが——用紙を——構えた。
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「——受付は——こちらでーす——!」
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——だが。
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——降りてきた——ものを——見て。
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——広場が——固まった。
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「…………」
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「——薄い」
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——誰かが——呟いた。
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——確かに——人の——形は——している。
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——だが。
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——横から——見ると——消える。
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「——消えた——!!」
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——グランデルが——叫んだ。
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「——回り込め——!!」
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——ぐるり。
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「——おった——!!」
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——ぐるり。
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「——消えた——!!」
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「——遊ばないで——ください——!!」
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## 三人
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——降りてきたのは——三人、だった。
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——一人目。
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——短い——襞の——衣。
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——長い——金の——髪。
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——頭に——妙な——飾り。
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——二人目。
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——青緑の——長い——髪を——二つに——結った——娘。
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——三人目。
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——黒ずくめ。
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——片目を——布で——覆っている。
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——腕にも——布。
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「——妙な——一団だ」
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——ミネルが——うめいた。
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## 受付
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「——お名前を——どうぞ」
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——エリナが——筆を——構えた。
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——一人目が——前に——出た。
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——そして——妙な——型を——取った。
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「——愛と——正義の——!!」
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「——はい」
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「——月に——代わって——!!」
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「…………」
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——広場が。
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——凍りついた。
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「——待って——ください」
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——誠が——止めた。
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「——今——なんて?」
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「——月に——代わって——おしおきよ——!!」
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「…………」
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——一色が。
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——湯呑みを——落とした。
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「——月——!?」
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「——ええ——!!」
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「——待って——!!」
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——彼女が——詰め寄った。
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「——あなた——月と——関係が——あるの——!?」
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「——あります——!!」
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「——どんな——!!」
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「——代わりに——おしおきします——!!」
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「——それ——どういう——意味ですか——!!」
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「——分かりません——!!」
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「…………」
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——広場が——ざわめいた。
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「——分からぬのか——!!」
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——ミネルが——叫んだ。
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「——決め台詞ですので——!!」
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——娘は——胸を——張った。
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「——意味は——考えた、ことが——ありません——!!」
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「…………」
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「——潔いです——!!」
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——セレスが——感心した。
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## 二人目
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「——では——お二人目」
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——エリナが——筆を——構えた。
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——青緑の——髪の——娘が——前に——出た。
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——そして——お辞儀した。
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「——歌います——!!」
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「——名前を——お願いします」
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「——歌います——!!」
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「——名前です——!!」
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「——歌しか——ありません——!!」
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「…………」
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——エリナが——困った——顔を——した。
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「——どういう——意味ですか」
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「——私は——歌う——ためだけに——おります——!!」
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——娘は——けろり、と——言った。
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「——他に——できることは——ありません——!!」
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「…………」
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「——では——歌って——ください」
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——誠が——言った。
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「——よろしいのですか——!?」
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「——お願いします」
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——そして——彼女は——歌った。
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「…………」
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——広場が。
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——静まり返った。
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——声が——妙、だった。
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——人の——声では——ない。
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——だが——美しい。
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——どこまでも——真っ直ぐで。
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——一度も——揺れない。
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「…………」
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「——ぶれぬな」
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——駄々丸が——ぽつり、と——言った。
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「——一度も——外しやせん」
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「——それが——どうかしましたか」
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——誠が——尋ねると。
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——駄々丸は——扇子を——止めた。
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「——旦那」
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「——はい」
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「——あのお人」
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「…………」
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「——太鼓の——代わりに——なりやす」
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「…………」
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——誠は。
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——動きを——止めた。
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## 三人目
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「——では——お三人目」
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——黒ずくめが——前に——出た。
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——そして——片目の——布に——手を——かけた。
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「——我が——真名を——聞くか」
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「——お願いします」
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「——愚か者め」
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——彼は——低く——笑った。
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「——これを——外せば——世界が——滅ぶぞ」
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「…………」
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「——外さないで——ください」
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——誠が——即座に——言った。
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「——なに?」
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「——今——大変な——時期なので」
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「…………」
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——黒ずくめが。
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——固まった。
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「——待て」
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「——はい」
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「——止めるのか」
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「——止めます」
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「——普通は——"外してみろ"、と——言うぞ」
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「——言いません」
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——誠は——きっぱりと——言った。
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「——危ないので」
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「…………」
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——黒ずくめは。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——ぼそり、と——言った。
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「——初めてだ」
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「——何がですか」
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「——止められたのは」
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「…………」
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「——皆——笑うか——無視する」
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——彼は——静かに——言った。
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「——止められた、ことは——ない」
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「…………」
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——山田が。
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——後ろで——深く——頷いていた。
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「——分かる」
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「——山田さん?」
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「——痛いほど——分かる」
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## 問題
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——だが——問題が——起きた。
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「——田中様——!!」
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——アカリが——駆けてきた。
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「——どうしました」
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「——あの——方々」
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——彼は——帳面を——広げた。
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「——重さが——ございません」
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「…………え?」
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「——測りました」
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——アカリは——静かに——言った。
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「——三人とも——ゼロです」
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「…………」
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——広場が。
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——静まった。
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「——一色さん——!!」
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——誠が——叫んだ。
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「——見てるわ——!!」
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——彼女は——三人を——調べていた。
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——そして——顔を——上げた。
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「——薄いの」
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「——見れば——分かります——!!」
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「——そうじゃ——ないわ」
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——一色は——首を——振った。
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「——本当に——厚みが——ないの」
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「——一分も」
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「…………」
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「——では——どうやって——立ってるんですか——!!」
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「——分からない」
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## 本人たち
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「——ご存知でしたか」
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——誠が——尋ねると。
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——三人は——顔を——見合わせた。
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「——知って——おりました——!!」
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——金髪の——娘が——けろり、と——言った。
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「——なぜですか——!!」
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「——描かれた——ものですので——!!」
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「…………」
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——広場が。
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——完全に——静まった。
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「——描かれた?」
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「——はい——!!」
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——娘は——胸を——張った。
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「——私たちは——絵です——!!」
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「…………」
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「——では——中身は——!!」
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——ミネルが——叫んだ。
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「——ありません——!!」
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「——なんだと——!?」
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「——最初から——ありません——!!」
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「…………」
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——誠は。
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——藤原を——見上げた。
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「——藤原さん」
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「——うちに——聞くな」
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——藤原は——渋い——顔を——した。
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「——匂いが——せぬのか——!!」
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「——せえへん」
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「——では——中に——人は——!!」
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「——おらへん」
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——彼女は——静かに——言った。
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「——ほんまに——絵や」
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「…………」
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## 困った
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「——困りました」
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——誠が——腕を——組んだ。
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「——何がですか——!!」
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「——飯が——食べられませんよね」
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「…………」
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——三人が。
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——固まった。
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「——食べられません——!!」
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——金髪の——娘が——言った。
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「——では——どうしてるんですか」
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「——腹は——減りません——!!」
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「——それは——楽ですね」
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「——楽では——ありません——!!」
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——娘の——声が。
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——少し——変わった。
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「——え?」
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「——皆さんが——食べておられる、時」
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——彼女は——ぽつり、と——言った。
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「——私たちは——見ているだけです」
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「…………」
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——広場が。
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——静まった。
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「——それが——一番——きついです」
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「…………」
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——誠は。
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——しばらく——黙って。
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——そして——言った。
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「——ボンゴさん——!!」
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「——おう——!!」
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「——匂いの——強い——ものを——作れませんか」
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「…………は?」
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「——食べられなくても——匂いは——分かりますよね」
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——誠が——尋ねると。
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——金髪の——娘が——顔を——上げた。
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「——分かります——!!」
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「——では——それで——ください」
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「——飯では——ないぞ——!!」
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——ボンゴが——叫んだ。
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「——飯です」
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——誠は——きっぱりと——言った。
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「——一緒に——座って——匂いを——嗅ぐんです」
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「——それも——飯です」
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「…………」
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——ボンゴは。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——腕を——まくった。
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「——やる——!!」
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## 半月
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——半月、後。
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——広場に——妙な——鍋が——並んだ。
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「——匂いだけの——料理だ——!!」
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——ボンゴが——胸を——張った。
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「——味は——!?」
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「——薄い——!!」
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「——駄目じゃ——ないですか——!!」
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「——匂いは——十倍だ——!!」
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——確かに。
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——広場中に——匂いが——広がっていた。
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「…………」
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——三人が。
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——立ち尽くしていた。
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「——どうしました——!!」
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「…………」
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「——腹が——減りました」
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——金髪の——娘が——ぽつり、と——言った。
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「…………」
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「——減らないんですよね——!!」
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「——減りました——!!」
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——彼女は——自分の——腹を——押さえた。
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「——初めてです——!!」
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「…………」
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——一色が。
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——飛び上がった。
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「——測るわ——!!」
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## 変化
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——三日、後。
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「——増えてる——!!」
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——一色が——叫んだ。
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「——何がですか——!!」
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「——厚みよ——!!」
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——彼女は——帳面を——掲げた。
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「——ゼロだったのが——一厘に——なってる——!!」
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「…………」
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「——なぜですか——!!」
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「——分からない——!!」
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——一色は——首を——振った。
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「——でも——一つだけ——分かる」
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「——なんですか」
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「——匂いを——嗅ぎ始めて——からよ」
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「…………」
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——誠は。
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——三人を——見た。
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——皆——鍋の——前に——座っている。
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——毎日。
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「——藤原さん」
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「——なんや」
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「——匂いは——どうですか」
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「…………」
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——藤原は。
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——鼻を——ひくつかせた。
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——そして——ぼそり、と——言った。
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「——する」
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「——え?」
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「——匂いが——するようになった」
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「…………」
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「——人の——匂いですか——!!」
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「——まだ——薄い」
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——藤原は——静かに——言った。
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「——せやけど——確かに——する」
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「…………」
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## 一月
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——一月、後。
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——三人は——横から——見ても——消えなく——なった。
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「——おおお——!!」
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——広場が——沸いた。
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「——厚みが——出た——!!」
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「——一寸ほどよ」
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——一色が——言った。
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「——まだ——薄いです——!!」
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「——でも——ゼロじゃ——ないわ」
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——そして——ある日。
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「——食べられました——!!」
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——金髪の——娘が——駆けてきた。
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「——本当ですか——!!」
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「——一口だけ——!!」
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——彼女は——泣いていた。
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「——味は——どうでしたか」
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「…………」
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「——分かりません——!!」
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「——え?」
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「——初めてなので——比べる——ものが——ありません——!!」
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「…………」
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「——でも」
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——彼女は——顔を——上げた。
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「——温かかったです——!!」
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「…………」
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——ボンゴが。
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——厨で——顔を——覆った。
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## 名前
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「——では——お名前を——つけましょう」
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——誠が——言った。
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「——ありません——!!」
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——三人が——同時に——言った。
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「——では——つけます」
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——誠は——一人目を——見た。
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「——月に——代わって——おしおきする、方ですね」
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「——はい——!!」
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「——では——ツキミ、で——どうですか」
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「——安易です——!!」
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「——分かりやすい、方が——いいです」
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——誠は——けろり、と——言った。
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「——それに——一つ——お願いが——あります」
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「——なんですか——!!」
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「——決め台詞を——変えて——いただけませんか」
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「——なぜですか——!!」
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「——今——月を——集めてるので」
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「…………」
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「——月に——代わられると——困ります」
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「…………」
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「——では——どう——すれば——!!」
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「…………」
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——誠は。
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——しばらく——考えて。
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——そして——言った。
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「——"月に——おしおきよ"、で——どうですか」
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「…………」
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——広場が。
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——静まった。
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「——意味が——変わりました——!!」
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——セレスが——叫んだ。
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「——合ってます」
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——誠は——真面目な——顔で——言った。
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「——全部——月の——せいですから」
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「…………」
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——一色が。
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——ゆっくりと——頷いた。
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「——確かに」
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「——一色さん——!?」
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「——三十年——月の——せいで——苦労してるわ」
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——彼女は——けろり、と——言った。
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「——おしおきして——いいと——思う」
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「…………」
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「——採用します——!!」
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——ツキミが——構えた。
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「——月に——おしおきよ——!!」
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「——うおおお——!!」
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——広場が——沸いた。
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「——なぜ——沸くのだ——!!」
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——ミネルが——訝しんだ。
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「——皆——月に——苦労してますから」
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## 残り二人
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「——歌う、方は」
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——誠が——尋ねた。
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「——歌います——!!」
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「——名前です」
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「——歌しか——ありません——!!」
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「…………」
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「——では——ウタ、で」
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「——安易です——!!」
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「——ご自分で——言ったんです」
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「…………」
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「——それと——お願いが——あります」
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——誠は——続けた。
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「——なんですか——!!」
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「——太鼓の——代わりを——して——いただけませんか」
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「…………え?」
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「——三千——四百——十二人の——調子を——取るんです」
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——誠は——静かに——言った。
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「——歌で——ですか——!!」
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「——一度も——外さないと——伺いました」
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「——外しません——!!」
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「——では——お願いします」
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「…………」
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——ウタは。
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——固まった。
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「——私で——よろしいのですか——!!」
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「——ウタさんが——いいです」
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「——歌しか——できませんが——!!」
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「——それが——要ります」
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「…………」
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——彼女は。
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——深く——お辞儀した。
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——そして——三人目。
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「——我に——名は——要らぬ」
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——黒ずくめが——言った。
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「——なぜですか」
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「——真名を——知られれば——縛られる」
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「——では——通り名で——どうですか」
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「…………」
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「——それは——考えて——おらなんだ」
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「——ノワールさんも——そうしてます」
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「——なに?」
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——黒ずくめが——顔を——上げた。
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「——あの——お方も、か」
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「——はい」
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「…………」
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「——では——受ける」
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「——では——ヤミ、で——どうですか」
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「——安易だ——!!」
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「——分かりやすい、方が——いいです」
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——誠は——けろり、と——言った。
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「——それと——お仕事です」
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「——我に——何が——できる」
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「——山田さんと——組んで——ください」
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「——誰だ」
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「——闇の——魔術師です」
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——誠は——後ろを——指した。
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——山田が——立っていた。
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「…………」
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「…………」
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——二人が。
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——見つめ合った。
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——そして。
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「——同志か」
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「——同志だ」
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「——分かるか」
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「——痛いほど」
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「…………」
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「——通じ合ってます——!!」
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——セレスが——叫んだ。
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「——何を——させるんですか——!!」
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「——暗幕です」
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——誠が——言った。
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「——え?」
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「——研究の——工房に——柔らかい——闇を——張って——もらいます」
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——彼は——静かに——言った。
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「——山田さん——一人では——手が——足りませんので」
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「…………」
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——ヤミが。
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——ゆっくりと——布を——押さえた。
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「——闇が——役に——立つのか」
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「——立ちます」
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——誠は——微笑んだ。
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「——三十年——助かってます」
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「…………」
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——ヤミは。
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——顔を——背けた。
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——そして——ぼそり、と——言った。
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「——初めてだ」
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「——何がですか」
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「——闇が——要る、と——言われたのは」
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「…………」
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「——山田さん」
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——誠が——呼んだ。
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「——なんだ」
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「——教えて——あげて——ください」
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「——ふっ」
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——山田が——妙に——得意げに——言った。
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「——光を——研究するには——闇も——要るのだ」
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「——なるほど——!!」
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「——通じ合ってます——!!」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「また、降ってきた。三人。でも、横から見ると、消えた。グランデルさんが回り込んで、"おった"、"消えた"、って遊んでました。……一人目が、"月に代わっておしおきよ"、って。一色さんが湯呑みを落として、詰め寄ってた。月と関係があるのか、って。"あります。代わりにおしおきします"。どういう意味か聞いたら、"分かりません。決め台詞ですので"、って。潔いです。……二人目は、名前を聞いても"歌います"、しか言わない。"歌しかありません。私は歌うためだけにおります"、って。……歌ってもらったら、人の声じゃなかった。でも美しくて、一度も揺れない。駄々丸さんが、"ぶれぬな。あのお人、太鼓の代わりになりやす"、って。……三人目は、片目に布を巻いてて、"これを外せば世界が滅ぶぞ"、って。外さないでください、今大変な時期なので、って言ったら、固まってた。"止められたのは初めてだ。皆、笑うか無視する"、って。山田さんが後ろで深く頷いてました。……アカリさんが、"重さがございません。三人ともゼロです"、って。一色さんが調べたら、本当に厚みがなかった。……本人たちに聞いたら、"知っておりました。描かれたものですので。私たちは絵です"、って。中身は、最初からない。藤原さんも、"ほんまに絵や"、って。……困りました。飯が食べられません。腹は減らないそうですけど、"皆さんが食べておられる時、私たちは見ているだけです。それが一番きついです"、って。……だから、ボンゴさんに、匂いの強いものを作ってもらった。食べられなくても、匂いは分かるので。一緒に座って匂いを嗅ぐんです。それも飯です、って。……半月後、三人が、"腹が減りました"、って。初めてだそうです。……三日後、一色さんが、"厚みが増えてる。ゼロが一厘に"。匂いを嗅ぎ始めてから。藤原さんも、"匂いがするようになった。まだ薄い。せやけど、確かにする"、って。……一月後、横から見ても消えなくなった。そして、一口、食べられた。味は、"分かりません。初めてなので比べるものがありません"。でも、"温かかったです"、って。ボンゴさん、厨で顔を覆ってました。……名前をつけた。ツキミさん、ウタさん、ヤミさん。全部、安易だと言われました。分かりやすい方がいいです。……ツキミさんには、決め台詞を変えてもらった。今、月を集めてるので、代わられると困ります。"月におしおきよ"、で、どうですか、って。……意味が変わりましたけど、合ってます。全部、月のせいですから。一色さんも、"三十年、月のせいで苦労してるわ。おしおきしていいと思う"、って。広場が沸きました。……ウタさんには、太鼓の代わりをお願いした。歌で調子を取ってもらう。"私でよろしいのですか。歌しかできませんが"、って。それが要ります。……ヤミさんは、山田さんと組んでもらった。二人が見つめ合って、"同志か"、"同志だ"、"分かるか"、"痛いほど"、って。通じ合ってました。……闇が役に立つのか、って聞かれて、立ちます、三十年助かってます、って答えた。"初めてだ。闇が要る、と言われたのは"、って。じいちゃん。厚みは、増えるみたいです」*
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。厚みの——なかった——三人が。
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——なぜ——匂いを——嗅ぐだけで——厚みを——得たのかを。
そして——「描かれた——もの」、が——この、世界に——来られる、ことの——意味も。
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——今は……まだ、誰も——問うて——いない。




