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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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439/447

第148話「そこ、ですか」

読み始めて——十日。





——誠は——石を——半分——読んだ。







「——三万——二千——七百」







——彼は——帳面を——閉じた。







「——全部——名簿と——一致します」








「——貴殿の——名は」







——魔王が——尋ねた。







「——ありません」








「…………」







「——残りは」






「——三割ほどです」








「——十日で——読めるか」






「——読みます」









——だが。






——その、時。







「——待て——!!」







——カゲが——叫んだ。







「——何か——来る——!!」








「——どこですか——!!」






「——下だ——!!」








——皆が——見下ろした。







——小さな——影が——一つ。






——ゆっくりと——上がってくる。








「——ヒカルさん——!?」






「——シュワ——!!」








『——"わたしは——ここにいる"、って』








「——では——誰ですか——!!」









## 到着






——影が——近づいた。







——竜の——鱗の——殻。






——だが——妙な——形、だった。







——後ろに——大量の——袋を——括りつけている。








「——おい——!!」







——カゲが——叫んだ。







「——誰だ——!!」








——殻が——開いた。







——そして。







「——おお。皆——おったか」








「…………」







——アルフレート、だった。








「——アルフレート様——!?」







——誠が——絶叫した。







「——なぜ——ここに——!!」






「——追ってきた」








「——どうやって——ですか——!!」






「——二輪の——二台目だ」








——彼は——けろり、と——言った。







「——一色殿が——作って——おった」






「——聞いてません——!!」








「——黙って——乗ってきた」






「——駄目です——!!」








「——待て、田中」







——魔王が——止めた。







「——あやつは——レベル一だぞ」






「——五だ」








——アルフレートが——訂正した。







「——十年——かけて——五か——!!」






「——遅いのだ」








「——危険です——!!」







——誠が——叫んだ。







「——空気は——どうするんですか——!!」








「——持ってきた」







——アルフレートは——後ろを——指した。







「——どれくらい——ですか」






「——五百だ」








「——五百——!?」







——カゲが——目を——見開いた。







「——私は——三十だぞ——!!」






「——担げるからな」








「…………」







「——レベル五で——ですか——!!」






「——芋なら——五十——担げる」








「——袋は——芋じゃ——ありません——!!」






「——同じだ」









## 目的






「——それで——何しに——来たんですか」







——誠が——尋ねた。







「——うむ」








——アルフレートは——腕を——組んだ。







——そして——真剣な——顔で——言った。








「——芋を——届けに——参った」








「…………」







——星の——外が。






——静まった。








「——それだけ——ですか——!!」







——誠が——絶叫した。







「——それだけだ」








「——飯は——持ってきてます——!!」






「——硬い、やつであろう」








——アルフレートは——渋い——顔を——した。







「——五十回——噛むやつだ」






「——そうです」








「——一月も——食えば——飽きる」







——彼は——けろり、と——言った。







「——ゆえに——芋だ」








「…………」







「——三月——かけて——ですか——!!」






「——一月だ」








「——早すぎませんか——!!」






「——真っ直ぐ——来た」








「…………」







——魔王が。






——低く——言った。







「——待て」






「——なんだ」






「——貴殿——道を——知らぬであろう」








「——知らぬ」







「——では——なぜ——着いた——!!」








「——匂いだ」








「…………」







「——匂い——!?」






「——うむ」








——アルフレートは——真面目に——言った。







「——田中の——匂いが——した」








「——空気——ないですよ——!!」






「——さようか」








「…………」









## 石






——だが——アルフレートは。






——石を——じっと——見ていた。








「——これか」






「——そうです」






「——文字が——多いな」








「——三千万です」






「——多い」








——彼は——近づいた。







——そして——撫でた。







「——ときに——田中」








「——なんですか」






「——これは——誰が——彫った」








「——分かりません」






「——さようか」








——アルフレートは——頷いた。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——腕は——よいな」








「…………」







「——そこ——ですか——!!」







——誠が——叫んだ。







「——大事な、ことだ」








——アルフレートは——真剣に——言った。







「——三千万——彫って——おるのだぞ」






「——それは——そうですが」








「——一つも——歪んで——おらぬ」







——彼は——石を——撫でた。







「——手が——震えて——おらぬのだ」








「…………」







——誠の。






——動きが——止まった。








「——アルフレート様」






「——なんだ」






「——今——なんて?」








「——手が——震えて——おらぬ」







——アルフレートは——けろり、と——繰り返した。







「——ルカの——字を——見よ」








「…………」







「——あやつは——上手いがな」







——彼は——静かに——言った。







「——最後の、方は——少し——乱れる」






「——疲れるからだ」








「…………」







「——だが——これは——乱れて——おらぬ」








「…………」







——魔王が。






——ゆっくりと——顔を——上げた。







「——待て」






「——なんだ」






「——それは——妙だぞ」








「——なぜだ」






「——三千万だ」








——魔王は——低く——言った。







「——一人で——彫れば——必ず——疲れる」








「…………」







「——では——複数——ですか」







——誠が——尋ねた。







「——違う」








——アルフレートが——首を——振った。







「——なぜですか」






「——癖が——同じだ」








——彼は——石を——指した。







「——見よ。"の"、の——書き終わりが——全部——上に——跳ねて——おる」






「——三千万——全部だ」








「…………」







——誠は。






——灯りを——近づけた。







——確かに。







——同じ——癖、だった。








「——一人です」







「——うむ」








「——でも——疲れてません」






「——うむ」








「…………」







「——アルフレート様」







——誠が——静かに——言った。







「——それ——ものすごく——大事です」






「——さようか」








「——なぜ——気づいたんですか」






「——芋だ」








「——え?」






「——五十袋——担ぐとな」








——アルフレートは——けろり、と——言った。







「——四十七袋目から——手が——震える」






「——三十年——毎日だ」








「…………」







「——ゆえに——分かる」







——彼は——静かに——言った。







「——疲れた——手、と——疲れておらぬ——手は——違う」








「…………」









## 意味






「——では——どういう、ことだ」







——魔王が——尋ねた。







「——一人で——三千万——彫って——疲れておらぬ」








「——二つ——考えられます」







——誠が——言った。







「——申せ」






「——一つ。疲れない——人です」








「——うむ」






「——もう一つ」








——誠は——静かに——言った。







「——ものすごく——ゆっくり——彫ってます」








「…………」







「——どれくらい——ですか」






「——一日に——一つ、とか」








「——三千万——日だぞ——!!」







——カゲが——叫んだ。







「——八万年です」








——誠が——けろり、と——言った。







「…………」







——星の——外が。






——静まり返った。








「——待て」







——魔王が——低く——言った。







「——それは——おかしい」






「——なぜですか」








「——十七年——分の——名が——ある」







——彼は——石を——指した。







「——貴殿が——聞いた——順に、な」








「——はい」






「——十七年で——四万——彫って——おる」








「——一日——六つ、ですね」







——アカリなら——即座に——出す——計算、だった。








「——では——残りは——!!」







——カゲが——叫んだ。







「——二千九百六十万です」








「——何年——だ——!!」






「——一万三千年ほど、です」








「…………」







——誰も。






——声を——出さなかった。








「——ときに」







——アルフレートが——口を——開いた。







「——なんですか」






「——芋を——食わぬか」








「…………」







「——今——ですか——!!」







——誠が——絶叫した。








「——腹が——減ったであろう」






「——減ってません——!!」








「——嘘を——つくな」







——アルフレートは——袋を——開けた。







「——十日——硬い——ものしか——食うて——おらぬ、だろう」








「…………」







——誠の。






——腹が——鳴った。








「…………」







「——ほら——見よ」









## 芋






——芋は——冷めていた。







——だが。







「…………」







——誠は——一口——齧って。






——そして——手を——止めた。








「——どうした」






「——うちの——芋です」








「——当然だ」







——アルフレートが——けろり、と——言った。







「——他に——どこの——芋が——ある」








「…………」







——誠は。






——俯いた。







——そして——肩が——震えた。








「——田中?」






「——すみません」








「——泣くな」






「——泣いてません」








「——泣いて——おる」







——アルフレートは——ため息を——ついた。







「——だから——来たのだ」








「…………え?」







「——お前は——三月——一人で——読む——つもりで——あろう」








——彼は——静かに——言った。







「——魔王さんが——います」






「——あやつは——飯を——食わぬ」








「…………」







「——カゲさんも——います」






「——あやつも——食わぬ」








「——ヒカルさんも——」






「——食わぬ」








「…………」







「——では——誰と——食う」








「…………」







——誠は。






——答えられなかった。








「——三十年——毎日——飯を——配って——おったな」







——アルフレートが——ぽつり、と——言った。







「——はい」






「——一人で——食うた、ことが——あるか」








「…………」







「——ないであろう」








「…………」







「——ゆえに——来た」







——彼は——芋を——齧った。







「——それだけだ」








「…………」







——誠は。






——深く——頭を——下げた。








「——ありがとう——ございます」






「——礼は——要らぬ」








——アルフレートは——顔を——背けた。







「——それより——な」






「——はい」








「——次は——味噌汁が——欲しい」








「——そこ——ですか——!!」









## 再開






——翌日から。






——読む——速さが——上がった。








「——早いな」







——魔王が——驚いた。







「——手伝って——おる」








——アルフレートが——けろり、と——言った。







「——読めるのか——!!」






「——読める」








「——いつ——覚えた——!!」






「——ルカに——習うた」








「…………」







「——いつですか」







——誠が——尋ねた。







「——十年——前だ」








「——なぜですか」






「——帳面が——読めねば——不便であろう」








——彼は——静かに——言った。







「——お前が——書いて——おる——ものが、な」








「…………」







「——読んでたんですか——!!」






「——毎日だ」








「——祖父の——ノートを——ですか——!!」






「——さようだ」








「——勝手に——!!」






「——店に——置いて——あった」








「…………」







——誠は。






——顔を——覆った。








「——恥ずかしいです——!!」






「——なぜだ」






「——愚痴も——書いてます——!!」








「——知って——おる」







——アルフレートは——けろり、と——言った。







「——"アルフレート様が——また——無理を——した"、と——書いて——あった」








「…………」







「——三十七回——だ」








「——数えないで——ください——!!」









## 発見






——そして——八日目。







「——田中」







——アルフレートが——呼んだ。







「——なんですか」






「——お前の——名が——ある」








「…………」







——誠は。






——動きを——止めた。







「——どこですか——!!」






「——ここだ」








——アルフレートが——指した——のは。







——石の——一番——下。






——三つの——言葉の——すぐ——横、だった。








「…………」







「——一番——古い——ところです」








——誠が——かすれた——声で——言った。







「——うむ」






「——読んで——ください」








「——読む」







——アルフレートは——灯りを——近づけた。







——そして——読んだ。








「——"たなか"」








「…………」







——星の——外が。






——凍りついた。








「——それだけですか」






「——いや」








——アルフレートは——灯りを——ずらした。







「——横に——もう一つ——ある」






「——読んで——ください——!!」








「…………」







——アルフレートは。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——"またくる"」








「…………」







——誠は。






——石の——前に——座り込んだ。








「——田中?」






「…………」








「——大丈夫か」






「…………」








——誠は。






——長い、こと——動かなかった。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——アルフレート様」






「——なんだ」






「——これ——一万三千年——前ですよね」








「——さようだ」







「——僕、生まれてません」








「——うむ」







「——では——誰ですか」








「…………」







——アルフレートは。






——しばらく——黙って。






——そして——けろり、と——言った。








「——さあ」







「——考えて——ください——!!」








「——考えても——分からぬ」







——彼は——腕を——組んだ。







「——だが——一つ——言えることが——ある」








「——なんですか」








「——"またくる"、と——書いて——あるのだ」







——アルフレートは——静かに——言った。







「——ならば——一度——来て——おる」








「…………」







「——そして——また——来ると——約束した」








「…………」







「——お前は——今——来て——おる」








——彼は——誠を——見た。







「——約束は——守られた」








「…………」







——誠は。






——顔を——覆った。







——そして——長い、こと——動かなかった。








「——泣くな」






「——泣いてません」








「——泣いて——おる」







——アルフレートは——ため息を——ついた。







「——ときに——田中」






「——なんですか」








「——芋が——まだ——四百——ある」








「…………」







「——そこ——ですか——!!」








「——大事な、ことだ」







——彼は——真面目な——顔で——言った。







「——腐る——前に——食わねば——ならぬ」








「…………」







——誠は。






——顔を——上げた。







——涙が——止まっていた。








「——アルフレート様」






「——なんだ」






「——いつも——そうですね」








「——何がだ」






「——大事な——時に——芋の——話を——します」








「…………」







——アルフレートは。






——顔を——背けた。







——そして——ぼそり、と——言った。








「——他に——できることが——ない」








「…………」







「——十分です」







——誠は——微笑んだ。







「——三十年——助かってます」








「——うるさい」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「読み始めて十日、半分読んだ。三万二千七百。全部、名簿と一致。でも、僕の名前は、なかった。……そこへ、アルフレート様が来た。一色さんが作ってた二輪の二台目に、黙って乗ってきたそうだ。空気の袋を五百、括りつけて。カゲさんが三十なのに。"担げるからな"、って。……何しに来たのか聞いたら、"芋を届けに参った"、って。それだけ。硬い飯は一月で飽きる、だから芋だ、と。……道を知らないのに、なぜ着いたのか聞いたら、"匂いだ。田中の匂いがした"、って。空気ないですよ。"さようか"、って。……でも、あの人、石を見て、"腕はよいな"、って言った。そこですか、って叫んだけど、"大事なことだ。三千万彫って、一つも歪んでおらぬ。手が震えておらぬのだ"、って。……三千万を一人で彫れば、必ず疲れる。でも、疲れてない。しかも、"の"、の跳ね方が三千万全部同じ。一人です。……なぜ気づいたのか聞いたら、"芋だ。五十袋担ぐと、四十七袋目から手が震える。三十年、毎日だ。ゆえに分かる"、って。……つまり、ものすごくゆっくり彫ってる。一日一つなら、八万年。でも十七年分は一日六つ。残りは、一万三千年ほど。……そこで、"ときに、芋を食わぬか"、って。今ですか、って叫んだけど、腹が鳴りました。……冷めた芋が、うちの芋だった。"当然だ。他にどこの芋がある"、って。……泣いてしまいました。泣くな、泣いてません、泣いておる、だから来たのだ、と。……"お前は三月、一人で読むつもりであろう。魔王も、カゲも、ヒカルも、飯を食わぬ。では誰と食う"、って。……"三十年、毎日飯を配っておったな。一人で食うたことがあるか。ないであろう。ゆえに来た。それだけだ"、って。……翌日から、読むのが速くなった。あの人、字が読めた。十年前にルカに習ってた。理由が、"帳面が読めねば不便であろう。お前が書いておるものが"。……毎日、このノートを読んでたそうです。恥ずかしいです。"アルフレート様がまた無理をした、と書いてあった。三十七回だ"、って。数えないでください。……八日目。あの人が、"お前の名がある"、って。……一番下、三つの言葉のすぐ横。一万三千年前の場所。……"たなか"。……そして、その横に。……"またくる"。……座り込んでしまった。僕、生まれてません。誰ですか、って聞いたら、"さあ"、って。考えてください。……でも、あの人が言った。"またくる、と書いてあるのだ。ならば一度来ておる。そして、また来ると約束した。お前は今、来ておる。約束は守られた"、って。……また泣いてしまったら、"ときに、芋がまだ四百ある"、って。そこですか。……いつも、大事な時に芋の話をしますね、って言ったら、顔を背けて、"他にできることがない"、って。……十分です。三十年、助かってます。じいちゃん。あの人、やっぱり、勇者です」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。一万三千年——前の——石に——彫られた——「たなか」、が。




——誰の——ことで——あったのかを。


そして——「またくる」、と——書いた——者が。




——それを——書いた——時に——何を——思って——いたのかも。





——今は……まだ、彫った——本人しか——知らない。

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