第148話「そこ、ですか」
読み始めて——十日。
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——誠は——石を——半分——読んだ。
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「——三万——二千——七百」
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——彼は——帳面を——閉じた。
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「——全部——名簿と——一致します」
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「——貴殿の——名は」
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——魔王が——尋ねた。
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「——ありません」
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「…………」
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「——残りは」
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「——三割ほどです」
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「——十日で——読めるか」
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「——読みます」
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——だが。
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——その、時。
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「——待て——!!」
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——カゲが——叫んだ。
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「——何か——来る——!!」
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「——どこですか——!!」
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「——下だ——!!」
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——皆が——見下ろした。
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——小さな——影が——一つ。
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——ゆっくりと——上がってくる。
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「——ヒカルさん——!?」
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「——シュワ——!!」
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『——"わたしは——ここにいる"、って』
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「——では——誰ですか——!!」
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## 到着
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——影が——近づいた。
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——竜の——鱗の——殻。
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——だが——妙な——形、だった。
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——後ろに——大量の——袋を——括りつけている。
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「——おい——!!」
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——カゲが——叫んだ。
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「——誰だ——!!」
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——殻が——開いた。
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——そして。
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「——おお。皆——おったか」
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「…………」
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——アルフレート、だった。
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「——アルフレート様——!?」
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——誠が——絶叫した。
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「——なぜ——ここに——!!」
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「——追ってきた」
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「——どうやって——ですか——!!」
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「——二輪の——二台目だ」
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——彼は——けろり、と——言った。
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「——一色殿が——作って——おった」
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「——聞いてません——!!」
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「——黙って——乗ってきた」
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「——駄目です——!!」
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「——待て、田中」
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——魔王が——止めた。
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「——あやつは——レベル一だぞ」
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「——五だ」
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——アルフレートが——訂正した。
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「——十年——かけて——五か——!!」
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「——遅いのだ」
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「——危険です——!!」
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——誠が——叫んだ。
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「——空気は——どうするんですか——!!」
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「——持ってきた」
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——アルフレートは——後ろを——指した。
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「——どれくらい——ですか」
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「——五百だ」
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「——五百——!?」
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——カゲが——目を——見開いた。
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「——私は——三十だぞ——!!」
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「——担げるからな」
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「…………」
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「——レベル五で——ですか——!!」
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「——芋なら——五十——担げる」
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「——袋は——芋じゃ——ありません——!!」
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「——同じだ」
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## 目的
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「——それで——何しに——来たんですか」
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——誠が——尋ねた。
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「——うむ」
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——アルフレートは——腕を——組んだ。
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——そして——真剣な——顔で——言った。
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「——芋を——届けに——参った」
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「…………」
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——星の——外が。
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——静まった。
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「——それだけ——ですか——!!」
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——誠が——絶叫した。
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「——それだけだ」
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「——飯は——持ってきてます——!!」
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「——硬い、やつであろう」
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——アルフレートは——渋い——顔を——した。
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「——五十回——噛むやつだ」
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「——そうです」
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「——一月も——食えば——飽きる」
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——彼は——けろり、と——言った。
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「——ゆえに——芋だ」
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「…………」
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「——三月——かけて——ですか——!!」
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「——一月だ」
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「——早すぎませんか——!!」
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「——真っ直ぐ——来た」
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「…………」
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——魔王が。
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——低く——言った。
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「——待て」
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「——なんだ」
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「——貴殿——道を——知らぬであろう」
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「——知らぬ」
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「——では——なぜ——着いた——!!」
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「——匂いだ」
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「…………」
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「——匂い——!?」
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「——うむ」
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——アルフレートは——真面目に——言った。
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「——田中の——匂いが——した」
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「——空気——ないですよ——!!」
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「——さようか」
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「…………」
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## 石
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——だが——アルフレートは。
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——石を——じっと——見ていた。
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「——これか」
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「——そうです」
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「——文字が——多いな」
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「——三千万です」
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「——多い」
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——彼は——近づいた。
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——そして——撫でた。
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「——ときに——田中」
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「——なんですか」
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「——これは——誰が——彫った」
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「——分かりません」
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「——さようか」
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——アルフレートは——頷いた。
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——そして——ぽつり、と——言った。
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「——腕は——よいな」
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「…………」
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「——そこ——ですか——!!」
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——誠が——叫んだ。
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「——大事な、ことだ」
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——アルフレートは——真剣に——言った。
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「——三千万——彫って——おるのだぞ」
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「——それは——そうですが」
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「——一つも——歪んで——おらぬ」
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——彼は——石を——撫でた。
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「——手が——震えて——おらぬのだ」
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「…………」
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——誠の。
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——動きが——止まった。
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「——アルフレート様」
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「——なんだ」
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「——今——なんて?」
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「——手が——震えて——おらぬ」
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——アルフレートは——けろり、と——繰り返した。
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「——ルカの——字を——見よ」
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「…………」
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「——あやつは——上手いがな」
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——彼は——静かに——言った。
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「——最後の、方は——少し——乱れる」
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「——疲れるからだ」
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「…………」
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「——だが——これは——乱れて——おらぬ」
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「…………」
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——魔王が。
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——ゆっくりと——顔を——上げた。
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「——待て」
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「——なんだ」
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「——それは——妙だぞ」
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「——なぜだ」
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「——三千万だ」
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——魔王は——低く——言った。
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「——一人で——彫れば——必ず——疲れる」
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「…………」
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「——では——複数——ですか」
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——誠が——尋ねた。
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「——違う」
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——アルフレートが——首を——振った。
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「——なぜですか」
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「——癖が——同じだ」
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——彼は——石を——指した。
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「——見よ。"の"、の——書き終わりが——全部——上に——跳ねて——おる」
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「——三千万——全部だ」
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「…………」
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——誠は。
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——灯りを——近づけた。
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——確かに。
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——同じ——癖、だった。
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「——一人です」
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「——うむ」
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「——でも——疲れてません」
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「——うむ」
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「…………」
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「——アルフレート様」
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——誠が——静かに——言った。
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「——それ——ものすごく——大事です」
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「——さようか」
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「——なぜ——気づいたんですか」
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「——芋だ」
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「——え?」
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「——五十袋——担ぐとな」
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——アルフレートは——けろり、と——言った。
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「——四十七袋目から——手が——震える」
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「——三十年——毎日だ」
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「…………」
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「——ゆえに——分かる」
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——彼は——静かに——言った。
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「——疲れた——手、と——疲れておらぬ——手は——違う」
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「…………」
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## 意味
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「——では——どういう、ことだ」
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——魔王が——尋ねた。
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「——一人で——三千万——彫って——疲れておらぬ」
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「——二つ——考えられます」
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——誠が——言った。
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「——申せ」
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「——一つ。疲れない——人です」
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「——うむ」
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「——もう一つ」
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——誠は——静かに——言った。
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「——ものすごく——ゆっくり——彫ってます」
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「…………」
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「——どれくらい——ですか」
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「——一日に——一つ、とか」
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「——三千万——日だぞ——!!」
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——カゲが——叫んだ。
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「——八万年です」
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——誠が——けろり、と——言った。
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「…………」
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——星の——外が。
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——静まり返った。
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「——待て」
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——魔王が——低く——言った。
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「——それは——おかしい」
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「——なぜですか」
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「——十七年——分の——名が——ある」
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——彼は——石を——指した。
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「——貴殿が——聞いた——順に、な」
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「——はい」
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「——十七年で——四万——彫って——おる」
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「——一日——六つ、ですね」
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——アカリなら——即座に——出す——計算、だった。
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「——では——残りは——!!」
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——カゲが——叫んだ。
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「——二千九百六十万です」
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「——何年——だ——!!」
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「——一万三千年ほど、です」
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「…………」
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——誰も。
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——声を——出さなかった。
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「——ときに」
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——アルフレートが——口を——開いた。
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「——なんですか」
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「——芋を——食わぬか」
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「…………」
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「——今——ですか——!!」
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——誠が——絶叫した。
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「——腹が——減ったであろう」
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「——減ってません——!!」
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「——嘘を——つくな」
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——アルフレートは——袋を——開けた。
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「——十日——硬い——ものしか——食うて——おらぬ、だろう」
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「…………」
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——誠の。
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——腹が——鳴った。
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「…………」
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「——ほら——見よ」
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## 芋
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——芋は——冷めていた。
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——だが。
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「…………」
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——誠は——一口——齧って。
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——そして——手を——止めた。
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「——どうした」
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「——うちの——芋です」
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「——当然だ」
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——アルフレートが——けろり、と——言った。
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「——他に——どこの——芋が——ある」
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「…………」
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——誠は。
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——俯いた。
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——そして——肩が——震えた。
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「——田中?」
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「——すみません」
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「——泣くな」
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「——泣いてません」
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「——泣いて——おる」
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——アルフレートは——ため息を——ついた。
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「——だから——来たのだ」
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「…………え?」
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「——お前は——三月——一人で——読む——つもりで——あろう」
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——彼は——静かに——言った。
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「——魔王さんが——います」
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「——あやつは——飯を——食わぬ」
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「…………」
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「——カゲさんも——います」
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「——あやつも——食わぬ」
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「——ヒカルさんも——」
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「——食わぬ」
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「…………」
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「——では——誰と——食う」
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「…………」
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——誠は。
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——答えられなかった。
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「——三十年——毎日——飯を——配って——おったな」
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——アルフレートが——ぽつり、と——言った。
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「——はい」
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「——一人で——食うた、ことが——あるか」
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「…………」
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「——ないであろう」
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「…………」
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「——ゆえに——来た」
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——彼は——芋を——齧った。
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「——それだけだ」
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「…………」
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——誠は。
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——深く——頭を——下げた。
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「——ありがとう——ございます」
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「——礼は——要らぬ」
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——アルフレートは——顔を——背けた。
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「——それより——な」
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「——はい」
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「——次は——味噌汁が——欲しい」
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「——そこ——ですか——!!」
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## 再開
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——翌日から。
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——読む——速さが——上がった。
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「——早いな」
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——魔王が——驚いた。
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「——手伝って——おる」
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——アルフレートが——けろり、と——言った。
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「——読めるのか——!!」
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「——読める」
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「——いつ——覚えた——!!」
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「——ルカに——習うた」
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「…………」
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「——いつですか」
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——誠が——尋ねた。
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「——十年——前だ」
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「——なぜですか」
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「——帳面が——読めねば——不便であろう」
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——彼は——静かに——言った。
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「——お前が——書いて——おる——ものが、な」
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「…………」
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「——読んでたんですか——!!」
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「——毎日だ」
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「——祖父の——ノートを——ですか——!!」
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「——さようだ」
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「——勝手に——!!」
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「——店に——置いて——あった」
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「…………」
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——誠は。
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——顔を——覆った。
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「——恥ずかしいです——!!」
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「——なぜだ」
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「——愚痴も——書いてます——!!」
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「——知って——おる」
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——アルフレートは——けろり、と——言った。
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「——"アルフレート様が——また——無理を——した"、と——書いて——あった」
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「…………」
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「——三十七回——だ」
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「——数えないで——ください——!!」
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## 発見
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——そして——八日目。
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「——田中」
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——アルフレートが——呼んだ。
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「——なんですか」
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「——お前の——名が——ある」
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「…………」
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——誠は。
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——動きを——止めた。
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「——どこですか——!!」
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「——ここだ」
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——アルフレートが——指した——のは。
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——石の——一番——下。
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——三つの——言葉の——すぐ——横、だった。
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「…………」
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「——一番——古い——ところです」
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——誠が——かすれた——声で——言った。
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「——うむ」
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「——読んで——ください」
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「——読む」
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——アルフレートは——灯りを——近づけた。
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——そして——読んだ。
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「——"たなか"」
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「…………」
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——星の——外が。
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——凍りついた。
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「——それだけですか」
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「——いや」
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——アルフレートは——灯りを——ずらした。
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「——横に——もう一つ——ある」
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「——読んで——ください——!!」
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「…………」
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——アルフレートは。
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——しばらく——黙って。
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——そして——言った。
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「——"またくる"」
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「…………」
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——誠は。
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——石の——前に——座り込んだ。
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「——田中?」
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「…………」
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「——大丈夫か」
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「…………」
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——誠は。
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——長い、こと——動かなかった。
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——そして——ぽつり、と——言った。
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「——アルフレート様」
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「——なんだ」
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「——これ——一万三千年——前ですよね」
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「——さようだ」
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「——僕、生まれてません」
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「——うむ」
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「——では——誰ですか」
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「…………」
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——アルフレートは。
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——しばらく——黙って。
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——そして——けろり、と——言った。
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「——さあ」
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「——考えて——ください——!!」
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「——考えても——分からぬ」
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——彼は——腕を——組んだ。
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「——だが——一つ——言えることが——ある」
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「——なんですか」
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「——"またくる"、と——書いて——あるのだ」
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——アルフレートは——静かに——言った。
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「——ならば——一度——来て——おる」
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「…………」
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「——そして——また——来ると——約束した」
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「…………」
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「——お前は——今——来て——おる」
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——彼は——誠を——見た。
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「——約束は——守られた」
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「…………」
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——誠は。
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——顔を——覆った。
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——そして——長い、こと——動かなかった。
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「——泣くな」
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「——泣いてません」
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「——泣いて——おる」
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——アルフレートは——ため息を——ついた。
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「——ときに——田中」
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「——なんですか」
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「——芋が——まだ——四百——ある」
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「…………」
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「——そこ——ですか——!!」
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「——大事な、ことだ」
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——彼は——真面目な——顔で——言った。
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「——腐る——前に——食わねば——ならぬ」
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「…………」
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——誠は。
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——顔を——上げた。
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——涙が——止まっていた。
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「——アルフレート様」
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「——なんだ」
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「——いつも——そうですね」
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「——何がだ」
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「——大事な——時に——芋の——話を——します」
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「…………」
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——アルフレートは。
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——顔を——背けた。
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——そして——ぼそり、と——言った。
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「——他に——できることが——ない」
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「…………」
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「——十分です」
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——誠は——微笑んだ。
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「——三十年——助かってます」
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「——うるさい」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「読み始めて十日、半分読んだ。三万二千七百。全部、名簿と一致。でも、僕の名前は、なかった。……そこへ、アルフレート様が来た。一色さんが作ってた二輪の二台目に、黙って乗ってきたそうだ。空気の袋を五百、括りつけて。カゲさんが三十なのに。"担げるからな"、って。……何しに来たのか聞いたら、"芋を届けに参った"、って。それだけ。硬い飯は一月で飽きる、だから芋だ、と。……道を知らないのに、なぜ着いたのか聞いたら、"匂いだ。田中の匂いがした"、って。空気ないですよ。"さようか"、って。……でも、あの人、石を見て、"腕はよいな"、って言った。そこですか、って叫んだけど、"大事なことだ。三千万彫って、一つも歪んでおらぬ。手が震えておらぬのだ"、って。……三千万を一人で彫れば、必ず疲れる。でも、疲れてない。しかも、"の"、の跳ね方が三千万全部同じ。一人です。……なぜ気づいたのか聞いたら、"芋だ。五十袋担ぐと、四十七袋目から手が震える。三十年、毎日だ。ゆえに分かる"、って。……つまり、ものすごくゆっくり彫ってる。一日一つなら、八万年。でも十七年分は一日六つ。残りは、一万三千年ほど。……そこで、"ときに、芋を食わぬか"、って。今ですか、って叫んだけど、腹が鳴りました。……冷めた芋が、うちの芋だった。"当然だ。他にどこの芋がある"、って。……泣いてしまいました。泣くな、泣いてません、泣いておる、だから来たのだ、と。……"お前は三月、一人で読むつもりであろう。魔王も、カゲも、ヒカルも、飯を食わぬ。では誰と食う"、って。……"三十年、毎日飯を配っておったな。一人で食うたことがあるか。ないであろう。ゆえに来た。それだけだ"、って。……翌日から、読むのが速くなった。あの人、字が読めた。十年前にルカに習ってた。理由が、"帳面が読めねば不便であろう。お前が書いておるものが"。……毎日、このノートを読んでたそうです。恥ずかしいです。"アルフレート様がまた無理をした、と書いてあった。三十七回だ"、って。数えないでください。……八日目。あの人が、"お前の名がある"、って。……一番下、三つの言葉のすぐ横。一万三千年前の場所。……"たなか"。……そして、その横に。……"またくる"。……座り込んでしまった。僕、生まれてません。誰ですか、って聞いたら、"さあ"、って。考えてください。……でも、あの人が言った。"またくる、と書いてあるのだ。ならば一度来ておる。そして、また来ると約束した。お前は今、来ておる。約束は守られた"、って。……また泣いてしまったら、"ときに、芋がまだ四百ある"、って。そこですか。……いつも、大事な時に芋の話をしますね、って言ったら、顔を背けて、"他にできることがない"、って。……十分です。三十年、助かってます。じいちゃん。あの人、やっぱり、勇者です」*
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。一万三千年——前の——石に——彫られた——「たなか」、が。
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——誰の——ことで——あったのかを。
そして——「またくる」、と——書いた——者が。
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——それを——書いた——時に——何を——思って——いたのかも。
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——今は……まだ、彫った——本人しか——知らない。




